"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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頭痛のRed Flag "SNOOP"|見逃したくない二次性頭痛 ~SNNOOP10とともに~

頭痛Red Flag ”SNOOP

~コワい二次性頭痛を見逃さないために~

 

<目次>

 

 今回は、主に救急での頭痛についての深掘りです。頭痛の鑑別のおさらいと怖い頭痛(二次性頭痛)を主に問診で見逃さないための頭痛Red Flag “SNOOP”について深掘りしてきたいと思います。

 

 

1. 頭痛鑑別疾患二次性頭痛

 救急外来で「頭痛の患者さんが後10分で来ます」と聞いたような時に「頭かな?」とか考えることになると思います。「頭かな?」というのは脳梗塞とか脳出血のような中枢性の原因はもちろん思い浮かべているのですが、頭以外の原因もあります。他にも救急で除外したい怖い頭痛があります。

 そのような二次性頭痛(怖い頭痛)の原因に下記のようなものがあります。

 

<まず除外すべき頭痛の鑑別疾患>

二次性頭痛くも膜下出血(SAH)、脳出血、静脈洞血栓症髄膜炎脳炎低血糖緑内障、側頭動脈炎、一酸化炭素中毒、大動脈解離、可逆性血管攣縮症候群(RCVS)、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)など

 

上記以外

一次性頭痛(慢性+再発性):緊張型頭痛、片頭痛群発頭痛

・その他、急性上気道炎、急性副鼻腔炎、薬物など

 

(出典)『京都ERポケットブック』,洛和会音羽病院救命救急センター・京都ER(編), 医学書院, 2018

 

 ここで、まず二次性頭痛をしっかりと除外もしくは見つけたいものです。ちなみに、既往歴に片頭痛などの一次性頭痛があると一次性頭痛を疑って、容易に二次性頭痛を否定してしまいそうな気もします。ちなみに、次のような報告もあります。

 

三次医療教育病院における救急科での神経的愁訴の診断の正確性について

 最初に救急科でされた診断 493例のうち、神経内科医によって行われた最終診断と一致したものは298例(60.4%)であった。よくみられる誤診は神経心原性失神、末梢性めまい、一次性頭痛、ならびに精神的症候群であった。これらは、はじめのうちは脳卒中またはてんかん発作と誤って診断されていた。

(出典)Can J Neurol Sci. 2008 Jul;35(3):335-41. doi: 10.1017/s0317167100008921.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18714802/

 

 これは少し恐いですね。はじめからしっかりと正しく診断されているのは60.4%。しかし、一次性頭痛であると誤診するのではなく、比較的見逃してはいけない頭痛の原因の方にフォーカスされているのは個人的には納得でき、救いであるように感じます。救急で怖い病気を疑って介入していって怖いものを除外するという考えからでしょうか。

 また、職人技のように感じることがある神経診察はじめ、神経内科の先生の専門性が診断の正確性を上げているのでしょうか。気になるところです。一方で、神経内科の専門的な外来以外の場面では、二次性頭痛をどのように想起するかが気になるところです。

 

 

 

2. 頭痛Red Flag “SNOOP”(二次性頭痛を疑え)

 実際に、二次性頭痛を見逃さないためにはどのようにしたらよいのでしょうか。二次性頭痛のRed Flagを想起するためのネモニクスとして”SNOOP”があります。

 

<頭痛のRed Flag “SNOOP”>

頭痛のRed Flag ”SNOOP”
  • 急性頭痛の患者のほとんどは一次性頭痛であるが、緊急性の高い状況では二次性頭痛の可能性が高くなる。"レッドフラッグ "は二次性頭痛の可能性を示唆しており、SNOOPニーモニック(表1)を使用することで識別しやすくなる。

(出典)Curr Pain Headache Rep (2011) 15:94-97

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21286867/

 

 文献によって、”SNOOP”の頭文字からの派生が少し違うようにみられる書籍等もありますが、概ね同じ様な項目をRed Flag(レッドフラッグ)としてチェックしています。年齢の閾値が40歳の文献や、最後のPがpatern changeの文献もあります。2002年だったかからあるものなので、少しずつ表現の異なるものがあると解釈しています。

