腎盂腎炎の臨床象
~Clinical Features of pyelonephritis~
<目次>
※よく使っている教科書類を参考に腎盂腎炎の臨床像を調べました。
腎盂腎炎の症状で、体動時にお腹も腰も響くように痛くて、深呼吸でも痛いということを聞く機会がありました。炎症が波及するとこのような状況になることがあるんだと感じました。
それをきっかけに、今回は腎盂腎炎について深掘りしていきます。
多くの人にとって腎盂腎炎は高齢者の感染症としてよく耳にする尿路感染症のひとつかと思います。しかし、実際には「腎盂腎炎であると決めてかかればそう見える」けど、無症候性細菌尿の可能性もあるので、「ちゃんと診断できているのか分からない」ということもあったかと思います。
では、実際に腎盂腎炎の患者像から把握して、実際の患者さんはどこがよくある臨床像で、どこがよくある臨床像に合わないのかを考えていきましょう。
1.ハリソン内科学より
まずは、ハリソン内科学(第5版)を調べてみます。
患者へのアプローチ
尿路感染症が疑われるとき、対処すべき最も需要な問題は、無症候性細菌尿、単純性膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎、または複雑性尿路感染症としての臨床症候群の特徴を理解することである。
腎盂腎炎pyelonephritis
・軽度の腎盂腎炎は、下背または肋骨脊柱角の疼痛の有無にかかわらない微熱を呈する。
・重度の腎盂腎炎は、高熱、悪寒、悪心、嘔吐、側腹部痛や腰部痛を認める。
・症状は通常、急性発症であり、膀胱炎の症状はみられない場合がある。
・発熱は、膀胱炎と腎盂腎炎を区別する主要な特徴である。
・腎盂腎炎の発熱は概して高く急上昇するパターンを呈し、72時間を超える治療で解熱する
・菌血症は、腎盂腎炎の20~30%の症例で発現する。
・糖尿病患者では、急性腎乳頭壊死を伴って乳頭を脱落し、尿管を閉塞すると、閉塞性尿路疾患を呈することがある。
・両側性乳頭壊死のまれな症例においては、血清クレアチニン値の急激な上昇が最初の兆候となることがある。
・実質内膿瘍を形成していることもある。抗菌薬治療を行っているにも関わらず、稽留熱や菌血症を呈するときはその可能性を疑わなければならない。
気腫性腎盂腎炎emphysemayous pyelonephritis
・特に重度の型で腎臓および腎周囲組織でのガス産生を伴い、ほぼ例外なく糖尿病患者にみられる。
黄色肉芽腫性腎盂腎炎xanthogranulomatous pyelonephritis
・慢性尿路通過障害(しばしばサンゴ状結石による)に慢性感染症を伴い、化膿性炎症を起こして腎組織が破壊される。
・病理組織では、脂質を含んだマクロファージの浸潤により、残存する腎組織はしばしば黄色を呈する。(出典)ハリソン内科学 第5版
このハリソンの記述で特に「さすがはハリソン」と感じるのは、膀胱炎の症状はみられない場合があるという部分です。膀胱炎症状はあっても、なくても良いということができます。ということは、患者さんに問診して、排尿時痛や頻尿、残尿感というような膀胱炎症状がないからといって、腎盂腎炎を鑑別疾患の中で可能性がないわけではないので、発熱の原因探しは続けないといけないと感じました。
そこで重症度も込みで考えるのが、軽度の腎盂腎炎では下背または肋骨脊柱角の疼痛の有無にかかわらない微熱を呈するが、重度の腎盂腎炎は、高熱、悪寒、悪心、嘔吐、側腹部痛や腰部痛を認めるという部分は、確かに炎症の強さで説明付きそうで納得です。
過去には、季肋部の圧痛やCVA叩打痛といった身体所見までめぐりあうこともありました。では、他の本ではどうでしょうか?
2.レジデントのための感染症診療マニュアルより
次は、「感染症といえばこれ!」というような一冊のレジデントのための感染症診療マニュアルを調べてみます。
女性の急性腎盂腎炎
<病因・病態>
・再発する膀胱炎が特殊な宿主にみられたのと対照的に、特殊な細菌(特に病原性の高い大腸菌など)により生じる。
・言い換えれば誰でも罹患しうる疾患である。
・頻度ははるかに少ないが、男性(特に同性愛者、相手の女性の膣に病原性の強い大腸菌がいる男性)も罹患する。<起炎菌>
・大腸菌が多い。その他Klebsiella pneumoniae, Staphylococcus saprophyticusなど。
・入院症例、膀胱カテーテル使用例ではより耐性のグラム陰性桿菌、緑膿菌などが問題になる。<臨床像>
・膀胱炎様症状(頻尿、排尿時痛)に加え上部尿路の局所症状(側腹部痛など)、さらに全身症状(発熱など)。ただし膀胱炎症状のみのこともあり、臨床像は病変の局在に関して非常に不確実である。また側腹部痛などの局所症状は腎梗塞、尿路結石、動脈解離などでも生じ非特異的である。
・男性では、膀胱炎症状+発熱のときは急性前立腺炎を考慮する。また急性前立腺炎は膀胱炎症状がはっきりせず、悪寒戦慄発熱を伴う原因臓器不明の全身性炎症疾患として提示されることも多い。
・時に悪心・嘔吐、腹痛など消化器症状が表面に出ることがある。胆管胆嚢疾患や虫垂炎と混同されることがある。
・逆に高齢者や糖尿病、アルコール依存症の症例などでは、重症の腎盂腎炎にもかかわらず極めて表面上元気で問題がないようにみえることが少なくない。高齢者や糖尿病症例では臨床的な印象に注意が必要である。無症状にもかかわらず菌血症を呈することに驚かされることがある。膀胱カテーテル存在したではさらにそういう症例が多くなる。※短期間治療が失敗し再発した「膀胱炎」も実際は上部尿路感染症である可能性が高い。
(出典)レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
ハリソン内科学に似ているところもあり、症状のあるなしだけでなく、その頻度まで意識した記述がいいですね。
さらに意識したいのは、やはり高齢者や糖尿病患者の場合のこと。表面上元気でも重症ということは、体動困難の原因として救急車で運ばれてきたときにはかなり重症ということもできるかなと思います。あとは、腹痛のような症状に惑わされるものもあること、男性では前立腺炎の方が可能性が高そうというあたりも、勉強になりました。
まだまだ、論文まで読まなくても学ぶことがたくさんあります。もちろん、PubMedで”pyelonephritis”と検索してreview article等を探してみましたが、教科書の威力も確認できました。もう少し特異的な狭い範囲のことを調べるにはPubMedやGoogle Scholarでの検索が有効になってくる反面、教科書の方がイメージが掴みやすいのも良いと感じました。もっと、症状の生じる定量的な割合とかも調べてみるのもアリだと思います。
ぜひ、これらの教科書の続きも読んでみてください。治療や対比されている疾患(例;他の尿路感染症)なども学ぶきっかけになると思います。
本日もお読みくださりありがとうございました。