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灼熱痛・灼熱感の鑑別疾患|Sjogren症候群による小径線維ニューロパチーをはじめ

灼熱痛・灼熱感の鑑別疾患

Sjogren症候群による小径線維ニューロパチーをはじめ~

 

<目次>

 

 先日、膠原病による神経障害の話の際にシェーグレン症候群(Sjogren syndrome: SjS)が話題になりました。そこで特に小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFNで灼熱痛が生じるという話についての確認や、灼熱痛(burnign pain, 灼熱感 burinig sensation)について深掘りしてみようと思いました。

 特に灼熱痛や灼熱感に含まれる「灼熱」というキーワードに関しては、口腔灼熱症候群(Burning mouth syundrome)という単語にも出現します。それだけでは口腔内乾燥が前面にあり、神経症状が含まれておらず、少し違うような特異的な表現に感じます。今回はそこから少し深掘りしてヒントをブレインストーミングのように探してみようと感じた次第です。(UpToDateで灼熱痛とかであれば、便利ですが…。)



1.どこの灼熱痛?

 まずは、さきほどのシェーグレン症候群をヒントに痛みの場所で分けてみたいと思います。口腔灼熱症候群であれば、口腔内乾燥が主な原因であると考えられます。一方で四肢などの灼熱痛であれば、口腔乾燥とは関係なく異常感覚(神経障害による感覚異常)によるものと考えられます。もちろん、口腔でも異常感覚の可能性もありますが、まずは何かヒントを得るために口腔口腔以外の大きく2つに分けてみたいと思います。



2.口腔の灼熱痛(口腔灼熱症候群の原因)

 口腔の灼熱痛ということで、まずは口腔灼熱症候群(Burinig Mouth Syndrome)を軸に鑑別疾患(原因)を考えてみたいと思います。

 

口腔灼熱症候群の病因・特徴

※表のうち、原因とその特徴のみを抜粋。

(出典)Am Fam Physician. 2002 Feb 15;65(4):615-20.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 やはり、調べてみて正解でした。口腔が灼熱痛(灼熱感)の原因であっても、パッと思いつくもの以外の病因もありました。粘膜疾患、更年期障害、栄養欠乏、口腔内乾燥、脳神経障害、薬の有害事象が挙げられています。更年期障害は盲点でした。薬の有害事象(副作用)はどんな原因にもある反面、具体的に挙げにくいと感じます。

 粘膜疾患では扁平苔癬カンジダが具体的な原因であり、灼熱痛が飲食中に生じるという特徴もあります。栄養欠乏ではビタミンB1ビタミンB2、ビタミンB6、亜鉛というような微量元素まで具体例とされています。ビタミンB12葉酸欠乏のように考えておきたいと思います。

 口腔内乾燥の原因として、シェーグレン症候群も挙げられています。他にも、化学療法放射線治療も具体例として挙げられていて、唾液腺の変性が原因です。ここでは、粘膜疾患のときのように飲食中の灼熱感に加えて、味覚変化も特徴に挙げられている点がヒントになるかもしれません。

 脳神経障害は、たいてい両側性であり、飲食時の不快感の低下が特徴のようです。いずれにしても、灼熱感のするタイミング、味覚、飲食時の問診ヒントになる可能性を秘めていると思います。

 

 他にも、シェーグレン症候群であれば、口腔内乾燥だけでなくドライアイでも似たような状況も起こりえるでしょう。

 また、口腔の灼熱痛としてはカプサイシンのような香辛料も灼熱感となることが想像できます。もちろん、辛い物を食べて口が焼けるようになったというような時間経過と症状の関係も明確であると思うので、疾患のように扱われることはないか、あっても稀だと思います。

 カプサイシンの話を広げれば、催涙スプレーの成分もカプサイシンであるものが一般的です。警察沙汰などで顔などにかけられた場合は、曝露した顔面などの部位に灼熱痛や灼熱感が生じるでしょう。その延長で言えば、化学物質や薬剤の場合も暴露部位の灼熱痛・灼熱感となると考えられます。



 

3.口腔以外の灼熱痛

 先程の続きという事で、シェーグレン症候群を切り口に口腔の灼熱痛の次は口腔以外の灼熱痛に目を向けてみます。

3-1. シェーグレン症候群の灼熱痛

 まずは、シェーグレン症候群(SjS)の灼熱痛はどのようなカニズム(病態生理)で灼熱感が生じるのかという部分に焦点を当ててみます。後で考える際のヒントになればという感覚です。