 さらに、皆さまの中には読んだことのある人もいるような書籍もチェックしてみました。

 

SNOOPを用いた診療フロー

項目

チェック項目

Systemic symptoms/sign/disease

①発熱、悪寒、寝汗、筋肉痛、体重減少

②悪性疾患、免疫不全状態、HIV

Neurologic symptom/sign

③局所または全身の神経学的異常所見、行動や性格変化、複視、視覚障害、拍動性耳鳴

Onset sudden

④突然発症した人生最大の頭痛(雷鳴様頭痛)、発症時間がはっきり言えるか?

Onset after age 50 years

⑤50歳以降初発の頭痛

Pattern change

いつもと違う頭痛

⑥症状緩和することなく頭痛が増悪している

⑦Valsalva法で頭痛が増悪する

体位変換で頭痛が増悪する

 

⇒「SNOOP」の項目の1つでも認めたら画像検査!

 項目のすべてが認められないときは、怖い頭痛の可能性が低いため、翌日外来へ誘導。

 

<チェック項目と疑う疾患>

①のとき;巨細胞性動脈炎、感染症髄膜炎、脳膿瘍、鼻副鼻腔炎)、脳腫瘍

②のとき;脳転移、中枢神経の日和見感染症

③のとき;脳腫瘍、炎症性脱髄疾患感染症、脳血管障害

④のとき;クモ膜下出血脳出血、静脈洞血栓症、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)、椎骨脳底動脈解離

⑤のとき;脳腫瘍、炎症性脱髄疾患感染症、巨細胞性動脈炎

 

(出典)jmedmook51 あなたも名医!もう困らない救急・当直 ver.3 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻!, 日本医事新報社, 2017

 

 やはり、何番のチェック項目があるから、こういう疾患を疑うことが出来るというのは、論理的につなぎやすくていいですね。神経学的所見に異常がなくても、”SNOOP”うち1つだけでも満たせば画像検査チェックというのも環境ありきですが、納得でもあります。あとは、神経学的所見をどうやって上手にとれるようになっていくかも日々研鑽していきたい限りです。

 

 

 

3. 頭痛Red/Orange Flag "SNNOOP10"

 ちなみにSNOOPについて検索しているとSNOOPではなくSNNOOP10」(SNNOOP 10 list)という新しいものもありました。

 

<頭痛のRed/Orange Flag; SNNOOP10 list>

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6340385/bin/NEUROLOGY2018894501TT1.jpg

(出典)Neurology. 2019 Jan 15;92(3):134-144. doi: 10.1212/WNL.0000000000006697. Epub 2018 Dec 26.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30587518/

 

 SNNOOP10では、妊娠・産褥期外傷、さらにはくしゃみや咳、運動の直後に生じる頭痛自律神経症状を伴う眼痛鎮痛薬(painkiller)の過度の使用というようなものも追加されています。妊娠は凝固系の亢進から生じると考えられます。くしゃみや咳、運動の直後に生じる頭痛では、後頭蓋窩奇形、キアリ奇形が鑑別に上がるようで少し驚きです。キアリ奇形とかそれほど多いものではないとも思います。

 二次性頭痛を想起する(ひっかける)という意味での感度は上がりそうですが、特異度は下がりそうだと考えられそうです。やはり、red flag(レッドフラッグ)だけのSNOOPと比べて、orange flag(オレンジフラッグ)までリストを広げているからです。それこそ、SNNOOP10は多すぎてネモニクス(語呂合わせ)としては微妙ですが、項目が多くなっているゆえにリファレンスのようなもので見ることを想定しているのでしょうか。

 また、薬物乱用頭痛は場所等によっては多そうなので、自身の病院のセッティング事前確率を意識した上で入れておいてもいいかもしれません。ケーズバイケースでSNOOPにチェック項目を増やすような使い方もできるかもしれません。

 

 

 

