<目次>
先日のTBL JAPANでの臨床推論も学びの多い興味深い不明熱の症例でした。いつも興味深い症例をありがとうございます。
発熱はあるけど、すぐに診断に結びつく所見はないというような不明熱の醍醐味でしょうか。不明熱の書籍は『Dr.鈴木の13カ条の原則で不明熱に絶対強くなる〜ケースで身につく究極の診断プロセス』をはじめ分かりやすいものがあるので、不明熱に興味があり、大枠を学んでみたいという人は書籍を手に取ってももらえばいいと思います。
今回は、鑑別を絞るカギになったと思われる「CRP陰性の発熱」と「慢性髄膜炎」の鑑別について深堀利りしたいと思います。
1.「発熱+CRP陰性」(CRP陰性の発熱)
発熱があるにもかかわらずCRP陰性であれば鑑別が限られることはどこかで聞いたことがあるかもしれません。なんでもCRP(C-Reactive Protein)!というわけではありませんが、CRPが上昇していれば炎症があるという指標になります。
病態不明の際には、発熱とCRPの2×2表(発熱の有無とCRP陽性/陰性)で考えるようです。
- CRPは最も代表的な急性相蛋白(acute phase reactants)であり、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1)の刺激を受けて肝細胞で産生される。
- 一般に、体温よりもCRPのほうが血液中の炎症性サイトカインの有無を鋭敏に表現する。
(出典)『不明熱・不明炎症レジデントマニュアル』, 國松淳和
これに加えて、膠原病ではシェーグレン症候群、さらには結核のような慢性の感染症の場合の一部もCRPが上がらないものあると考えていいと感じます。他にも、細菌性髄膜炎に比べてウイルス性含め無菌性髄膜炎の方がCRPは陰性や低めになりやすいと考えられます。
さらに、肝臓で炎症性サイトカインが産生されることから、肝臓の状態が荒廃していればCRPが思ったほど、上がらなそうです。
また、SLEではCRPが陰性とのことですが、SLEの病態が漿膜炎等に発展していればCRPは陽性になることもあると考えられます。
さらに機能性高体温症を考えた際には、次のような鑑別や思考もあるようです。
機能性高体温を診断するには慢性炎症を除外し、全身性エリテマトーデス、Sjogren症候群、特発性後天性全身性無汗症、家族制地中海熱といった疾患を検討しつつ臨床的に診断する。
- Sjogren症候群自体では炎症反応が陰性のことも多い
- 特発性後天性全身性無汗症だけでなく、分節性であっても相対的には発汗障害があるということであり、熱がこもり微熱が持続ということにもなりうる
- 家族制地中海熱では発作期には炎症反応高値を示し、間欠期にはこれが陰転化する
(出典)Jpn J Psychosom Med 60:227-233, 2020
これも踏まえると、鑑別リストに特発性後天性全身性無汗症(AIGA)やSjSも、さらには家族性地中海熱の間欠期(検査のタイミング)も同様に鑑別疾患にいれることができそうです。AIGAを考える場合には、特発性以外のSjSによるものだけでなく、続発性無汗症でも高体温となると考えられます。
このあたりのことを踏めると下記のような鑑別が考えられそうです。
<鑑別疾患:CRP陰性の発熱>
- 頭蓋内疾患:髄膜炎(特に無菌性髄膜炎)、脳炎など
- 免疫抑制状態の重症感染症
- 免疫抑制薬使用時(例:ステロイド、トシリズマブ)
- 膠原病:SLE、シェーグレン症候群など
- 結核など
- 特発性後天性全身性無汗症、続発性無汗症
- 家族性地中海熱(検査のタイミングが間欠期)
- その他:詐症、高体温症
2.慢性髄膜炎の原因(鑑別疾患)
今回のCRP陰性の発熱の原因は慢性髄膜炎でした。慢性髄膜炎について復習してみることにしました。タイムリーにNew England Journal of Medicine(NEJM)のReview Articleが先月(9月)に でていたようです。
まずは慢性髄膜炎の定義から紹介します。
慢性髄膜炎の一般的に受け入れられている定義は、少なくとも4週間軽減することなく続く兆候や症状を伴う髄膜の炎症である。
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.
