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細菌性心筋炎 ~特徴と起炎菌比較 : 感染性心内膜炎(IE)、感染性動脈瘤~

細菌性心筋炎 Bacterial Myocarditis

特徴起炎菌比較 : 感染性心内膜炎(IE)、感染性動脈瘤

 

<目次>

 

 細菌性心筋炎が身近なところで話題になりました。起炎菌について「黄色ブドウ球菌S. aureus)が多いのか」というような具体的な疑問や、臨床像はどうなのか、感染性心内膜炎(IE)のイメージに近いのか比較してみようとか疑問が発展していきました。今回は、細菌性心筋炎に触れつつ、心臓や血管の感染症という視点から連想されたIE感染性動脈瘤の起炎菌について調べていきたいと思います。



1.細菌性心筋炎の特徴

 まずは、細菌性心筋炎(Bacterial Myocarditis)臨床所見を探してみたいと思います。ハリソン内科学やマンデル感染症学、UpToDateを調べても、心筋炎(そのうち、多くの原因はウイルス性心筋炎)という括りでの臨床所見の記述でした。もう少し具体的な細菌性での情報を探してみます。

 

細菌性心膜炎の特徴

(出典)Indian Heart J. Mar-Apr 2020;72(2):82-92. doi: 10.1016/j.ihj.2020.04.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 文献から66症例重症の敗血症の有無で大きく2つに分けて比較しています。細菌性心筋炎全体見た場合に、発熱が多くで認められており(86%)、発熱は重症の敗血症を伴う場合の方が多く(97%)で認められえるようです。一方で、胸痛も多くで生じる(88%)ようですが、重症の敗血症を伴う場合の方が少ない傾向(81%)にあるようです。発熱は感染性新内膜炎(IE)と割合に大差がないですが、IEと比べて胸痛が多いというのか、特徴というべきかもしれません。他にも全体として、呼吸器症状がある場合(17%)皮疹を認める場合(20%)は少なく、消化器症状の方が多い(50%)も意外な結果でした。

 他にも細菌性心筋炎に気がつくためのきっかけとして、心電図もあると思います。心電図に関しての記載のない6例(9%)もありますが、心電図が正常であったのはわずか6例(9%)でした。心電図に何らかのヒントがある可能性があります。ST上昇を認めたのは40例(61%)でした。それ以上にfragmanted QRS(fQRS)を認めることが多い79%というのはヒントだと思いました。心電図でのST上昇は、細菌性を問わず、ウイルス性心筋炎を含めて耳にすることも多いと思います。それ以外にもヒントがあるというのが、収穫になるような気がします。

 他にも、不整脈、LVEFの低下、血清トロポニン値の上昇といった心筋の障害を示唆するものもあります。完全回復が43例(65%)という予後は決して良くない疾患であるというのも改めて感じました。そして、生存者とそれ以外による比較などもありますので、よろしければ、出典を確認してみてください。

 細菌性心筋炎のヒントや特徴はいかがだったでしょうか。それでは、今回調べるきっかけとなった起炎菌について深掘りしてみたいと思います。


 

 

2.起炎菌の比較

2-1. 細菌性心筋炎の起炎菌

 まずは、今回の話題にもなった細菌性心筋炎の起炎菌を調べてみたいと思います。アクセスできる文献に制限があるため、アクセスできるものを中心に見ていきます。

 

細菌性心筋炎66例の起炎菌

(出典)Indian Heart J. Mar-Apr 2020;72(2):82-92. doi: 10.1016/j.ihj.2020.04.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 血液培養陽性であったのが、32例のうち14例(44%)しかないのは驚きでした。もちろん、感染性心内膜炎(IE)から細菌性心筋炎へ至るものもあるとは思いますが、あくまで心筋炎であり、感染性心内膜炎ではないので順序が違うということでしょうか。重度の敗血症の有無で起炎菌の割合が異なってきますね。特に、全体ではカンピロバクターCampylobacter spp)が20例(30%)一番多いのですが、重度の敗血症を伴うものなると一気に少なくなって2例(6%)というのは驚きでした。

 他にも全体の起炎菌で多いものはカンピロバクター属(30%)に続き、サルモネラSalmonella spp)が9例(13.6%)リケッチア属Rickettsia spp)が7例(10.6%)ストレプトコッカス属Streptococcus spp)が6例(9%)と続きます。

 一方で、重度の敗血症を伴うもので起炎菌は多いものから順に、サルモネラが5例(16%)ストレプトコッカス属が4例(12%)シェリキア属Escherichia spp)が4例(12%)スタフィロコッカス属ブドウ球菌属、Staphylococcus spp)が4例(12%)でした。重度の敗血症を伴うとなると、起炎菌も変わってくると感じました。数は少ないのですが、これらの方がより血液に親和性が高いのでしょうか。

 とりあえず、他の起炎菌も調べてみて考えてみようと思います。



2-2. 感染性心内膜炎の起炎菌

 続いて、感染性心内膜炎(IEの起炎菌を調べてみます。

 

感染性心内膜炎の原因微生物

  • 多数の細菌や心筋が散発的に心内膜炎を引き起こすが、大多数の症例の原因菌は数種類に限られる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 自然弁の場合を見ていきます。市中感染では、連鎖球菌が最も多く(40%)、次いで黄色ブドウ球菌が多い(28%)ようで2大原因微生物となっています。医療関連感染では、圧倒的に黄色ブドウ球菌が多い(52%)となっています。

 人工弁の場合を見ていきます。すると、発生時期が早い(<2カ月)ほど、医療関連感染に似ている起炎菌と考えられます。ブドウ球菌では黄色ブドウ球菌ではなく、表皮ブドウ球菌といったコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多いですが、これは手術の影響であると考えれば、ブドウ球菌を合わせた割合は似た傾向にあります。一方で、発生時期が遅い(>12カ月)ほど、市中感染に似ていっていると考えられます。

 いずれにしても、レンサ球菌ブドウ球菌が多く、その次ぐらいに腸球菌が多いぐらいです。そう考えると、細菌性心筋炎でみられたカンピロバクター属、サルモネラ属、リケッチア属頻度が明らかに異なりIEでは少なく、レンサ球菌とブドウ球菌が被ってくるというような状況でした。同じ心臓でも思ったより、起炎菌は被らなかったという印象でした。心筋か、血流の中の弁という違いもあると思います。

 

 マンデル感染症学では感染性心内膜炎と感染性動脈瘤関連性について挙げられていました。感染性動脈瘤の起炎菌についても次に調べてみたいと思います。

 

 

2-3. 感染性動脈瘤の起炎菌

 細菌性心筋炎と感染性心内膜炎(IE)は予想以上に起炎菌が被らなかったと感じました。続いて、心臓や血液と近そうな他の感染症で起炎菌をチェックしてみたいと考えて、感染性動脈瘤を調べてみたいと思います。ハリソンやマンデルといった教科書での起炎菌の割合の具体的な記載はなく、文献を調べてみたいと思います。

 

感染性腹部大動脈瘤の主な原因微生物

(出典)Surg Today. 2011 Mar;41(3):346-51. doi: 10.1007/s00595-010-4279-z.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 感染性動脈炎も部位によって起炎菌が異なると思いますが、起炎菌を分かりやすく見つけたこちら(感染性腹部大動脈瘤を見てみたいと思います。年代ごとの差は多少ありますが、1997年から2009年に注目すると、サルモネラが最も多く(28%)、次いでブドウ球菌MRSA含む)が多く(22%)、さらにストレプトコッカス属(13%)カンピロバクター属(7%)と続きます。感染心内膜炎の起炎菌よりも、細菌性心筋炎の起炎菌に近い印象を受けます。とりわけ、サルモネラ属が多い点や、ストレプトコッカス属やカンピロバクター属もそれなりにある点が似ていると感じます。

 

 感染性動脈瘤部位の違いもあるので、他の文献も探してみます。

感染性大動脈瘤の原因微生物

(出典)J Vasc Surg. 2001 Nov;34(5):900-8. doi: 10.1067/mva.2001.118084.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 こちらの感染性大動脈瘤の結果では、スタフィロコッカス(ブドウ球菌*が最も多く11例(26%)、続いて大腸菌が6例(14%)ストレプトコッカスが5例(12%)サルモネラ属が4例(9%)の順です。他は1例のみとなっています。血液培養で陽性になったものと動脈瘤からの培養で陽性になったものという差があります。偶然かもしれませんが、差があるところも興味深く、サルモネラだけが4例中、4例とも両方で陽性となっています。大腸菌も総数と血液培養陽性が同数となっています。「動脈壁の培養と相性がよい」のがブドウ球菌、「血液培養の方が相性がよい」のが大腸菌やストレプトコッカス、どちらでもみつかるサルモネラというような妄想が膨らみますが、症例数もないので偶然かもしれません。

 この出典では、動脈瘤の生じた部位の割合も調べられており、胸部大動脈32%でした。気になる方は出典を見てみてください。

 

 いずれにしても、ストレプトコッカス(レンサ球菌)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)、サルモネラあたりが、細菌性心筋炎と同じような起炎菌であると感じました。リケッチアは心筋炎というのも聞くので、リケッチアは「心筋と相性が良い」なのかもしれません。

 次に、微生物学的にストレプトコッカス(レンサ球菌)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)、サルモネラカンピロバクターが、血液や心臓・血管と「相性が良い」ように見えるのかを調べてみようと思います。特にサルモネラは感染性心内膜炎では多くはなかったことや、カンピロバクターが細菌性心筋炎だけで多いので、その辺りの差も気になります。


 

3.微生物チェック

 それでは細菌性心筋炎、感染性心内膜炎、感染性動脈瘤でよくみられたサルモネラカンピロバクターブドウ球菌、レンサ球菌について、それぞれの細菌を調べていきます。

 

3-1. サルモネラ

 サルモネラ属(Salmonella sppグラム陰性桿菌であり鞭毛があり、腸管に生息する細菌です。サルモネラといっても、様々な菌種があり、さまざまな感染症(消化管、髄膜炎、敗血症など)を引き起こします。菌種によって、サルモネラ症、腸チフスやパラチフスチフス症)を引き起こすかが異なってきます。そのうち、今回の話題に関連しそうな部分をチェックします。

 

チフスおよびパラチフスチフス症)

  • いわゆる敗血症型のサルモネラで、S. enterica serovar Typhi、S. enterica serovar Paratyphi Aが代表的でヒトのみが感受性を示す。
  • S. enterica serovar SendaiS. enterica serovar Narashino、S. enterica serovar Meleagridisなども類似疾患(敗血症型)の原因となることがある。
  • 経口的に摂取された菌は小腸粘膜に侵入し、約1週間の潜伏期ののち、腸管粘膜下リンパや腸間膜リンパ節で増殖する。感染成立には10,000~1,000,000,000個の菌が必要とされているが、さらに少量に菌による発症もありうる。菌はさらにリンパ管より血中に入り、敗血症状態になり悪寒高熱などをきたす。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 敗血症型となれば、血液中に菌が証明されることがある通り、血液から感染性動脈瘤や細菌性心筋炎の起炎菌になりやすいのも納得できます。また、感染性心内膜炎の疣贅から敗血症というよりも腸管のリンパ節から菌がやってくるとでもイメージすればよいのでしょうか。

 

 

3-2. カンピロバクター

 次にカンピロバクター属(Campylobacter sppを調べてみたいと思います。グラム陰性スピロヘータ、らせん型(”カモメ”に見える形)をしている菌ですね。カンピロバクターというと「鶏肉を食べてC. jejuniによるカンピロバクター腸炎!」というようなものを真っ先にイメージする人もいるかもしれませんが、しっかりとチェックしてみたいと思います。

 

カンピロバクター

敗血症や髄膜炎などの重篤感染症(全身性カンピロバクター症)をも引き超こす。

 

C. jejuni subspecies jejuni

C. fetus subspecies fetus

  • ウシやヒツジの流産を引き起こす菌であるが、ヒトにも感染する。
  • 免疫不全者や易感染性宿主(特に心臓弁膜症患者)に感染し、敗血症、髄膜炎、卵管炎、退治感染、流産などの全身性感染症が起こり、妊婦や新生児に重篤な病態を誘導する。
  • 小児などではまれにカンピロバクター腸炎に続発して、敗血症や髄膜炎が併発することもある。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 こちらは、代表的なC. jejuniをはじめとするカンピロバクター属の細菌が全身性感染症に至ることがあるということや、その中に敗血症髄膜炎があるということの復習になったと思います。個人的には、カンピロバクター腸炎の発症初期がインフルエンザ様の症状で来ることもあるということも思い出した次第でした。



3-3. スタフィロコッカス属(ブドウ球菌

 グラム陽性球菌の代表格のひとつのスタフィロコッカス属(Staphylococcus sppで、ブドウ球菌という名とともにブドウの房状のイメージが湧く人も多いと思います。

 

  • 黄色ブドウ球菌は後述する種々の病原因子を持ち、皮膚表層に化膿層を形成するばかりでなく、組織内に侵入し、人体の種々の防御機構に打ち勝って人体内で増殖する能力が非常に高い。
  • 人体に保持されている菌は、皮膚や粘膜の障壁が損傷を受けた部位から体内に侵入し、その部位で増殖を開始し、化膿巣を形成する。さらに宿主の防御機能に打ち勝つと、初期の感染巣から組織内を転移し、あるいは組織末端の毛細血管から血中に入り菌血症を起こして全身に波及するなどして、体内に広がり、その結果、蜂窩織炎、深部膿瘍、肺炎、骨髄炎、心内膜炎などの重篤な深部感染症を起こす。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 ブドウ球菌の中でも特に黄色ブドウ球菌病原性が強いとも考えれば、今回調べた細菌性心筋炎、感染性心内膜炎、感染性動脈瘤で比較的みられる理由として納得だと感じます。とりわけ、化膿性疾患と毒素性疾患と分けた際の化膿性疾患としての側面として、ヒトの体内で増殖する能力が高い菌が体内で増殖した結果起こるとして納得です。サルモネラのようにリンパ管から血液に至るというような「血液が特に好き」(血液に入りやすい経過がある)というようなイメージよりも、増殖して最終的には血液にも至るというような印象を受けました。そして、細菌性心筋炎の重症の敗血症を伴う場合に黄色ブドウ球菌が多かったということも、増殖能力の高さや化膿性疾患として血液に至り勢いがあるようにみえることから腑に落ちやすいと感じました。



