"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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魚骨摂取による合併症 ~消化管穿孔をきっかけに~

魚骨摂取による合併症: 消化管穿孔をきっかけに

お魚の骨食べると何が起こりうるのか?~

 

<目次>

 

 

 先日、「ヒラ」という魚を手に入れる機会がありました。Googleで調べてみたところ、珍しく感じて購入に至りました。Googleで少し調べてみたところ岡山がヒットし、徳島と長崎も少しヒットした程度でした。岡山周辺以外で見かけることは珍しいかもしれません。

 臭いも特にしない(どうせ新大阪駅からの551には敵わない笑)ので、興味本位で買って帰って家で食べることにしました。

 このヒラという魚ですが、小骨が多い魚でした。下処理として骨切りをしたのですが、失敗してしまい、たくさんの小骨を取りながら食べるのに苦労しました笑。食べるのに苦労しながら、魚骨による消化管穿孔について思いついたのがきっかけです。余談はこれぐらいにして、「魚骨(fish bone)の摂取」でUpToDateのページがあるわけでもなく、魚骨による合併症・消化管穿孔を突っ込んで調べてみようと思います。

 

 

1.魚骨による合併症

 魚骨といえば、真っ先に消化管穿孔が思い浮かんだ私ですが、食道で穿孔を起こして縦隔気腫を起こしてとか、様々な合併症があると思います。魚骨を食べる(飲み込む、摂取する)ことで生じうる合併症をチェックしてみたいと思います。

 

魚骨による合併症

・魚骨を摂取する(飲み込む)と、上部気道、食道、胃、小腸、大腸に留まることがある。稀に気道に入り、気管または主気管支に留まることもある。

(出典)Indian J Radiol Imaging. 2011 Jan;21(1):63-8. doi: 10.4103/0971-3026.76061.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今回、魚の骨から消化管穿孔を想起したわけではありますが、疫学的には口腔、咽頭喉頭への嵌頓多いようです。消化管穿孔食道が4%、胃以遠の穿孔が1%未満と魚骨によるトラブルの中では少なく、想起するものとしてはかなりバイアスに偏っていたとも言えます。

 魚の骨による穿通が消化管から動脈や肝臓にまで至るというのは、想像はできても文献で見ると少し驚きです。「さすがにそこまでは…」と考えてしまう人には少し想像力が必要そうです。他にも食道で穿孔を起こし、心タンポナーデに至った症例報告もありました。

 

32歳の女性が魚の骨を飲み込み,3日後に胸痛と発熱で来院した.入院中に低血圧になった.コンピュータ断層撮影により,魚の骨が食道から心膜に貫通していることが確認された.手術時,魚の骨が左心房の表面を削っていることが指摘された.本症例は異物摂取による食道穿孔に続発する心タンポナーデであった.

(出典)Ann Thorac Surg. 1993 Oct;56(4):969-71. doi: 10.1016/0003-4975(93)90368-r.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 症例報告を調べ始めると、さらに稀なものまであるでしょう。「魚骨が穿孔して周囲の血管や組織を損傷したり、そこから化膿することがある」というような原則から考え出すことが大切になってきそうです。

 

 今回、上気道で魚の骨が刺さる・詰まる(魚骨嵌頓)が多いようですが、もう少し部位別に調べてみたいと思います。



 

2.魚骨の嵌頓/穿通部位

 魚の骨と言えば、消化管穿孔ではなく、上気道での嵌頓等が多いようです。嵌頓というのか、穿通しているというのか、様々な症例もありそうですが、上気道ごとの部位もチェックしてみます。

 

2-1. 魚骨の嵌頓部位

 まずは、口腔~上気道(咽頭喉頭の中でどこへの嵌頓が多いのかを具体的に調べてみました。

 

魚骨の嵌頓部位と結果

  • 12歳以上の魚骨摂取者における前向き研究(1986年)

(出典)Ann Surg. 1990 Apr;211(4):459-62. doi: 10.1097/00000658-199004000-00012.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 魚骨摂取後の魚骨の嵌頓部位について、口腔、咽頭口部(中咽頭)、喉頭咽頭、下咽頭、食道しかなく、その面では食道より先の部分が少ないのか、カウントされていないのか、考えさせられます。先ほど、食道穿孔は1-4%、胃以遠での穿孔は1%未満という記載もあったとおり、少ないと考えてもよいかもしれません。食道より先に魚骨が行ってしまえば、穿孔等で問題にならなければ、気がつくこともなく排泄されて終わりかもしれませんね。

 いずれにしても、咽頭62%であり、咽頭喉頭が全体117例のうち109例(92%)と多そうです。

 そこで、消化管のどこの部位での消化管穿孔が多いのか深掘りしてみたいと思います。



2-2. 消化管穿孔における穿通部位

 消化管に絞って、嵌頓もしくは穿通部位を調べてみました。消化管穿孔の部位に関して症例報告をまとめたものがありました。

 

魚骨による消化管穿孔の本邦報告例

(出典)日臨外会誌 47(7), 955-961, 1986.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1963/47/7/47_7_955/_article/-char/ja/

 

 あくまで昔の症例報告を集めたものです。どこまで正確かは分かりませんが、参考程度にいかがでしょうか。

 個人的には、肛門(22.0%)というのは盲点であり、割合も多いのも盲点でした。骨として排便しようとしたものの、出口で引っ掛かったということでしょうか。肛門周囲膿瘍肛門周囲炎等になります。また、これも少し意外なのですが、横行結腸2番目に多い(16.3%)ようです。

