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細菌性心筋炎 ~特徴と起炎菌比較 : 感染性心内膜炎(IE)、感染性動脈瘤~

細菌性心筋炎 Bacterial Myocarditis

特徴起炎菌比較 : 感染性心内膜炎(IE)、感染性動脈瘤

 

<目次>

 

 細菌性心筋炎が身近なところで話題になりました。起炎菌について「黄色ブドウ球菌S. aureus)が多いのか」というような具体的な疑問や、臨床像はどうなのか、感染性心内膜炎(IE)のイメージに近いのか比較してみようとか疑問が発展していきました。今回は、細菌性心筋炎に触れつつ、心臓や血管の感染症という視点から連想されたIE感染性動脈瘤の起炎菌について調べていきたいと思います。



1.細菌性心筋炎の特徴

 まずは、細菌性心筋炎(Bacterial Myocarditis)臨床所見を探してみたいと思います。ハリソン内科学やマンデル感染症学、UpToDateを調べても、心筋炎(そのうち、多くの原因はウイルス性心筋炎)という括りでの臨床所見の記述でした。もう少し具体的な細菌性での情報を探してみます。

 

細菌性心膜炎の特徴

(出典)Indian Heart J. Mar-Apr 2020;72(2):82-92. doi: 10.1016/j.ihj.2020.04.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 文献から66症例重症の敗血症の有無で大きく2つに分けて比較しています。細菌性心筋炎全体見た場合に、発熱が多くで認められており(86%)、発熱は重症の敗血症を伴う場合の方が多く(97%)で認められえるようです。一方で、胸痛も多くで生じる(88%)ようですが、重症の敗血症を伴う場合の方が少ない傾向(81%)にあるようです。発熱は感染性新内膜炎(IE)と割合に大差がないですが、IEと比べて胸痛が多いというのか、特徴というべきかもしれません。他にも全体として、呼吸器症状がある場合(17%)皮疹を認める場合(20%)は少なく、消化器症状の方が多い(50%)も意外な結果でした。

 他にも細菌性心筋炎に気がつくためのきっかけとして、心電図もあると思います。心電図に関しての記載のない6例(9%)もありますが、心電図が正常であったのはわずか6例(9%)でした。心電図に何らかのヒントがある可能性があります。ST上昇を認めたのは40例(61%)でした。それ以上にfragmanted QRS(fQRS)を認めることが多い79%というのはヒントだと思いました。心電図でのST上昇は、細菌性を問わず、ウイルス性心筋炎を含めて耳にすることも多いと思います。それ以外にもヒントがあるというのが、収穫になるような気がします。

 他にも、不整脈、LVEFの低下、血清トロポニン値の上昇といった心筋の障害を示唆するものもあります。完全回復が43例(65%)という予後は決して良くない疾患であるというのも改めて感じました。そして、生存者とそれ以外による比較などもありますので、よろしければ、出典を確認してみてください。

 細菌性心筋炎のヒントや特徴はいかがだったでしょうか。それでは、今回調べるきっかけとなった起炎菌について深掘りしてみたいと思います。


 

 

2.起炎菌の比較

2-1. 細菌性心筋炎の起炎菌

 まずは、今回の話題にもなった細菌性心筋炎の起炎菌を調べてみたいと思います。アクセスできる文献に制限があるため、アクセスできるものを中心に見ていきます。

 

細菌性心筋炎66例の起炎菌

(出典)Indian Heart J. Mar-Apr 2020;72(2):82-92. doi: 10.1016/j.ihj.2020.04.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 血液培養陽性であったのが、32例のうち14例(44%)しかないのは驚きでした。もちろん、感染性心内膜炎(IE)から細菌性心筋炎へ至るものもあるとは思いますが、あくまで心筋炎であり、感染性心内膜炎ではないので順序が違うということでしょうか。重度の敗血症の有無で起炎菌の割合が異なってきますね。特に、全体ではカンピロバクターCampylobacter spp)が20例(30%)一番多いのですが、重度の敗血症を伴うものなると一気に少なくなって2例(6%)というのは驚きでした。

 他にも全体の起炎菌で多いものはカンピロバクター属(30%)に続き、サルモネラSalmonella spp)が9例(13.6%)リケッチア属Rickettsia spp)が7例(10.6%)ストレプトコッカス属Streptococcus spp)が6例(9%)と続きます。