 シェーグレン症候群(SjS, SS)における神経障害はそもそもどのようなものであるのかを調べてみます。

 

  • 原発性シェーグレン症候群における神経学的徴候を認める頻度は10-60%と幅広く、感覚性失調や小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy; SFN)というような感覚性ポリニューロパチーのみ、もしくは優位のものが最も一般的な神経学的徴候であった。
  • SFNでは、有髄Aδ線維、無髄C線維が障害され、自律神経障害や障害遠位対称性の灼熱痛が生じうる。
  • シェーグレン神経障害患者20名のうち、16名(80%)が足の灼熱感を、12名(60%)がlength-dependent sensory symptomsを呈した。

(出典)Neurology. 2005 Sep 27;65(6):925-7. doi: 10.1212/01.wnl.0000176034.38198.f9.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 SjS末梢神経障害は、幅が広いものの10-60%で生じることから、稀ではなくぼちぼち見かけるようです。そのうち、感覚性運動失調小径線維ニューロパチー(Small Fiber Neuropathy: SFNといった感覚性ポリニューロパチーのみ、または感覚性ポリニューロパチー優位のものが最も一般的なようです。

 それが原因で遠位対称性の灼熱痛が生じうるということで、深掘りしてみたいことが大きく2つ生じました。まずは順当に小径線維ニューロパチー(SFN)による灼熱感・灼熱痛の原因について、もうひとつはSFNによる感覚障害だけでなく、SjSによる血管炎など様々な原因による感覚障害で生じうるというようなことを考えられ、もっと枠を広げて考えてみたいと思います。



3-2. 小径線維ニューロパチー(SFN)の原因

 先ほどからの続きで、順当にSFNの原因について深掘りしてみたいと思います。SjSはもちろんですが、他にどのような原因があるのか調べてみました。

 

小径線維ニューロパチー(SFN)の原因

  • 糖尿病、耐糖能異常
  • 膠原病
  • 甲状腺機能異常
  • ビタミンB12欠乏
  • 異常蛋白血症
  • HIV
  • C型肝炎
  • Celiac病
  • レストレッグス症候群
  • 神経毒性のある薬剤への曝露
  • 遺伝性疾患
  • 腫瘍随伴症候群

 

SFNの50%以上の症例で原因や関連疾患が見つかる。

足底筋膜炎、血管の機能不全、腰仙椎の脊椎変性疾患と間違われることが多い。

上記のほとんどの病因はlength-dependent small fiber neuropathyをきたすが、Sjögren症候群, Celiac病, 傍腫瘍症候群といった一部はnon-length-dependent small fiber neuropathyをきたしうる。

(出典)Cleve Clin J Med. 2009 May;76(5):297-305. doi: 10.3949/ccjm.76a.08070.

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Cleveland Clinic Journal of MedicineのReviewからになります。タイトルが”Small Fiber Neuropathy: Burning Problem”ということで検索をしてマッチした中でも数少ない内容を期待させるタイトルでした。

 length-dependent 小径線維ニューロパチーは神経の長さの長い四肢末端(特に足先)から灼熱痛・灼熱痛が生じます。糖尿病の神経障害の際にも学んだ人も多いと思いますが、手袋靴下型のような分布です。non-length-dependent 小径線維ニューロパチーは「length-dependent」以外の分布で生じるものです。

 原因多彩で、糖尿病甲状腺機能異常ビタミンB12欠乏といった内分泌代謝疾患、Sjogren症候群やCeliac病のような膠原病・自己免疫疾患HIVC型肝炎といった感染症などがあります。レストレッグス症候群は意外なような気もしましたが、想像を超える亜型があることを考えると納得できます。むずむず脚症候群という言い方でむずむずする原因ともなりうるとでも解釈すれば、こじつけで覚えたり、想起したりするきっかけにはなりそうです(笑)。

 異常蛋白血症に関しては、分かりやすい例を挙げるとM蛋白血症の末梢神経障害と同様のことが生じることを考えるとリンクできます。腫瘍随伴症候群は何でもありの延長、神経毒性の薬剤曝露も遺伝性疾患もリストになっていて納得だと思います。

 

 SFNについて病態から症状、検査や疼痛管理までまとめられているReviewなので気になる方はチェックしてみてください。

 

SFNの症状は、典型的には足の灼熱感(burning)や足指のしびれで始まる。

(出典)Cleve Clin J Med. 2009 May;76(5):297-305. doi: 10.3949/ccjm.76a.08070.

