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鼠咬症 Rat Bite Fever|ネズミによる咬傷から考える鑑別疾患

鼠咬症 Rat Bite Fever

~ネズミによる咬傷から考える鑑別疾患~

 

<目次>

 

 レプトスピラの症例について考える機会がありました。その際の気づきのキーワードは、やはりネズミでした。ネズミ・げっ歯類関連でどのような鑑別があるかを「鼠咬症(Rat Bite Fever)」 を軸にその鑑別ということで調べてみたいと思います。

 

1.鼠咬症の鑑別疾患(発熱+皮疹)

 まずは、鼠咬症(そこうしょう)鑑別を広く考えてみます。鼠咬症についての概要と鑑別について挙げてみます。

 

 鼠咬症でみられる症状である、発熱、斑状丘疹状発疹、多関節炎の一部の組合せでは、幅広い感染症が鑑別に挙がります。

 

発熱+鼠咬症に特徴的な皮疹のときの鑑別

<Viral>

 

<Bacterial>

Unlikely rash

→腸チフス(Salmonella typhi)、Toxic Shock Syndrome

 

<Spirochetal>

 

<Other tick-borne illness>

  • ロッキー山紅斑熱(Rickettsia rickettsii)
  • Rickettsia typhi
  • Anaplasma phagocytophilum
  • Ehrlichia chaffeensis

 

回帰熱の鑑別

 

発熱+多関節炎の鑑別

(出典)UpToDate > Rat bite fever, 2021年4月11日

 

 これでは鑑別がたくさんありますね。上記外にも鑑別として薬剤性もあっても良いと思います。もっと、鼠咬症での鑑別に絞って深堀りしてみたいと思います。

 

<鼠咬症の鑑別疾患>

(出典)In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan. 2021 Mar 21.  PMID: 28846362

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 
 上記の鑑別はどのように絞り込まれたかが理解できず、私自身にはちょっと腑に落ちてきませんでした。

 

 

 そもそも、鼠咬症がPivot and ClusterのPivotとして(もしくは軸となる鑑別の1つとして)挙がらなければ、話しにならないと思います。鑑別が挙がったところで鑑別疾患を挙げる元となった鼠咬症(rat-bite fever)についてのゲシュタルトも作っておきたいと思います。



 

2.鼠咬症の臨床像

 鼠咬症の臨床像について深掘りをしていきたいと思います。

鼠咬症(rat-bite fever)

<Etiology>

 鼠咬症の起炎菌には、Streptobacillosis moniliformisSpirillum minusの2種類がある。いずれもげっ歯類の一般的な口腔内常在菌である。アメリカ合衆国ではS. moniliformisが大半を占める一方、アジアではS. minusが多くを占める。

 

<Clinical Manifestations>

・潜伏期間は1-22日でたいていは10日未満。

・発症:突然の発熱、悪寒、頭痛、嘔吐、移動性の激しい関節痛・筋肉痛

(発症時、咬傷時の傷はたいてい治癒している。就寝中の咬傷により、患者が咬傷に気づいていない場合もある)

・局所リンパ節腫脹:S. moniliformisでは、腫脹は僅かもしくは無し

・末梢血白血球数は30,000/mm^3(左方移動を伴う)にもなりうる

・約25%の患者でNon-treponemal serological testが偽陽性となる

・皮疹:発熱から2-4日以内に、手掌、足底、または四肢に、非掻痒性の斑状皮疹、麻疹様発疹、点状皮疹、小水疱状皮疹または膿疱状皮疹が出現する

・皮膚病変は紫斑または融合し、最終的には落屑することもある。

・約50%の患者が、発疹と同時に、またはその後数日以内に、非対称性の多発性関節炎または敗血症性関節炎を発症する

(もっとも膝関節が多く、続いて足関節、肘関節、手関節、肩関節、股関節の順位多い)

・発熱:典型的には3~5日後に低下する(抗菌薬なしでも)

・その他の症状は2週間以内に徐々に改善する

(しかしながら、関節炎は2年ほど続くこともある)

 

<Diagnosis>

発熱+皮疹+鼠との暴露歴:鼠咬症、レプトスピラ

・検査を優先してしまった場合、ウイルス性疾患をはじめとした良性の発熱をきたす疾患にフォーカスされやすい

・鼠との接触歴がない場合、捉えどころがなくなり診断が難しくなる


(出典)Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease 9th edition

 

 鼠咬症の臨床像(ゲシュタルト)は上記のようです。しかし、起炎菌2種類あり、それぞれの特徴があるようです。

 

 

 

3.鼠咬症(2種類)の比較

 鼠咬症の原因となる2種類の起炎菌ごとの特徴になります。

<2種類の鼠咬症の比較>

 

Streptobacillus moniliformis

Spirillum minus

病原体

Gram-negative bacillus

Gram negative coiled rod

地域性

アメリカ、ヨーロッパ

アジア

感染経路

鼠による咬傷、経口摂取

鼠による咬傷

臨床症状

   

・咬傷部位の潰瘍

なし

あり

・関節炎

あり

なし

・局所リンパ節腫脹

なし

あり

・皮疹

あり

あり

・回帰熱

あり

あり

・診断

培養、PCR

検鏡、外因診断法

・治療

ペニシリンG

ペニシリンG

 

(出典)Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease 9th edition

 

 さすが、マンデル!セシルやハリソン内科学とは異なり詳しく書いてあります。マンデルの診断の項目にも鑑別疾患について記載がありましたが、すでにUpToDateやPubMedで見つけた文献に記載があったので割愛させていただきます。

 それにしても、鼠咬症(rat bite fiver)起炎菌が2種類あるということでも初めて見たときには驚きでしたが、起炎菌ごと特徴があるということまで書かれていて、さすがマンデル(『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases』)は、周りからも「感染症ならマンデル!」とよく言われるだけのことはあると感じました。

 

 

4.鼠咬症の皮疹「斑状丘疹状皮疹」(Clinical Picture)

 また、鼠咬症の特徴的な皮疹として出てきた「斑状丘疹状皮疹」や膿疱形成が気になる方は、New England Journal of MedicineImages in Clinical Medicineで見つけました。よろしければご確認ください。

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2019/nejm_2019.381.issue-18/nejmicm1905921/20191028/images/img_large/nejmicm1905921_f1.jpeg

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1905921



 それにしても、一言で鼠咬症といっても2種類あり、地域性をはじめ様々な鑑別点があることも知りました。鼠咬症との鑑別疾患よりも、鼠咬症内における鑑別の方が初めて知る内容で刺激が多く、とても奥深くて面白かったです。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 本日、特に注目であった本 "マンデル感染症学"(『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases』)について読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。