急性精巣上体炎
~急性陰嚢痛から考える鑑別疾患~
<目次>
発熱が38℃台で症状は下腹部痛という急性精巣上体炎の症例に巡り合いました。精巣上体炎は陰嚢痛ではないのかと思ってみたりしました。 尿路感染症や泌尿器科の感染症では腎盂腎炎に巡り合うことが多いと思います。一方で、急性精巣上体炎に巡り合う頻度は多くはないと思います。知っているようで知らない、急性精巣上体炎と急性陰嚢痛について今回は深堀りして疑問解決してみたいと思います。
まずは、イメージにあった急性陰嚢痛について深堀りしてみたいと思います。
1.急性陰嚢痛 acute scrotal pain
急性陰嚢痛の主な3つの鑑別疾患は、精索捻転、精巣上体炎、精巣垂捻転である。
(出典)Aust Fam Physician. 2013 Nov;42(11):790-2.
陰嚢または陰嚢内容の腫大をきたす疾患はさまざまなものが存在するが、陰嚢内容の腫大に疼痛を伴う急性陰嚢症には精索捻転症などの緊急手術が含まれるため、その鑑別疾患は重要である。急性陰嚢症には精索捻転症、精巣付属器捻転症、ムンプス精巣炎などがある。
急性陰嚢痛の鑑別疾患の中では、急性精巣上体炎は主な原因(鑑別疾患)の1つのようですね。下腹部痛や鼠径部痛でも想起を忘れないようにしたいものです。
せっかくなので、急性精巣上体炎の一般的なゲシュタルトを作るために深掘りしてみます。
2.急性精巣上体炎 acute epididymitis
<疫学>
急性精巣上体炎も頻度の高い疾患のひとつであり、成人の急性陰嚢症では最も多い。
<症状>
炎症により患側の精巣上体が腫大する。発症初期は精巣上体と精巣が区別できるが、炎症が進行すると両者が一塊となり陰嚢内の大きな腫瘤となる。触診では精巣上体の疼痛を認めるが、精管に沿って炎症が広がると下腹部や鼠径部に疼痛が放散する場合もある。多くは発熱を認め、頻尿や排尿困難、尿意切迫感などの下部尿路症状を伴うこともある。
下腹部痛もあっていいというのは分かるものの、やはり炎症が精管に沿って炎症が広がると下腹部や鼠径部に放散するということで、やはり急性陰嚢痛があれば想起しやすいですね。
続いて、急性精巣上体炎の原因について調べてみたいと思います。原因は感染症と非感染症に大きく分かれて、起炎菌も年齢等で異なるようです。また、急性陰嚢痛をきたす主な3つについても判断する(鑑別する)ポイントについても深掘りしてみたいと思います。
急性精巣上体炎
<原因>
性的な活動のある35歳未満の男性
- クラミジア Chlamydia trachomatis
- 淋菌 Neisseria gonorrhoea
男性(>35歳)
- Coliform bacteria (Escherichia coli)
子供
慢性感染症
- 結核 Mycobacterium tuberculosis
- Many of the above untreated
免疫不全状態
- Cytomegalovirus (CMV)
- Cryptococcus
- 緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa
- Klebsiella pneumoniae
稀な原因
- Ureaplasma urealyticum
- Corynebacterium spp.
- Mima polymorpha
- Proteus mirabilis
- ブルセラ症 Brucella
- 梅毒 Treponema pallidum
- フィラリア症 Filariasis
非感染症
- サルコイドーシス Sarcoidosis
- ベーチェット病 Behcet’s disease
- Amiodarone(アミオダロン:抗不整脈薬)
- 特発性
- 結節性多発動脈炎 Polyarteritis nodosa
(出典)Aust Fam Physician. 2013 Nov;42(11):790-2.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24217099/
知っているようで知らないことが多かったような気がしました。精巣上体炎の原因に関しては、あまり深く考えたことがなかったので、非感染性疾患もあるということも勉強になりました。精巣上体炎と聞いて、非感染性の原因も忘れないことや、年齢や性交渉歴によっても起炎菌の可能性を変化させるヒントを得ることが出来ました。
3.精巣上体炎、精巣捻転、精巣垂捻転の比較
精巣上体炎をきっかけに、急性陰嚢痛の鑑別や原因を調べてきました。鑑別のTOP3のような3疾患を比べてみたいと思います。他の文献では精巣炎も鑑別にしてある文献もあり、それと合わせて鑑別の表にまとめてみたいと思います。
<精巣上体炎、精巣捻転、精巣垂捻転の特徴・鑑別>
疫学・概要
問診・症状
所見
精巣上体炎(1)
・成人の陰嚢痛の最も一般的な原因のひとつ
・非感染性の原因を診断する際には感染症を除外
・慢性では症状や所見がはっきりしないこともある
・稀に前立腺炎を合併していることがある
・潜行性発症
・発熱、悪寒
・下部尿路症状
・性交渉歴
・重労働
・自転車等への長時間の着席
・睾丸の硬結
・精巣上体の圧痛
・Prehn’s sign:陽性
・精巣挙筋反射:正常
精索捻転(1)
・思春期の12-18歳に多い(65%)
・急性陰嚢痛では必ず除外すべき
・突然発症
・激しい疼痛
・悪心や嘔吐、腫脹を伴う
・外傷に伴う
・腹痛も生じうる
・非対称性の睾丸の挙上(症例の50%程度とする報告)
・Prehn’s sign:陰性
・精巣挙筋反射なし(診断;感度90%, 特異度90%)
※はっきりしない症例ではカラードップラー超音波検査(感度86-100%, 特異度95-100%)
精巣垂捻転(1)
・子供における急性陰嚢痛の最も一般的な原因
(若い青年に多い)
・緩徐発症
・中等度から重度の疼痛
・悪心や嘔吐を伴う
・精巣腹側の水腫や局所的な圧痛
精巣炎(2)
・精巣炎のみは稀で、一般的には思春期前野の小児における流行性耳下腺炎(mumps)に伴う
・たいていは精巣上体から炎症が波及する
・突然の睾丸痛
(abrupt onset of testicular pain)
・非対称性の睾丸挙上
・Prehn’s sign:陽性
・精巣挙筋反射:異常
(出典1)Aust Fam Physician. 2013 Nov;42(11):790-2.
(出典2)Am Fam Physician. 2009 Apr 1;79(7):583-7.
鑑別を意識すると、よりどこに注目すればいいのかも分かってくるような気がします。Prehn’s sign(プレーン徴候)や精巣挙筋反射はもちろん、問診でも自転車の様な乗り物への長時間の着席や、性交渉歴のような項目も意識してみたいと思います。
他にも急性精巣上体炎のゲシュタルトに頻尿や排尿困難、尿意切迫感などの下部尿路症状を伴うこともあるということがしっかりと確認できたことも恥ずかしながら発見でした。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。