中枢性顔面神経麻痺
~これって、そもそも麻痺ですか?~
<目次>
先日、病棟での回診の際の身体診察にて中枢性の顔面神経麻痺のフィジカル(身体所見)に出会う機会がありました。中枢性の顔面神経麻痺は麻痺があまりはっきりとせず、分かりにくいというのが第一印象でした。顔面神経(第VII脳神経)、末梢性の顔面神経麻痺と中枢性顔面神経麻痺の違いや、顔面神経麻痺を疑った際の麻痺の判断について深堀りして、顔面神経麻痺のフィジカルを使いこなせるようにしたいと思います。
1.顔面神経(第VII脳神経)障害の全般
まずは、顔面神経(第VII脳神経)の障害全般について調べていきます。
顔面神経の病変では、顔貌の左右差が生じ(同側の鼻唇溝が浅くなり、同側の眼瞼裂が悪大する)。同側のほとんどの顔面筋で筋力低下が起きる(会話、まばたき、眉毛挙上、笑み、額のしわ寄せ、閉眼、歯を見せる動作、顎を引く動作にかかわる筋肉)。同側の流涙(涙腺)、聴覚(アブミ骨筋)、味覚(前 2/3)、角膜反射や眉間反射にも異常をきたしうる。
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版, Steven McGee, 2019
さすがはマクギーで、顔面神経麻痺(障害)の際の具体的な症状や所見が載っているのがいいですね。例えば、顎を引く動作においても筋力低下が見られることは忘れがちかと感じました。
2.顔面神経: 中枢性障害と末梢性障害の比較
それでは、中枢性障害と末梢性障害の違いについて調べていきます。まずは、国試レベルから確認します。
顔面神経の中枢性障害と末梢性障害
中枢性障害
末梢性障害
麻痺
・病変の対側顔面下部に表情筋の麻痺がみられる
・上部(前頭筋)は両側支配であり正常である
・障害部位と同側の顔面(上部、下部とも)に麻痺がみられる
診察
・額のしわ寄せ:〇
・閉眼:〇~×*
・鼻唇溝の深さ:×(浅い)
・口角を上げる:×
・額のしわ寄せ:×
・閉眼:×
・鼻唇溝の深さ:×(浅い)
・口角を上げる:×
*眼輪筋が両側性支配の場合には閉眼可能だが、片側性の場合には中枢性障害であっても閉眼障害が現れる.
(出典)病気がみえるvol.7 脳・神経(第2版)
国試に向けて勉強している多くの人は、中枢性と末梢性の顔面神経麻痺の違いは額のしわ寄せの有無であると考えている人は多そうです。確かに、額のしわ寄せが明らかにできなければ、末梢性の顔面神経麻痺で良さそうです。
しかし、実際にこれだけではAll or Noneのように白黒はっきりし過ぎているように感じます。中枢性の顔面神経麻痺を「麻痺」と認識できなかったりするのは、このせいでしょうか。やはり、他の医学書で深堀します。
顔面神経麻痺における末梢性障害と中枢性障害の特徴
<末梢性障害>
・Bell麻痺に代表される第VII脳神経の末梢での障害では、顔面の上部、下部の筋の麻痺がともに顕著である
<中枢性障害>
・中枢の障害では下部の筋の麻痺が主である
末梢性障害
(例:Bell麻痺)
中枢性障害
(例:左大脳半球の脳血管障害)
閉眼時
・閉眼困難
・眼球は上転
・鼻唇溝の浅薄化
眉毛の挙上時
・額のしわ寄せ不十分
・眉毛の挙上不十分
・顔面下部の麻痺
閉眼時
・閉眼はできるが力は弱い
・鼻唇溝の浅薄化
眉毛の挙上時
・額のしわ寄せ可能
・眉毛の挙上可能
・顔面下部の麻痺
安静時や会話時の顔面神経麻痺のチェック
・左右差(特に鼻唇溝)
・チックなどの異常運動
・一側の顔面神経麻痺では、微笑んだり顔をしかめたときに、麻痺側の口角が下垂する
(出典)ベイツ診察法, リン S. ビックリー, ピーター G. シラギ, 2008
続いて、中枢性と末梢性の違いをマクギーも新たなことがないか調べてみます。
末梢神経病変では患側のすべての顔面運動が障害されるが、中枢病変では随意運動は障害されるものの感情に伴った運動は障害されない。中枢病変による顔面神経麻痺では(例えば、大脳半球における脳卒中)では、片側の口角挙上は随意的にはできなくなるが、笑ったり泣いたりするときいは問題なく挙上することができる。このようなことが起こるのは、感情による顔面神経核への入力信号は、運動皮質から発生していないためである。
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版, Steven McGee, 2019
これは驚きでした。中枢性の顔面神経障害の場合は、感情に伴った運動は障害されないんですね!いろいろと調べて新たなことも分かりました。OSCEでの診察法もやりましたが、自分なりにまとめてみます。
3.まとめ
今回調べたことを私なりにまとめてみました。
1.顔面神経麻痺を疑ったら、まず鼻唇溝をチェックして麻痺かを判断
2.末梢性では麻痺が顕著であることが多い。
→中枢性では閉眼もできるものの力が弱い(睫毛兆候陽性)
3.中枢性であれば、下部の筋の障害が主。
→額のしわ寄せは比較的保たれる
4.中枢性では感情に伴う運動は障害されない
(例:泣いたり笑ったりする際の口角挙上は問題ない)
額のしわ寄せの可否で中枢性と末梢性障害の判断はできうるものの、他にも中枢性は麻痺が顕著ではなくはっきりしにくいこともあるということを確認することができました。脳梗塞等で中枢性の顔面神経麻痺を疑ったときには、顕著な麻痺ではない可能性もあると思って診察し、鼻唇溝が浅い(左右差)あたりを麻痺の有無の判定に使うと良いと思いました。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。