食塩代替物は心血管系イベントを減らすのか? @NEJM
<目次>
世の中では、以前から減塩というものをよく目にすると思います。高血圧のある方では、「食塩の摂取量を6g/日 未満にしなさい」とか聞いたことがある人もいると思います。もちろん、塩分使用量を素直に減らすことができれば簡単に解決する面もありますが、塩分(ナトリウム)摂取を減らす手段として食塩代替物(例:低ナトリウム食卓塩、代替塩、)を利用した際に、減塩で目的とするような健康上の懸念事項(例:心血管系イベント)を改善できれるのかということは疑問でした。
今回は同期に「循環器分野の面白い論文がないか」と聞かれて探していた時に私自身にとって興味深いものを改めてみつけることができました。またもやブログネタとしてはNEJM(New England Journal of Medicine)からですが、1回目にはスルーしていたものを再度見つけることが出来たのは同期のおかげです。タイトルも”Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death”ということで、医学でもよくある臨床の各専門分野で尖った部分というよりも万人が興味が湧きやすい直球ストレートのような論文です。
1.食塩(塩化ナトリウム)摂取と日本の現状
本題の前に日本の塩分摂取に関する現状から調べてみたいと思います。日本人の食塩の摂取量はやや減少傾向ではあるものの相変わらず、塩分摂取量は厚生労働省の推奨摂取量やWHOの摂取推奨量からすると多いのが現状です。
表1. 日本人の食塩摂取量の推移(20歳以上)
平成21年(2009年)
令和元年(2020年)
総数
10.7 g/day
10.1 g/day
男性
11.6 g/day
10.9 g/day
女性
9.9 g/day
9.3 g/day
(出典)厚生労働省:令和元年 国民健康・栄養調査の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
厚生労働省の塩分摂取推奨量
・男性:7.5 g/day未満
・女性:6.5 g/day未満
(出典)日本人の食事摂取基準(2020 年版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
一般的な高血圧患者の塩分摂取推奨量
・6.0 g/day未満
(出典)高血圧治療ガイドライン2019
WHOの塩分摂取推奨量
・5.0 g/day
(出典)WHO Home/Newsroom/Fact sheets/Detail/Salt reduction
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/salt-reduction
日本人の食塩摂取量も徐々に減少してきていますが、相変わらず世界標準から見れば塩分摂取が多いのが現状です。もちろん、食事や文化も違うのでただただ塩分だけを減らすのは難しい部分もあると思います。そこで、塩代替物で塩化ナトリウム摂取量を減らすことで心血管イベント等を減らすことができれば素敵だとも考えていました。
2.食塩代替物の有効性(心血管イベント、死亡率)
それでは”Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death”という論文を簡単に紹介していこうと思います。
METHOD
・open-label, cluster-randomized trial
・中国の農村地域の600の村
・参加者:脳卒中の既往を持つ人、または高血圧の既往をもつ60歳以上の人
・食塩代替物群と通常の塩群を1:1に割付
・食塩代替物:塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%
・食塩代替物の使用量(全ての料理、味付け、食物の保存)は約20 g/day
RESULT
・20,995人を割付け
・参加者の中間年齢:65.4歳
・参加者のうち、脳卒中の既往は72.6%、高血圧の既往は88.4%.
・追跡期間の中間値は4.74年
表.塩代替物の心血管系イベントならびに死亡率への効果
Outcome
塩代替物
通常の塩
Rate Ratio (95%)
単位;件数/人年
29.14
33.65
0.86 (0.77-0.96)
非致死的急性冠症候群
3.79
5.12
0.70 (0.52-0.93)
死亡(全原因)
39.28
44.61
0.88 (0.82-0.95)
・不明
8.58
9.58
0.89 (0.75-0.98)
・非血管性
7.76
8.73
0.89 (0.77-1.03)
・血管性(ACSも含む)
22.94
26.30
0.87 (0.79-0.96)
・高カリウム血症に起因する重大な有害事象には有意差がなかった
(塩代替物群 3.35件/1000人年 vs. 通常の塩群 3.30件/1000人年)
(出典)N Engl J Med. 2021 Aug 29. doi: 10.1056/NEJMoa2105675.
興味深い内容でした。こんな介入ができるのかと驚いた面もあります。詳しくは論文をお読みください。
一部、塩代替物の使用量が約20 g/dayというのが、摂取量ではないので通常の塩の摂取量がどの程度の人が塩代替物に変えたら効果があるのかというのは気になります。仮に元から塩分の摂取量の多い人の方が心血管系イベントが減ると考えられるので、日本人の摂取量ではどの程度の効果があるのかも気になります。
一方で、仮にこの集団以上に食塩代替物の使用量が多い場合には高カリウム血症のリスクはどの程度増えるのかも気になります。この研究は2014年4月から2015年1月に登録された人であることも踏まえつつ、中国人の塩分摂取量を調べてみたいと思います。
2010年から2012年における成人の中国人の塩分摂取量は9.6 ± 0.3 g/dayであり、男性では10.4 ± 0.4 g/day、女性では8.8 ± 0.3 g/dayであった。
(出典)Zhonghua Yu Fang Yi Xue Za Zhi. 2016 Mar;50(3):217-20.
多少、年は違いますが数年では塩分摂取量は大きくは異ならないと思います。あとは、農村地域と都市部の違い等を考慮する必要はありそうですが、日本と同じく世界的には塩分摂取が多い地域であると考えられそうです。
そうすれば、日本人でも食塩代替物による効果も期待できそうです。もちろん他の因子だけでなく、個人的には味などの指標になりにくい部分の他の面での違いも気になりますが…。
本日もお読みくださりありがとうございました。