3-4. ストレプトコッカス属(レンサ球菌)

 ストレプトコッカス属(Streptococcus sppといえば、グラム陽性双球菌肺炎球菌S. pneumoniae)を真っ先に連想したかもしれません。レンサ球菌といっても、溶血性でα溶血だの、β溶血だの、さらには抗原(A群、B群、…)というように分類は多岐に渡ります。それでは、関係がありそうな部分をチェックしてみたいと思います。

 

A群レンサ球菌S. pyogenesによる急性感染症

  • A群レンサ球菌S. pyogenes(化膿レンサ球菌)による疾患には、①咽頭炎pharyngitisや蜂巣炎cellulitisなどの急性化膿性疾患や敗血症、②外毒素性の猩紅熱scarlet fever、③続発性と呼ばれる急性糸球体腎炎やリウマチ熱などがあり、その病像は多彩である。

B群レンサ球菌による感染症

  • 直腸および膣の常在細菌の一部として存在し、新生児期および産褥期の母児感染が問題となる。
  • 米国では分娩時ないし周産期に菌の定着を受けた1,000例の新生児感染につき0.7~3.7例に敗血症、肺炎、髄膜炎などの症例が報告されている。

肺炎レンサ球菌による感染症

  • 肺炎レンサ球菌S. pneumoniaeは、市中感染による肺炎の重要な起因菌である。
  • 肺炎以外の感染症として、中耳炎、心内膜炎、関節炎、腹膜炎、軟部組織の炎症などがある。

ビリダンス(緑色)レンサ球菌による感染症

  • 亜急性心内膜炎の30~40%がビリダンス(緑色)レンサ球菌によるとされている。主な起因菌として、S. sanguis, S. mitis, S. ordlis, S. gordonii, S. mutans, S. salivariusなどがある。

(出典)標準微生物学 第11版、医学書院、2011

 

 B群レンサ球菌は周産期ですが、A群レンサ球菌肺炎球菌感染症の一部として敗血症や心内膜炎もあるというように、あまりはっきりしないまでも黄色ブドウ球菌に似たものや感染症のタイプの多さを感じました。それにしても、レンサ球菌は種類も感染症のタイプも多くて、奥深いですね。こうやって読んでみると、カタラーゼ非産生の話やら、緑色レンサ球菌も忘れないようにしたいと想起させてくれるものです。

 

**********

 今回は、特にサルモネラのような移動していく過程で血液と親和性の高いような菌から、黄色ブドウ球菌のように化膿性疾患から血液に至るというような増殖能力の高さゆえのような菌まで、それぞれの特徴が垣間見れました。

 まだまだ細菌の病原性や生物学的特徴、さらに疫学や感染症のタイプを調べると、興味深そうです。もちろん、教科書のみならず文献を探してみるのも楽しそうです。今回のこのセクションの細菌ごとのチェック、微生物学・細菌学(基礎医学寄り)の振り返りが、次の興味を搔き立てるきっかけとなれば幸いです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。しっかりとした解説と情報量のハリソン内科学や、感染症に興味がある人にとって持っておきたい微生物学の本のひとつとして、アマゾンの読者レビューなどが気になる方はチェックしてみてください。

 

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読書Log:『News Diet』

~情報があふれる世界でより良く生きる方法~

 

 ご覧いただきましてありがとうございます。下記URL(リンク先)へ変更致しました。お手数をおかけいたしますが、下記ページよりご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

【関連記事】

読書Log: News Diet|情報があふれる世界でよりよく生きる方法

読書ログ(書籍紹介)
News Diet ~情報あふれる世界よりよく生きる方法

ロルフ・ドベリ (著), 安原 実津 (翻訳)

 

<目次>

 

 

 情報収集という意味でニュース(ネット、テレビ)だけでなく、FacebookTwitterYouTube、さらにはYouTubeでの切り抜き動画、リール動画に触れる機会があります。広い意味情報に触れる際の関わり方を考える上でも参考になる書籍だと思い、読書ログとして紹介させていただきます。
 また昨日(7月8日)、奈良県内で街頭演説中の安倍元首相が銃撃されるというとても悲しい事件がありました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。長期政権化による必然的とも考えられる問題、政治思想の違い、少数派意見の反映問題というような様々なそれぞれの思うことはあったかもしれませんが、暴力へ至ってしまったのは残念だと思います。暴力や人格攻撃ではなく、自分が成長・成功してその人より幸せになることが「復讐」になると思っています。
 銃撃事件以降、様々なところでニュースとなったり、ニュースだけでなくデマや陰謀論から、感想のような根も歯もないような情報も錯綜したりしているようです。民度と民主主義、マスコットとしての政治家・職業政治家、ポピュリズムなどの様々なことが頭をめぐる明日の参議院選の最中ですが、このような事件からもニュース・情報との向き合い方も含めて、少し加筆して本日(7月9日)公開に致しました。

 

 

 

1.【こんな人におすすめ】

  • 短い情報たくさん浴びている
  • 毎日ニュースを隅々まで見ることが必要だと思う人
  • 発信型SNSとの向き合い方を考えたい人

 以前、読書ログで紹介した『スマホ脳』に近く、毎日見るようなニュースには中毒性があり、浅いニュースをチェックしない方が時間も有意義に使えるというような、かなり振り切った内容であると感じます。しかし、その中にヒントが隠れているのではないかと思い、読書ログにしました。

 もちろん、「ニュース」と考えているのはネットニュースやテレビのニュースだけではありません。TwitterFacebookをはじめとするSNSの投稿もニュースと同じ側面があるものも多く、SNSでの情報も含むと考えています。さらには医療系で言えば、医療サイト等から送られてくる様々な宣伝のようなメール等も入ると思います。気軽に見ることができるひと口サイズのようなニュース情報感想のような投稿にも当てはまると言えば良いでしょうか。古典的なニュースだけでなく、情報取集のためにSNSを使ったというきっかけから泥沼にはまってしまっている人にも役立つと思います。

 短い情報やSNS見すぎることも、昨年の読書ログの『スマホ脳』と同じく、「暇つぶしで人生を終えたいですか?」と自分に問いかけながら、考えてもらえればと思います。

 

 


2. 身近なところ当てはめる

2-1. ニュース「対極」位置するもの

「ニュース」の対極に位置するものは、長い形式のもの―新聞や雑誌の長文記事、エッセー、特集記事、ルポタージュ、ドキュメンタリー番組、本などだ。それらの多くが伝える内容は有益で、新しい知識やものごとの背景情報をもたらしてくれる。
(出典)ロルフ・ドベリ,News Diet,サンマーク出版,2021

 確かに、ニュースSNSでの短い情報は手軽で読みやすい(消費しやすい)ものの、たくさん消費したからといって、新しい知識やものごとの背景知識が増えたりすることは少なく、満足することは少ないように感じます。もちろん、長い読み物でも良くないものもあるので、途中で先を読み進めるかの判断は必要でしょうが、短い情報の印象の受け方には気をつけた方が良いと感じることがあります。

 他にも、X(旧Twitter)やリール動画だけでなく一部ニュースも含めて、短いものは確かに気軽に消費しやすいといったメリットも感じます。しかし、中毒性を感じたり、不安感情を煽るような部分ばかり切り取ったり、短いゆえの誤解があるように感じます。中には、有名人のSNSが炎上していることを新聞社等が後追いでネット記事にするという見る価値のないアクセス稼ぎのような切り取り記事まであります。

 さらには文章を読めたように感じている思慮の浅い人からの内容の逸れた返信もあります。「Aと考える」という発言に対して、ただ「Aではない」と理由などの記載もなく返信してくる(同意・賛同でもなく、建設的な意見でもなく、なぜ返信するかも分からない)というようなリプライや、価値観をわざわざ返信で正義のように押し付けてくるリプライもあります。

 日本の先行きを案じるようなX(旧Twitter)ので、「それって、あなたの感想ですよね」(しかも、先の議論にもつながらない)とか、「それ、返信にする意味ありますか。あなた自身で発信してください」と言いたくなることもあります。だからと言ってTwitterに全く価値がないわけでもなく、便所の落書きのようなものや吐き捨てられるような言葉にも、表では言いにくいものとして参考になる部分もあります。何かを進める際に差し障りのないキレイごとだけでやっていてもうまくいくわけでもなく、参考にしたいときに見る程度で良いでしょう。

 

 通知を切り、自分の集中力を削がれないようにして、時間があるときに・返信してもいいと思ったときに、お付き合いする程度でいいと思っています。揚げ足を取るような反論も生まれやすく、お付き合いの仕方であると思います。過去に『スマホ脳』を読んだ際の読書ログでも、スマホの通知の制限について記事にしました。よろしければ、そちらもご覧ください。

 

 


2-2. 「盛る」こと注目集める

 短いニュースや情報にもメリットはあると思っています。タイトルの作り方・盛り方や人が注目を集めるヒントになること、さらに盛り方を知ることで盛られたものを距離を置いて見ることがしやすくなることだと思います。さらには、話題を知り、調べるきっかけにもなりうることもメリットだと思います。もちろん、週刊誌や月刊誌を見てから調べるのでも良いと思いますが、より多くの人に何かを発信する際のヒントが隠れている気がします。

 一方で、短いものを順々に見ていき、時間を浪費してしまったり、中毒になりやすいというようなデメリットや、切り取った部分だけを見て印象が変わってしまうなリスクもあると思います。中毒性の一因に「盛る」ということがあると思う面があるので、以前読んだ本から紹介します。

日常を「盛って」ツイートし、いろんな人に「すごいね、すごいね」と言ってもらいたいんだそうです。(中略)この子が日常的にやっていた「盛る」というのが、デジタルネイティブの文化だと思っています。
(出典)岡田斗司夫,ユーチューバーが消滅する未来 2028年の世界を見抜く,PHP研究所,2018

 ひとつの考え方として納得できる部分があります。もちろん、デジタルネイティブ世代が少し仕事を頑張ったとしても生活そのものが良くなることはなかなかないというような、「盛る」ことが流行る現状も悲しく感じますが、「これだから、デジタルネイティブは…」ではないと思っています。発信者側の盛り方の程度盛ってると知らずに情報を吸収してしまう側の両方に問題があると思っています。

 ニュースや情報収集で言えば、ニュース情報の見出し「盛って」いるのと似たようなものは多くないでしょうか。分かりやすい例として、日韓の問題にしても、「それは総意ですか。あくまで偏った人はどこにでもいるので、それをまるで総意のように取り上げられても…」と感じることがあります。他にも、震災の衝撃的な場面を切り取ったり、ある人物の物語を喜劇・悲劇の感動ストーリーに仕立てて紹介したりします。これはニュースも体験記もそうですが、ストーリーを用いることでn=1の話をあたかも一般的な話のように話したり、具体的で感情煽られやすく、説得されたよう錯覚しやすくなったりしています。

 何にしても、そんな一部のことを取り上げて総意であるかのような盛り方をする、感情的に煽られやすい、錯覚しやすいなど、見る側も意識してみる必要があると思います。そういう意味では投資の際の術のような数値(特に率)や統計といったデータでみるような視点と両方を意識することは有効だと思います。何より、そもそもそんなにニュースを見なくてもいいような気がします。

 

 盛っている最たる例がゴシップをはじめとする日本のトンデモ週刊誌でしょうか。下手すると、リークした人側の一方的なものであったり、とにかく注目を集めやすい人物の話であれば何でもよく、盛っている通り越しているかもしれないものもあります。しかも、何年も前の終わった話を「今さら」というようなものもあります。例えば、結婚が決まって何年も前に付き合っていた人の話など、お付き合いしていた人のリベンジポルノのような妬みのようなものでしょうか。

 何より、週刊○○、文△砲、A新聞社というような社会正義のフリをして書いている彼らが一番儲けているのではないでしょうか。もしくは、すでに多くの人からの需要は枯れているそっぽを向かれている)のに廃刊にならないために良識を失って暴走しているのでしょうか。

 中には、実名報道の必要性もないものまで「公人」として公開したり、勝手に責任追及したりして騒いで世論誘導しているように感じるものもあります。訂正せざるを得ない場合でも、ネット記事を消してお詫びはほんのオマケ程度というお粗末さも目立つところがあります。不倫報道など、その最たる例で第三者の首を突っ込むことでも、騒ぐことでもなく、親族等の当事者同士で解決すればい良いでしょう。

 芸能人によっては事務所の支配関係の維持のためとか、名誉棄損の慰謝料よりも週刊誌の売り上げの方が高いとか様々なことが考えられます。他にも、「一般人」等のリークした側も、作話をはじめ警察等にちゃんと調べられたら困ることでもあるのでしょうか。犯罪であれば警察に持ち込んで、民事であれば弁護士にお願いして、法治国家として司法で裁判所で裁いてもらうもののはずです。そして裁判等の事実・結果を週刊誌や新聞社は報じればいいはずです(逆に某事務所の小児性犯罪のように騒がないものもあります→2023年にBBCの報道が発端で騒ぎ始めて記事になりましたが…、売れるからなのか、今さら感がします)。煽られやすい一部の大衆を煽り、都合よく個人的な問題を裁いたり、支配関係を維持したりしていいのでしょうか。

 

 先日、医療系ではm3.c〇mで「救急車が来てもスマホばかり見ている医学生」という盛ったというのか、煽ったようなタイトルを見ました。本当かも分からず、状況等の詳細も分かりません。あくまで、どこまで本当か分からない、n=1の事例から感情に上手に訴えかけているとも言えます。ニュースサイトにしても、ましてやm3.c〇mにしてもアクセスをもとにしたビジネスであることを踏まえて、自分なりの対応を決めればいいと思います。それこそ、注目や炎上しやすいニュースのようなものはアテンションエコノミーとして、稼ぐための手段として利用されています。

