胸水の原因②
~胸水検査の各項目と鑑別疾患~
<目次>
【前回】胸水の原因① ~原因検索:胸腔穿刺とLightの基準~
前回(胸水の原因①)は、大きな胸水の原因検索の流れとLightの基準について深堀りしました。そこから、今回は原因について深掘りしていく記事です。
1.前回の振り返り
本題に入る前に前回のまとめをしたいと思います。
<胸水の原因検索の流れ>
1.臨床情報→原因検索
病歴、身体所見、血液検査、胸部画像検査から原因疾患を探る
2.胸腔穿刺(胸水検査)
→胸水一般、生化学検査、細菌培養、抗酸菌培養、細胞診
3.滲出性と漏出性の分類
→Lightの基準
4.原因疾患の診断
原因検索は上記の流れがあり、滲出性胸水と漏出性胸水によって胸水の原因(鑑別)が複数あるということを紹介しました。さすがはNew England Journal of Medicine (NEJM)で胸水の原因となる鑑別疾患もたくさんあったのですが、ただただ可能性の少しでもあるものを挙げている感じが否めません。。。今回は、胸水の原因から深掘りしていこうと思います。
2.頻度の高い胸水の原因
胸水の原因(鑑別疾患)として頻度も大切であると思います。具体的に細菌性肺炎や膿胸、がん性胸膜炎はよく巡り合ったような気がします。あとは、外来で関節リウマチの胸水が1件でした。病棟と外来でみられる胸水の頻度の違いもあると思いますが、頻度の高いものを滲出性胸水と漏出性胸水で調べてみます。
頻度の高い滲出性胸水の原因
・感染症:膿胸、細菌性胸膜炎、結核性胸膜炎、腹腔内感染に伴う胸水
・悪性腫瘍:肺癌、肺以外を原発とするがんの胸膜転移(乳癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌)
・良性卵巣腫瘍(Meigs症候群)
・膠原病:SLE、関節リウマチ、サルコイドーシス
・その他:肺血栓塞栓症、薬剤性胸膜炎、膵炎、無気肺、アスベスト関連胸水、心疾患(心筋梗塞後、冠動脈グラフト術後)
頻度の高い漏出性胸水の原因
・うっ血性心不全
・肝硬変
・腎疾患
・腹膜透析
・低アルブミン血症
・粘液水腫
・サルコイドーシス
・無気肺、肺虚脱
・肺血栓塞栓症
(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 中島啓, 医学書院, 2020
このうち、胸腔穿刺(胸水検査)まで至るものはどれぐらいなんでしょうか。前回の際には臨床情報を元にした原因検索というものがあったのですが、うっ血性心不全であればわざわざ胸腔穿刺に至る症例は多くはなさそうです。うっ血性心不全は利尿すれば解決しそうですし、そもそも胸水の原因となる全身性疾患があるということからも、まずはその疾患からアプローチするような気がします。他の原因でも、胸水を抜きがてら確認や精査目的に胸腔穿刺に至る原因も多そうですね。
今回は、さらに前回に触れることをしなかった部分について深堀りしていきたいと思います。
3.胸水検査の項目ごとの原因の絞り込み
胸腔穿刺をしてLightの基準(滲出性胸水 or 漏出性胸水)を用いる前に、胸水の肉眼的所見、細胞数、細胞分画、糖、pHといったような項目も検査します。その際にそれぞれの項目ごとにどのような原因検索のヒントがあるかを見てみましょう。
肉眼的所見(色)
色
原因
黄色
ほとんどの胸水
血性
(胸水Hct>数% の場合)
褐色
結核性胸膜炎(麦色と言われることもある)
黒色
悪性黒色腫の胸膜播種、Aspergillus niger胸膜炎、Rhizopus oryzae胸膜炎、膵性胸水、癌性胸膜炎
クリーム色
膿胸
白色
乳び胸、偽性乳び胸(コレステロール主体)