 一方で、重度の敗血症を伴うもので起炎菌は多いものから順に、サルモネラが5例(16%)ストレプトコッカス属が4例(12%)シェリキア属Escherichia spp)が4例(12%)スタフィロコッカス属ブドウ球菌属、Staphylococcus spp)が4例(12%)でした。重度の敗血症を伴うとなると、起炎菌も変わってくると感じました。数は少ないのですが、これらの方がより血液に親和性が高いのでしょうか。

 とりあえず、他の起炎菌も調べてみて考えてみようと思います。



2-2. 感染性心内膜炎の起炎菌

 続いて、感染性心内膜炎(IEの起炎菌を調べてみます。

 

感染性心内膜炎の原因微生物

  • 多数の細菌や心筋が散発的に心内膜炎を引き起こすが、大多数の症例の原因菌は数種類に限られる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 自然弁の場合を見ていきます。市中感染では、連鎖球菌が最も多く(40%)、次いで黄色ブドウ球菌が多い(28%)ようで2大原因微生物となっています。医療関連感染では、圧倒的に黄色ブドウ球菌が多い(52%)となっています。

 人工弁の場合を見ていきます。すると、発生時期が早い(<2カ月)ほど、医療関連感染に似ている起炎菌と考えられます。ブドウ球菌では黄色ブドウ球菌ではなく、表皮ブドウ球菌といったコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多いですが、これは手術の影響であると考えれば、ブドウ球菌を合わせた割合は似た傾向にあります。一方で、発生時期が遅い(>12カ月)ほど、市中感染に似ていっていると考えられます。

 いずれにしても、レンサ球菌ブドウ球菌が多く、その次ぐらいに腸球菌が多いぐらいです。そう考えると、細菌性心筋炎でみられたカンピロバクター属、サルモネラ属、リケッチア属頻度が明らかに異なりIEでは少なく、レンサ球菌とブドウ球菌が被ってくるというような状況でした。同じ心臓でも思ったより、起炎菌は被らなかったという印象でした。心筋か、血流の中の弁という違いもあると思います。

 

 マンデル感染症学では感染性心内膜炎と感染性動脈瘤関連性について挙げられていました。感染性動脈瘤の起炎菌についても次に調べてみたいと思います。

 

 

2-3. 感染性動脈瘤の起炎菌

 細菌性心筋炎と感染性心内膜炎(IE)は予想以上に起炎菌が被らなかったと感じました。続いて、心臓や血液と近そうな他の感染症で起炎菌をチェックしてみたいと考えて、感染性動脈瘤を調べてみたいと思います。ハリソンやマンデルといった教科書での起炎菌の割合の具体的な記載はなく、文献を調べてみたいと思います。

 

感染性腹部大動脈瘤の主な原因微生物

(出典)Surg Today. 2011 Mar;41(3):346-51. doi: 10.1007/s00595-010-4279-z.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 感染性動脈炎も部位によって起炎菌が異なると思いますが、起炎菌を分かりやすく見つけたこちら(感染性腹部大動脈瘤を見てみたいと思います。年代ごとの差は多少ありますが、1997年から2009年に注目すると、サルモネラが最も多く(28%)、次いでブドウ球菌MRSA含む)が多く(22%)、さらにストレプトコッカス属(13%)カンピロバクター属(7%)と続きます。感染心内膜炎の起炎菌よりも、細菌性心筋炎の起炎菌に近い印象を受けます。とりわけ、サルモネラ属が多い点や、ストレプトコッカス属やカンピロバクター属もそれなりにある点が似ていると感じます。

 

 感染性動脈瘤部位の違いもあるので、他の文献も探してみます。

感染性大動脈瘤の原因微生物

(出典)J Vasc Surg. 2001 Nov;34(5):900-8. doi: 10.1067/mva.2001.118084.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 こちらの感染性大動脈瘤の結果では、スタフィロコッカス(ブドウ球菌*が最も多く11例(26%)、続いて大腸菌が6例(14%)ストレプトコッカスが5例(12%)サルモネラ属が4例(9%)の順です。他は1例のみとなっています。血液培養で陽性になったものと動脈瘤からの培養で陽性になったものという差があります。偶然かもしれませんが、差があるところも興味深く、サルモネラだけが4例中、4例とも両方で陽性となっています。大腸菌も総数と血液培養陽性が同数となっています。「動脈壁の培養と相性がよい」のがブドウ球菌、「血液培養の方が相性がよい」のが大腸菌やストレプトコッカス、どちらでもみつかるサルモネラというような妄想が膨らみますが、症例数もないので偶然かもしれません。