4. 頭痛疫学事前確率

 "SNOOP"や"SNNOOP10 (list)"を用いて二次性頭痛を疑うとして、感度や特異度と該当項目数等の診断特性のようなものを調べていたのですが、特に見つかりませんでした。

 そこで、頭痛の患者のどの程度どのような原因(二次性頭痛)なのかを、疫学事前確率などを交えて深堀りしていきたいと思います。

 

 まずは画像所見で分かる二次性頭痛から見つけてみました。

3次病院で非急性頭痛患者3,655名を対象とした前向き研究

  • 患者が画像診断を受けるべきか否かを判断するためにレッドフラッグを用いた。
  • スクリーニングの結果、530例(14.5%)が画像診断を受け、異常がみられたのは11例のみであった(スキャンされた患者の2.1%、調査集団全体の0.3%)。

(出典)J Neurol. 2010 Aug;257(8):1274-8. doi: 10.1007/s00415-010-5506-7. Epub 2010 Mar 3.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20198381/

 

 慢性または再発頭痛のMRI評価のために紹介された360人の患者を検討した後ろ向き研究では、MRIで関連所見を認めた患者は0.7%に過ぎなかった。

(出典)Radiology. 2005 May;235(2):575-9. doi: 10.1148/radiol.2352032121.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15858096/

 急性発症の頭痛ではないということで、救急外来とは異なるようなセッティングでしょうか。ただし、1つ目はレッドフラッグを用いている点は少し状況が近いでしょうか。CTとMRIの違い、画像検査での画像所見の有無のみ、というような違いもあるため、二次性頭痛の一部の可能性を示唆しているにすぎませんが、いかがでしょうか。

 

 

 続いて、二次性頭痛全般についてチェックしていきたいと思います。三次医療センターにおける二次性頭痛の原因に関して、次のような報告がありました。

 三次医療センターにおける頭痛患者(平均年齢42.9歳、女性86.9%)のうち、二次性頭痛の患者の割合は20.2%であった。二次性頭痛のうち、もっとも一般的な原因は薬物乱用頭痛であり、頭痛患者の16.6%を占めていた。それ以外の二次性頭痛が原因では、特発性頭蓋内圧亢進症をはじめとする非血管系疾患によるものが3.5%であった。

(出典)Rev Assoc Med Bras (1992). Nov-Dec 2012;58(6):709-13. doi: 10.1590/s0104-42302012000600017

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23250101/

 

 8割程度一次性頭痛で、残る2割程度二次性頭痛のようです。中でも薬物乱用頭痛多くを占めているというような状況です。薬物乱用というと身近に感じない方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる市販の頭痛薬飲みすぎ(使用過多)で生じます。日本でも決して珍しいものではないでしょう。

 ちなみにブラジルでの疫学的な調査なので日本とは薬物乱用頭痛の疫学等が異なる面はあると思います。しかし、薬物乱用頭痛に関しては二次性頭痛でも、クモ膜下出血のような特に怖い(救急のような状況の)頭痛という枠以上に、二次性頭痛を引っ掛けるという意味を含むという印象を受けました。一方で、本当に緊急性の高い怖いものの割合が下がってしまうので嫌であると感じる人もいるのではないかと感じました。

 

 他にも中国からの頭痛に関する報告もあります。

中国の28地域の患者1,843名の後ろ向き研究

  • 年齢中央値: 40.9歳(9〜80歳)
  • 男女比 1.67/1
  • 一次性頭痛(78.4%)は片頭痛(39.1%)、緊張型頭痛(32.5%)、三叉神経自律神経性頭部痛(5.3%)、その他の一次性頭痛(1.5%)に分類された。それ以外の患者では、12.9%が二次性頭痛、5.9%が脳神経痛、2.5%が特定不能または他に分類されない頭痛であった。
  • 二次性頭痛の発生率は低かった。22例(1.2%)が第5群(外傷に起因する頭痛)、13例(0.7%)が第6群(頭蓋または頸部血管障害に起因する頭痛)、28例(1.5%)が第7群(非血管性頭蓋内障害に起因する頭痛)、137例(7.4%)が第8群(物質乱用または離脱に起因する頭痛)(136例のmedication-overuse headche: MOHを含む)、3例(0. 2%)、第10群(恒常性維持障害に起因する頭痛)が26例(1.4%)、第11群(頭蓋、頸部、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口、その他の顔面または頭蓋構造の障害に起因する頭痛または顔面痛)が3例(0.2%)、第12群(精神疾患に起因する頭痛)が5例(0.3%)であった。〔国際頭痛分類第 2 版(ICHD-II)の分類による〕

