気管支肺胞洗浄液による起炎菌検索
~肺炎×BALFによる鑑別疾患~
<目次>
気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar: BALF)による肺炎の起炎菌検索を目にしました。BALFに至るまでの喀痰培養ではGeckler分類にてグループ1やグループ6といった喀痰で、BALFがもっとも役立ちそうな印象を受け、BALFによる起炎菌検索に興味を持ったので詳しく深堀りしてみます。
1.喀痰の評価
まずは、「Gecklerって何?」という辺りの喀痰の評価から簡単に復習します。良質な喀痰が採取できれば、グラム染色でも起炎菌の推定に役立ちます。肉眼的な喀痰の質の評価がMiller &Jones分類、顕微鏡による喀痰の質の評価がGeckler分類になります。
Miller &Jones分類
M1: 唾液、膿を含まない純粋な粘液痰
M2: 粘液痰の中に膿性痰が少量含まれる
P1: 膿性痰で、膿性部分が全体の1/3以下
P2: 膿性痰で、膿性部分が全体の1/3~2/3
P3: 膿性痰で、膿性部分が全体の2/3以上
Geckler分類
(顕微鏡の1視野あたりの細胞数、100倍)
・グループ1: 白血球数<10, 扁平上皮>25
・グループ2: 白血球数10~25, 扁平上皮>25
・グループ3: 白血球数>25, 扁平上皮>25
・グループ4: 白血球数>25, 扁平上皮10~25
・グループ5: 白血球数>25, 扁平上皮<10
・グループ6: 白血球数<25, 扁平上皮<25
(出典)イヤーノート2020
ここぐらいまではイヤーノートなので学生のうちに知っている人も多そうです。だいたいどの喀痰が良いのかも聞いたことがある人がいると思います。実際にどのような喀痰が検査に適するかも気になるところです。
膿性部分が含まれるP1~P3が細菌検査に適します。
白血球が多くて上皮細胞が少ないものが「良質な痰」となります。Geckler1~2の喀痰は質がよくないので培養に適しません。Geckler3以上であれば培養に出しますが、成人の市中肺炎ではGeckler分類の4あるいは5の検体が培養に適しているとされます。
(出典)『レジデントのための呼吸器診療最適解』, 中島啓, 2021
なので、さきほどのGeckler1や6でしたら、喀痰としては培養に適していないようです。もちろん、そこから培養もされていましたが、BALによる細菌検査も有効かなと考えました。BALの役割を深堀りしてみたいと思います。
2.気管支肺胞洗浄(BAL)の役割 ~起炎菌・診断~
調べてみたところ、BALの役割は大きく2つあるようです。
気管支肺胞洗浄(BAL)の役割
①感染性肺疾患の起炎菌検索(感染症の除外を含む)
②非感染性肺疾患の診断
BALが有用な疾患
<感染性肺疾患>
疾患
診断の参考になる項目
細菌性肺炎
(特に院内肺炎)
好中球上昇
定量培養で10^4 CFU/uL以上
抗酸菌感染症
ニューモシスチス肺炎
ディフクイック染色、PCR
サイトメガロ肺炎
核内封入体の証明、シェルバイアル法
<非感染性肺疾患>
特発性器質化肺炎
相細胞数増加、リンパ球上昇、CD4/CD8 低値(組織生検も必要)
好酸球性肺炎
好酸球上昇
急性過敏性肺炎
リンパ球上昇、CD4/CD8 低値
サルコイドーシス
総細胞数増加、リンパ球上昇、CD4/CD8 高値
リンパ球上昇
薬剤性肺炎
リンパ球上昇、好酸球上昇
肺胞出血
徐々に濃くなる血性のBALF、細胞診でヘモジデリン貪食マクロファージ検出
米のとぎ汁様のBALF
BALF中のアスベスト小体検出
(出典)『レジデントのための呼吸器診療最適解』, 中島啓, 2021
今回は難治性の細菌性肺炎を疑われている症例であったので、BALとそこから得られる細菌検査とその感受性がこの先の治療方針に役立ちそうです。
気管支肺胞洗浄(BAL)ということで、そもそも呼吸器についてある程度以上詳しく検査をしたところでBALということになると思います。BALだけでなく、それまでの他の所見も参考になることが大いにあると思いますが、BALも起炎菌検索や鑑別に参考になると知ることができました。
そもそも、非感染性疾患が疑われている場合を含め、感染症でないという可能性もありそうですね。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。