 

 短い・浅いニュースやSNSの短い・浅い情報を娯楽ではなく、ニュースとしてたくさん探し求めるぐらいであれば、長く深い情報しっかりと読み進めていくというような姿勢を意識しつつ、これらとの向き合い方も考えていければ有効だと思います。個人的にはSNSもかわいい犬や猫の画像・動画、リール動画というようなものや娯楽に近づきつつあり、SNSは情報収集の媒体でななくなりつつあります。しかし、SNSには自分の信じたいもの/見たいものだけをアルゴリズムで表示されていく部分があり、情報収集が被ると危ない一面があると考えています。ある程度長く深いものに触れるためにも、比較的まともだと考えられる週刊誌・月刊誌ベストセラーの書籍なども、興味のあるものに加えてみてはいかがでしょうか。

 

 

2-3. 解決志向でないもの多い

 他にも、SNSニュース解決志向でないことが多いと考えられます。投稿型SNSでの「すごい人」に会いました報告のようなものも手段などとして参考になる部分がないことも多く、それと似ていると思います。

 

ニュースは、緊急の医療処置や企業再建や戦争地域での救命活動については報じても、それらの出来事が起きるのを防ぐための行為は報じない。
(出典)ロルフ・ドベリ,News Diet,サンマーク出版

 これが、似たような話題のニュースをいくつも見ても意味があまりない理由のひとつであると思います。2-2の「盛る」のと同じように、話題になること・アクセス数を稼ぐことが目的である面が強いと考えています。そうであれば、ニュースをゼロにするほどでなくても、何度も見る必要性はないと考えています。

 芸能・スポーツニュースのようなものは言及するまでもなく、他にも交通事故や一時期の客には実害のないバイトテロもクローズアップされているものもあります。具体的に解決志向でなく「運転気をつけましょう」という程度のメッセージにしかならないものがほとんどであると思います。車が大破していたり、ぶつかった瞬間のような動画のように絵として注目されやすいものかもしれませんが、交通事故も珍しいものでもなくそこまで見ている意味はないと思います。もちろん、その地区に住む人であれば、そこにガードレールをつける、信号設置を考えるというような具体的な解決策を町内で考えられると思いますが、テレビやネットで見ている人には「気をつけようね」程度であると思います。もちろん、そのようなものをYouTubeで娯楽で見ているような人もいるので、ニュースとしてチェックする必要があるかという視点では気にする必要がないと思います。

 


2-4. ニュース見なくても大丈夫? ~ワークやって~

 この書籍の中には、ワークもありました。ニュース過去10年ぐらいに渡って書き出しつつ、自分自身大きな出来事結びついているかを振り返るものです。2つも衝撃なことがありました。

 

 1つ目頭の中にニュースがほとんど残っていないことが衝撃でした。恥ずかしながら、真っ白な紙を前にして思い出したニュースは平均でわずか1件ちょっとでした。それだけニュースを見ても何も覚えていないことが露呈しました。

 

 2つ目は、ニュース自分自身の大きな出来事が特に関係ないものばかりでした。留学やキーパーソンとの出会いといった大きな出来事は、ニュースとは関係ないことがほとんどでした。

 関係があったものと言えば、菅前首相による携帯電話値下げ指示による恩恵・自身のモバイル通信環境への良い影響、コロナによる留学中止やフライトの予定変更、2022年に入ってからの円安(130円、135円)と為替取引、さらには円安によるドル支払いの見直しといったものでした。今、デイトレードをしているわけでもないので、個人的には毎日、ましてや1日に何回もニュースやSNSで情報をチェックしている必要もないと思いました。

 最近では、2022年4月にあった知床遊覧船沈没事故の報道はかなり盛り上がっていたようです。報道内容の深さ汎用性の問題もしかり、直接関係のない人が多いのではないでしょうか。さらには事実関係だけでなく、「それ、関係ある?報道することが必要?」と感じるような遺族や周囲の人のコメント、記者の質問をはじめ、ワイドショー化がされていたように感じました。さらには無関係な人からの苦情のようなものまで、日本の問題がある程度凝縮されたような印象を受けました。この事件の際の報道と同じように、ニュースになるものごと(話題になりやすい、世間が炎上しやすいものごと)と、自分自身の生活に影響があるもの解離のある人が多いと思います。

 さらに有名になることで有名税とも言うような情報(情報というよりも感想や、その報道とは本来の部分とは無関係なプライベートな部分)が増えていくことも残念でなりません。公的な機関の汚職といったようなことではなく、芸能人のスキャンダルをはじめ私的なことを報道してる辺りも好きな分にはお好きにどうぞと思いますが、報道する側野次馬のような反応をする受け手側も残念であると感じます。ネットニュースだけに限らずSNSでも同じ傾向があるものもあると思います。

 

 ニュースを見ないと一般的な人との話題なくなるというような心配をする人もいると思います。しかし、おそらくそれぐらいの大きな話題となるものであれば、その話題は自然と耳に入るでしょう。その人から教えてもらったり、後で気になったら調べたりすればいいと思います。

 私自身、東日本大震災の時は偶然岡山にいたことで本震の揺れを直接感じることもありませんでした。15時すぎ(?)に岡山駅に着いて、新幹線の改札口に人があふれていたことから、新幹線の運転見合わせを知りました。もちろん、その後に個別で心配してくれた人から連絡が来るようなこともありました。自分自身に直接関係あることは、このような形でニュースに過敏にならなくても伝わると考えています。

 コロナも生活に関係があるものの、いつテレビを見ても感染者数が増えた・減ったというような劇場状態で、識者のフリをした御用学者の問題とか、コロナ以外に他に考えないといけないことはないのかとか、そんな何回も見る必要性はないような情報が多かったと感じます。むしろ、コロナに関してはCDCをはじめとする英語情報の方が科学的でしっかりしていそうなものが多かったと感じますし、不安をあおる側面が大きかったと思います。自分自身で必要な情報を得に行く必要はあるものの、きっかけ程度でやはり何度も見る必要はないと思います。テレビやニュースサイトにアクセスすれば、自動的に何度も見るという状況を回避するためにもテレビはいらないと思った次第です。イベントのキャンセル、フライトのキャンセル・変更というようなものは予約時の登録メールへ届きますし、直接的に関係があるものは直接連絡があったり、緊急事態宣言であれば周りから話を自身のニュースチェックより先に聞いたこともありましたし、最悪お店で直接知るというようなパターンで知ると思います。テレビやニュースサイトのような情報を1日見過ごしても特に問題ないと思います。

 

 昨日(7月8日)の銃撃事件も、自らニュースを見て初めて知ったというわけではなく自然と他者との連絡で耳に入ってきたもので、自らも少し確認をする程度に留めています。そして、人が亡くなることを悲しいと感じずにはいられないながらも、現実として安部派勢力への影響と今後(例:金利政策の今後とそれによる円高・株安の可能性)について考え、私も方向転換していくことになるのかなと考えています。もちろん、私の場合は生活に影響がゼロとは言えないようなニュースです。
 しかし、昨日の銃撃事件に関しては下記の程度の事実確認をする程度です(まだ殺人の経緯等は何とも言い難いです)。そして、東日本大地震のように悲しいニュースの繰り返しに近くなりそうな予感やマスコミ各社のテレビによる情報のフィルター(規制、忖度等)もある予感もするので特にテレビを見ることもありません。この悲しい訃報だけでなく、SNSを含めてコメントでの炎上デマ情報等、感想のような情報(殺人犯や警備について等)の氾濫、何度も感情・衝撃的に訴えられることによる不要なまでの感情の落ち込みも予想されそうなので、そういう何らかの問題のありそうな状況とは距離を取ってしっかり見ていければと思っています。過剰報道による不安社会的証明の罠の問題が生じると思います。もちろん、この事件は失われた30年や「無敵の人」問題、民度と民主主義、国民による「有名税」、有能な実業家からみた真っ向からの政治参入へのインセンティブのなさ、職業政治家など、根深い社会問題が根底にはあると思いますが…。

 

 ひと口サイズ同じようなニュース・情報を追いかける/追いかけてしまうぐらいであれば、世間でニュースにはなりにくい専門性の高い話のフォローアップや、しっかりと調べられている新たな視点をくれる週刊誌や月刊誌による記事、さらには書籍での応用性・汎用性の高い情報消費期限の長い情報に触れる時間にしたり、ひと口サイズのニュース・情報から離れてゆっくりする時間にもあてた方が良いと思います。
 まずは、試験導入として1週間だけ今見ているニュースを全部やめてみて問題が生じないかをチェックしてみる、さらにはやめる時に「もし問題があったときに復活させるニュースはこれ」というのの優先順位も決めてみてはどうでしょうか。もしくは、見ているニュースがテレビやネットの浅いものであれば、次のようにチェックする媒体を変えてみるのもいいかもしれません。

 

 

【補足:具体的な媒体の例】

 普段、何気なくみているニュース媒体を限定する、もしくは週刊誌、月刊誌のようなものに変えるというのはいかがでしょうか。次のような物があると思います。

 日本語版もあるものがあります。他にも素晴らしい雑誌・書籍もあると思います。編集権が比較的独立していそうな雑誌を探してみたり、立場が分かりやすい雑誌をその立場込みで読んでみたり、複数の立場の雑誌を読んでみたり、広告の塊(ステマ)のような雑誌を排除してみたりすると良いと思います。
 他にも、新聞社のニュースを毎日見たいという方は、1面だけとか、5分だけとか制約をつけて、国内紙以外にもNew York Times、Al Jazeera、BBC、CNN等もあると思います。変なニュースを見るよりは、それぞれの立ち位置も分かりやすく参考になりやすいと思います。もし、テレビニュースを見ているのであれば、まずはテレビを辞めて、これらに変えるのも良いと思います。YouTube等でも露呈したように活字を読めない人問題さえクリアできれば、動画である必要性はないものが多いと思います。テレビを昔の引越しで廃棄してから、意識せずに気がつけば時間を浪費していることがなくなりました。ボケーっとしたい時に何もせずに本当にボケーっとすることもできます。

 医学の分野で言えば、New England Journal of Medicine、Lancet、JAMA、BMJといった四大誌に加えて、専門分野で信頼性のあるJournalや学会誌に目を通すぐらいことをルーチンに抑えておけば良いと思います。もちろん、これだけすべてに目を通せていたら、素晴らしいと感じますが、商業用で引用元も分からないような、嘘か本当かも分からない、科学的ではない医療系っぽいページをグダグダと眺めるよりも、一部だけでも/タイトルだけでも目を通す方が役立つと思います。

 

 

 

3. 時間使い方上手とは

 情報は、今日ではもはや乏しい資源ではない―だが、注意力は違う。なぜあなたは、自分の注意力をぞんざいに扱うのだろう? 自分の健康や評判やお金に対しては、あなたはもっと気を使っているはずだ。

 古代ローマの偉大な哲学者、セネカはすでに2000年前にこう疑問を呈している。「お金のことになると私たちは倹約家になる。それなのに、時間に関してはとんでもない浪費家になる―私たちが本当に倹約すべき唯一の財産は、時間だというのに」
(出典)ロルフ・ドベリ,News Diet,サンマーク出版,2021

 

 これを全てがその通りだとは思わないものの、一度取り入れてみる価値はあると思います。確かに、情報のために注意力がそがれている面があると感じます。特に、SNS上での情報収集に伴う通知他の情報に気を取られることで、時間を奪われがちです。
 確かに、時間は皆に等しく与えられたものであるから、予定がぎっしりであった方が良いというような意見もあります。時間の充実さが何をしても一緒であるならば、何かをしていた方がいいかもしれないというのも理解できます。しかし、スケジュール表の空白を埋めるために休日やアフター5まで、とにかく予定で埋めている場合はどうでしょうか。特に学びたいと思いもしないけど、何もしない時間を過ごすなら、という程度の思いでどこかですでに聞いたことのあるようなセミナーを聞いていただけ、というようなこととがないでしょうか。さらには、空いた時間がもったいないから、空いた時間に情報収取を兼ねてSNSをやっているというような人も、気がつけば貴重な時間を失っているかもしれません。
 空いた時間があるときに「予定を空白にするのがもったいない」という理由で、目的もなくそれらしい予定を作って埋めているのであれば、この考えを取り入れて、何もない時間ぼーっとできる時間作ってみること有意義であると思います。
 何もない時間のふとした思いつきから、楽しいことができるかもしれません。久しぶりにぼーっと眼に入った本棚の本のタイトルにひかれて新たな本を読んだとか、空いた時間にカフェに行って綺麗な写真をみて、そこへ旅行に行こうと思い調べてみたとか、身近なところに新たな出会いがあるかもしれません。バランスの問題でもあるとは思いますが、普段から脅迫されるかのように忙しくしている人には、「何もしない時間」に充実感があるかもしれません。

 

 医学の中でさえも、すべての分野の情報をすべて知ろうとしても知ることができないほどに情報が増えています。昨今では、必要な情報の選別情報の収集の仕方情報へのアクセスの仕方情報を鵜呑みにせずに考える力といったことへシフトしていった方が良いと思います。そのためにも情報との関わり方を見直すひとつとしていかがでしょうか。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンをはじめ、様々な方の読者レビューが気になる方はチェックしてみてください。

 

 

【関連記事】

 ネットやSNSの短い・浅いニュースや情報との向き合い方とセットでよろしければ、スマホも対策してみませんか。よろしければ、ご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

網状皮斑(livedo reticularis) ~敗血症性ショックとMottling Scoreまで~

網状皮斑(リベド, livedo reticularis)

敗血症性ショックMottling Socreまで~

 

<目次>

 

 

 網状皮斑(リベド, livedo reticularis; LR)をフラッシュバックのように思い出すことがありました。救急外来で敗血症が疑われる状況であったこととともにMottoling Socreが頭に思い浮かんだことも思い出しました。網状皮斑は赤色から紫色の網目状の皮疹であり、抹消循環不全で生じること、さらには血管炎やLPSといった様々な疾患で生じると聞いています。網状皮斑の原因には具体的に何があるのか、実際に敗血症性ショックで使える指標であるのか、具体的に深掘りしてみたいと思います。



1.網状皮斑(livedo reticularis; LR)

 まずは、網状皮斑の概要を調べてみます。意外にも(?)、ベイツ診察法のような教科書の索引には記載がなく、UpToDateで検索したところ専用ページがなさそうでした。初めからReview等に頼ろうと思います。

 

  • 網状皮斑(livedo reticularis)は、一過性または持続性の赤青色から紫色の網目状のチアノーゼ模様を特徴とする皮膚所見である。網状皮斑は、様々な生理的および病理的状態において生じうる皮膚血流障害の徴候である。乳児期の大理石様皮膚炎のように良性の場合もあれば、ループス血管炎のように重篤な場合もある。
  • 多くの過程で血流が低下し、網状皮斑を生み出す可能性がある。しかし、先天性毛細血管拡張性皮膚炎(CMTC)、甲状腺機能低下症、特発性LRなどの特定の疾患に関連する網状皮斑の病因は明らかではない。

Figure: Livedo Reticularis - PMC

(出典)Indian Dermatol Online J. Sep-Oct 2015;6(5):315-21. doi: 10.4103/2229-5178.164493.