 この出典では、動脈瘤の生じた部位の割合も調べられており、胸部大動脈32%でした。気になる方は出典を見てみてください。

 

 いずれにしても、ストレプトコッカス(レンサ球菌)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)、サルモネラあたりが、細菌性心筋炎と同じような起炎菌であると感じました。リケッチアは心筋炎というのも聞くので、リケッチアは「心筋と相性が良い」なのかもしれません。

 次に、微生物学的にストレプトコッカス(レンサ球菌)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)、サルモネラカンピロバクターが、血液や心臓・血管と「相性が良い」ように見えるのかを調べてみようと思います。特にサルモネラは感染性心内膜炎では多くはなかったことや、カンピロバクターが細菌性心筋炎だけで多いので、その辺りの差も気になります。


 

3.微生物チェック

 それでは細菌性心筋炎、感染性心内膜炎、感染性動脈瘤でよくみられたサルモネラカンピロバクターブドウ球菌、レンサ球菌について、それぞれの細菌を調べていきます。

 

3-1. サルモネラ

 サルモネラ属(Salmonella sppグラム陰性桿菌であり鞭毛があり、腸管に生息する細菌です。サルモネラといっても、様々な菌種があり、さまざまな感染症(消化管、髄膜炎、敗血症など)を引き起こします。菌種によって、サルモネラ症、腸チフスやパラチフスチフス症)を引き起こすかが異なってきます。そのうち、今回の話題に関連しそうな部分をチェックします。

 

チフスおよびパラチフスチフス症)

  • いわゆる敗血症型のサルモネラで、S. enterica serovar Typhi、S. enterica serovar Paratyphi Aが代表的でヒトのみが感受性を示す。
  • S. enterica serovar SendaiS. enterica serovar Narashino、S. enterica serovar Meleagridisなども類似疾患(敗血症型)の原因となることがある。
  • 経口的に摂取された菌は小腸粘膜に侵入し、約1週間の潜伏期ののち、腸管粘膜下リンパや腸間膜リンパ節で増殖する。感染成立には10,000~1,000,000,000個の菌が必要とされているが、さらに少量に菌による発症もありうる。菌はさらにリンパ管より血中に入り、敗血症状態になり悪寒高熱などをきたす。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 敗血症型となれば、血液中に菌が証明されることがある通り、血液から感染性動脈瘤や細菌性心筋炎の起炎菌になりやすいのも納得できます。また、感染性心内膜炎の疣贅から敗血症というよりも腸管のリンパ節から菌がやってくるとでもイメージすればよいのでしょうか。

 

 

3-2. カンピロバクター

 次にカンピロバクター属(Campylobacter sppを調べてみたいと思います。グラム陰性スピロヘータ、らせん型(”カモメ”に見える形)をしている菌ですね。カンピロバクターというと「鶏肉を食べてC. jejuniによるカンピロバクター腸炎!」というようなものを真っ先にイメージする人もいるかもしれませんが、しっかりとチェックしてみたいと思います。

 

カンピロバクター

敗血症や髄膜炎などの重篤感染症(全身性カンピロバクター症)をも引き超こす。

 

C. jejuni subspecies jejuni

C. fetus subspecies fetus

  • ウシやヒツジの流産を引き起こす菌であるが、ヒトにも感染する。
  • 免疫不全者や易感染性宿主(特に心臓弁膜症患者)に感染し、敗血症、髄膜炎、卵管炎、退治感染、流産などの全身性感染症が起こり、妊婦や新生児に重篤な病態を誘導する。
  • 小児などではまれにカンピロバクター腸炎に続発して、敗血症や髄膜炎が併発することもある。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 こちらは、代表的なC. jejuniをはじめとするカンピロバクター属の細菌が全身性感染症に至ることがあるということや、その中に敗血症髄膜炎があるということの復習になったと思います。個人的には、カンピロバクター腸炎の発症初期がインフルエンザ様の症状で来ることもあるということも思い出した次第でした。



3-3. スタフィロコッカス属(ブドウ球菌

 グラム陽性球菌の代表格のひとつのスタフィロコッカス属(Staphylococcus sppで、ブドウ球菌という名とともにブドウの房状のイメージが湧く人も多いと思います。

 