(出典)PLoS One. 2012;7(12):e50898. doi: 10.1371/journal.pone.0050898. Epub 2012 Dec 11.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37456555/

 

 28の地域(場所)で人数等のデータも様々です。二次性頭痛の割合が詳しく知ることができましたが、いかがでしたでしょうか。ICHD-2の分類でいうところの第8群(物質乱用または離脱に起因する頭痛)が二次性頭痛の中では最も多い結果となりました。さきほどのブラジルからの報告ほどの頻度ではありませんが、やはり薬物乱用頭痛が多い結果となりました。

 一般外来でも頭痛の話があれば、市販薬を含めて鎮痛薬飲みすぎていないかも忘れずに確認するようにしたいと感じました。一方、薬物乱用だけでなく髄膜炎や一酸化中毒をはじめ、画像検査では見つからない二次性頭痛も忘れてはならないということを改めて意識する結果にも感じました。

 

 SNOOPを使うにしても、SNNOOP10を使うにしても、くも膜下出血(SAH)、脳出血、静脈洞血栓症髄膜炎脳炎低血糖緑内障、巨細胞性動脈炎、一酸化炭素中毒、大動脈解離をはじめとするようなコワい頭痛の頻度は薬物乱用性頭痛ほどの頻度ではないにしても、見逃さないようにしたいと感じました。

 一次性頭痛か、二次性頭痛でも薬物乱用かなと思ってしまったときに、他の二次性頭痛の患者さんがやってきそうで怖そうな感じがします。

 

 今回の”SNOOP”のネモニクスの中での鑑別疾患にも登場した雷鳴用頭痛でも有名なクモ膜下出血があります。雷鳴用頭痛が有名ですが、ネモニクスの中には入っていないようです。雷鳴用頭痛を生じる鑑別が多数あります。また、薬物乱用頭痛については、服用している鎮痛薬の種による頭痛の頻度の差異など、興味深いものもあります。興味のある方はぜひ調べてみてください。

 

 

 

5. 最後に

 頭痛のRed Flag "SNOOP"やRed/Orange Flagの"SNNOOP10"は、見逃したくない二次性頭痛を想起するための「語呂合わせ」といった印象を強く受けました。そして、語呂合わせとしてはSNOOPぐらいまでが想起しやすく、SNNOOP10になると多すぎるとも感じました。SNOOPをパッと想起して、SNNOOP10は表を見る感じでしょうか。項目を増やしてもっと引っかけたいけど、面倒になるような矛盾を感じます。

 

 また、臨床予測ルール(CPR)とは異なる点も多く、各項目の尤度比を求めたり、そこから点数ごとの診断特性やROC曲線(AUC)を求めるのとは異なる点を感じます。臨床予測ルールを実際にチェックしてみながら語呂合わせとの違いを確認してみたいと気になる方は、よろしければカテゴリーの「臨床予測ルール」よりご覧ください。

 

 そして、主訴が頭痛の場合の診療も奥が深いですね。神経所見をはじめ、ブラッシュアップが必要な部分が多くあります。そして、今回は「”SNOOP”のすべてを覚えるにはどうしたらいいのか?ひとまず、項目は?」というとっつきやすい視点からも書かせていただきました。

 

 頭痛の患者さんを見かけた際に問診で「SNOOP」のチェック項目にあたる部分を漏れなくスムーズに聞けるように意識していきたいと思います。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。 

 

(2024年1月31日に一部改変・追記)