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記はFree Articleなので、網状皮斑皮膚写真を含め見てみてください。今回、主に取り扱うlivedo reticularis(LR)だけでなく、livedo racemosaの記載もあります。日本語の場合網状皮斑というと何を示すのか曖昧なところもあったり、文献で定義が曖昧なところもあります。livedo reticularisにMottlingも含めて話を進めていきたいと思います。

 一部の網状皮斑では病因は明らかではないものの、原則的には皮膚血流障害末梢血流障害の結果であると言えそうです。網状皮斑の原因も良性のものから2次性(続発性)のものまで様々であるようです。網状皮斑の原因を具体的に調べていきたいと思います。


 

 

2.網状皮斑の分類・原因

 次に、先ほどからの深掘りとして網状皮斑の分類原因を深掘りしていきたいと思います。網状皮斑の分類が原因を整理するのに役立ちそうなので、まずは網状皮斑の分類を軸にしつつ原因を調べてみます。

 

網状皮斑(LR)の分類

<全身疾患と関連のない網状皮斑>

 全身疾患と関連のない網状皮疹(LR)は、3つに分類されうる。主に、樹脂状の皮疹(リベド)の持続時間や環境温度との関連性に基づく。

 

生理的LR/大理石様皮膚(physiologic LR/cutis marmorata)

  • 寒冷暴露により生じ、温めることで消失する。
  • 新生児、肌が色白の女性に最もよく認められ、たいてい下肢にみられる
  • 未熟児によりよく認められ自然とみられなくなるものの、エドワーズ症候群、ダウン症候群、コルネリア・デランゲ症候群では生涯に渡ってみられることがある。

 

原発性(一次性)LR(primary LR)

  • 診断は除外診断による。
  • 基礎疾患がないことや、環境温度とは無関係であることが定義される。
  • 偶発的な動脈の血管攣縮は、動脈からの血液流入量を減少させ、組織の低酸素化と静脈血の脱酸素化を促進させると考えられており、特に局所的な低酸素による脱酸素と静脈拡張の結果であると考えられる。

 

特発性LR(idiopathic LR)

  • 原因不明の持続的な網状皮斑は特発性LRと呼ばれる。
  • 除外診断の対象であり、明らかに原発性LRと多くの特徴を共有しているが、リベドが持続する点で異なっている。

 

<全身性疾患と関連のある網状皮疹(続発性, Scondary LR)>

先天性

  • 乳幼児の網状皮斑の原因として大理石様皮膚(生理的LR)がもっとも一般的である。しかし先天性血管拡張性大理石様皮斑(CMTC)や経胎盤一過性血管炎(transplacental transient vasculitis)も原因として挙げられる。

薬剤性

  • アマンタジンを服用中の患者の最大40%に網状皮斑が発現し、継続使用により潰瘍に進行する可能性がある。

(出典)J Am Acad Dermatol. 2005 Jun;52(6):1009-19. doi: 10.1016/j.jaad.2004.11.051.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 先天性血管拡張性大理石様皮斑(CMTC)に関連することについても記述されています。CMTCを疑うヒントとなるような合併症の記載もありました。

 先天性以外の続発性の原因はとても多く、抗リン脂質症候群をはじめとする血液学的原因/凝固異常によるもの、血管炎、膠原病、塞栓/血管壁異常、薬剤性、感染症、腎細胞がん、炎症性乳癌、悪性リンパ腫といった悪性腫瘍、神経疾患、内分泌代謝疾患といった多彩な原因があります。慢性膵炎のような雑多な原因まであります。

 長くなるので、続発性(二次性)LRの説明は割愛しますが、次のような疾患などが詳しく紹介されています。抗リン脂質症候群とSLE、網状皮斑(LR)に脳血管障害を伴うSneddon症候群について詳しく書かれています。さらには、LRの原因となるクリオグロブリン血症、コレステロール塞栓症(CES)、敗血症における塞栓症、炭酸ガス動脈造影、カルシフィラキシス、高シュウ酸尿症、薬剤性(アマンタジン、ゲムシタビン、ヘパリン等)、感染症マイコプラズマC型肝炎ウイルスブルセラ、コクシエラ・バーネッティ(Q熱リケッチア)等)、悪性新生物(悪性リンパ腫など)、神経障害(反射性交感神経性ジストロフィー、自律神経系神経障害)などが詳しく説明されています。よろしければ、出典をご覧ください。

 原因の感染症の中に細菌による分類とそれ以外があります。その中に感染性心内膜炎も記載があります。敗血症とは病態は異なりますが、似ているともいえるでしょう。敗血症性ショックに陥れば、抹消循環不全から生じると考えられる部分も納得できますし、起炎菌次第であると考えれば、網状皮斑がみられて納得できると思います。

 

 他にもCovid-19(新型コロナウイルス感染症でも網状皮斑の報告もあります。末梢循環不全が生じることがあれば、網状皮斑が生じることは容易に想像がつきます。

  • 米国で COVID-19 と診断された 2 例は一過性の網状皮斑を呈し、いずれも無症状で片側性であり、それぞれ 持続時間は19 時間と 20 分間であった。両者とも発疹は、COVID-19の初発症状から10 日後に始まった。
  • 同様の皮膚症状が前向き研究の 1 例で報告されている。胸部、四肢に網状皮斑に一致する発疹を有し、Dダイマーが上昇していた(1,187 ng/ml)。皮膚生検では、明らかな血管炎を認めなかったものの、表皮の血管周囲のリンパ球浸潤と深部真皮のまれな静脈内の小さな血栓が認められた。

(出典)J Dtsch Dermatol Ges. 2021 Apr;19(4):530-534. doi: 10.1111/ddg.14353.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Covid-19でも血管内皮障害凝固異常のようなものが生じれば、さらには全身状態が悪くなれば、網状皮斑が生じることは推定できます。正直なところ、抹消循環不全が生じる病態であれば原因や誘因は何でもありであると感じました。Covid-19で生じる様々な皮疹についてまとめられています。網状皮斑は報告も少なく記述も少なめでしたが、興味のある方はご覧ください。

 網状皮斑そのものの疾患特異性はなく、むしろ抹消循環不全の病態を表していると考えれば、血管炎ショックのような病態の判断に活かすことができるとも考えられそうです。今回の症例に出会ったときに頭に思い浮んだMottling Scoreについて深掘りしてみたいと思います。


 

 

3.【Mottling Score】敗血症性ショックと予後

 Mottling Scoreとは膝を中心とする網状皮斑mottling範囲から敗血症性ショックの際の予後生存率)を予測する臨床予測ルールです。例えば、感染症が疑われるようなぐったりとした高齢者の診察でズボンをめくるついでに視診で確認できるので見てみるのもいいと思います。

 

Mottling Scoreのスコアリング

結果

  • Mottling scoreは死亡率の最も強い予測因子*であった [score 0–1 OR 1; score 2–3 OR 16 (4–81); score 4–5 OR 74 (11–1,568), p<0.0001]。
  • H6(集中治療室入室6時間後)のmottling scoreによる14日死亡率は、0-1点では13%であったが、2-3点では70%、4-5点では92%と上昇した。
  • 死亡時期について、mottling scoreの高い患者ほど死亡時期が早かった(p=0.0001)。スコアが4-5点の症例は1日目に多く死亡し、2-3点の症例は入院後2日目と3日目に死亡していた。 

*平均血圧〔<65, 65<, (mmHg)〕、心拍数〔<90, 90-120, 120< (/min)〕、中心静脈圧〔<8, 8-12, 12< (mmHg)〕、心係数〔<3, 3< (l/min/m2)〕、尿量〔0.5<, 0.5< (ml/kg/h)〕、動脈血尿酸値〔<1.5, 1.5-3, 3< (mmol/l)〕とMottling Score(0-1, 2-3, 4-5)におけるオッズ比を比較。

 

  • ベッドサイドでは、ショック蘇生時に皮膚の色調の急激な変化が観察され、mottling scoreの変化が有用である可能性が示唆された。H0(集中治療室入室時)ならびにH6のMottling Scoreの変化により予後を解析した。
  • 初期のMottlinig Scoreが0-1点の患者は除外し、初期に2点以上を示した患者(n = 38)に焦点を当てた。スコアが低下した13人のうち、10人が生存した(77%)。逆に、スコアが変化しなかった、あるいは上昇した25人のうち、生存したのはわずか3人(12%)であった。生存者の割合は、網状皮斑が改善するにつれて有意に増加した [OR = 21, 95% CI (3, 208), p<0.0005]。

 

  • Mottling Scoreの上昇は、乳酸値の上昇(p<0.0001)および尿量の減少(p<0.0001)と相関関係にあった。
  • SOFA スコアも mottling scoreと正の相関を示した(p = 0.0002).

(出典)Intensive Care Med. 2011 May;37(5):801-7. doi: 10.1007/s00134-011-2163-y.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Mottling Scoreに関していかがだったでしょうか。網状皮斑の範囲が広範となれば、抹消循環不全の部位が大きくショックが進行しているというように思考が結び付けやすそうです。定義的にはMottlingとした方が良いのかもしれませんが、この辺りもこのまま網状皮斑として進めていきます。

 あくまで、後ろ向き観察研究であったり、特に用いられている”H6”が「ICU入室6時間後」というように、ICUが基準になっている面があります。また、救急外来到着時と”H0”ですら少しはタイムラグがあるとも考えられます。しかし、集中治療に関わっている人以外でも、その手前(救急など)で診ることがある方にも参考になると思います。

 他にも、網状皮斑認めない敗血症性ショックの場合も十分にあります。網状皮斑を認めれば、予後の指標として分かりやすいものが見つかって運が良かったというような視点も必要だと思います。網状皮斑を認めない場合でも、ショックの診療として今回の論文でもMottling Scoreと比較されていた乳酸値尿量などもチェックすると良いと思います。Mottling Scoreのスコア階層ごとによるオッズ比との比較で、平均血圧、心拍数、中心静脈圧、心係数では有意差こそなかったもの比較されていますので、傾向をはじめ詳しく見てみると興味深いと思います。また、生存曲線(Kaplan-Meier解析)など、詳しい情報もあります。よろしければ是非ご覧ください。

 個人的には敗血症ショックの起炎菌と網状皮斑の関係も気になるところです。グラム染色で推測したり、培養結果を待ってスコアが確定するというような臨床予測ルールでは複雑になりすぎてしまいそうですね。



 今回の網状皮斑(livedo reticularis, mottling)はいかがだったでしょうか。原因も様々であるものの、病態とかけ合わせればMottling Scoreのように病態の進行度合いの判定使える場所もありそうと思ってもらえれば幸いです。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

初期研修 中断のトリセツ ~お休み90日までなら2年で研修修了可能~

初期研修中断トリセツ

お休み90日までなら2年研修修了可能~

 この記事を書いているのが6月ということで、初期研修1年目の先生は初期研修、とりわけオリエンテーション後の業務が始まって2カ月ぐらいが経った頃だと思います。慣れてきた反面、様々な物事が見えてきたり、疲れの出てくる時期ではないでしょうか。

 救急車のサイレンやPHSの音の幻聴が聞こえる程度ならよくあると思いますが、何度も何度も医者に向いていないと感じたり、職場に行くことを考えたら動機や発汗、胃痛などが生じたり、体調を崩したり、何かすぐれない・寝れない・疲れが取れない・分けもなく涙が出てくるというような不調はないでしょうか。「死にたい」とか、「私なんて生きていたって」というほどなら今すぐにでも、そうでなかったとしても「何で医者になったんだっけ?」というような暗く自問するような状態など、その兆候があれば、とりあえず研修から離れても大丈夫だと心に留めてください。

 初期研修開始1, 2カ月で研修先に対してかなりの違和感を感じていたり、1年も経たないうちに修了ができるかというような不安を通り越した障害問題が出てきている人もいるのではないでしょうか。そのような状況であれば、このまま関係部署と相談しながら休職等をはさみつつ続けていくという選択肢もあります。しかし、一方で中断して異なる研修先再開するという選択肢を考えておくのもいかがでしょうか。選択肢をひとつ増やすことは、それぞれが良い結果を手にする可能性を高める手段であると思います。中断も候補にして、後悔する可能性を少しでも下げるようにするためにも、初期研修中断という選択肢についてまとめてみたいと思います。相談を受けたりして知っている範囲で恐縮ですが、初期研修の中断を考えている人の一助となれば幸いです。

(注)初期研修の中断という場合、中断後に異なる施設で再開することを前提とした表現として使っています。同施設で再開する場合は、休養のための休職という選択肢も考慮の上、ご検討ください。休職を取りつつ、その病院で研修を修了させたいと考えている場合、解雇される理由なく自主退職・中断に追い込まれそうなときは、契約上解雇する正当性を確認したり、中断後の再開の確約を確認(証拠も確保)する等の対策をしてください。

 

<目次>

 

 

【必読】90日休んでも2年で研修修了!

