"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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Purple Urine Bag Syndrome (PUBS) 紫色蓄尿バッグ症候群

Purple Urine Bag Syndrome(PUBS)とは?

 

 尿バルーンが留置されている患者さんにて紫色の尿蓄尿バッグにみられる、その名の通りPurple Urine Bag Syndrome(紫色蓄尿バッグ症候群)をご存知でしょうか?

 現在、泌尿器科をローテンションしているのですが、2週間目にして2回目のPurple Urine Bag Syndromeに巡り合いました。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/instance/6905158/bin/2317-6385-eins-18-eRC5063-gf02.jpg
(出典)Einstein (Sao Paulo). 2019 Sep 23;18:eRC5063.

 

 このような色が蓄尿バッグに見られます。私が見たものは、2回とも上の写真のように紫というよりも青と表現したくなる程度の紫色でした。このPurple Urine Bag Syndromeについて、「施設入所の便秘の人に多い!?」というような噂を聞いたり、「そんなにめずらしくない?」という感情を抱いたので、深掘りで調べてみたいと思います。

 

Purple Urine Bag Syndrome; PUBS
紫色蓄尿バッグ症候群

 

<概念>
・尿路感染症において尿が紫色になることが全体的な特徴

 

<病態>
トリプトファンに関する代謝によって生じるインジルビンとインディゴによる
1.トリプトファンインドール(腸内細菌による)
2.インドール→インドキシル硫酸(肝臓での硫酸抱合による)
3.インドキシル硫酸→インジルビン、インディゴ(細菌性ホスファターゼとスルファターによる)

 

<疫学>
・入院患者における有病率: 8.3~42.1%
(ここ数年で増加傾向)

 

PUBSの予測因子に関する研究
→case reportsからarticleまでの246名のPUBS患者の解析

<患者像>
・年齢: 29~99歳(中間値 78.9±12.3歳)
男性 29.3%, 女性 70.7%
・アルカリ尿: 91.3%
・患者背景など:便秘 90.1%, 認知症 42.8%, 寝たきり状態 76.1%, 施設入所 37.8%, 3カ月以上のカテーテル留置経験 45.9%, 再発性尿路感染症 14.3%, 両側腎摘出 1.6%, 膀胱瘻造設術 0.8%, 透析中(CKDの記載のある36名のうち16名), 敗血症性ショックによる死亡(1.2%)

 

尿路感染症の記載のある患者(n=112)のうち
・発熱を認める: 13.4%
・病原菌の同定: 82.1%. (69.6%は1種類の細菌のみ, 30.4%は2種類以上)

f:id:mk-med:20210521224121j:plain

起炎菌の割合


<根底にある病因等と考えられるもの>
~The susceptible patient: The ABCDEFGH rule~

A: Alkaline urine pH

B: Bedridden-situation

C: Constipation

D: Dementia

E: End-Stage Renal Disease

F: Female gender

G: Growth of bacteria (MUTI)

H: Hygiene - long term catheterization


・アルカリ尿:インドキシル→インディゴ/インジルビンへの変換の過程で重要
・寝たきり状態
・便秘:腸管の最近の異常増殖によるトリプトファンからインドールへの変換↑
認知症
・末期腎不全:CKDによるインディカン上昇といういくつかの報告
・女性:腸管のグラム陰性桿菌が尿道へ進入・増殖しやすい
・細菌増殖(MUTI)
・長期間の尿カテーテル留置

 

 PUBSはたいていは尿路感染症と対応し、高価な培養検査も必要なく簡単に見分けることができる良性の病態である。そして、根底にある重大な併存疾患を示唆することもありうるということも大切である。

 

(出典)Einstein (Sao Paulo). 2019 Sep 23;18:eRC5063. doi: 10.31744/einstein_journal/2020RC5063. eCollection 2020.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 イメージの「施設入所の便秘の人」は概ね正解であったような気もします。施設入所と少し異なりますが、印象として自宅で生活している人に比べて施設入所の人の方が寝たきりの人が多いというようなことからでしょうか。
 そして発熱がなくて、特に治療が必要な状態ではなかったので、概ね臨床像も一致しました。一方で、CKDの末期腎不全のような重大な併存疾患の可能性もありうるということも忘れずに注意していきたいと思います。

 また、蓄尿バッグをよく目にする診療科を回っていれば、有病率からすればそこまで珍しくないかもしれませんね。

 

 よければ、出典のDiscussionのところに~The susceptible patient: The ABCDEFGH rule~の理由をはじめ、詳しく書いてあるので、読んでみてください。
 

 そして、いつか次のCase Reportにあるようなこれぐらい紫のPurple Urine Bag Syndromeにも巡り合ってみたいと思います。

 

https://casereports.bmj.com/content/casereports/2018/bcr-2018-226395/F1.medium.gif

(出典)BMJ Case Rep. 2018 Jul 18;2018:bcr2018226395. doi: 10.1136/bcr-2018-226395.

 

 本日もお読みくださり、誠にありがとうございました。