"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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社会経済的状況(SES)とがん/健康

社会経済的状況(SES)がん/健康

 

<目次>

 

 

 今回は、JAMAから送られてくる新着論文のメールにあった文献の”Neighborhood and Individual Socioeconomic Disadvantage and Survival Among Patients With Nonmetastatic Common Cancers ”というタイトルの”Neighborood”に惹かれたという理由からの記事です。社会経済的状況(Socioeconomic Status: SES)や社会健康・医療について記事にしていきたいと思います。

 以前から、「社会経済的に不利な状況であれば、がん生存率はよくない」というのは聞いたこともあり、理解に難しいわけではありません。社会経済的な状況というのは個人だけの問題でもないのにわざわざタイトルにNeighborhoodを入れる理由はどこだろうということで読んでみたという記事です。そこから、社会と健康についてなぜか保存してあった文献を紹介するものです。

 

1.社会経済的要因(SES)とガンの生存率

 社会経済的に不利益な状況であればあるほど、がん生存率が悪くなるという相関関係について、まずはアブストラクトから確認します(一部抜粋)。

 

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IMPORTANCE

個人の社会経済的状況と近隣における社会経済的状況(socioecomonic status: SES)の不利による関連性に関して十分に研究されておらず、多面的で包括的な研究はなかったと考えられる

 

OBJECTIVE

近隣における社会経済的状況と個人における社会経済的状況における転移を認めないがん患者における生存について調べる

 

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS

コホート研究(Results-Medicare database)

乳がん前立腺がん、肺がん、大腸がんの65歳以上の患者(米国)

 

EXPOSURE

・近隣の社会経済的状況は、地理的剥奪指標(area deprivation index: ADI,高値ほど社会経済的に貧しいとされる)により評価する

・個人の社会経済的状況は、患者が低所得であることの指標であるMedicare-Medicaid Dual Eligibility(はいorいいえ)で評価する

 

RESULTS

・近隣/個人の社会経済的状況はそれぞれ独立して死亡率と相関を認めた。

・地理的剥奪指標(ADI)を5段階に分けて、ADIが1(社会的状況が5段階中最も良い)群と、ADIが5(社会的状況が5段階中最も悪い)群における死亡率のハザード比(HR)、ならびにMedicare-Medicaid Dual Eligibility(はいorいいえ)における死亡率のハザード比(HR)は次の通りであった。

<悪性腫瘍ごとの死亡率比>

腫瘍

近隣(ADI  5 vs.1)

個人(Dual Eligibility yes vs. no)

HR

95% CI

HR

95% CI

乳がん

1.34

1.26-1.43

1.22

1.15-1.29

前立腺がん

1.51

1.42-1.62

1.29

1.21-1.38

肺がん

1.21

1.14-1.28

1.14

1.09-1.20

大腸がん

1.24

1.17-1.32

1.23

1.17-1.29

 

CONCLUSION AND RELEVANCE

・近隣の社会経済的に不利な状況と、乳がん前立腺がん、肺がん、大腸がんといった一般的な悪性腫瘍の生存率低下には相関関係がある

・この結果は、がんによる健康改善には低所得世帯や社会的資源の乏しい(貧しい)地域への継続した政策投資が必要であることを示唆する。

 

(出典)JAMA Netw Open. 2021 Dec 1;4(12):e2139593. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.39593.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 特に結果には驚きませんでした。詳しくツッコんでいくとすれば、MethodやResultsの表、Limitationあたりでしょうか。Methodを詳しくみると地理的剥奪指標(ADI)のそれぞれ群の患者の特徴の違いもあります。例えば、人種の違いもあります。詳しく見てみると、ADI=1とADI=5の黒人割合は、2.2% vs. 14.1%と明らかにADI=5の地域に黒人が多い状況です。年齢構成なんかも細分化すると異なっています。Free Accessなので詳しくは文献をチェックしてみてください。

 やはり、結果か原因か(因果関係かはっきりと)わかりませんが、社会経済的状況とがんによる生存率の間には相関関係があるといえそうです。

 