<ここをチェック>

  • お休み(欠勤)90日までなら2年研修修了可能
  • 診断書をもらって休む

 

 悩んでいたり、疲れたり、症状が出てしまって、2年初期研修を終えられるか焦っている人はまずこれを頭に入れておきましょう!

90日まで休めます!!

 正式には、休み(土日祝といった施設のお休みを除く)90日を超えたら、その分修了日が後ろへ伸びます。自由選択の診療科の研修を先に終えている場合は必須診療科の過不足の調節でお休み日数が90日より短くなる可能性があり調整が必要です。まだ始まってすぐの期間であればその可能性も低いでしょうし、多くの研修プログラムで後半に自由選択となっていると思います。状況に合わせてまずは1週間など、診断書等を添えてお休みして余裕を取り戻しつつ、今後のことを考えてもらえればと思います。

 そしてお休みする際の後ろ盾として心療内科等を受診して診断書もらうことが手っ取り早いと思います。体調がすぐれない日に1日お休みをして、そのまま受診をしましょう。そこで診断書をもらい、その診断書を職場へ提出しましょう。診断書を提出され、お休み等の配慮が必要であるにも関わらず働かせていたというような状態で働かせていたとなると病院側は明らかにアウトになるので対応しなければなりません。

 

休止日数が臨床研修における休止期間の上限である90日を超える場合には、90日を超えた休止日数分以上の日数の研修を行うこと。

(出典)厚生労働省臨床研修を長期にわたり休止又は中止する場合の取り扱いについて

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000075407.html

 上記を含め、初期研修(初期臨床研修)の長期間のお休み(長期休止、休職)や中断を考えた際には厚労省ホームページをチェックすることをお勧め致します。

 原則、土日祝日の日直・当直のような業務はそもそも90日のカウントには入りません。いわゆる平日ローテーション先でのお休みの日数の合計です。時短勤務の場合は所定労働時間からみた割合になります。例えば、所定労働時間の半分(半日出勤)であれば0.5欠勤扱いになります。土日の日直等の代休制度やら救急科ローテーション不足がある場合は当直で補う場合もあるので複雑になってくるはずです。お休みが上限に近づくまでにその辺りもホームページや研修事務等で確認してください。


 

 

1.中断しようする前に 〜職場の問題点解決の可能性〜

 初期研修(臨床研修)を中断することが最善とも限りません。中断して新たな場所に行くよりも、休職をはさみつつ可能な範囲で改善しつつ、今の場所で終える方法もあります。まずは整理して判断するためにも、「なぜ今の研修先に違和感を感じているのか」書き出してみることをおすすめします。ぼんやりと悩んでいると、負のスパイラルに陥ったり、同じこと(しかも暗いこと)を何度も考えてしまうことになりそうです。複雑であると思っていたことを書き出すことや話すことで整理できたこともありました。それをここでも応用して、自分負担に感じる部分や要素を抽出できればと思います。もちろん、思い出すだけでも辛いという場合もあると思います。無理のない範囲で悩んでいることを書き出してみたりして、問題を少し距離を置いてみると、客観的に把握して解決しやすくなる人もいると思います。これからの文章をお読みください。

 また、初期研修のみならず病院という職場での問題点の整理に役立つかもしれません。初期研修医以外のお悩みの方の一助にもなれば幸いです。

 

 さて、中断を考えた理由に次のようなことが思い浮かぶかもしれません…。

 

  • 医学的な知識・技量不足
  • ハイパー/当直多さ
  • ハイポで3年目以降が不安
  • 上級医×診療科の問題
  • 価値観ハラスメント
  • 研修/教育制度形骸化
  • 自己研鑽/給料
  • 同期や研修医内での関係

※現時点で寝れない、まともに考えられないほど疲弊しているというような場合には早めに受診ののち、それに基づき勤務調節することをおすすめ致します。

 

 中断以外にも、お休み休職含む)や時短勤務(欠勤90日以内までは2年で初期研修終了可能)をはさみながら、その病院で初期研修を終えることもできます。病院の環境が悪いのであれば、中断に前向きになると思いますが、病院の研修環境(人間、研修制度、労働量等)はいかがでしょうか。仲間や環境には恵まれてるのであれば、休職をはさみつつも、そのままの病院で初期研修を終えるというのもひとつの良い手段です。これから、具体的な話へと移りますが、それぞれの点についてどういう場合により中断にむけて話を進めていくのかという際の一つの参考になれば幸いです。

 

初期研修中断のトリセツ 第1章のアウトライン



1-1. 医学的な知識・技量がついていけない

<ここをチェック>

  • 指導体制
  • バックアップ体制

 初期研修医になったばかりで何もできないことは一般的には当たり前だと思います。しかし、いつしか自分が卒業したての頃を忘れて/棚に上げてしまう人がいます。しかも、新研修医制度の是非は問いませんが、制度的な制約のもとで1-2カ月で各科を機械的にローテーションして、いろいろと慣れ始めたと思った時には次の診療科へというようなことも多いと思います。そのため、自分なりの向上心を持っていれば「気にしないで」と言いたいところですが、それだけで気にしないでいることができれば、そこまで悩んでいないでしょう。とにかく、他人との比較の代わりに過去の自分との比較だけにしましょう。

 具体的にチェックしてほしいところは、指導体制バックアップ体制です。手取り足取り教えていられるというようなことはまずないですし、さすがにそこまでだとむしろ成長へ逆効果となることもあると思いますが、いろいろとやらなければならないことに対して野放しやそれに近い状況は考えものです。他にも指導内容が人によって異なり、ダブルスタンダードで板挟みで苦しむこともあるでしょう。

 

 例えば、救急外来での当直や日直はいかがでしょうか。2年間ずっと日直・当直で救急外来に入る施設も多いと思います。人によっては研修医だけで救急外来の帰宅判断まで、ましてや救急車の症例でも1年目の途中から研修医だけで帰宅判断しなければいけないというような環境はあり得ないというような人もいるでしょう。一方で、断らない救急という名のもとでたくさん患者さんが来るために、「初期研修医だけで帰宅判断してもいい」と聞いていた制度のもと、実質的には初期研修医だけでも救急車症例でも帰宅判断して回さないと回らないというようなところもあるはずです。騒ぎがちな昨今の訴訟リスクを考えると断らない三次救急(重症例も来る)において、このような状況の研修医ほどプレッシャーを感じるかもしれません。何でも帰宅判断まですることや、そこまでのステップのなさバックアップのなさをとてもプレッシャーに感じているというようなアンビバレンスがあれば、そしてその当直回数が多ければ、より中断を考える材料になると思います。

 症例報告ポスター発表といった学術的な部分での指導体制は、市中か大学かというだけでなく直接指導してもらう先生の慣れや先生との相性もあるでしょう。強制させられているわけでもなければ、それで中断を考えることはないと思います。中断を考えている人であれば、ひとまずその辺りはやらずに、ベースラインをクリアするようにしましょう。

 指導内容・方針が人によって異なり、ダブルスタンダードという場合は、状況と程度によると思います。担当している患者さんの上級医ごとで判断が微妙に違うだけ(一人ひとり異なり、マニュアル通りには行かないので当たり前)のレベルであるのか、担当患者さんの上級医と相談した部分に関してさらに上級医からのカンファや相談での助言レベルであるのか、と様々です。この辺りは患者さんのアウトカムにも関係するのでもちろん分かります。一方で、合理性を大きく欠き我流すぎる広域抗菌薬選びを担当患者の上級医の指導を超えてある先生がしてきて研修医板挟みになる(指導医と他の上級医の「代理戦争」の被害者になる?)ようなことがあると思います。研修医の業務内容が書面等になっていないのに加えて、上級医ごとで裁量権がバラバラで一方では裁量を超えている・一方では仕事してないと言われてしまうかもしれません。特に後者は、改善が必要であると思います。研修担当部署から形式的に定めてしまうのも柔軟性の確保のために微妙な部分もありますが、板挟みの原因となるような先生を納得させる資料ができると解決できると思います。研修医だけでは厳しいことが多いと思うので、相談してみてください。



1-2. ハイパー/当直が多い

<ここをチェック>

  • 時短勤務が可能か
  • 当直回数調節が可能か

 ハイパーや当直の多さは体力との戦いとなってくる面も大きいと思います。人によって当直(体内時計の狂い)への強さ、日頃の残業(業務時間の長さそのもの)への強さも異なってくると思います。

 体力面だけでなく、体力面以外でも影響のありそうなことでハイパーに付随しうる状況もあります。例えば、9~17時以外は自己研鑽(サービス残業であった、自己研鑽ではないはずが給料を見て自己研鑽に変わっていると気がついた(例:上の先生が認めてくれて印鑑までもらった勤務簿でも事務で勝手に残業代が削られている)というような精神面・モチベーションとの戦い1-7にて後ほどお話します。

 当直回数に関しては、病棟直救急外来当直(ER当直)でも異なりますし、先生の移動や配置によるコンサル環境、先輩ごとに想定している当直の忙しさが異なることもあって感じ方が違ったりします。さらに当直明けの帰宅時間(連続36時間勤務は厳しい等)によっても変わってきます。マッチング前にある程度分かっていたとしても、定員割れによる当直回数の増加、ハイパーさや当直回数に関する情報の曖昧さなどがあるでしょう。(詳しくは、初期研修病院選び(マッチング)|研修先チェック項目etc >【補足】当直回数・勤務体系の客観的把握 をご覧ください。)

 しかし、すでにその病院で働き始めているので、中断して次の病院に移る際に考慮することになると思います。その際には当直回数や断らない救急といった主に体力面から、当直での指導体制(救急指導医の有無や人柄、判断に困る・精神的に困ることの程度)というようなものを学生の時以上に現場の現状を把握した目で自分自身に合わせてチェックできると思います。

 当直と少し似ていますが、待機(オンコール)主治医制当番制が機能していない、ファーストコールが研修医など)があるせいで落ち着けなくて、スマホの通知に敏感で寝れなくて、眠りが浅くて困るというような状況であれば、やはり要相談であると思います。当直もあって、待機もあって、ましてや当直(ほぼ徹夜)7~8回/月に、当直でない日は待機で夜9時から深夜3時まで緊急呼び出しで、翌朝から通常勤務(場合によってはそのまま当直)というような状況が何度も重なれば、体力だけでも厳しいでしょう。待機で呼ばれなかったとしても近くにそんなにお店もなく病院から20分とかしか離れられなくて買い物すら最寄りのコンビニしか行けないというような状況になっていれば、何日に1回はフリーになるように調節とかできるとよいと感じます。実際に実質14連勤(帳簿上は日直などの代休はあってもサービス残業)の月曜日を迎えた日には、金曜日には20連勤になるというようなことが稀ではなく、ありました。疲れがたまってくると、もはや良い医療とか考えて医者になっても「医療のことを考えるだけで憂鬱」「ぼーっとする」「単細胞のよう」と感じるような辛いこともあるのではないでしょうか。

 この問題の解決に関しては、当直回数や勤務時間の調節どの程度可能であるかということになってきます。自己研鑽でよくありがちなのは、業務(17時以降のカンファレンスから一連の流れは自己研鑽扱い)が19時半に終わり、空いている電子カルテを探して20時から退院サマリーを書いていたり、救急外来の症例の病名登録の指摘分を入力していたら帰宅が21時過ぎになったとか、よくありそうな展開です。この退院サマリーを書く時間のような自己研鑽扱いがどうなのかはさておき、サマリーは普段の業務の時にコピペできそうなテンプレートを少しずつ用意しておき、業務時間内の普段作業に組み込む工夫をするというようなこともできそうです。

 時間のムダになりがちな自己研鑽として、カテーテルやESDのような内視鏡といった手技が手こずっているときに、その手技が終わるまで関係者以外も帰れないような場合があります。人が少なくて緊急時対応も兼ねて残っているなら分かりますが、外巻の外巻までというのかその診療科の上の先生からほぼ全員が残っているというような職場も自己研鑽が増えて帰る時間が遅くなるでしょう。術者の横で手伝っているわけでもなく、モニターも遠くで見えないような状況であれば、考え直す必要性があると思います。研修医が真っ先に帰りますと言えないのも分かる気がしますが、改善の余地があると思います。後述(1-5)の価値観のようなものが背景にあると思いますが、その診療科の他の先生も帰れる雰囲気大切であったり、それ以上にルール大切だと思います。ルール作りは色々と大変であったり、数カ月お世話になる程度の診療科で研修医がやるようなことでもないと思うので、診断書や事情を説明して帰宅できるようにするのが現実的な手段であると思います。

 

 さらには、追い打ちをかけてくる物理的な環境もあるでしょう。同じ時間量、仕事をしていたとしても、時間外は空調が入らない(夏は蒸し暑く窓を開ければ蚊が入ってくる、冬は寒い)医局でカルテを使ってサマリーを書いていたとか、コンビニや売店の営業時間が短く自己研鑽の時間帯の食事の調達にひと手間かかるとか、昼食時間帯を過ぎてからの昼食の調達が難しいとか、電子カルテのソフトが途中で落ちることが多くて記入中のものが消えてしまったり、再起動にムダに時間を食うとか、研修医室が上級医から丸見え(だらしない格好がしにくい、リラックスしにくい等)とか、様々なことがあると思います。空調に関してはむしろ費用対効果が悪化するような気もしますが、自己研鑽の効率が悪くなっても経理からすれば手当がつくわけではいので問題がないのかもしれませんし、空調に対する価値観の問題もあるかもしれません。コスパが良くおいしそうな職員食堂やお弁当販売は職員の満足度を上げて費用対効果も高そうに見えるのですが、昼食時間が後ろにずれ込むことの多い職種では難しいのでしょうか。離島に系列病院を持つ医療法人では、当直時に御飯(検食ではなく複数人分)が用意されているところもあり、嬉しかったことを覚えています。それとも医局人事で人が充填される病院なので関係ないのでしょうか。それはさておき、朝に買ってきたお弁当を入れておく冷蔵庫を研修医室に置けば、院内での食事問題は少しは改善するかもしれません。大きな冷蔵庫をちゃんと家電屋に買いに行って手配まで整える時間があるかは微妙ですが、小さめのネット通販で買いやすいサイズのものを病院に送れば、とりあえず対症療法的に解決だと思います。

