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医学書Log: 国家試験後の臨床〈レジデントが学ぶべき100のこと〉|初期研修で学ぶ臨床現場のことがギュッと凝縮

『国家試験後の臨床 レジデントが学ぶべき100のこと』

 渡部晃平(著), 日本医事新報社

 

<目次>

 

 気がつけば、新年度ですね。帯の「卒後10年目」という言葉が目に留まり手元に取ったことがきっかけの本になります。他にも急性腹症や画像診断の本などもあったのですが、4月の初めというタイミングを意識して、この本にしました。医学書ログが連続となってしまいますが、よろしくお願い致します。

 

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【こんな人におススメ】

  • 初期研修1年目(特に実習がなかった真面目な人)
  • 臨床現場の”慣習”が知りたい人

 

 臨床現場に出て1年目、特に初めのうちにたくさん現れる臨床現場での常識というのか、慣習というのか分かりませんが、そのようなことがたくさんあります。出版時にフレッシュで合理性の高い耳学問を集めたものと言えばよいのでしょうか。もちろん、「常識」とか「慣習」という言葉が私自身も好きではないですし、どのような言葉にするとよいのか今ひとつです。しかし、4月になると、初期研修で否応なく「慣らされる」ような状況になる人も少なくないと思います。

 そのような臨床現場の常識」・「慣習のようなものがギュッと凝縮された本です。

 

 

この本の特徴

 臨床現場の「常識」・「慣習」のようなものが凝縮された本ということですが、具体的に救急外来の時に、病棟の時に、カンファレンスの時に、何かをするのに役立つ「痒いところに手が届く」内容と文章によるそれを支持する簡単な論理的な知識がメインと言えばよいのでしょうか。

 初期研修向けの本で様々なことに触れる他の本といえば、『研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス』があります。こちらは病気がみえるシリーズの延長のような印象ですが、それとは異なるコンセプトを感じる本です。学生の時の医学書を買う際の好みと照らし合わせて参考にしてみてください。

 国家試験後の臨床では、血液検査、画像検査に係ること、電解質・輸液はもちろん、循環器の心不全のクリニカルシナリオ、栄養、感染症、悪性腫瘍、集中治療など、多岐に渡っています。Covid-19で注目もされた人工呼吸器関連もあります。目次Amazon.co.jp等でも確認できます。

 もう少し具体的な例を挙げてみます。「白血球分画と目視像」では、白血球分画は割合(%)だけでなく絶対数もチェックするとか、目視像を頼むタイミングというようなことが書かれています。学生のうちにも実習やセミナー等で学ぶ機会がある人にはあるものの、知らずに/使わずに初期研修を終えるのはもったいないような内容・知識が書かれています。初期研修中だけでなく、学生時代にセミナーや実習で聞いたことも含まれていて、書籍で知識面という観点では効率的に知ることができると感じました。

 

 医学(Bio)だけでなく、統計の話まであります。医学統計の基礎、優位差だけでなくて、Forrest plotやサブグループ解析の話、Primary endpoint(主要評価項目)の話というような抄読会で役立ちそうな内容、診療報酬、DPC、難病認定などの社会との接点まであります。診療科のローテーションや研修内容によっては2年間だけでなく3年目にも使うことにもなりそうな内容もあります。

 

 

内容の深さ ~血液培養を例に~

 もう少し馴染みのある人もいそうな例を挙げてみます。培養のロジック>血液培養では、「血液培養は好気ボトルと嫌気ボトルを1セットとして2セット出すのが基本です」ということが書かれています。さらに「感染性心内膜炎を疑う場合には3セット提出します」とも書いてあります。感染症や救急、総合診療のセミナーに参加したり、本を読んだりしたことのある人なら学んだことも多い知識だと思いますが、知らない人には役立つ知識が書かれています。

 血液培養ぐらいであれば聞かなくても、他にも内容によっては聞かなくても/聞けば、教えてもらえそうなことも多そうですが、特に実習がなかった真面目な人だと、「すでに知っている」と勘違いされそうだったり、聞きにくかったりという意味でも、特に実習がなかった真面目な人向けにおススメする理由です。

 さらに、初期研修1年目の先生のおすすめする理由として、とりあえず動けるように知識として入れる1年目という想定に合っているとも感じるからです。血液培養の話にしても、血液培養を2セット出す理由として「1つは血液採取量が多いほど感度が良くなる」と書かれており、2つ目として汚染(コンタミコンタミネーション)のことが書かれています。1つ目の話に対して、どのようなガイドライン具体的にどのように推奨されているというようなことは書かれていません。参考文献も1つ目には記載されていません。その辺りを考えるようになる物足りなくなってくるという意味も込めて、とりあえず動けるようになるという事を目指す1年目のスタートに特に向いていると思います。猛者のような初期研修1年目にとっては最初から物足りない面があるかもしれません。

 

 例えば、先ほどの感染性心内膜炎血液培養について3セット取れれば、理想ではありますが、実際には、ルート確保にいろいろな人が四苦八苦、やっと確保したルートも採血が途中で…などということもあって次のセットは不足するかもしれません。バイタルや状況などもあるし、やむなしというようなこともあったりします。

 その時に、感染性心内膜炎の血液培養に対するガイドラインはThe American Heart AssociationやThe European Society of Cardiologyでは3セットだけど、The British Society for Antimicrobial Chemotherapy (BSAC)では2セットだったような…、詳しくは…、というようなことが頭に思い浮かぶかもしれません。この血液培養のセット数と感度の話はエビデンスとしては特には見つからず意外と慣習みたいな面もあるのですが、コンタミの件だともっと文献も見つかりやすいともいます。

 情報の解像度上げて考えていくためにも、この本の次にはガイドライン、そしてまずは総説からでも論文などにもアクセスしてほしいと思います。

 

コンタミの話の参考文献例

Clin Microbiol Rev. 2006 Oct; 19(4): 788–802. doi: 10.1128/CMR.00062-05

 

 

 

さらにその先へ

 血液培養での話を一般化しつつ、話を戻して考えたいと思います。初期研修のスタートとしてまずは動けるようにも、この一冊で程よい分量まとまっているのが魅力だと思います。そのようなターゲットに絞られているからゆえの魅力の一方でトレードオフとなる部分もあります。そして、参考文献出典がすべてにあるわけではありません。日本医事新報社の同シリーズ『レジデントのための 内科診断の道標』などと比較すると出典が少なかったり、知識としての嗜好は異なったりと感じるところもあります。

 この本の先は自身アップデートしたり、ガイドライン論文にアクセスして知識を深めて考えたり、様々なことも必要でしょう。

 

 そういう視点からも【こんな人におススメ】にも書かせて頂いた「初期研修1年目(特に実習がなかった真面目な人)」、「医療現場の”慣習”が知りたい人」にいかがでしょうか。気になれば、レイアウトや読みやすさ、内容も含めて本屋さん等で手に取ってみてください。

 

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 4月から研修医となる先生の皆様が、素敵な研修生活を送ることをお祈り申し上げます。「患者さんのため」という言葉も多数聞くと思います。もちろん、大切ではありますが、その言葉で煙に巻かれた労働に対して対価の出ない自己研鑽という労働搾取やマネジメント側の不備を隠すための不合理なこともあります。様々なことを記録しておくと初期研修が終わったときに、良くも悪くも自分自身が「慣習」に慣れたことに気がつくかもしれません。何より身体には気をつけて、素敵な仲間と共に充実した研修生活を送ってください。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 本の目次や読者レビューなどが気になる方をはじめ、よろしければチェックしてみてください。

 
 
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