Capnocytophaga canimorsus感染症の特徴
<目次>
Capnocytophaga canimorsus菌血症の症例と勉強会のカンファレンスで出会う機会がありました。しかし、犬猫という接触歴以外のことを基本的に知らず、Capnocytophaga canimorsus感染症(カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症)の特徴のようなものはないかと疑問に感じたので、深堀してみることとします。
1.一般的な内科学書(セシル)より
まずは一般的な内科書からということでセシル内科学書を調べてみました。
Capnocytophaga canimorsus感染症
DISEASE
INFECTIOUS AGENT
CLINICAL FINDINGS
VECTOR/ACQUISITION
化膿性皮膚感染症
C. canimorsus
敗血症、皮膚感染症
犬による咬傷
(出典)Goldman-Cecil Medicine, 25th Edition
だいたい、このあたりが有名なんだなという程度や人獣共通感染症であるという辺りは分かりますが、何か診断や病原体を考える上でのヒントを「犬」以外にも探してみたいと思います。
2.感染症の専門書("マンデル")より
続いて、感染症の教科書と言えばマンデルということで、マンデルを調べたいと思います。
Capnocytophaga canimorsus感染症
Epidemiology
・0.5-1.0感染/100万人年
・男性に多い(2.7-3.8:1)
・50歳以上に多い(70-90%)
・犬による咬傷歴または接触歴(60-84%)
・罹患率
→無脾症(13-33%)、アルコール依存(20-31%)、免疫抑制(3-6%)、リツキシマブ、ステロイド治療
Pathogenesis and Clinical Manifestations・Capnocytophaga属感染症のうち、人獣共通感染症にあたる
(C. canimorsusとC. cynodegmiが一般的な人獣共通感染症)
・C. canimorsusは犬や猫の口腔内常在菌(犬の58-70%、猫の15-57%)
・2種類の人獣共通感染症のCapnocytophagaにおいて命を脅かすもののうち、C. canimorsusが90%を超える
・犬による咬傷のような貫通する傷口、ペットとの濃厚接触による見えない傷からの侵入
・潜伏期間:1-8日
<症状>
菌血症
・C. canimorsusによる菌血症の症状は非特異的で他のグラム陰性の病原体と同じく、発熱、下痢、腹痛、嘔吐、頭痛、意識障害といったような症状がみられる
・C. canimorsusの診断に寄与する特徴として、体幹または四肢に斑状皮疹または丘状皮疹から電撃性紫斑病のようなより重症な皮疹までみられることがある(20-40%)
・全体での致死率は13-33%
・2番目に多い
・少なくとも96%の患者で頭痛、発熱、項部硬直、意識障害のうち2つがみられる
・致死率は3%
その他
・心内膜炎(致死率25%)
・脳膿瘍
・仙骨硬膜膿瘍
・眼感染症
・骨感染症
・関節感染
・蜂窩織炎
・糸球体腎炎
・腎不全
・肺炎
<合併症>
・播種性血管内凝固(DIC)
→脾摘または機能的に無脾症の患者ではDICを伴う敗血症に進展しやすい
・Waterhouse-Friderichsen症候群
・Stevens-Johnson症候群
・血栓性血小板減少性紫斑病
・溶血性尿毒症症候群
(出典)Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease, Ninth Edition
さすがは、マンデルですね。マンデルでも見つからなければ、Systematic Reviewを探してみようかと思っていました。
犬猫との接触や咬傷以外にも、菌血症の際の皮疹(体幹または四肢に斑状皮疹または丘状皮疹から電撃性紫斑病のようなより重症な皮疹)も診断・病原体を考える上でのヒントになりそうで、皮疹が見られれば特異的なのでしょう。しかし、20-40%にしかみられないことも、やはり診断を難しくしているといえそうです。皮疹がみられない可能性の方が高いので、皮疹があればラッキーと考えて、犬猫との接触や咬傷も菌血症や敗血症を疑った辺りで聞いてみることも必要であると思った次第でした。
あとは、グラム陰性桿菌(with tapered ends)が見つかった時には候補に入れる、脾摘やアルコール依存症、免疫抑制状態も起因菌として考える時のヒントとなりそうです。その時のお勉強スライドでは、思っているほどはアルコール依存などの人の割合は高くもないというような文献も提示されており、納得もしましたが、それでもある程度可能性が高い・ある程度特徴的と初心者レベルでは言えるのではないかと思います。
ひとまず、Capnocytophaga canimorsus感染症について臨床像から疑うヒントのようなものが少しでも手に入り、ひとまずホッとひと段落です。診断に関しては、グラム染色の登場というところでしょうか。疑わないことには始まらないということを感じました。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
今回、やはり感染症について安定の記述で注目であった本 "マンデル感染症学"(『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases』)について読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。