 

 もちろん、それだけではどうにもならない面もあると思います。上記の例では電子カルテ用パソコンの慢性的な不足当直の人員配置制度ですが、そのような時は初期研修の関係部署などと相談してみましょう。例えば、時短勤務にする、残業・休日の病棟回診がないように配慮してもらう、当直回数の配慮というような問題になってきます。ここで、どれだけ柔軟に対応可能かという部分をチェックしましょう。例えば、制度的に研修医だけで必ずこれだけ救急外来の勤務枠を埋めて救外を回しているというような病院では、研修医ありきとなってきます。そのため、研修医内での調節も必要となってくるでしょう。そこで、ただ「まあまあ」となだめられて終わりではなく、どれだけ具体的に柔軟に解決に向けて進むかだと思います。病欠90日までであれば、2年で終えることもできますし、それを超える可能性があるにしても継続可能な環境が確保できるかをチェックしましょう。そして、何より3年目以降継続可能な環境選びのヒントにもなると思います。診療科保険診療以外も)だけでなく、働き方・雇用形態(大学医局、市中常勤、バイト等)まで考えてみるとよいと思います。

 産業医と面談することは、むしろお休みになった際や残業時間超過のときだと思います。産業医の先生と話したこともありますが、「残業減らそうね」じゃないけれども、形式的というのか、解決志向ではないというのかわざわざ時間を割くのが面倒というのが、私個人の感想でした(笑)。寝られない救急外来での当直回数や待機(オンコール)で呼ばれる頻度を何とかするほうが残業時間超過に向けては解決志向だと思います。断らない救急や待機のある科の人員確保、さらには方針を打ち出している上層部による現状把握も必要だと考えられます。研修医はもちろん、産業医の先生の仕事の範疇を超えています。他にも面談の進め方も産業医の先生次第だと思います。

 

 3年目以降も見据えれば、宿直許可で直明けも夜まで働くというような抜け穴があります。それも働き方改革を表面的に進めるために、1時間に5名患者対応まで寝れるわけがないは宿直許可が取れるように厚労省が言っている始末です。宿直許可であれば、宿直ではない当直業務よりもお給料安く済んだり(あくまで実働時間のみ基本給と連動した時間外手当)、時間外労働の上限のためのカウントとなる時間外労働時間に含めなくて良かったり、翌日も働いてもらうこともできたりと、病院側の肩を持つ内容になっています。制度にも目を向けてみるとよいでしょう。

 

 何より、症状などがすでに出ている場合は受診をし、診断書がある場合はその診断書をもとに話し合いをするというのが必要です。また、勤務調節による初期研修医内での関係性は後ほど1-8にてお話しします。



【補足:「断らない救急」で大変】

 断らない救急で大変というのは、ハイパーで大変、当直・日直が多くて大変というのに似ている面もあると思います。集約化などで豊富な人材や施設規模であれば、そこまで無理もない可能性もありますが、人材不足の悪循環の中で過酷な労働環境・当直回数という場合も多くあると思います。何でもたくさん経験できるのと、ある程度裏表の関係でしょう。

 理想や美談はさておき「断らない救急」の場合となると、他の病院で出禁になるような患者さんを受け入れることになったり、救急要請が必要かすら怪しい症例三次救急でも受け入れるようなことが多くなったりすることがあります。トリアージ後に「救急車できたんだから早くみろ」と大声で怒鳴り散らす救急外来の常連さん、「鼻血が出た」(≠止血しても止まらない)という事で救急車で他でお断りされて「断らない」三次救急に来る患者さんなど、タクシー代を払いたくない(さらに、場合によっては医療費は全額現物給付)とか、不安であったとか、背景は推測されるものもありますが、例を挙げたらキリがないと思います。街の民度病院の立地などで患者層も変わってきますが、感情労働を含め、なんともし難い面があります。また、研修医だけで帰宅判断までしないと回らない「野戦病院」のような場所であれば、昨今の訴訟リスクにも不安を感じるかもしれません。負けなくても裁判だけでも大変です。初期研修の先生の方がこの先も長いでしょうし、なおさら不安を感じやすいのではないでしょうか。

 もちろん、街に病院が1つしかなく隣町は遠い等の状況によってもある程度、変わってくることもあるでしょう。それでも、現場にはいないものの、後日断ったことに対して合理性なく、ネチネチと言ってくる癖の強い救急の上級医やさらに上の先生がいることもあるでしょう。それこそ、断れない救急でしょうか。しかも、現場にいない上級医は司法での問題となったときの責任を取らされるわけでもなく、安全地帯から言っているような状況です。理想は分かりますし、「断れない救急」において初期研修の先生でも上達はしますが、研修医と当直医(非救急)で救急の指導医並みに患者さんを診ることを要求してくるのも疑問です。パワハラみたいなレベルであれば、録音やそれに基づく対策・相談もありでしょう。

 個人的には初療ベッド1つにつき救急車の年2000-2500台を超えてくると、設備的にパンクしがちな時がある印象で根本的なハード面での問題でしょう。ホットラインが3つ同時になったときや、事前管制の際のベッド確保もあります。人材面(ソフトの面)も、ファーストタッチする初期研修医1人当たりの救急車の台数が一晩5台を超えてくるとこちらも問題になってきたり、過酷で人材不足の悪循環になったりすると考えています。医師以外でも可能な業務や帰宅判断などをどこまでやるのかや、ウォークインの数次第でもありますが、寝れない等の身体的な負荷に加え、「断らない救急」だとなおさら附随しがちな感情労働だけでも減らしたいものです。

 どうしようもない患者に対しては応召義務の例外(ブラックリスト入り)もあります。研修医では何ともできないと思いますが、上級医もブラックリスト入りに関して妥当だと考えているのであれば、それを後押ししてもいいかもしれません。一切断ってはいけないのであれば、ホットラインも医師(研修医)ではなくて事務対応でも良いのではないかというようなブラックジョークさえ思いついてしまいます。

 もっと身近に考えられる対策としては、前述のハイパーの時と同じような救急外来の当直回数の調整が可能であれば、それも手段でしょう。それ以外にも、外病院での研修に近いような形で救急の必要分をクリアするというような手段でしょうか。

 断らない救急という崇高な理念も大切ですが、医療者はじめ様々な犠牲成り立っている場所もあります。研修医ではどうしようもない可能性が高いですが、フリーアクセスや安価な皆保険制度・負担割合が後押ししているかもしれませんね。

 これこそ、病院選びの時から考えておいた方が安全な項目です。中断となれば、再開先では考慮したほうがいいでしょう。

 

 

1-3. ハイポで3年目以降が不安

<ここをチェック>

  • 3年目以降キャリアプラン
  • 初期研修修了の意味
  • 地域研修や選択科目(外病院)の活用

 多くはないかもしれませんが、ハイポゆえの悩みもありそうです。医学部の同期と何かの機会に研修内容を比べた際に、3年目以降のことを踏まえると不安になることもあると思います。お客様扱いで、何もしていないというようなこともある人もいると思います。定時の帰宅時間までが仕事をしていないような気がして後ろめたいというような良心かもしれません。

 他の研修病院に行った人との比較をやめましょうと言っても、簡単にやめられるものでもないのも分かります。一方で、「俺、今月の残業時間が100時間を超えた(どうせ多くは自己研鑽だけど)。救外の当直は月に9回、寝れないけどまだまだ行ける。」というような忙しい自慢のような雰囲気のあるハイパーなところも聞いたことがあります。これは両極端ですが、これよりマシかなとか、持続可能な働き方であると思ってもらえれば嬉しいです。

 また、ちょっとした対策として、地域研修先や選択研修先などの院外研修可能な枠で自分の施設(ハイポ)以外のところを選択してみましょう。教育熱心だと有名な病院、ハイパーとされる病院等を選んでみるとよいでしょう。

 例えば、1カ月というような期限付きでハイパーなところにいってみたら、ハイパーなところで2年間は厳しかったということに気がついて納得するかもしれません。また、教育熱心とは聞いていたけれど、ブランドとしての名前がかなり独り歩きしているとか、セミナーとかは動画サービスでいいかなとか、教育の中身も様々なとか、そこまで理想ではなかった感じたりするかもしれません。また、やはり院外がよいと感じても、ハイパーなところや教育熱心なところで研修したことによる自信というのか、不安解消のようなものがあるかもしれません。

 研修医になってからの視点で見ると、「良い」の基準も変わっていたり、医学生の時に良いと思っていた病院の闇(例: 自己研鑽、邪魔なセミナー・書類仕事のような教育制度、薄給に耐えられない激務等)を同期から聞いて/見て、むしろ今の所属に納得するかもしれませんし、そうでなくてもその数カ月は訓練になるでしょう。

 

 そして何より、3年目以降のキャリアプラン初期研修修了の意味に目を向けて欲しいと思います。3年目以降のキャリアが臨床ではない場合は、臨床現場に触れたことが大きく今後に活きると思います。もちろん、ハイパーな現場や働き方改革で問題視されているようなされているような労働環境の現状を知った上で政策立案に関与すればより役立つと思いますが、それ以上に3年目以降のキャリアへ向けて着実に準備する時間にしてほしいと思います。

 初期研修修了の意味についてですが、日本の保険制度のために初期研修を修了しないと保険診療ができないという問題があります。自由診療という選択肢もありますが、医学部卒業後に臨床系に進む人の多くの人の必須事項のようになっています。3年目以降にバイト医をするにも必要ということになることが多くあると思います。他にも施設管理者(院長)のような場面でも必要になる人もいるでしょう。

 新初期研修制度の理念やその理念に基づいた研修をどれだけ実装できているかはさておき、とにかく初期研修を終えられるというメリットがあると思います。

 



1-4. 診療科×上級医とあうか

<ここをチェック>

  • ある診療科特有の問題か
  • 問題の診療科を乗り越えられる

 これはとても難しい問題だと思います。一般企業であると退職理由の8割が上司とも言われることがあります。これだけで初期研修を中断するかはとても難しい問題である一方で、体力面以外でも厳しく感じる面は多いでしょう。その診療科ゆえのこと(忙しさ、待機、手技など)であったり、その先生の特徴や相性、診療科内での相性であったり、やっていいこととやってはいけないこと(裁量権がすごく曖昧であったり、1-8等の他の項目のことを含めると様々であると思います。

 評価が勤務時間や患者数などのしっかりとした定量的な評価だけであれば、気疲れはないと思います。一方で「頑張りが足りない」というような定性的な評価の場合は評価する側の主観に支配されてしまいますし、360度評価のようなものも本当の働きではなく、評価者の主観に支配されたものを無理やり定量化させたようにみせた定性評価である場合もあります。上級医をはじめとする人と定性的評価や主観による理由からの気疲れはないでしょうか。定性評価は評価側に有利なものがあります。定性評価の多い業界で「気にしないでください」で済めば良いのですが、なかなかうまくいかないかもしれません。

 そこで考えてほしいのはちょっと向き合いにくい上級医のいる診療科や、しんどい診療科がどれほどあるか、その病院に特有であるのか、比較的その大学や医局、病院系列の”色”であるのか、を考える必要があると思います。その病院特有の場合は、中断して他の病院に行くことで解決する可能性が上がりますが、その地域の”色”とか慣習で平均的にこの地域のこの大学の系列の病院はこういう傾向というようなのもあるでしょう。その平均値からどう逸脱しているのかもチェックです。その地域に複数の大学系列等があれば、その地域内で変わることでも変化はあると思います。

 もうひとつの視点は、その診療科を乗り越えられるかという視点です。内科は大きな病院であれば、循環器内科、呼吸器内科、…と多数あります。必修診療科での研修期間を合計でクリアできれば良いのでその病院内で調節もある程度可能です。学生時代にも大学病院で〇〇科は曲者というような噂がまわってくることもありました。そこを回避できれば、初期研修修了に向けて進むことができそうです。

 一方で救急科のような必修であるのにその中に選択肢がない診療科というような場合には、中断を考慮してもいいかもしれません。その際は、過去にその診療科で”焦げ付いてしまった人”がいないか、という部分に注目すると良いと思います。”焦げ付いてしまった人”というのは、その診療科を修了できないために病欠等で初期研修を2年で終えられていない人です。このような”焦げ付いてしまった人”というのは、初期研修先を探す際に表には出てきませんし、中断者でもないためにデータからは把握できません。しかし、”焦げ付いてしまった人”が残念ながら何年も何人もいるようであれば、その職場での配慮は少ない可能性もあり、修了することができない可能性が上がると思います。職場での配慮の程度については、後ほど(1-9)少しお話します。

 

【補足:必修診療科一覧(2020年度以降)】
  • 外科(4週以上)
  • 小児科(4週以上)
  • 産婦人科(4週以上)
  • 精神科(4週以上)
  • 地域医療(4週以上)
  • 内科(24週以上)
  • 救急科(12週以上、4週まで麻酔科に振替え可能)

※診療科ではないものの一般外来での研修(4週以上)

 上記以外にも自身のマッチした研修プログラム上の制約がある場合があります。最新の情報と自身のプログラムをチェックしてください。他にも、地域的な特徴や不足人員を補うためとも考えられるような視点から麻酔科や集中治療科を8週間ローテーションすることが前提となっている病院や、外来研修が院内で実質的にできない(地域実習で詰め込まないといけないため外来ばかり等)というような制約があるところもありますので、要注意です。どんどんと必修項目というような形式的な縛りが増えて息苦しくなって、自由さを失っているのかもしれません。

 上記の必修診療科以外に選択科目が48週あり、そこから90日までお休みしても2年で研修が終了できるというなシステムになっています。



1-5. 価値観があうか、ハラスメント?

<ここをチェック>

  • 個人の価値観?
  • 病院全体の価値観や制度か?

