書籍紹介(読書ログ)
『言語が消滅する前に』
國分功一郎、千葉雅也(著)
<目次>
気がつけば3月。日差しも少し長く、暖かくなってきましたね。今回は、少し筆休め的なブログ記事になります。国試関連は続編を予定しているのですが、前回の医師国家試験関連記事のように短く書くことが難しく、こんなときこそと、読書ログのストック記事より放出しました。「こういう解釈もあるのか」という視点で良かった本の読書ログになります。
1.書籍紹介
『言語が消滅する前に』というタイトルから内容を想像することは難しいかもしれませんが、平たく言えば表紙にあるような「人間らしさ」について2名の学者が哲学的対話をする書籍です。どこかの書店で平積みになっていた記憶があり、目にしたことがある方もいるかもしれません。
【こんな人におススメ】
- 同調圧力に飲み込まれている人
- 過去に「キモさ」に没入していた人
- 孤独も楽しんでみたい人
- 人間らしさをはじめとする哲学的対話に興味がある人
書籍について説明しながら、もう少し具体的にどのような人におススメかも紹介していきます。
書籍のインプレッション
まずはタイトルからです。書籍のタイトルをみてもピンと来なくて、ジャンルをみてもAmazon上では「言語学」ということでピンとこない書籍だと思います(笑) 私はAudibleで聴き放題のため、何か書籍を探していたところで偶然見つけた書籍となります。『言語が消滅する前に』というタイトルよりも、表紙のキーワード(情動、ポピュリズム、完全至上主義、エビデンス主義、…)や「人間らしさを取り戻すためには」というキャッチフレーズの方が、この本の内容を掴みやすいと思います。
また、2名の学者による哲学的対話ということで読みやすい新書である点がおススメです。例えば、ハンナ・アレントの書籍(例:『人間の条件』)に比べて読みやすく、詳しい書籍を読む前のきっかけになればと思います。あくまで新書であり、すでに詳しい本を読んでいる人にはそこまでおすすめではありませんが、筆休めのような感じで読んでみたいときにいかがでしょうか。特にAudibleで耳から筆休めのように聴いたため、通常の読書とは異なる体験となったかもしれません。
書籍で興味を持ったところ
この書籍を聴いてみて気になったところを紹介します。
まず、読者層の想定として、大学の飲み会でうぇーい、うぇーいと騒いでいることに何か違和感を感じているような人を例に挙げつつ、同調圧力に飲み込まれてしまっている人や、「キモさ」(おそらく良くも悪くもを問わずエッジが効いたこと)に没入していた人を読者に想定しています。逆に「キモさ」に自覚のない人は読者として想定していないそうです。
そういう意味では、同調圧力に違和感を感じていて、それに対して何かアクションしてみたい人や、すでに1周まわって、大学や職場で「私は周りとは違うことしている」という認識をすることができるが、周りにも合わせることができる様々な意味でエッジの効いた人とも言えます。前者であれば、同調圧力に負けずにズレてみて、いったん「キモく」なった後に、それを操作可能(自らオン・オフできるよう)になるヒントとなることを目的として書かれています。しかも、ユーモアとアイロニー込みで説明されています。
内容としては、目次を読んでいただくと分かる部分もありますが、興味深い論説もあります。勉強の哲学について、別の言葉を使えるようになることであるとか、私淑からも学ぶことであるとかいうお話があります。
ムラ的コミュニケーションのお話もインターネットの開けたイメージから意外性もあり、興味を持ちました。コミュニケーションという言葉の意味する/付与するものが、20-30年前の「発表して伝える」という主旨から「空気を読んで人と話をするというノリ」になりつつあるという話があります。さらには、インターネットによってむしろ、ムラ社会的な感性のものが劇的に増えたというお話があります。
「心の闇」がインターネットのSNS上という見える場所に置かれていることに言及もあり、納得でした。アレントによると「心の闇」とは明るみに出してはいけないものという意味だそうです。これに関しては分かる反面、インターネットによって各個人がSNSという発信する手段を持ったことを痛感しているので、意見の幅や深みとしても参考になりました。
エビデンス主義による、言葉の価値の低下や責任回避の話もありました。エビデンスはパラメータが限られていることやメタファーがないことにはついては同意する部分もあります。これはEBMでも同じなんじゃないかなと思います。エビデンスから治療の選択肢は考えるけど、最後はメタファーというか、患者さんのn=1にマッチさせるというように言えそうです。
講義はコンテンツであるかという問いに関しても、学生の視線や反応、質問等によって話の難易度だけでなく話の展開を含めて変えていくのであれば、単なるコンテンツではないと思います。双方性の講義であれば、単なるコンテンツにはならず、対話の側面を持ってくると思います。一方で、多くのところで受けてきたような反応による変化もなく、「これを覚えて」というような従来からの講義であれば、コンテンツとなり予備校の動画授業コンテンツと競合するのもやむを得ないと考えさせられました。コンテンツ作りをしている身としては、オンデマンドで見ることができるコンテンツは便利なのですが、対話のような部分を仮にオンデマンドでどのように保っていくかという部分に興味を持ちました。AIでどこまで可能であるかも気になります。
他にも、勉強と孤独、孤独と寂しさの違い、権威主義なき権威、ネオリベラリズム、自分の殻といったようなキーワードにも興味のある方にも良いかもしれません。科学的根拠とか、合理的判断というよりも、「こういう解釈あるよね」という視点で楽しく読ませてもらいました。社会学はそういうものかなと考えています。さらっと読む(聴く)ことのできる書籍なので機会があれば手に取ってみてください。
2.オーディオブック"Audible"について
今回の『言語が消滅する前に』に出会ったアマゾンのオーディオブック"Audible"は、耳からの読書という新しい体験ができるツールでした。特に今回のような新書(哲学や歴史など)のようなゆるゆると聴くことができる内容や小説において、素敵な読書体験となりました。最近、1万5000や1万文字越えの記事(勉強会運営や国試の記事)を書いて読むのに時間を要したという声も聞いたので、可能範囲で分割できるものは分割していきたいと思います。後日、アマゾンのAudibleついてもレビューしてみたいと思います。
本日もお読みくださりありがとうございました。
今回取り上げた書籍です。アマゾン(Audible含む)の読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。