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鉄欠乏性貧血① 鉄欠乏の進展と臨床検査

鉄欠乏性貧血① 

鉄欠乏進展臨床検査

 

<目次>

 

 今回は、身近な鉄欠乏性貧血についてです。小児や女性では罹患率も高く身近な疾患です。また、高齢者で見つけた際には原因精査も考えたくなるものです。国試でも学ぶ一見すると単純なようにも見える病態ですが、やはり国試で学んだような典型的な検査結果だけではないと感じます。鉄欠乏性貧血に至る前段階や、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性炎症等の合併によって典型的な検査結果になるとは限らないという奥深さを感じたため、復習ならびに深掘りしていきたいと思います。



1.鉄欠乏性貧血 ~鉄欠乏の進展~

 鉄欠乏性貧血と言えば、国試レベルでは次のようなイメージでしょうか。

 

小球性低色素性貧血

  • Hb低下(男性 <13 g/dL, 女性 <12 g/dL)
  • MCV低下(<80)、MCH低下、MCHC低下

小球性貧血の中でも血清鉄低下、フェリチン低下、UIBC増加、TIBC増加でしょうか。

 

 ここまで鉄欠乏性貧血の典型のような状況に至るとも限らず、前段階もあります。その辺りから調べてみたいと思います。

 

鉄欠乏の段階

  • 鉄欠乏の段階は3つの段階(負の鉄平衡、鉄欠乏赤血球産生、鉄欠乏性貧血)に分けられる。

  • 骨髄貯蔵鉄、血清フェリチン、総鉄結合能(TIBC)の計測は、早期の鉄枯渇に対して敏感である。鉄欠乏赤血球産生はさらに、血清鉄、トランスフェリン飽和度、骨髄鉄芽球パターン、赤血球プロトポルフィリン値の異常によっても認識される。鉄欠乏性貧血の患者では、上記すべての異常に加え、小球性低色素性貧血を呈する。

(出典)ハリソン内科学 第5版

(注)トランスフェリン飽和度(TSAT)=Fe÷TIBC×100(%)

 

 鉄欠乏性貧血に至る前の段階の分類はいかがでしょうか。教科書でも朝倉にはこのような記載はなく、さすがはハリソンだと感じます。鉄欠乏性貧血に至る段階、すなわち負の鉄平衡鉄欠乏赤血球産生の段階で鉄欠乏を見つけたいと思ったときの検査結果のヒントとしても興味深いと感じます。表では表現しきれない部分もありますが、進展していく病態をグラデーションとしてとらえて、鉄欠乏の進展と病態・検査結果の推移(鉄補充後の戻り方)としても興味深いです。

 負の鉄平衡では、血清フェリチン低下総鉄結合能(TIBC)上昇といったあたりから変化が生じてくるようです。鉄欠乏赤血球産生になると、血清鉄の低下トランスフェリン飽和度(血清鉄/TIBC)の低下、さらには骨髄鉄芽球の低下、血球プロトポルフィリンの上昇も生じてくるようです。

 

 もちろん、鉄欠乏性貧血のヒントとして検査結果以外にも症状や身体所見もあります。症状では、貧血の症状として疲労感、運動能力の低下息切れ(程度次第)といったもの、鉄欠乏による症状として異食症(例:ずっと氷を食べる)、レストレッグス症候群のようなものが生じることもあります。さらに貧血の原因が失血があればそれに伴う症状や所見(消化管出血であれば血便)が見られる場合もあります。高齢者であれば悪性腫瘍の可能性も否定したくなるかもしれません。

 また、鉄欠乏身体所見として、匙状爪口角炎舌炎、さらには貧血の身体所見として皮膚・顔面蒼白眼瞼結膜蒼白が見られる場合もヒントになると思います。

 

【参考】貧血の症候・身体所見の過去記事

  

 

 

2.貧血の検査所見の深掘り

 先ほどの負の鉄平衡や鉄欠乏赤血球産生の場合、さらには鉄欠乏性貧血(IDA)の際に、どこまで教科書通りの検査結果になるのか、さらには他にも鉄欠乏を示唆する検査所見等がないのかを深掘りしてみたいと思います。

 

2-1. 血清フェリチン値は必要?

 何をどこまで検査すればいいのかと疑問に感じるかもしれません。鉄欠乏を早く見つける(鉄欠乏性貧血)の手前で見つけるという意味では、早めにフェリチンを測定したくなるかもしれません。実際に調べてみたいと思います。

 

貧血でMCV 95 fL未満の患者には、血清フェリチン値を測定する必要がある。血清フェリチン値15 ng/ mL未満の場合、鉄欠乏性貧血と診断されるが、30 ng/ mLをカットオフ値とすると、感度は25%から92%に上がり、特異度は 98%と高く維持される。

フェリチンは急性期反応物質でもあり、慢性炎症または感染症の患者において上昇することがある。慢性炎症のある患者では、フェリチン値が50 ng/mL未満であれば、鉄欠乏性貧血の可能性があります。フェリチン値が100 ng/mL以上であれば、一般に鉄欠乏性貧血は除外されます。

