"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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気管挿管とMallampati分類・Upper Lip Biteテスト

気管挿管とMallampati分類・Upper Lip Biteテスト

挿管困難とMallampati分類・upper lip biteテストのエビデンスまで~

 

1.術前回診と挿管困難

2.挿管困難の指標(マランパチ分類、Upper Lip Biteテスト)の深堀り

 

 そういえば、麻酔術前回診の際にマランパチ分類(Mallampati分類)等をチェックしていたことからの深堀りです。マランパチ分類の数字が増えるごとに気管挿管困難例が増えるというような簡単な認識ですが、実際にマランパチ分類の分類がいくつ以上になると気管挿管困難例が増えるのかなど、知らないことが多いので調べてみました。

 国試勉強の際には、麻酔科の分野の国試対策講座でマランパチ分類という言葉プラスα程度しか記載がなかったと記憶しています。国試での出題数も少なく、麻酔で用いる薬がメインであったような記憶です。救急でマランパチ分類をもう少し詳しく学んだような気がします。

 

 まずは、術前回診で気道確保に関する基本的な診察から復習してみます。

 

1.術前回診と挿管困難

<気道確保に関する診察>

 マスク換気困難、挿管困難の予測の観点より

  1. 顔貌と開口の状態:2横指以上の開口、大きな舌、扁桃腫大
  2. 歯牙の状態:動揺性、差し歯、部分入れ歯を外した後の歯並び
  3. Mallampati分類:できるだけ大きな口を開けて舌を突き出す
  4. upper lip biteテスト:下あごで上唇を噛む
  5. 頚部の診察:後屈の程度、頚部の硬さ、後屈時の神経症
  6. 意識障害
  7. マスク換気困難の予測気管挿管ができなくてもマスク換気が継続できれば死亡することはない。事前の準備が必要。口腔から声門の間にある上気道の腫瘍や遺物による気管挿管では、意識下挿管や意識下(局所麻酔)により気管切開が必要になる場合の事前精査を怠らない。

マスク換気困難の予測因子(MOANS)

M

Mask: マスクフィット(シールが難しい、顔面外傷、あごひげなど)

O

Obesity, Obstruction: 肥満や妊娠、気道閉塞

A

Age: 55歳以上(コンプライアンス低下や上気道の筋緊張増加)

N

No teeth(歯がないのでマスクフィットしにくい)

S

Stiff lung or chest wall(肺や胸郭が固い)

 

(出典)麻酔科研修チェックノート 改訂第6版

 

 国試対策とは異なりますね。本当に国試対策講座はさらりといったところでしょうか。

 実際に気管挿管困難例は次のようです。

 

<挿管困難の一般的なリスクファクター>

  • Prior difficult intubation(以前の挿管困難)
  • Small mouth opening (<3 finger breadths)(開口障害:3横指以下)
  • Mallampati class 3 or 4(マランパチ分類 3 or 4)
  • Shortened thyromental distance*(<6 cm)
  • Shortened sternomental distance** (<12 cm)
  • Limited neck mobility(頚部可動制限)
  • Limited mandibular protrusion or upper lip bite test (ULBT) grade 3
  • Thick neck (circumference >40 cm)

 

(出典)UpToDate>Airway management for induction of general anesthesia, last updated: May 20, 2021.

*thyrometal distance(TMD): 頚部伸展時における甲状軟骨と下顎の距離

**sternomental distance: 頚部伸展時における胸骨角と下顎の距離

 

 前述の診察における具体的な挿管困難の指標というところでしょうか。

 今回は気管挿管(挿管困難例)に関する指標の深堀りなので、「マランパチ分類 III または IV」と「upper lip biteテストgrade 3以上」ということですね。ただし、ここにも注意書きが書かれています。

 

  • ビデオ喉頭鏡の使用により、挿管困難のリスクファクターはあまり役立たないもしくは無関係の可能性がある。
  • ビデオ喉頭鏡の使用(2000件超え)によるマランパチ分類と挿管失敗には相関性はみられなかったという報告がある
  • 一方で、直接喉頭鏡検査後のビデオ喉頭鏡での挿管では、upper lip biteテストのスコアが高いほど挿管困難とする報告もある

 

(出典)UpToDate>Airway management for induction of general anesthesia, last updated: May 20, 2021.

