医学英語論文(臨床研究論文)を読んでみよう (START編)
~『Dr.イワケンのねころんで読める英語論文』をはじめ~
<目次>
今回は英語論文を読み始めた時の体験からと書籍紹介(医学書ログ)の合同企画のような記事です。「どうして・どうやって英語論文を読んでいるの?」と聞かれた際に下手な駆け出しの私自身が体験談として話すより、私自身の学んだ本を紹介したほうが早くて確実だと思うからです。
今回は、はじめの一歩ということで『Dr.イワケンのねころんで読める英語論文』, 岩田健太郎(著)を中心にお話していきたいと思います。
1. はじめに
今回、主に紹介する書籍は岩田健太郎先生の書籍『Dr.イワケンのねころんで読める英語論文』です。ご存じの方も多いと思いますが、COVID-19をはじめ、感染症のお話でもエビデンスに基づいたお話をよくされていている先生です。個人的には信頼している先生のひとりです。
エビデンスってなると、日本語だけで情報を手にするのは難しいところがあります。例えば、翻訳に時間がかかっている(例:教科書)、そもそも日本語になっていないというような弊害があります。そのような点を克服していくためにも、英語で情報を入手する必要があると思います。
予めお断りをしておくと、英語がとても苦手(「英語アレルギー」)で、英語論文を読み始めてみようと思う人向けの書籍です。アブストラクトぐらいは自分自身で読んでおり、そこからさらに必要に応じて本文を読みに行くことはしているというような人には少し物足りないかもしれません。さらに、英語論文の批判的吟味がしたい、Journal Clubをやってみたいというような人はすでにこの書籍の次のステップであると思います。次回以降に機会があれば、次のステップの書籍や実際の論文でこの書籍の読み方を紹介をしたいと思います。
2.【こんな人におススメ】
- 英語論文にこれからチャレンジしてみたい人
- 自信がなく、まずは「これでいいんだ!」ときっかけにしたい人
- 岩田健太郎先生の考え方に触れながら英語文献を読んでみたい人
こんなお堅いことを書いてみましたが、はじめの一歩を踏み出す時はどおしても大変と感じることも多いと思います。そんな気持ちを抱かないように上手にスタートするきっかけになると思います。
3. 学べること
<本編の流れ>
- ガイドラインを読んでみよう
- PubMedでレビューを読んでみよう
- 論文のアブストラクト(概要)を読んでみよう
- アブストラクトを見ながら、論文本文を読んでみよう
- 図や表を中心に、論文を読んでみよう
- いろいろな形の論文を読んでみよう
Tips
- 語彙を増やすコツ
- 論文のつくりを理解して、ほしい情報まで近道しよう (例)英語論文はアブストラクトから読もう
- 英語のノリ・クセをつかもう (例)英語は区切って、「つっこみ」ながら読もう →本書内の論文の解説の全体的な流れにもなっています。
上記のような流れになります。何より英語論文の読み方で特徴的なのは、スラッシュで切って読んでいく方法です(受験生の時に使われた方も多いと思います)。
いきなりですが、本文です。
Both technical factors - appropriate catheter use, aseptic insertion, and proper maintenance - and socioadaptive factors, such as cultural and behavioral changes in hospital units, are important in preventing catheter-associated UTI.
上記のような文章を何も問題なく読めている人は大丈夫だと思いますが、以下のようにスラッシュ等が入って解説されています。
ただ、スラッシュで切って読むだけであれば、この本の魅力は半分以下だと思います。実際に、ユーモアにあふれながら、会話形式の楽しい解説がついています。
- まず、Both tequnical factors・・・・うにゃうにゃと、techenical factorsの説明があって、・・・(以下略)
- それぞれ、ダッシュ(ー)やsuch as(「たとえば」)の後に、うにゃうにゃ・・・違った、詳しく説明しています。ちなみに、・・・(以下略)
- 社会適応要素(socioadaptive factors)についてが、いまいちピンときませんが。 → この説明では、病院職場での文化とか行動とかの変容ってことですね。「入院患者はとりあえず尿カテ入れとけや、ゴルァ!」みたいな非理性的な習慣がculturalな要素、「手指消毒必要なんだけど、めんどくさいから端折っておこうぜ」みたいな「わかっちゃいるけどやめられない」のがbehaviorの要素です。そういう文化とか行動の変化(change)だけではありません。その辺の変容をもたらすのが、socioadaptive factorsってことです。納得とか、そういうのがないと、技術だけでは減らせへん・・・(以下略)
(出典)Dr.イワケンのねころんで読める英語論文(一部抜粋)
上記のように、解説も読み方や理解するための背景を示唆してくれるかのような解説です。
他にも、自分自身の知っている分野の英語論文は読めるのに違う分野のものになると読めないというのは、自分の分野の場合は知識で補っているのであって英語で読めているわけではないというような示唆もありました。
文字だけで読んでいても、社会適応要素がイメージできなければ理解するのがつらいと思います。一方で、うにゃうにゃというようなメリハリの利いた読み方も大好きです。
<論文の読む順番>
Tipsからの例です。まずはアブストラクトから目を通します。『英語論文はアブストラクトから読もう(そしてこっそりConclusionから読んじゃおう)』という項目では、
- Conclusion
- Results
- Methods
- (Background)
の順でこっそり読んでいる人もいることが紹介されていたりします。結論を把握できていると、その他の内容も把握しやすくなるためです。(初心者向けに、Methodsが研究において最重要部分ですが、最初はあえて軽~く読みましょうという配慮まであります。)
<論文の構成とコツ>
アブストラクトの次に本文の気になる部分を読んでいきます。すべてを読むというよりもメリハリをつけて、Introduction(Background)からDisscussionまでの読むコツまであります。ざっくりと言うならば…
- Introduction:論文の内容にあまり詳しくない人は丁寧に
- Methods:「批判的に読む」のが重要!