(出典)Am Fam Physician. 2013 Jan 15;87(2):98-104.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 貧血であれば、血清フェリチン値は検査として頼りになりそうです。慢性炎症のような状況の合併はさておき、特にフェリチン値 30 ng/dLカットオフにすると感度(92%)特異度(98%)も高そうです。一方で、検査料としての保険診療点数が105点ということやMCV 80 gal 未満ではなく、MCV 80-95 fLの際(小球性貧血ではない時)に査定がどうなるかも悩みどころです。もちろん、「鉄欠乏性貧血疑い」と病名登録するとは思いますが、患者負担増加や保険が下りずに持ち出しのリスクがあっても疑ったらフェリチンを測定したいということで、もっと確率を上げられるかをまずは検査値で調べてみたいと思います。



2-2. 各検査結果と尤度比

 先ほどの血清フェリチン値や貧血の鑑別に使えそうな検査結果鉄欠乏性貧血らしさについて調べてみました。成人と65歳以上の比較もあります。

 

鉄欠乏の診断と各検査値(尤度比)

(出典)Am Fam Physician. 2007 Mar 1;75(5):671-8.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 成人と65歳以上でも概ね同じ傾向でした。やや検査値の範囲が異なることもありますが、トランスフェリン飽和度は65歳以上の方が鉄欠乏性貧血らしさは高そうです。

 MCVについてもチェックしてみます。尤度比でもMCB 75-79 fLで尤度比が1.0というところだけでなく、正球性(MCV 85-89 fL)でも尤度比(LR)が0.76とそこまで鉄欠乏らしくない訳でもないところが前述の病態(負の鉄平衡、鉄欠乏赤血球産生)反映していると感じました。一方で、成人でMCV<70 fLのときにLR=12.5高齢者でMCV <75 fLのときにLR=8.82であり、とても鉄欠乏性貧血らしいというのも見どころです。

 フェリチン成人で15 ng/mLを下回るとき、高齢者で19 ng/mLを下回るときの尤度比(LR)はいずれもとても高くなっています。そうでない場合もフェリチン値 45 ng/mL以下では尤度比は1を上回っていて、こちらも前述の病態を反映していて捨てきれないという印象を受けました。やはり、負の鉄平衡や鉄欠乏赤血球産生のように検査値が典型的な鉄欠乏性貧血へ進行していくように組合せも意識する必要があると感じます。

 トランスフェリン飽和度に関しても似たような傾向があります。トランスフェリン飽和度が5%を切ると成人の場合でも高齢者の場合でも尤度比(LR)高くなります。

 

 他にも、検索途中で高齢者の鉄欠乏性貧血で各検査値からROC曲線を作成している古い文献もありました。鉄欠乏性貧血という一般的なテーマだからでしょうか。気になる方は Diagnosis of iron-deficiency anemia in the elderly(PMID: 2178409)をご覧ください。

 

2-3. 鉄欠乏と血小板数

 鉄欠乏性貧血である可能性を上げる検査値について、先述以外に何かヒントがないのか調べてみたところ、鉄欠乏と血小板数に関する報告もありました。

 

鉄欠乏・鉄欠乏性貧血と血小板の変化

  • 血小板増加症(血小板数>40万/μL)は慢性的な鉄欠乏症の典型的な臨床所見であり、"反応性 "血小板増加症の1つの病態である。
  • 絶対的鉄欠乏(すなわち、炎症に関連する鉄欠乏症を除く)のみでは、”反応性” 血小板増加症は次のような頻度で観察される。Kukuらによる615人の研究では13%、Kadikoyluらによる86人の女性では28%、Songらによる大規模な36,327人のIDA患者では約33%であった。

(出典)Am J Hematol. 2021 Aug 1;96(8):1008-1016. doi: 10.1002/ajh.26189.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 慢性的な鉄欠乏では、血小板増加症もみられることがある(16%~33%)ようです。チューブリンのダウンレギュレーションが根底にあるようですが、いずれにしても血算で一緒にチェックするとヒントになりそうです。決して、血小板増加が見られることは多くはないですが、血小板増加がある際には慢性炎症といった他の合併も視野に入れつつ、少し血小板減少っぽくてフェリチンも見てみたいなというようなところでしょうか。

 

 先ほど(2-1)でも、慢性炎症のある患者ではフェリチン値が50 ng/mL未満あれば、鉄欠乏性貧血の可能性があり、一方で100 ng/mL以上であれば一般的に除外できるということでした。やはり、鉄欠乏性貧血(鉄欠乏症)と他の貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性炎症)の合併について調べてみたいと思います。

 

 

3.慢性炎症、ビタミンB12葉酸欠乏との合併

 鉄欠乏(鉄欠乏性貧血)慢性炎症ビタミンB12欠乏葉酸欠乏が合併した際にどのように検査結果が変化するのか、どのようなことに気をつければいいのか等を次回以降に調べてみたいと思います。

【続編】

mk-med.hatenablog.com

 お待たせ致しました。続編が完成致しました。続編もよろしくお願い致します。

 本日もお読みくださりありがとございました。

 

 

 

【関連記事】貧血の手がかり: 症候や身体所見

mk-med.hatenablog.com

鉄欠乏性貧血 後編③

mk-med.hatenablog.com

 

 今回の鉄欠乏性貧血の病態の進展をはじめ、いつ読んでも発見のあることが多いハリソン内科学だと感じます。読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。