 

 マランパチ分類はビデオ喉頭鏡ではあまり指標にならず、upper lip biteテストの方がビデオ喉頭鏡では指標になるということでしょうか。ビデオ喉頭鏡であれば、ビデオ喉頭鏡にて声門が確認できれる程度であれば挿管失敗に関係なく腫瘍等でビデオ喉頭鏡で声門が見られない場合には影響があるとも考えられそうです。

 マランパチ分類では、口を開けてもらった際の視診による評価なので、ビデオ喉頭鏡での挿管成功率に特に相関関係がなさそうなのは正しそうに感じます。

 しかし、定量的(数値的)なことも特に記載もなく、いまひとつイメージが掴みにくいところがあります。例えば、Grade 3を境に急に増えるのか、比例的に増えていくのかなど、そもそも絶対値的にはそこまで変化がないのか、いま一つ掴みにくいです。そのため、深堀りしてみたいと思います。

 

 

2.挿管困難の指標(マランパチ分類、upper lip biteテスト)の深堀り

 マランパチ分類の評価の各段階の確認や、そこから見つけたUpper Lip Bite Testをはじめとする挿管困難の指標について書かれた文献について紹介していきます。

 

  • Glidescope(ビデオ咽頭鏡)による挿管では、初めからのビデオ咽頭鏡による挿管ならびに、直接咽頭鏡失敗後のビデオ咽頭鏡による挿管において、いずれも高率で成功であった。
  • 全体での成功率:97%(2,004例中1,9
    44例)
  • 初めからビデオ咽頭鏡による挿管における成功率:98%(1,755例中1,722例)→うち、挿管困難が予測された人における成功率:96% (1,428例中1,377例)
  • 直接咽頭鏡失敗後のビデオ咽頭鏡における成功率:94% (239例中224例)

 

  • ビデオ咽頭鏡は全例で挿管できるわけではない
  • ビデオ咽頭鏡のおいても挿管困難予測因子は存在しうる 
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(出典)Anesthesiology. 2011 Jan;114(1):34-41. doi: 10.1097/ALN.0b013e3182023eb7.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 まさしく、マランパチ分類に相関関係がみられなかったとする文献です。有意差はありませんが、傾向はありそうです。一方でマランパチ分類と異なり、Thyromental distance (下顎と甲状腺の距離, TM)、頚部の解剖学的異常という項目では有意差があります。

 有意差はあるもの全体としての成功率は高いと感じました。マランパチ分類III, IVにおけるビデオ喉頭鏡の成功率は96%(675例中646例)です。ビデオ喉頭鏡では、マランパチ分類などこれらの比較項目よりも、腫瘍などの解剖学的な閉塞に注目したほうが良いかもしれません。解剖学的異常はあっても、ビデオ喉頭鏡が入れば成功率は高いと考えられそうな成功率です。

 

 他にも、マランパチ分類でもビデオ咽頭鏡使用時に挿管回数との相関関係を認めたという文献もありました。マランパチ分類以上にUpper lip bite testをはじめとする他の指標でも相関関係を認めています。

 

<挿管に要した時間・回数と患者の特徴>

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  • 高齢、男性、いびきの既往、マランパチ分類(高スコア)、開口障害、胸骨ー甲状軟骨・下顎ー胸骨角の距離の短さ、首まわりの太さ(頚囲)、Upper Lip Bite Test(高スコア)、Cormack and Lehane Grade(高グレード)において、挿管に要する時間や回数が多かった。
  • 一方でロジスティック回帰モデルおよび比例ハザード重回帰モデルにおいては、Cormack and Lehane Grade、Upper Lip Bite Test、ならびに胸骨ー甲状軟骨間の距離においてのみ、挿管回数や挿管に要する時間の増加に相関関係に有意差を認めた。

(出典)esth Analg. 2008 May;106(5):1495-500, table of contents. doi: 10.1213/ane.0b013e318168b38f.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 解析モデルに関しては詳しくないので何とも言いにくいのですが、この文献を信じるとして、この文献で調べられているマランパチ分類などと比べてCormack and Lehane Grade(高グレード)、Upper Lip Bite Test(高スコア)、胸骨ー甲状軟骨間の短縮のみられる症例においてビデオ咽頭鏡における挿管困難が予測されやすいということでしょうか。

 

 しかし、この中でCormack and Lehane Grade直接喉頭鏡を使った際の声門や咽頭蓋が見えるかという視野からの分類なので、回診でそもそも挿管を試みる前にチェックするというのとは状況が異なります。

 そういう意味では回診簡易的にチェックできるという意味でもUpper Lip Bite Testはビデオ喉頭鏡の場合でも有用だと言えそうです。現場でメジャーなどの距離を測るものをあまり持っている人は見かけないですが、胸骨ー甲状軟骨間の距離もあてになりそうです。

 ビデオ喉頭鏡ではなく状況により直接鏡の使用も考えられるため、マランパチ分類はやらなくても良いとは思いませんが、ビデオ咽頭鏡が基本であるならば、よりビデオ咽頭鏡にて挿管する際の指標になりやすいUpper Lip Bite Testも追加しても良いとも感じました。もちろん、挿管の技術などの前提もありますが、新たに個人的に意識するところも増えそうです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。