 これは、前述の上級医×診療科があうかという話や働き方とも被る部分もある話になります。そして、何より判断も難しいので読み飛ばして頂いても大丈夫です。

 価値観というからには、すごく曖昧な部分でもあります。同じぐらいの業務量の職場であっても感じ方も異なってきます。他にも個人ごとの背景による違いもあります。極端な例でいえば、勤務医の息子で大事に育てられて父の働き方をスタンダードだと想いながらストレートで育ってきた人と、両親は医療系以外で起業をしていて様々な分野のことに挑戦してきた人では、同じものを見ても感じるものが違うでしょう。前者であれば、「今の医師1年目は(30年前と比べて)良くなったな~」と家庭で言われてそう思っている可能性もあれば、後者では「いつの時代の働き方か」と思っているかもしれません。

 そこで気になっている〇〇先生の価値観などがあると思います。価値観が表出しやすい部分に関しては様々ですが、次のような項目があると思います。

  • 診療科への挨拶挨拶方法
  • 自己研鑽サービス残業
  • 土日の出勤・回診
  • 待機(オンコール)
  • パワハラセクハラ

 このような項目に関しては、次の1-6研修/教育制度でどの程度まで介入できるのかとの兼ね合いになってくると思います。特に、診療科への挨拶方法や自己研鑽、土日の出勤に関しては初期研修を中断する可能性がありそうな人の場合にどこまで配慮できるか、さらには診療科内での価値観の異なる上の先生の間で板挟みならないように配慮できるかというようなことだと思います。

 

 他にも価値観が入り込んでややこしいのは、暗黙のルールやただ過去からやっているしきたりだからというものもあります。業務の線引きが曖昧という良きに計らえというぐらいのものから、ファーストタッチ必須で断らない救急で忙しい研修医が救急で当直医全員のお弁当を聞いて回るとか、さらにはこの先生はお店から指定してくるから1番先にお弁当を決めないといけないとか、お弁当ルールはコロナで外部の人が届けにくるのでよろしくないとかいう、立場的にも何も言いにくくて板挟みのようなそんな複雑にする暗黙・しきたりのルールみたいなものがないでしょうか。訳もなく逸脱したルールを強制される、そういうものはなくなればいいと思っています。

 善意良識的なルール内でやることと、逸脱した暗黙・しきたりの強制ルールは違います。「私達もそういう合理的ではない苦しいことをやってきたから、新たに来た者はやるべきだ」というような古い考えによる場合は、ひとりではなく研修医一同として、さらには関係部署を巻き込んで解決に向けてやってみるのはいかがでしょうか。悪しき慣習はどこかで断ち切らないといけないと思います。合理的な解決ができない場合は、上記のお弁当の注文のようなルールはコンビニ(営業時間内)のある病院では、忙しいときにお弁当の発注をわざと忘れるぐらいの勢いで相手に期待させないようにして、無くしていくのも荒手の解決法だと思います。

 もちろん、苦しんで生活に支障の生じている研修医が解決につながるかわからないことを苦しんでまでやる必要はありません。本当の意味では「逃げ」かは分かりませんが、逃げるが勝ちです。変えられない部分(病院内のこと等)を変えようとするよりも、変えられる部分(私自身が転職等)を変えようとする方が、本当の意味で幸せになる選択かもしれません。そういうのが溜まってきた施設はいずれ沈む船になる可能性を秘めていますから、まずは自分を守りましょう。解決しようとしたものの悪しき習慣が変わらないのであれば、自分自身の勤務先を変えるか、自分自身の感受性を変えるか、というような選択肢になると思います。

 

 自己研鑽に対しても価値観ポジショントークが入っています。50代以上の先生であれば、このまま逃げ切れる年齢の可能性は高いので「(雑務でも)苦労はタダでも買って出ろというようなことを言うかもしれません。程度の差こそあれ、無給医にもつながる問題です。このぐらいの年代の先生が若手の時は奉公した後に、自身が教授にまではなれなくても、関連病院の診療部長等で報われるという世界観でしょう。後で報われると考えられるからこそ、丁稚奉公のような働き方もまだ成り立ったわけです。総合病院で50代以上であれば、開業医等にも進まなかった先生ですから、なおさらポジションはあるでしょう。あとは、医学部の一部の部活でも見てきた、「論理的におかしい/合理性のないことでも、俺も含めてみんな苦労してきたから、同じ苦労をしろ!」というような変な共通感覚やその世代等での同調圧力あることも多いでしょう。沈む船で椅子取りゲームをしているかわいそうな人とでも考えて、話を聞いているような顔して流すように考えてみましょう。(仮にそのように思っても、相手に下手にそんなことを言うと損する可能性が高いと考えられます。一部の再現性の乏しいリーダーシップ論でも登場する、人間関係の修復や真の信頼関係の構築に関心がなく、ただ自分の地位に関心があるだけかもしれません。)

 今の高齢化や医療費・介護費の問題から考えても、どこまで今の流れが持つでしょうか。もちろん、この問題も高齢者への公的医療の適応・負担率などの在り方とともに考えなければいけないとは思いますが、個人のレベルで考えてみましょう。40代以下はどうなるか分かりませんね。若手の先生「どうなるか分からない側」のポジションとして、振舞っていくことになると思います。もちろん、普段は執刀させてもらえないという環境で、夜ゆえに執刀させてもらえるというような環境であれば、後々に意味のある体験(≠雑務)タダでも買うという人もいると思います。もちろん、執刀できない環境に居座らずにとか、そのような人は技術を身に着けたら良いところにお引越しとかを考えましょう。

 また、初期研修医がいることで目に見える形での補助金や、「臨床研修病院入院診療科加算」のような診療報酬上の加算もあります。これらの報酬も踏まえれば、「初期研修医がいても稼ぎにならない」というような自己研鑽へのロジックは、ただの制度も知らない人事実に反する感想でしょう。

 やりがい搾取という視点に関しても、被雇用者側自らやりがいを感じて働くことは、企業側も雇用者を安く雇うことができたり、長期間勤めてくれたりするため、意識していることでしょう。そして、被雇用者が自らやりがいを感じるメリットもあるでしょう。しかし、雇用側から「やりがい」を無理やり/一方的に主張してきて、タダで/安価で働かせようとしてきたら要注意だと考えています。

 

 

 パワハラセクハラといったハラスメントも価値観に近いのでここで取り上げます。指導とパワハラの境界こそきわどい時もありますが、指導を受ける研修医が女性と男性で多いに違う場合には要注意です。男性研修医の場合だと雑であったり、無口で威圧的であったり、一方で女性研修医の場合にはセクハラまがいの指導であったり、医局やカンファなどの多くの人が集まるところで女性医師に対して例えば「女性だから〇〇」とか「生理だから、今日はご機嫌が…」というような主旨のことを公然で言われるようなことがあれば、まずはそれを目撃した人の証言ボイスレコーダーによる証拠等を確保しつつ、相談するとよいでしょう。例えば、Apple watchのようなスマートウォッチでパッと、自然な感じで録音できるようにしておくようにしておくと、なお良いかもしれません。古い組織が多く、院内の相談窓口では曖昧にされることもありますし、下手に自分自身のことを相談すると嫌な上司に話だけ伝わって、もっと状況は悪くなるだけというような場合もあります。

 個人的に自分自身のことを言われたなどの本気の場合は、その前に証拠は確保して、弁護士への相談をできるようにしておきましょう。そして、弁護士の指示に従って、もっと証拠を集めましょう。いろいろと証拠も固まったところで院内の窓口に弁護士経由も含めて相談すればよいと思います。

 パワハラに近いものとして、「前に回ってきた研修医の〇〇先生は使えなくて」とか「ローテーション前の電話がかかってきたときに、挨拶は電話だけでいいと小生が言ったら、本当に電話だけで直接挨拶に来なかった」とかいうような愚痴を、文脈もなくその診療科のオリエンテーション等で公然と聞いた時には覚悟した方がいいかもしれません。もちろん、研修医でできることは少ない場合が多いと思いますが、その人に「あなたが研修医ぐらいの卒業年数のときはどうでしたか?」と心の中で言いいつつ抑え、度が過ぎている場合は証拠を集めておきましょう

 皆の前で若手の女医さんを罵倒して泣かせてパワハラ疑惑で委員会にかけられたとか、かけられなかったとか、専攻医の先生が病気療養でしばらくお休みをしたときにカンファで上級医の先生が皆の前でその先生がお休みしていることをいじっている/聞いている側が気分が悪くなるようなことを言っているとか、様々な話があります。明日は我が身かな不安になる人もいると思います。結構きわどいものも多いと思いますので、取り合えず後で使えるかもしれない証拠をとっておき、相談してみましょう。

 

 指導体制バックアップ体制勤務形態救急外来における初期研修医の働き方、というような部分がその地域大学系列、その医療法人・医局で「当たり前」として、価値観を形成している場合もあります。単純に都会だから大丈夫とか、地方はアウトではないと思います。都会であってもお殿様のような大学があり(むしろある程度以上都会で人がいるから?)、そこが閉鎖的であったり、権威的であっても人が足りるような環境の場合は、一定の価値観に偏る可能性は上がるかもしれません。「生きた化石」ともいわれるカブトエビのように意外な場所にも残っているかもしれません。また、〇〇先生は良いとか人を意識しすぎるとその先生が異動になってしまうリスクもあります。価値観だけではないですが、その系列の平均値も意識しておいた方が中断後の再開先を探すときのヒントになると思います。今後のことや地域枠等の諸所の事情により、この系列・地域からは出ていく気はない/出ていけない場合で、そこが平均値以上であれば中断よりも休職の方がよいかもしれません。



【補足:価値観を知るきっかけ】

 価値観は各個人の自由でもある部分もあるので、それがあくまで個人としての見解か、その病院や診療科の価値観を反映したものであるかを考えてみて欲しいと思います。そのために、価値観を反映した発言、どのような状況・立場での発言であるかをチェックしてもらいたいと思います。

 

 分かりやすい具体例を挙げながら考えてみたいと思います。

<若手のA先生と残業時間帯にNsステーションにて雑談中>

研修医:A先生、お疲れ様です。

A先生:休日なのにお疲れ様。普段、休日は何してるの?

研修医:あまり外出もできないご時世なのでNetflixとかよく見てますね。もちろん、お金もないですけど。もっと貰えたら遊びに行きたいです。私たちの残業代ってどうなってるんですかね?

A先生:残業代のこととか、僕に聞くな(笑) 僕もちゃんと貰えてるのか分からないなー。

 

B先生(診療科長)のカンファレンス後の学会等の話>

B先生:17時になったのでここから先は学生さんと研修医は自由とします。

一部の学生や研修医:ありがとうございました。失礼致します。

(30分後)

B先生:(残念そうに解散直後に)僕らの時は残って当たり前だったけど。もう少し多くの研修医や学生に残ってほしかったな~。

 

C先生(教育プログラム長)の初期研修オリエンテーション

C先生:これから、初期研修医の心得を紹介します。その1、毎日患者さんのところへいくべし。その2、給料のことは聞くな。その3、女は女であることを意識すべし。その4、…

研修医(複数):…

 

D先生ら(病院長クラス)との研修医(複数)など多数での意見交換の場>

D先生:次の新しい研修医はどんな人を採用したい?

研修医(複数):一緒に働いてもいいと思える人です。具体的には…(以下略)。

D先生:そういえば、この前見学に来た学生さん達と研修時間について話したけど、最近の学生はQOLとか大事にするよね。長時間でもいいと言っていた学生さんもいたけど、「働きに見合った給料があれば、問題ない」と言ってた。正直、ここの病院にはQOLとか、働きに見合った給料とか言っている人は合わない。こういう人は当院のマッチングでは禁忌肢。そういう人はそういう病院を探せば…(以下略)

E先生:そうですね。D先生のおっしゃる通りだと思います。

研修医:確かに当院の当直回数(多い)や、ERを回すことを考えると、QOLと言っている人は合わない気もしますね…(その通りで何も言えず、この病院の方針についての憶測が確信に変わる)。働きに見合った給料ということに関しては、その学生さんがどういう意味で言っていたのか分かりませんが…。では、D先生のおっしゃる当院に合わない人を除いた中で、私たちが一緒に働きたいと感じる部分を評価して…(以下略)

 

 いかがでしょうか。やはりは文脈状況です。

 まずは分かりやすいA先生とC先生の比較をしてみます。A先生は比較的クローズドな状況で「給料のことを聞くな」という言葉を僕も残業代について不思議に感じている点はあるけれども、何といっていいのか分からないというような意味で使っています。C先生は、ほぼ初対面で大勢に向けてということから文字通りに近い可能性や、その人の立場や前後の心得の内容からは、残業代が出てないとか給料のことは文句言うなと聞こえる可能性は上がります。さすがにC先生は分かりやすく、昭和のブラック企業の社内研修でしょうか。そして、このような価値観を前面に出した人が上の立場に立ち、上のポジションからこのような発言ができるという組織の人事の選び方や文化に注目して見切りをつけた方がいいかもしれません。もちろん、教育インセンティブがつかないゆえの結果である場合もありますが、この問題は初期研修だけでなく悲しくも多くの教育の場面で言えることでしょう。

 B先生は、自分の価値観社会の今の流れを分けて考えている分別のある人と考えられる可能性が高いです。B先生のころの慣習と異なるというのは理にかなった理由であるかは問わずに懐かしく感じるものがあると思います。B先生が表でしっかりと配慮をしつつ現在の流れや理想に向けて進みつつ、外部との会話なのか、匿名に近いSNSなのか、害が生じない程度に距離を取ったところで、その先生なりの価値観から生じる違和感をこぼしてしまう分にはお互い様と考えて行けばよいような気がします。

 C先生ほど明らかであれば、むしろ分かりやすくて有難いぐらいかもしれません。給料の話以外にも表で「女は〇〇」とか雑すぎる括り観念の話で内容次第ではありますが、嫌な印象を受けやすく感じます。ちゃんとボイスレコーダーなり写真なり証拠を取っておきましょう。表向き綺麗ごとばかりで実は腹黒いというような状況も要注意でしょう。

