"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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眼振の分類と原因・鑑別|垂直性眼振は中枢性!?

眼振の分類と原因・鑑別

~垂直性眼振は中枢性!?~ 

 

<目次>

 

 先日の勉強会のカンファレンスにて、垂直性眼振(vertical nystagmus)で中枢性の原因を疑い、まさかの最後は傍腫瘍性神経症候群による垂直性眼振でした。
 めまい診療等でも重要ですが、眼振原因鑑別疾患について深堀してみたいと思います。

 

1.眼振の定義・分類

 まずは、眼振の定義からチェックしています。

 眼振とは不随意的に振れ動く眼球の往復運動のことである。
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 この項目における眼振の分類等が改めて新鮮でしたので、紹介します。

 眼振には先天性によるものと後天性によるものがあり、両眼性もしくは単眼性に認められる。両眼性の眼振は、両眼がそれぞれが同じ動きをする協同型(conjugate)と、両眼が異なった動きをする解離型(dissociated)がある。眼振は、行き来する運動の速さとリズムが一定である振り子様(pendular)と、一方向には遅く逆方向に速い律動性(rhythmic)の場合がある(律動性の眼振は通常、衝動性眼振とよばれる)。衝動性眼振は、その速く動く方向で命名される(例:右衝動性協同眼振)。また、眼振には水平性、垂直性、および回転性がある。
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 最後の水平性眼振、垂直性眼振、回転性眼振という分類は国家試験までにも耳にすると思います。一方で、その手前の記述部分(共同型、解離型など)は、しっかり使ったというような記憶はありません。

 

 今回は垂直性眼振ということで中枢性の原因が疑われましたが、眼振の分類だけみても当てにならないので、実際に鑑別に使えるような情報を集めてみたいと思います。

 


2.垂直性眼振は中枢性!?

眼振(中枢性めまい vs. 末梢性めまい)

分類

中枢性めまい

末梢性めまい

眼振

眼振が存在する可能性があり、水平、垂直、多方向へ任意の形態をとることがある。

・KEY POINT:自発性垂直性眼振のほとんどが中枢性病変を示唆する。

眼振が通常は存在し、多くは単方向性、水平で、非罹患方向を見たときに増悪する。

・急速相は非罹患側を向く

・中枢性めまいの眼振と異なり、完全には止められないとしても固視によってよくせうすることができる。

その他

通常、他の脳幹や小脳の所見(四肢運動失調、筋力低下、感覚変化、複視、構音障害、嚥下障害、頭痛など)を伴う。

通常、耳鳴や難聴を伴わない。

・めまいのエピソードは短期である傾向がある。

・患者が座っているか横になっている間、神経所見は正常となる。

・重度の末梢性めまいでは、歩行が非特異的なパターンで傷害される可能性がある。

 (出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

 

 末梢性による眼振の多くが単方向性、水平であることから、引き算的に垂直性眼振のほとんどは中枢性を示唆すると言うことができそうです。何となく知っていも、改めて調べると、発見がありました。「垂直性眼振だから中枢性病変」というのは、初心者にはワンステップ飛んでいるようなものだと感じました。
 垂直性眼振がみられる際に末梢性と中枢性の鑑別のポイントとなる所見もあるようです。

 

 ビデオヘッドインパルステスト(vHIT)におけるanticompensatory eye movementは特発性眼振による末梢性の眼振を示唆しうる。
(出典)Tarnutzer, Alexander A; Straumann, Dominik (2018). Nystagmus. Current Opinion in Neurology, 31(1):74-80.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 原則的には垂直性眼振の原因は中枢性でも、鑑別のコツはあるようです。しかし、一般的には中枢性の眼振が生じる状況・原因に注目しつつ、他の症候や所見等も加味することになりそうです。中枢性めまいによるものらしいということであれば、中枢性めまいの原因として“MAIN”を考えるとなりそうです。

 

中枢性めまいの原因 “MAIN”
・Multiple sclerosis: 多発性硬化症
・Acoustic neuroma or other cerebellopontine angle / brainstem tumor: 聴神経腫やその他の小脳橋角/脳幹腫瘍
・Ischemia of CNS: 中枢神経系の虚血
・Migraine or medications: 片頭痛または薬剤(抗痙攣薬など)

(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

 

 この"MAIN"が覚えやすいかは人次第だと思います。ネモニクスが苦手な人にとっては、多発性硬化症に関しては思い浮かべば理解可能であり、片頭痛・薬剤性に関しては抜けないように気をつけるというように意識したいと思います。

 

 

3.眼振の分類と病変部分

 他にも眼振について調べている際に、眼振と病変部分・原因とのつながりも見つけました。下向き(下方向)眼振、上向き(上方向)眼振、顕著な注視誘発性眼振に関しては原因となる病態や部位があることをハリソン内科学で確認しました。

 

下向き眼振downbeat nystgmus
 頭蓋頸部結合部の近傍の障害(Chiari奇形、頭蓋底嵌入症)で起こる。また、脳幹や小脳の卒中、リチウムや抗痙攣薬の中毒、アルコール依存症多発性硬化症に併発することが方向されている

上向き眼振upbeat nystgmus
 脳卒中脱髄疾患、腫瘍による橋被蓋の障害に伴う

注視誘発性眼振gaze-evoked nystagmus
 多くの健常人にも、軽度の注視誘発性眼振がみられる。顕著な注視誘発性眼振は、薬物など(鎮痛薬、抗痙攣薬、アルコール)、筋不全麻痺、重症筋無力症、脱髄疾患、小脳橋角部・脳幹・小脳の障害によって引き起こされる。

(出典)ハリソン内科学 第5版


 先ほどの『マクギーのフィジカル診断学 原著第4版』ともまた異なり、教科書ごとに異なる記述項目等も興味深いものです。それにしても、眼振は奥が深く難しく、理解しきれていないと感じました。垂直性眼振、水平性眼振、回転性眼振といった眼振の方向による分類は表面をなぞったというような印象で、もっと眼振の所見を詳しく、さらに興味を持ってみてみたいと思えるようになりました。

 

 取っ掛かりにくい印象もある眼振ですが、少しでも詳しく眼振があれば、眼振を診てみようと思ってもらえたりすれば幸いです。眼振診察時の記載の仕方も調べてみたところ、サパイラで見つけました。

 

 眼振を、眼振が出現する注視方向によって記録する専門家もいれば、すばやく動く急速相の向かう方向で眼振を記録する専門家もいる。前者では正中位の眼振を表現できず、後者の方法では振子様眼振が表現できないので、症例記録には特定できる表現(例:「右方視で水平性眼振、急速相は下方」など)にすべきである。

(出典)サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原書第4版

 

 せっかく眼振の診察をして眼振をみつけたら、分かったことを正確に伝えたくなりますよね。難しい印象もある眼振の診察をせっかくしたなら、少しでも活かせるような形で記録して、モチベーションも保っていきたいものです。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。