 先ほどの論文では、消化管穿孔(胃以遠)のうち回腸、回盲部、S状結腸に多いということだったので、異なる点もあります。回腸や回盲部は狭いからも嵌頓しやすい理由を推測として考えられそうですが、横行結腸が多いのは少し疑問です。先ほどの論文では肛門について特に触れられていなかったので、肛門については触れられているかの差はあるかもしれません。

 今回のこの症例報告123例の考察で特に興味深かったのは、魚の骨の長さ(長径)についてチェックされている点です。今回は魚骨の長さについてチェックしてみます。



 

3.魚骨の長径と消化管穿孔

 先ほどの続きですが、興味深いので消化管穿孔を生じた魚骨の長さ長径についてチェックしてみます。

 

消化管穿孔123例における魚骨の長径

(出典)日臨外会誌 47(7), 955-961, 1986.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1963/47/7/47_7_955/_article/-char/ja/

 

 長径2.0 cm~2.5 cmの魚骨の症例が最も多く15例(12%)、続いて2.5 cm~3.0 cmが13例(11%)、3.0 cm~3.5 cmが11例(9%)、1.5 cm~2.0 cmが10例(8%)が多くなっています。不詳が64例(52%)もあることから参考程度と感じますが、「ある程度食べられる大きさ(3cmぐらいまで)の魚の骨の場合は、長い骨ほど気をつけましょう」ということでしょうか。もちろん、長くなりすぎれば食道より手前に嵌頓する可能性が高くなったり、そもそも摂取しにくくなったりすることも考えられます。

 

 今回の記事のきっかけとなった魚「ヒラ」の骨切りに失敗したものから、食べながら取り除いた骨の写真(ほんの一部)です。

 写真はあくまで参考程度ですが、このような長さの骨を残してしまい、とても食べにくくなってしまったのでした笑。1.5 cm~3.0 cm弱ぐらいまでの骨が多数でした。

 先ほどの症例報告の中でも2.0 cm~2.5cmの一番多かった長径を含め、比較的症例報告の多い長径でした。一方で、2.0cm程度以上の骨が誤って口に入ると、結構長く感じました。それ以上の長さの骨を摂取してしまう誘因のようなものも気になります。1.5 cm以上や2.0cm以上の骨を摂取することはリスクが高くなっていくとも考えられそうです。

 他にも、魚の種類ごとの骨の形状(例:刺さりやすさ、嵌頓しやすさ)や性質(例:硬さ)、さらには調理方法によっても、どこの部位で嵌頓や穿孔しやすいかというのも異なってきそうです。論文を見ていて「サバを食べて」とか具体的な記述は少なく、特定されにくい面もありそうなのでこの程度にしておきます。

 ここでは、そのような長いと感じるような長さの魚骨を食べてしまう誘因について調べてみたいと思います。




4.魚骨摂取の危険因子

 骨を取り分けるのが面倒になるとか分かる面もあるのですが、なぜ数cmを超えるような魚の骨を食べてしまうのかについて疑問に感じた面もあります。魚骨を食べてしまう誘因を調べていたところ、危険因子について調べた論文を見つけたのでチェックしてみたいと思います。

 

シンガポールにおける魚骨摂取の疫学的危険因子

  • 魚骨摂取により救急外来を受診した112名の後ろ向き研究
  • 口腔と中咽頭の直接検査、上気道の軟性鼻内視鏡検査、臨床的に必要であれば画像診断(頸部側面X線撮影や単純CT撮影など)を行い、魚骨を認めた群(positive)と認めなかった群(negative)を比較

(出典)Singapore Med J. 2015 Jun;56(6):329-32; quiz 333. doi: 10.11622/smedj.2015091.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 正直、調べてみようとした内容そのものは興味深いものの、2群の分け方に違和感を感じました。しょうがないと言ってしまえばそれまでですが、魚の骨を食べてしまったことで救急外来を受診した患者の中から、魚の骨を認めるか/認めないかで比較しても、どこまで分かるのか…と感じてしまいます。できれば、救急外来に来ていない人も含めて、魚を食べた人の中で魚の骨を認めた人と認めない人を比較してほしいのですが、到底無理ですよね…。

 さておき、2群の比較結果を見てみると、歯に関しては有意差があります。入れ歯(義歯)の人で有意に多いようです。他にも、魚骨を口の中で取り除いた人少ない傾向(皿の上で魚骨を取り除く人に多い傾向)、毎日魚を食べる人多い傾向、視覚に問題のある人少ない傾向があるかもしれません。骨を取り除くのに箸・フォーク・指を使う、食事に介助が必要であるかも調べられています。

 それにしても興味深い結果である反面、視覚に問題のある人の方が少ないというのは「視覚の代わりに口の触覚が発達しているのか」というような想像を膨らませる結果と感じます。口の感覚という意味では、口で魚の骨を取り除いている(おそらく口で骨があると感じたときに骨を取り出す)というのと共通点かもしれません。お皿の上で取り除くだけでなく、噛んでいる途中でも骨に気がつくということでしょうか。

 あまりにも普遍的かは分かりませんが、「この人は魚の骨を飲み込んだ可能性が高いかもしれない」というような疑うきっかけになれば幸いです。

 今回はここまでとしますが、魚骨による合併症を疑うという意味では、病歴(魚の摂取歴含む)症状所見等も役立つかもしれません。特に病歴から明確になりにくい食道以降の消化管における嵌頓、消化管穿孔に関しては特に役立つかもしれません。余裕があれば、これらもブログ記事にしてみたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。