<目次>
- 1.まずはAbstructから読んでみよう
- 2.Methodsに注目してみる
- 3.Resultsに注目してみる
- 4.Disccusion:Limitationを読んでみる
- P.S.【医学英語論文の読み方の書籍紹介】
【前回】医学英語論文を読んでみよう START編 & 書籍紹介(医学書ログ)
今回は「この結果は今の日本に当てはめることは難しいかもしれない」という疑問から少し深堀りするきっかけとなったNew England Journal of Medicineの記事(9月末)に対する感想のようなコメント記事です。
以前の記事「医学英語論文を読んでみよう START編 & 書籍紹介(医学書ログ) - 医学生からはじめる アウトプット日記」における論文の読み方を意識したものになります。
1.まずはAbstructから読んでみよう
それでは、NEJMの論文をアブストラクトから読んでいきましょう!こっそり、Conclusionから見ていただいても大丈夫です。
Background
Methods
- ランダム化二重盲検
- イギリス(United Kingdom)の150のプライマリケア医における患者
- 2年以上抗うつ薬を服用し、抗うつ薬の服薬を中止してもよいと考えられている患者に対して、1:1で抗うつ薬とプラセボを使用
- 52週後までの抑うつ症状の再発(first outcome)、抑うつ・不安症状、身体・離脱症状、QOL、服薬中止までの期間、気分評価スコア(second outcomes)を評価
Results
- 患者478名を238名の抗うつ薬(維持)群と240名のプラセボ(中止)群に分けて実施
- 患者の平均年齢は54歳、73%が女性
- アドヒアランス遵守率は抗うつ薬群で70%、プラセボ群で52%
- 【First Outcome】抑うつ症状の再発は、抗うつ薬群で39%(92/238名)、プラセボ群で56%(135/240名)(HR, 2.06; 95% CI, 1.56-2.70; p<0.001)
- 【Second Outcomes】First outcomeと概ね同じ傾向
Conclusion
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1257-1267. doi: 10.1056/NEJMoa2106356.
※アブストラクトをすべて訳してはおりません。すべてを読む際には上記URLからどうぞ。
<まずは素直に結果を信じたとして>
まずは、素直に結果を信じた(日本にあてはめられる)として考えてみます。
当たり前といえば当たり前のConclusionですが、First Outcomeにおける「抑うつ症状の再発は、抗うつ薬群で39%(92/238名)、プラセボ群で56%(135/240名)(HR, 2.06; 95% CI, 1.56-2.70; p<0.001)」という部分をどう捉えるかというのは、解釈が分かれると思います。
抗うつ薬を飲んでも飲まなくても、再発率は39% vs. 56%なので、そこまで大した差ではないと感じる人もいると思います。
2.Methodsに注目してみる
次にNEJMの論文のMethodsを詳しく見てみます。
<研究はUK、でもここは日本のプライマリケア>
まずは、UKのプライマリケア(そこの辺りは詳しくありません)における研究です。
言うまでもなく、日本のプライマリケアとは大きく異なると思います。日本であれば基本的には精神科の開業医は専門家であるので、よくみられそうな精神科開業医には当てはまりにくいかもしれません。専門医の視点というものがあると思います。どういう状況下かによってどの程度当てはまるかどうかも違ってくると思います。
<患者の選び方について>
他にも、患者の選定の過程において、ICD-10のDepressionの定義に当てはまることを用いています。
The CIS-R asks about depressive symptoms during the past week and determines whether the symptoms indicate a diagnosis that meets the ICD-10 criteria for depressive episodes.
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1257-1267. doi: 10.1056/NEJMoa2106356.
ここでは、うつ病だけではなく双極性障害(躁うつ病)のうつ病相が含まれている可能性が考えられます。もちろん、うつ病患者と言われていて、後になって双極性障害のうつ病相であったということはつきものですが、さらに患者像をresultsで深堀りしてみます。
3.Resultsに注目してみる
論文のResultsに注目してみます。岩田健太郎先生の書籍でも「まずは”Table1”」でしたね笑。冗談はさておき、まずは表や図を中心にでしたね。今回、用いるのは本当にTable 1です。
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1257-1267. doi: 10.1056/NEJMoa2106356.
今回、ここで特に注目したいのは「過去に3回以上抑うつ症状を経験した回数(≧3 previous episodes of depression)」です。抗うつ薬群で94%、プラセボ群92%といずれも高い状況です。それを裏返すように初発年齢はいずれも30歳代前半、患者年齢は50歳代半ばです。
「過去に3回以上抑うつ症状を経験した回数」が高いということは、再発のうつ病を考えた際に双極性障害である可能性も考えると思います。ここからも、双極性障害が紛れ込んでいるのではなかと考えました。
他にも、様々な患者像が分かります。気分評価スコア(重症度)もここで分かります。恥ずかしながら馴染みのないスコアもありますが、これぐらいの重症度の人をUKではプライマリケアで診ているという参考にもなるかもしれません。
4.Disccusion:Limitationを読んでみる
さて、Disccusionを読んでみましょう。岩田健太郎先生の書籍では特にLimitationに注目でしたね。Limitationでは、「この論文はこういうところにヌケはあるけど、…」っていう記述があります。
主なLimitations
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1257-1267. doi: 10.1056/NEJMoa2106356.
おそらく、今回の結果に双極性障害の人が含まれる可能性があるというのも、limitationの「抗うつ薬の処方・診断に関する詳しい情報の欠如」に含まれるかもしれませんね。
しかし、Backgroundにもある通り、この論文の意義はUKにおけるプライマリケア領域での抗うつ薬の中止・継続に関するデータというところになると思います。RCTであり、プライマリケア領域において意義のある研究であると思います。
さらに調べてみたいこととして、日本や他の国での「抗うつ薬はやめられるか?」というデータも調べてみたり、プライマリケア医だけでなく専門家(専門医)による診療の場合も調べてみたり、例えば重症度が異なるというような患者像が異なる場合も調べてたりすると、今回の結果もより参考になり、理解も深まると思います。
あくまで、背景知識等はあまりなく初心者的な読み方ですが、医学英語論文の読み方の一例としても使わせていただきました。その上でこの結果を自分の普段の現場で使うことができるか等を考えながら読むと、医学英語論文を読むのがもっと楽しくなるかもしれません。
論文そのものにも、よろしければアクセスしてみてください。
P.S.【医学英語論文の読み方の書籍紹介】
岩田健太郎先生の書かれた医学英語論文の読み方の書籍『Dr.イワケンのねころんで読める英語論文』の書籍紹介を交えたブログ記事はこちらです。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。