 先程の話と合わせると、length-dependentでは足に灼熱痛・灼熱感が生じることが典型ということになります。「足、灼熱痛」というキーワードで検索すると、灼熱脚症候群が検索にひっかかります。

 そこで、SjSから離れて足の灼熱痛全般(灼熱脚症候群)原因に注目してみたいと思います。



 

4.灼熱脚症候群の原因

 もちろん、先程の小径線維ニューロパチー(SFN灼熱脚症候群(burning feet syndrome)の原因になるというのは言うまでもありません。包摂関係的にはSFN以外の原因もあります。先程の調べてみたいと感じた「SFNによる感覚障害だけでなく、SjSによる血管炎など様々な原因による感覚障害で生じうる」というようなことから枠を広げるきっかけとしても灼熱脚症候群の原因を考える機会にしたいと思います。

 

灼熱脚症候群の原因

(出典1)Aust Fam Physician. 2003 Dec;32(12):1006-9.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

(出典2) Burning Feet Syndrome (GriersonGopalan Syndrome), 2022年12月13日

my.clevelandclinic.org

 

 いかがだったでしょうか。灼熱脚症候群の原因のうち、末梢神経障害SFNによる灼熱痛も包摂されています。SFNの原因の際に比べて、神経絞扼のような物理的原因や「その他」に分類されるような原因が大きく広がりました

 神経障害多くは末梢神経障害ですが、多発性硬化症(MS)のようなものまで原因として列挙されていました。多発性硬化症神経障害性疼痛は、MSによる損傷により、脳から身体への信号を伝達する神経が「短絡(short circuiting)」することで生じます。灼熱痛・灼熱痛の原因を末梢神経以外の枠にも広げることができました。

 感染症に関しても、SFNの原因となるような感染症を先程知りましたが、水虫リーシュマニア症という物理的に足で感染することによるものも案外pitfallでした。

 他にも、足そのもので生じるものという視点での肢端紅痛症をはじめとする鑑別疾患(原因)も増やすことができました。「その他」には自分から想起するのが難しいものも複数あり、慢性高山病Gitelman症候群あたりは調べてよかったと感じています。



 

5.最後に|灼熱痛・灼熱感の原因

 広げる方向性で調べ散らかってしまいましたが、足であれば、Burning Feet Syndromeの原因の中に小径線維ニューロパチーによるものも末梢神経障害のひとつとして包括されています。もちろん、原因の重複(糖尿病など)がありますが、併せて鑑別疾患(原因)を考えると枠が広がってよいと考えています。

 病歴も大切ですが、灼熱痛・灼熱感の分布も意識してみると原因も絞りやすくなるでしょう。分布でも、length-dependentのような手袋靴下型、神経絞扼であれば神経支配領域はヒントになるでしょう。

 

 口腔でも口腔以外のいずれでも、例えば、ビタミン欠乏が原因となるように重複している部分がみられます。口腔であれば口腔灼熱症候群の原因を考えつつ、偶然に口腔であると考えれば、灼熱脚症候群と同じような選択肢にも原因や機序に広げて行ければと思います。

 

 原因が見つからないときの、広い枠で原因の候補を挙げるヒントになれば幸いです。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



P.S.

  今回は、特別に灼熱痛・灼熱感の鑑別についての記事をこのタイミングで投稿することにしました。前回の『健康診断で「肝機能障害?」と言われたら』の続編を期待されていた方には申し訳ございません。

 今年も気がつけば師走、毎年この時期になると開催されているオンライン全国臨床推論グランプリが今年2022年も12月17日(土)の午後に開催されるようです。それにぎりぎり間に合わせる形の投稿で順番を前後させていただきました。様々な所属の先生方が準備してくださる素敵な症例で、GIMカンファレンスをも勝るような学びのきっかけとなるもので目白押しです。今年は合計9つの症例を提示してくださるようです。この記事ぐらいでは参考になるか分かりませんが、参加費無料でZoomで気軽に参加できるので楽しみにしているところです。興味のある方はよろしければ、参加してみてください。

 どのような症例か想像がつかない方は、下記の過去の開催報告をご覧ください。

tbljapanmedicine.wixsite.com