黄疸 jaundice
~血清ビリルビン値と眼球結膜黄染・皮膚黄染~
<目次>
黄疸の患者さんを立て続けに診察する機会がありました。しかも、今回は複数の日本人の患者さんはもちろんのこと、日本人以外の患者さんもいらっしゃいました。
そこでやはり感じたのは、皮膚の色によって皮膚の黄染の見やすさが異なるのではないかという疑問です。日本人の患者さんの中でも異なりますし、日本人の患者さん以外でも異なります。血清ビリルビン値からすると皮膚の黄染がみられても良いと思うのですが、皮膚の色が暗いせいかやはり分からないといったことに遭遇しました。
しかし、眼球結膜は黄染しており、眼球結膜を診察する強みのようなものを感じました。黄疸の身体診察について深掘りしてみたいと思います。
1.黄疸 jaundice
黄疸とは胆汁色素の蓄積により皮膚や粘膜の異常な黄染を生じることであり、次の3種類がある。(1)溶血性黄疸*、(2)肝細胞性黄疸**、(3)閉塞性黄疸***.
溶血性黄疸は頻度が低いとされており、実臨床では肝細胞性疾患と胆管閉塞を鑑別することが大切である。
*溶血性黄疸: 過剰に破壊された赤血球からビリルビンが産生され増加することによる黄疸
**肝細胞性黄疸: アルコール性肝障害、薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎、転移性癌などの肝実質疾患による黄疸
***閉塞性黄疸: 総胆管結石や膵臓癌などの肝外胆管の物理的閉塞による黄疸
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
肝細胞性疾患と胆管閉塞を鑑別することが大切であると書いてあれば、どのような身体所見が鑑別のヒントになるのか気になりますよね。もちろん、記載がありました!
肝細胞性疾患と胆管閉塞を鑑別するのに有用な所見
<肝細胞性黄疸>
<閉塞性黄疸>
- Courvoisier徴候(胆嚢の触知)
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
肝細胞性黄疸の所見はたくさんありますね。例えば、羽ばたき振戦は肝性脳症の所見とも言えるような気もしますし、肝臓が悪いことに関連する所見と考えておけばよさそうです。
少し話は変わりますが、黄疸のmimicsとして黄疸以外にも皮膚黄染の原因として柑皮症は聞いたことがあると思います。大学時代には「和歌山みかんを食べ過ぎて…」なんていう話しも耳にしたことがあります。具体的には、次のような皮膚黄染の原因があるようです。
黄疸以外の皮膚黄染の鑑別疾患
- 柑皮症;ニンジン、葉野菜、カボチャ、桃、オレンジなどカロテンの含まれる野菜や果実の過剰摂取 (色素沈着は手掌、足底、前額部、鼻唇溝に集中する一方で、強膜が正常)
- quinacrineでの治療(患者の4-37%)
- フェノール類への過剰な暴露
(出典)ハリソン内科学 第5版
柑皮症の際の色素沈着(皮膚黄染)の分布が手掌、足底、前額部、鼻唇溝に集中する一方で、強膜が正常というところは、黄疸との鑑別に鑑別に役立ちそうです。黄疸の際には、「眼球結膜黄染」が決まり文句のようですが、柑皮症では眼球結膜が染まらないわけなんですね。
では、皮膚黄染と眼球結膜黄染について順に調べてみます。
2.皮膚黄染とビリルビン値
皮膚黄染と血清ビリルビン値の関係性について調べてみたいと思います。
血清ビリルビン値 2-2.5 mg/dLになると黄疸だと認識することができるが、皮膚の黄染に関しては経験豊富な臨床医でさえ、少なくとも血清ビリルビン値 7-8 mg/dLになるまで見つけることはできない。
(出典)In: Clinical Methods: The History, Physical, and Laboratory Examinations. 3rd edition. Boston: Butterworths; 1990. Chapter 87.
皮膚黄染は、経験豊富な医師でさえも7-8 mg/dLまでビリルビン値が上がるまでは見つけることが難しく、皮膚の黄染は黄疸を見つけるための手段としては不向きな身体所見であると考えられます。黄疸を発見するという視点では眼球結膜黄染の所見の方が有効であると考えられます。
皮膚の黄染に関しては、白人であれば見つけやすいと考えられますが、黄色人種や黒人ではさらに見つけにくいというような肌の色も考慮しないといけないと考えられます。次は、黄疸の発見に有効であると考えられる眼球結膜黄染について深掘りしてみたいと思います。
3.眼球結膜黄染とビリルビン値
それでは、柑皮症との鑑別ポイントにもなった眼球結膜の黄染について調べていきたいと思います。
一般的に黄疸はまず眼に出現する
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
とのことですが、具体的にどれぐらいの血清ビリルビン値でどの程度の感度で眼球結膜の黄染認められるのか深掘りしていきます。
<黄疸の指摘される感度・特異度と血清ビリルビン値>
・最も(90%以上の医師にとって)、黄疸を指摘しやすい場所は眼球結膜
・黄疸を指摘される感度は78.40%、特異度は 68.81%(総ビリルビン値: 3.4±5.3 mg/dL)
・血清総ビリルビン値(T-Bil)が2.0 mg/dL以下であっても黄疸が指摘された際の特異度は70%以上
・血清ビリルビン値(T-Bil)が15.0mg/dLを超えると、黄疸が指摘される感度は96%
(出典)Acad Emerg Med. 2000 Feb;7(2):146-56. doi: 10.1111/j.1553-2712.2000.tb00518.x.
このように結論付けられていますが、ビリルビン値によっても感度も様々でした。一般的はビリルビン値が上がれば感度も上がるといった感じですが、もともとの黄疸の定義が「ビリルビン値≧3.0 mg/dL」とするように、ビリルビン値 3.0 mg/dLの時点で感度がそれなりにあり、そこからはゆるやかに感度が上がる程度に感じます。データ的にはガタガタとしている様な面も感じますが。。
あとは、診察前から黄疸があると知っていたり、もともと肝硬変の患者さんだと分かっていれば、もっと感度は高いと思います。本人も黄疸の自覚がなく違う目的で受診していたとすればとか、初診かどうかなどの条件から、気がつかないこともありうると感じました。
そうはいっても黄疸をひっかけるという意味では、皮膚黄染<<眼球結膜黄染であると考えられます。
本日もお読みくださりありがとうございました。
本日取り扱った書籍のひとつです。エビデンスを用いた身体診察について黄疸以外についても豊富に触れられています。読者レビューを含め、気になる方はよろしければチェックしてみてください。