 

2.地理的剥奪指数(area deprivation index: ADI)

 今回は、Neighborgood(近隣)の社会経済的状況を測る際に用いられた地理的剥奪指標(ADI)について少し調べてみたいと思います。

 今回は患者の住む地域の郵便番号(Zip code)を用いて、その地域のADI(1~100点)としています。改めてこんなデータベースがあるアメリカは恐ろしやというのか、しっかりしていますね。(無知なのか、日本国内の住所でADIの評価が分かるものは見たことがありません…)

 ADI(area deprivation index)で検索すると、様々なものが見つかると思います。ADIかを問わず、COVID-19と地域の相関関係や今までに聞いたことあるようなメジャーな疾患との相関関係ももちろん見つかります。

 例えば、今回のように悪性腫瘍だけでなく、心血管系疾患、糖尿病、呼吸器疾患、HIV/AIDSといった主な死亡率とADIも相関関係にあるようです。

(詳細)https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M19-1510

 

 様々な公衆衛生学的な視点からの研究に役立てられそうで、今後もADIと何かの相関関係について増えていくかと思います。

 

 ADIについては、CDC(米国疾病予防管理センター)のHPにも ”Integrating Social Determinants of Health With Treatment and Prevention: A New Tool to Assess Local Area Deprivation”ということでありました。次のような指標を用いてADIを推定し、医療との関係性が調べられていました。

<ADI推定に用いた指標>

教育

・25歳以上のうち教育歴が9年未満の人の割合(%)

・25歳以上のうち高校卒業またはそれ以上の割合(%)

・16歳以上でホワイトカラーの職業に就く雇用人口の割合(%)

収入/雇用

・家族の収入の中央値

・所得格差

・貧困レベル以下の家庭の割合(%)

・16歳以上の労働力人口のうち失業している人の割合(%)

住居

・住宅価格の中央値

・家賃の中央値

・毎月の住宅ローンの金額の中央値

・持ち家率

・完全な水道配管でない住居の割合(%)

世帯の特徴

・18歳未満の子どもがいるひとり親家庭の割合(%)

・自動車のない世帯割合(%)

・電話のない世帯割合(%)

・1部屋あたり1人以上の世帯の割合(%)

(出典)https://www.cdc.gov/pcd/issues/2016/16_0221.htm

 

 社会経済的状況を示唆しうるという意味では納得の項目が多いですね。思いやりとか数値にできないような面も大切であるとは思いますが、政策等を考える際には、このように数値化(定量化)していく方法はやはり素晴らしいと思います。



3.その他(社会とつながっている医療)

 今回はここまでしつつ、医療が社会とつながっている身近であるというような文献を紹介して終わりにしたいと思います。ここで紹介するものは特に理由はなく、なぜかGoogleドライブに保存されていたものを紹介するだけです。

 

【人種差別と心的外傷】

“Association of Racial Discrimination With Neural Response to Threat in BlackWomen in the US Exposed to Trauma”

JAMA Psychiatry. 2021 Sep 1;78(9):1005-1012. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.1480.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34319369/

 

自閉症児童虐待

“The prevalence and correlates of abuse among children with autism served in comprehensive community-based mental health settings”

Child Abuse Negl. 2005 Dec;29(12):1359-72. doi: 10.1016/j.chiabu.2005.06.006. Epub 2005 Nov 15.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16293306/

 

児童虐待による精神疾患との相関】

“Association between child abuse exposure and the risk of psychiatric disorders: A nationwide cohort study in Taiwan”

Child Abuse Negl. 2005 Dec;29(12):1359-72. doi: 10.1016/j.chiabu.2005.06.006. Epub 2005 Nov 15.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16293306/

 

 興味があれば、上記文献も覗いてみてください。結果そのものに驚くことは特にないと思いますが、調べればエビデンスが見つかるということぐらいが伝わればと思います。

 他にもSDGs医療も社会的につながっていると感じました。機会があれば考えてみたいです。

 

 お読みくださり、ありがとうございました。