慢性は4週間以上ということみたいですね。それでは、慢性髄膜炎の原因を調べてみたいと思います。
細菌
<頻度:高>
- 部分治療後
- Mycobacterium tuberculosis (結核)
- ライム病(Bannwarth症候群):Borrelia burgdorferi
- Treponema pallidum (梅毒)
<頻度:低>
- Actinomyces 属
- Nocardia 属
- Brucella 属
- Whipple病:Tropheryma whipplei
<頻度:まれ>
真菌
- Cryptococcus neoformans
- Coccidioides immitis
- Candida 属
- Histoplasma capsulatum
- Blastomyces dermatitidis
- Aspergillus 属
- Sporothrix schenckii
<頻度:まれ>
- Xylohypha trichoides
- Curvularia 属、Drechsler属などの暗色壁の真菌
- ムコール症
- Pseudallescheria boydii(水の誤嚥)
- Exserohilum rostratum(脊髄神経ブロック後)
原虫
- Toxoplasma gondii
- トリパノソーマ症
<頻度:まれ>
- Acanthamoeba 属
- 嚢虫症〔Taenia solium(有鉤条虫)のシストによる感染〕
- 有棘顎口虫(Gnathoitoma spinigerum)
- 広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis)
- アライグマ回虫(Baylisascaris procyonis)
<頻度:まれ>
- 旋毛虫(Trichinella spiralis)
- 肝蛭(Fasciola hepatica)
- Echinococcusシスト
- 住血吸虫(Schistosoma 属)
ウイルス
(出典)ハリソン内科学 第5版
腫瘍性
化学性髄膜炎
- 頭蓋咽頭腫
- 類皮嚢腫、類表皮嚢胞
自己免疫疾患
傍髄膜感染症
- 慢性硬膜外膿瘍
- 頭蓋骨または椎骨の慢性骨髄炎
その他
- 化学物質
- 薬物過敏
(出典1)ハリソン内科学 第5版
(出典2)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34469648/
ハリソン内科学には慢性髄膜炎の原因に関して見やすい表で、脳脊髄液所見、有用な診断検査、さらには問診に活かせそうなリスク因子や全身症状までまとまっていました。ぜひ、気になる方は手に取ってみてください。例えば、猫との接触があれば原因としてToxoplasma gondiiの可能性が上がるなど、攻める問診もできると思います。
慢性髄膜炎の原因・鑑別に関してUpToDateは役に立ちませんでしたが、診断に関しては二次文献のUpToDate、PubMedでのFree Articleを含めいろいろとあったので探してみるのもいいと思います。
今回はCRP陰性の発熱ぐらいしか症状も一般的な所見もない慢性髄膜炎でした。一般的に慢性髄膜炎の臨床像を把握する意味で慢性髄膜炎について検索してみましたが、症状や所見の感度・特異度の文献を見つけることはできませんでした。疾患のゲシュタルト作りの手助けとなる一般的な慢性髄膜炎の症状・所見は以下の通りです。
・慢性髄膜炎の症状には、頭痛、倦怠感、精神状態の変化、発熱などがある
・通常、頭痛は持続的であるが、部位や痛みの性状は非特異的である
・精神的な悪化を伴う進行性の頭痛および発熱は慢性髄膜炎の特徴である
・難聴や複視などの脳神経障害も髄膜炎を示唆することがある
・認知機能の変化(約40%、原因によって異なる)
・項部硬直は慢性髄膜炎では頻度が低い
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.
もう少し具体的な症状の定量的な頻度等も知りたいものです。『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』では、(急性・亜急性)髄膜炎の症状や所見の感度や特異度等もまとめられていて参考になる部分もあると思います。ぜひ、疾患の全体像をつかんでみてください。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
本日取り上げた書籍です。不明熱のテーマなどで話題の著書も多い國松淳和先生の書籍、様々なところで役立つことが多いハリソン内科学について、アマゾンの読書レビューなどについて気になる方はチェックしてみてください。