(出典)ポケット呼吸器診療2021, 倉原優
総細胞数
50,000/uL以上
膿胸
1,000/uL以上
細菌性肺炎、急性膵炎、ループス胸膜炎
5,000/uL以下
結核性胸膜炎、がん性胸膜炎
細胞分画
好中球優位
膿胸、肺炎随伴性胸水、肺血栓塞栓症、急性膵炎
80-95%程度の
リンパ球優位
50-70%程度の
リンパ球優位
がん性胸膜炎
糖(60mg/dL以下または血清の半分以下)
・関節リウマチ
・全身性エリテマトーデス(SLE)
・膿胸
・結核性胸膜炎
・がん性胸膜炎
(リウマチ性胸水と膿胸では著明に低下し、20mg/dL以下となることが多い)
pH
・肺炎随伴性胸水+pH 7.2未満→膿胸
・食道破裂→胃液が胸腔に漏れる
アデノシンデアミナーゼ(ADA)
・40-50 IU/L以上:結核性胸膜炎
(滲出性胸水+リンパ球優位)
※40 IU/L未満であれば結核性胸水は否定的
・10万 ng/mL以上の場合:悪性中皮腫
CEA(carcinoembryonic antigen)
・5-10 ng/dL以上:がん性胸膜炎(悪性中皮腫は否定的)
アミラーゼ
・膵炎、食道裂孔
(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 中島啓, 医学書院, 2020
SMRP上昇(>8-15nmol/L)
・悪性胸膜中皮腫
トリグリセリド上昇(>110 mg/dL)
・胸部術後
・乳び胸:悪性リンパ腫、リンパ脈管筋腫症(LAM)、黄色爪症候群など
コレステロール上昇(>250 mg/dL)
・偽性乳び胸
NT-ProBNP上昇(>1,300-1,500 pg/mL)
BNP上昇(>115 pg/mL)
・心不全
補体低値(C3<30 mg/dL, C4<10 mg/dL)
・リウマチ性胸水
※pHや糖が低くLDHが高ければリウマチ性胸水らしい
・SLE
抗核抗体上昇
・SLE
※血清抗核抗体を測定する以上の意義はない
リウマトイド因子上昇(血清測定値以上)
・リウマチ性胸水
(出典)ポケット呼吸器診療2021, 倉原優
胸水検査(一般項目など)からもこれだけ鑑別することができるんですね。とりわけ、肉眼所見や総細胞数・細胞分画、糖あたりは特にいろいろな場面で使えそうにも思います。ADAやCEAはもう疑って検査項目を出しているような気がする(そうであってほしい)と思う気持ちがします。BNPに至っては、一般的には心不全を疑った段階で胸水穿刺の前に採血で測定されているような気がします。
胸水の原因に急性膵炎があるということを少し触れたのですが、面白い記述を見つけました。
胸水アミラーゼは膵炎による胸水貯留で上昇しますが、他に悪性腫瘍、結核、肺炎、食道破裂、肝硬変、慢性心不全などさまざまな疾患で上昇します。診断的価値に乏しくルーチンで測定する価値はありません。
(出典)ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第2版
さすが、内科診療フローチャートですね!はじめから検査ありきではないことが伝わってきます。アミラーゼを見たら、リパーゼではないにしても、膵臓へ飛びついてしまいそうでした。
「胸水があるからすぐに胸水検査!!」、「胸水検査をしたら原因が分かる!!」ではなく、胸水の原因となりうる鑑別疾患を意識して、胸水穿刺に至る前の問診や身体所見(原因疾患ごとの特徴)を取りに行く姿勢が大切であると感じました。例えば、SLEであれば胸水以前に他のSLEに対する問診や身体所見等を取りに行くことを考えたいですよね。
内科診療フローチャートから確認できたことをきっかけに、胸水の原因の深堀りの締めにいい言葉に感じました。
本日もお読みくださりありがとうございました。