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肺炎の抗菌薬治療はいつまで? ~効果判定と治療期間~

肺炎の抗菌薬治療はいつまで?

短くてもいいの? 効果判定と治療期間~

 

<目次>

 

 先日、Lancetの細菌性肺炎の抗菌薬治療に関する論文に巡り合いました。実習や初期研修で巡り合わないことはないであろう細菌性肺炎の治療に関してです。「細菌性肺炎の抗菌薬はいつまで?」という素朴な疑問から深掘りしていきたいと思います。

 

1.治療の効果判定

 抗菌薬治療を終了するには、まずはその抗菌薬が効いていることが分からないといけないということで、治療効果判定について調べました。

 

 抗菌薬開始48〜72時間後に表1を参考に治療の効果判定を行いましょう。特に呼吸困難、喀痰の量、呼吸数、動脈血ガスなど肺に特異的なパラメータを評価しましょう。発熱、白血球数、CRPなども有用ですが、必ずしも病勢と相関すると限らないために補助的に利用しましょう

 

表1.肺炎の治療効果判定

自覚症状に改善

・全身倦怠感や食欲の改善など

・咳嗽の減少、喀痰の量や性状の改善など

他覚的所見の改善

・座っている、テレビを見ている、本を読んでいるなど

・聴診所見の改善: cracklesの減少、holo inspiratory cracklesへの変化

・血液ガスの改善

・胸部X線の軽快

グラム染色像の変化

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解,中島啓,医学書院,2020

 

 効果判定は分かりました。検査ばっかりやればいいわけではなく、症状やバイタルサイン・身体所見も大切ですね。

 効果があり治癒したら抗菌薬を中止しようと思いますが、いつ・どの段階で中止すればいいのか、いまひとつ掴みにくいと感じました。どのようにどれぐらいで切ったらいいのか、ピンときませんでした。さて、抗菌薬はどうなったら切れるのでしょうか?あっさり切って良いのでしょうか?

 

 

2.「抗菌薬は短くていいの?」(Lancetより)

 市中肺炎に対してβラクタム系抗菌薬で3日間治療されている安定した入院患者に対する、追加でのβラクタム系抗菌薬投与を行わない場合の市中肺炎の治癒が非劣性ではないことを示した二重盲検ランダム化比較試験です。

 

 近年、このような抗菌薬は従来よりも早く終了しても良いというような文献が話題になるようなイメージもあります。5日も想定より早く抗菌薬を終了して市中肺炎が治るなら、薬剤耐性や副作用、さらにはコストの面でもメリットがありそうです。それでは簡単に紹介したいと思います。

 

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市中肺炎にて入院し、3日間βラクタム系抗菌薬による治療を受けて安定している310名

・年齢中間値: 57.0歳、女性123名(41%)

→二重盲検ランダム比較試験として5日間追加投与

プラセボ群:157名

・βラクタム系抗菌薬投与群:153名

 

治療開始後15日目(ITT解析)

〈治癒〉

プラセボ群: 117名(77%)治癒

・βラクタム系抗菌薬群: 102名(68%)治癒

→両群の差: 9.42% (95%CI -0.38-20.04%)

 

〈治療介入の必要な有害事象〉

プラセボ群: 22名(14%)

・βラクタム系抗菌薬群: 29名(19%)

→有意差なし(p>0.99)

最も多い有害事象は両群とも消化系障害でプラセボ群で17名(うち、下痢13名)、βラクタム系抗菌薬群で28名(うち下痢18名)

 

15日後の治癒の定義

・体温 37.8℃以下

・臨床症状・所見の改善または消失

(咳の頻度・程度、喀痰、呼吸困難、ラ音、抗菌薬治療の追加は不要)

 

入院期間(中間値)

プラセボ群: 5.0日

・βラクタム系抗菌薬投与群: 6.0日

→有意差なし(p=0.74)

 

治癒までの期間

プラセボ群: 15.0日

・βラクタム系抗菌薬投与群: 15.5日

→有意差なし(p=0.33)

 

死亡者数

プラセボ群: 2名/152名(2%)

・βラクタム系抗菌薬投与群: 1名/151名(1%)

→有意差なし


(出典)Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1195-1203. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00313-5.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


 詳しくは文献を読んで頂ければ幸いですが、300名程度の人数(多くない)を2群に分けて、βラクタム系抗菌薬群に対してプラセボ群が非劣性であることを示すことができたのは、すごいと思いました。それだけ抗菌薬なしでもいいということなのでしょうか。

 

 一方で、そもそものランダム化する前の集団(母集団)の条件が、3日間の抗菌薬治療で安定しているというあたりが、市中肺炎で入院となる患者層のうち軽症よりの人なのではないかという疑問も生じました。あくまで安定している患者であればということで、現場ではこれぐらいの患者さんが多いのかは少し疑問にも感じたところでした。

 母集団の年齢に関しては、そこまで若いわけでもなく比較的適応しやすい印象です。

 

 この文献から考えらされたことは、この文献のように抗菌薬治療で早く(3日後、1回目の治療判定)に、肺炎が安定している患者さんは抗菌薬を早めに切り上げても良いという印象を受けました。

 

 ほとんどのガイドラインでは、5ー8日間の抗菌薬治療が推奨されているが、治療期間はエビデンスに基づくものではない。

(出典)Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1195-1203. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00313-5.

 

 同じ論文の中で見つけました。これが本当であるとすると、3日で抗菌薬治療が終了するのは、抗菌薬治療期間を約半分の期間にできるとも言えそうでとても画期的な文献であるとも感じました。経過が良好であれば、抗菌薬投与は1週間程度より短くてもいいかもしれないという判断をする手助けとなります。他の抗菌薬の場合も気になります。現場や各々の患者さんの状況に合わせて意識してみたいものです。

 意識しても、そこからがまた難しいとは思いますが…。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。