- Results:特に注意したいのは”Table1”
- Disccusion:特にLimitationに注目!
論文のテーマの分野のことについて知らない場合には、下手に教科書を読むよりもBackgroundを読むことでその分野の最近のことが分かることもあります。
最後は「本当の戦いはこれから」ということで毎日英語を続けてくださいねということがこの本でも書かれています。
そのきっかけにおススメの一冊です。詳しくは書籍内で解説・説明されています。
教えあうことはとても素敵ですが、我流の中途半端なところで教えあって変な癖がつくよりも、何か本などを軸にしてみんなで教えあい、相談しながらやってみるとかもよいと思います。ぜひ、今の自分から前進するきっかけにしてみてください。
分類上、書籍紹介以外にもなぜ「その他」なのかというのは、英語論文を読む際の土台になっているからというのと、私自身のビンっときた内容を中心にまとめすぎたからです。この先、生じた疑問を調べつつ論文を読んでいく際には「PICO(PECO)」などを意識したりするとよいかもしれません。
4. 論文を見つける
PubMedへ&検索法
PubMedとは、世界の主要な医学系雑誌に掲載された論文の書誌情報を調べることができるデータベースです。上記URLからPubMedにアクセスすることができます。検索語画面の左側に”ARTICLE TYPE”, ”TEXT AVAILABILITY”などがあるのでそこから、無料の論文、レビューだけなど絞り込みができます。
臨床疑問を調べる際に利用できるでしょう。特に、医学論文を学習目的(特にReview article)、Clinical Questionの解決目的で調べていく際や難しい未診断症例を特異的なキーワードをもとに検索するような自学自習目的で使用する場合には、上田剛士先生の下記の動画がとても役に立つと思います。
ちなみに、未診断症例でのキーワードはSemantic Qualifierを意識するとよいと思います。Semantic Qualifierについて詳しく知りたい場合は是非、以前の記事【Semantic Qualifierを意識した診断推論】をご覧ください。
私自身はこの動画に加え、Google Scholarを使用することやメジャーな英語の医学誌をチェックするなどアレンジしていますが、PubMedのお金のかからない使い方(Free Articleを見て学習する方法)としてもお勧めです。
New England Journal of Medicine (NEJM) 等の有名誌へ
気になる論文が新たに発表されていないか、有名な医学誌のホームページを定期的にチェックしにいくという方法もあります。例えるなら、週間ジャンプを毎週チェックしにいくような感覚です。
- NEJM https://www.nejm.org/
- JAMA https://jamanetwork.com/journals/jama
- BMJ https://www.bmj.com/
- Lancet https://www.thelancet.com/
取り上げた書籍の中で用いられていた文章も主にNEJMからでしたので、NEJMから紹介させて頂きました。他にも、余力があればJAMA、BMJ、Lancetなどもよいでしょうし、自らの専門分野の有名誌でもよいでしょう。
5. 論文を読んでみよう!
先述の臨床疑問に基づく論文検索や、有名誌の定期的なチェックによって読もうと思った論文が見つかったら、是非読んでみましょう。
【続編】実際に読んでみる
今回は最初に紹介した『Dr.イワケンのねころんで読める英語論文』を意識して、実際にNEJMの論文を読んでみました。よろしければ、ご覧ください。
読解を深めるおススメ本
さらに、医学論文を読む際に気をつけるとよい点があります。特に理解を深めつつ、チェックすべき点を把握しながら読んでいくためにお勧めの本を紹介しておきます。
- 『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』, 後藤 匡啓 (著), 長谷川 耕平 (監修), 羊土社
例えば、研究方法が後ろ向きだとか、前向きだとか、コホート研究だとか、ランダム化比較試験だとか、チェックするポイントがあります。それこそ、前述の通りmethodを批判的に読んだりする土台にもなります。さらに結果では、主要評価項目(Primary Outcome)と副次的評価項目(Seconday Outcome)のようにチェックするポイントがあります。そのようなチェックしたほうがよい項目が分かれば、読解の深みが増していくだけでなく、メリハリをつけた斜め読み(時間短縮)もしやすくなります。そのような読み方の参考におススメです。
- 『基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版』, 中村 好一 (著), 医学書院
もっと、疫学的な部分から理解を深めたいというような方は下記の本が読みやすくておススメです。
論文を読み始めて、読んでみようと思って、これらも気になる方はチェックしてみてください。
本日もお読みくださりありがとうございました。
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今回、最初に取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、よろしければチェックしてみてください。