  • 黄色ブドウ球菌は後述する種々の病原因子を持ち、皮膚表層に化膿層を形成するばかりでなく、組織内に侵入し、人体の種々の防御機構に打ち勝って人体内で増殖する能力が非常に高い。
  • 人体に保持されている菌は、皮膚や粘膜の障壁が損傷を受けた部位から体内に侵入し、その部位で増殖を開始し、化膿巣を形成する。さらに宿主の防御機能に打ち勝つと、初期の感染巣から組織内を転移し、あるいは組織末端の毛細血管から血中に入り菌血症を起こして全身に波及するなどして、体内に広がり、その結果、蜂窩織炎、深部膿瘍、肺炎、骨髄炎、心内膜炎などの重篤な深部感染症を起こす。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 ブドウ球菌の中でも特に黄色ブドウ球菌病原性が強いとも考えれば、今回調べた細菌性心筋炎、感染性心内膜炎、感染性動脈瘤で比較的みられる理由として納得だと感じます。とりわけ、化膿性疾患と毒素性疾患と分けた際の化膿性疾患としての側面として、ヒトの体内で増殖する能力が高い菌が体内で増殖した結果起こるとして納得です。サルモネラのようにリンパ管から血液に至るというような「血液が特に好き」(血液に入りやすい経過がある)というようなイメージよりも、増殖して最終的には血液にも至るというような印象を受けました。そして、細菌性心筋炎の重症の敗血症を伴う場合に黄色ブドウ球菌が多かったということも、増殖能力の高さや化膿性疾患として血液に至り勢いがあるようにみえることから腑に落ちやすいと感じました。



3-4. ストレプトコッカス属(レンサ球菌)

 ストレプトコッカス属(Streptococcus sppといえば、グラム陽性双球菌肺炎球菌S. pneumoniae)を真っ先に連想したかもしれません。レンサ球菌といっても、溶血性でα溶血だの、β溶血だの、さらには抗原(A群、B群、…)というように分類は多岐に渡ります。それでは、関係がありそうな部分をチェックしてみたいと思います。

 

A群レンサ球菌S. pyogenesによる急性感染症

  • A群レンサ球菌S. pyogenes(化膿レンサ球菌)による疾患には、①咽頭炎pharyngitisや蜂巣炎cellulitisなどの急性化膿性疾患や敗血症、②外毒素性の猩紅熱scarlet fever、③続発性と呼ばれる急性糸球体腎炎やリウマチ熱などがあり、その病像は多彩である。

B群レンサ球菌による感染症

  • 直腸および膣の常在細菌の一部として存在し、新生児期および産褥期の母児感染が問題となる。
  • 米国では分娩時ないし周産期に菌の定着を受けた1,000例の新生児感染につき0.7~3.7例に敗血症、肺炎、髄膜炎などの症例が報告されている。

肺炎レンサ球菌による感染症

  • 肺炎レンサ球菌S. pneumoniaeは、市中感染による肺炎の重要な起因菌である。
  • 肺炎以外の感染症として、中耳炎、心内膜炎、関節炎、腹膜炎、軟部組織の炎症などがある。

ビリダンス(緑色)レンサ球菌による感染症

  • 亜急性心内膜炎の30~40%がビリダンス(緑色)レンサ球菌によるとされている。主な起因菌として、S. sanguis, S. mitis, S. ordlis, S. gordonii, S. mutans, S. salivariusなどがある。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 B群レンサ球菌は周産期ですが、A群レンサ球菌肺炎球菌感染症の一部として敗血症や心内膜炎もあるというように、あまりはっきりしないまでも黄色ブドウ球菌に似たものや感染症のタイプの多さを感じました。それにしても、レンサ球菌は種類も感染症のタイプも多くて、奥深いですね。こうやって読んでみると、カタラーゼ非産生の話やら、緑色レンサ球菌も忘れないようにしたいと想起させてくれるものです。

 

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 今回は、特にサルモネラのような移動していく過程で血液と親和性の高いような菌から、黄色ブドウ球菌のように化膿性疾患から血液に至るというような増殖能力の高さゆえのような菌まで、それぞれの特徴が垣間見れました。

 まだまだ細菌の病原性や生物学的特徴、さらに疫学や感染症のタイプを調べると、興味深そうです。もちろん、教科書のみならず文献を探してみるのも楽しそうです。今回のこのセクションの細菌ごとのチェック、微生物学・細菌学(基礎医学寄り)の振り返りが、次の興味を搔き立てるきっかけとなれば幸いです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

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