 D先生の例は、病院の上層部の考えとして、マッチングにつながる部分で初期研修における労働時間について質問したときにQOLとか「長時間は大丈夫、働きに見合った給料」とか言った医学生採用したくない断言口調でいうような、労働者の歯車論的な意見(同じ労働時間でも福利厚生や労働環境等を改善する気がないと取れたり、自己研鑽しましょうと聞こえる考え)への全体合意があるような施設はそういう価値観でしょう。オーナー経営者であればまだしも、雇われの身であればオウム返しになりそうな自己矛盾を感じます。歯車発言を少なくはない職員の前でしてしまうあたりの管理能力の問題もあるでしょう。D先生もそう言わされている立場かもしれませんが、そういう施設で自己研鑽や働き方等の解決への道筋は難しいかもしれません。

 状況が異なり、D先生個人的に話をしたときに「まあ、本当のところ残念ながらQOLって言ってる医学生はこの病院には合わないよ…。何とかできないものかなとは思うけれども…」というように譲歩しつつも言われたのであれば、D先生の優しさと現実の厳しさのギャップを感じます。そうであれば、可能な範囲で解決策を歩み寄れるかもしれません。もちろん、QOLが研修医全員にとっての正解ではありませんし、バリバリ働いて稼ぎたいとか、初期研修の2年はプライベートはさておき成長したいという人もいます。そこではなく、労働環境に対する意識や自己研鑽に対する意識、被雇用者への病院全体の姿勢(価値観)の問題ともいうべきでしょうか。

 

 相手の価値観を自分だけで誤って思い込んでしまうことがないように信頼できる人意見を交換してみましょう。そして共感できるところは共感してみてください。〇〇はあり得ないと思うし嫌な思いをしているけど、閉鎖的な場所で今後も続けていくから我慢せざるを得ないというような人もいれば、〇〇はあり得ないと思うし嫌な思いをしているから私は他の職場を探すというような人もいるはずです。「〇〇はあり得ないと思うし嫌な思いをしている」という部分がある程度共通認識であれば、その先どのような選択肢を考えて選ぶかは法を破らないような範囲でその人の自由であると思います。

 私自身への戒めでもありますが、どうしても人は自分の視点でみて自分のやってきたことを正当化しやすく、自分のモノサシを他人に当てはめて評価しそうになります。一定以上の時間や労力をかけてきたものごとには損切りがしにくいサンクコスト効果による影響でしょうか。対策として、はじめのうちにチェックポイントを決めておくのもいいかもしれません。

 そして、今後の自分自身や、自分自身が指導する側になる時のためにも、フレッシュな時に感じた違和感や感情などメモして残しておくことをおススメします。時が経って見直してみると、違和感を感じていたことが根拠はないもののしきたりとして当たり前のように染まってしまったことに気がついて改めることや、フレッシュな人を理解することもできるようになるでしょう。



1-6. 研修/教育制度が機能しているか

<ここチェック>

  • 研修制度形骸化していないか
  • 研修担当部署制度がどの程度介入できるか

 研修制度形骸化とは、制度とは言えども書類のハンコたくさん必要で機能していないとか、ハンコをもらうためのあざとさ合戦とか、評価シートはあるものの評価機構からの審査を通るため形だけあって手間を取らせているだけというな状況です。メンタルチェックの面談があるものの形式的であったり、初めて会うレベル先生と数カ月に一回程度の面談しかなく面談相手が毎回変わるとか、苦手に感じている先生との面談であったり、形だけやっているような状態です。他にも研修担当者が研修医の相談にのるとは言っているものの9-16時対応であったり、さらに医局・研修医室から遠い場所にあったりというような、実質的に使える窓口ではないというような場合もあります。お役所仕事とでも言えばよいのでしょうか。明文化されていても、形骸化というようなパターンです。面談評価者が変われば、定性的な評価に基づく点数化であり、その点数では実質的には定量してちゃんと評価できていないというのも問題でしょう。

 他にもEPOC(経験症例症例のレポート)の承認における過程でも、1症例当たり経験した項目1つを基本とするというようなレポート大好きのような形式的な研修センターも要注意でしょう。レポートをたくさん書けば勉強になるというような形式的な思考で「教育」だと思っているような施設は、教育における双方のコストを考えておらず、良くないでしょう。特に自己研鑽としてレポート作成の時間にどれだけ時間が取られるかという点からも要注意であり、過労気味のときには要相談でしょう。

 次に、どの程度研修制度(ルール)や部署が介入できるかという点です。具体例を用いながら説明したいと思います。例えば、大きな病院のある診療科がローテーションの前のご挨拶は電話でアポをとって、直接お伺いするというローカルルールがあったとします。直接会うというのはお互いに擦り合わせが必要で大変な面もあります。しかも、その先生がお忙しい先生であるにもかかわらず、その先生の空いている時間を上手に見つけてお伺いというので苦労しているというような現状があったとします。直接ご挨拶にいくメリットも分かるには分かるのですが、それに伴う不利益が多すぎないかという部分です。特に大きな病院であるにも関わらず、このような状況であれば障壁になりやすいでしょう。

 行き過ぎて、院外研修中の時は有休を使ってご挨拶に行くとか、早めに終わる当直明けの帰宅時間後に何度か電話をしてやっとその先生のところへ伺うというのが常態化していたとします。そこへ教育担当部署から指導が入るというような改善が具体的にできるのかという部分が大切になってくると思います。教育担当の先生や事務に相談に行っても、しかも複数名が相談に行っても、「まあまあ」となだめられるだけでは改善は期待しにくいでしょう。1-2カ月で診療科を点々とするただでさえシームレスさのない初期研修(しかも専攻医へのシームレスさも今ひとつ)の制度であることをプログラム製作・管理者側も意識しつつバックアップしてもらえる環境があればいいなと思う限りです。中断して他の施設に行く際は、小さな病院の方が明文化はされていない反面、顔が見える範囲であったり、内科等も細分化されておらず、シームレスである可能性は高いでしょう。

 他にも日直や遠方での病院説明会による代休制度があったとします。代休は申請性で期限があった際に〇〇科は代休は使えないというような実質的に機能していない制度です。そこで、事務は形式的に「代休を使ってください」とだけ言って、本人の意志で代休を使わずに自己研鑽をしたとみなすようになっているとします。その際に、〇〇科に代休制度を受け入れないと雇用上マズい介入できるような教育研修部署があるかということになります。特に、日直や当直で14~20連勤のようになることが頻発している場合や、日直は救急外来代休はローテション中の〇〇科というような場合は診療科も跨ぐ代休制度であり、日直の業務も大変であると予想されるため、しっかりと橋渡しする必要があるでしょう。

 

 どの程度の不利益や今日の働き方改革との齟齬があれば、その診療科に改善要望をしてくれるのかという線引きをして、それなりに早期に改善されるのかという部分を考えてみることをお勧めします。その状況が「小生もしてきたから何とかなる/小生も乗り越えてきたから乗り越えるべき」(確かに、当直込みで7連勤を終えて次の週に入るとか、当直月に7-8回とかあったなー笑)というよりも、自分自身の子どものために言えるかというような視点で考えてみたら、分かりやすいかもしれないと感じました。

 

 そして、日本のこの世界のそういう先生や組織に、理にかなっていることであっても教育担当の先生が何かものを申すのは肩身が狭いかもしれません。私自身も英語を使っている時と日本語を使っている時の違いを体験したり、留学生が英語を使っている時と母国語を使っている時でモノの申しやすさ(Noと言えるか)が異なるということを直接聞いたりしました。もちろん、母国語以外を使うことで忖度できるほどに言葉を理解できない面もありそうですが、合理性という視点からある程度以上は強制できないようなシステムは必要だと思います。そのような何とも言い難い部分を克服して日本の現場を改善するためにも、ローテーション切り替え時の制度(システム)として介入できるかも含めて検討すべきであると思います。しかし、現時点で中断を悩んでいる人が、そのできるか分からないシステムが完成するのを待つのも少し違うと思います。関係部署と何とかなるか相談次第であると思いますが、そもそもそれを解決するのにかかる労力リターン釣り合わないかもしれません。

 

 中には院内では何ともできない制度も存在することもあります。その病院の制度変更だけでは難しい場合の例を考えてみます。〇〇病院の研修プログラムで院外で研修する期間があるとします。その院外の研修先を変える・増やすにも双方の病院でのOKが出ても、最終的な権限は△△大学の系列である〇〇病院にはなく、△△大学にお伺いを立てるというような場合もあるようです。これは、院外研修先が厳しすぎて挫折したあげく、研修に必要な診療科の選択肢がそこしかなく修了できない場合には、中断を考えるきっかけになると思います。そのような際には、△△大学系列の病院での研修再開の際もその診療科の研修先の選択肢は要チェックであると思います。



1-7. 自己研鑽/給料

<チェック項目>

 

 自己研鑽に関して、将来に向けた業務を伴わない成長のための自己投資ではなく、サービス残業を正当化するための言い訳のように使われている自己研鑽について扱っていきます。残業はそもそも時間外労働扱いになっていないというような場合から、時間外労働で申請しているのに事務に提出後に削られているというような場合もあるでしょう。本当にお金が足りないというのは、説明会や病院見学の際に嘘をつかれたポジショントークで盛られた)というような研修病院選びの際のミス、ちょっと浪費癖や生活費(固定費)とセットになってくると思います。また、眼がギラギラとしているときはやりがい搾取やそれによるバーンアウトにも気をつけましょう。すでに中断を考えているということは自己研鑽(サービス残業)に違和感を感じたり、気がついている場合が多いと思います。部活(?)や課外活動、ボランティアでもなく就労ですので(就労であると考える人には)、サービス残業の有無や程度は結構大事な指標になってくると思います。この小セクションでは主に自己研鑽に目を向けていこうと思います。

 どの段階までの、どの程度のサービス残業扱いまで自分自身が許せるか雇用契約上、本当はアウトです)だと思います。上級医の先生等との取り決めで自己研鑽と業務の境目が許せないのか、上級医の先生まで認めてくれたはずの残業時間が事務で消されていることが許せないのか、の大きく2つです。カンファレンスの時間が自己研鑽は分かるものの術野に入っていたオペまで自己研鑽であったとか、引継時間までに来た患者さんを診療し終えるまで勤務しないといけないものの引継時間以降は自己研鑽であるとか、オペの時間外労働は勤務簿上では上級医も認めてくれたものの勤務簿を事務に提出した後に削られている(同じ印鑑を事務が持っている会社は要注意)など、どこが嫌なのかを探りましょう。そして、その嫌な部分まで自己研鑽で病院に滞在しないように工夫をできるかを考えるといいと思います。といっても、ここが難しいですが…。

 当直待機の扱いもどこまで許せるかだと思います。回数もありますが、働き方改革表面的にクリアするために様々な変化があると思います。従来の当直「待機」という扱いにして当直費はもらえず実働時間のみの時間外へ経費削減しているだけであったとか、待機制度に変わって今の住居のままでは帰れずに病院に泊まっているというようなことも個人的な事情と相まっていまひとつな状況というのもあり得ます。宿直扱いであるのに寝れる時間がわずかしかない、逆もしかりで宿直扱いなので実働時間のみ時間外がつく制度で微妙であったり、その辺りのことでどこまで許せるかも3年目以降を含めて要チェックでしょう。

 カンファレンスが夕方以降にあるところは、カンファレンスが自己研鑽のところも多いのかもしれません。カンファレンスの時間もその診療科の上部層の考えや価値観を反映するものであると思っています。昔大学で実習していた時にお昼過ぎから長いカンファレンスをするようにしていた診療科もあり、そこで「昔は忙しくて無理だと思い込んでいたけど、勤務時間内にカンファをすることで医局に人が増えると考えて勤務時間内にするように努力している」と言っていた診療科があったり、従来からのように夕方から始まるような診療科もあったりと、様々であったことを思い出しました。カンファレンスの時間は今中断を考えている研修医の問題ではないですが、その診療科の姿勢も反映されているでしょう。

 他にも普段の通常勤務日の定時以降自己研鑽以上に、平日の有給代休日といった勤務簿上はお休みの際の"通常勤務"といった自己研鑽が嫌な人もいるでしょう。ほとんど寝れないにもかかわらず、当直明けは帰れないのはもちろんのこと、追い打ちをかけるように直明けはサービス残業(自己研鑽)扱いで深夜のコンビニバイトの方が給料が良いなんてこともあると思います。代休日が実質的にナシとなると、平日にしかいけない窓口や機関もあるのでそこの負担を大きく感じてしまうかもしれません。家族がいる場合は休日の出勤の方が気になるかもしれません。特に嫌だと感じるほうから避けられないか、交換可能な業務であれば誰かと交換してみたりしつつ、最終的にはそれなりに解決できるかを探ってみましょう。

 他にも固定残業代という形で、例えば月に40時間分の時間外を固定でもらいつつも青天井に残業をしているというような場合もあるかもしれません。そうなれば、もはや寝る以外は病院のような働き方を求められる場合もあるでしょうから、診断書なりを提出して調節してもらいましょう。固定残業代が残業せずにもらえるというところは珍しく、多くの場合はそれ以上の残業時間になると考えたり、実態を調査して3年目の場所を選ぶとよいと思います。

 待機(オンコール)も個人的な活動に影響はある人が多いものの特に手当のない場合が基本かと思います。今後のために待機の多さ・連続期間の長さもどこまでなら受け入れられるかもチェックしておきましょう。

 研修/教育制度のところでも触れましたが、EPOCのようなレポート作成や学会等での症例報告のような自己研鑽も負担に感じることがあると思います。EPOCこそ終わらせないといけないですが、1症例1項目のような形式的で書けば書くだけ勉強になると言わんばかりの堅物の考えに対しては研修センターに相談してみましょう。症例報告をローテーション先で誘われた時は、余力がない時や興味が湧かないときは上手に断るようにしましょう。特に、そこの診療部長等のお偉い先生が「趣味」でやっているような、質が分からないような、演題が集まらないような存在意義に疑問が湧くような学会での症例発表や研究会に誘われた時にはなおさら注意しましょう。余力がないことを上手に伝えつつ、可能であれば研修センターにフォローしてもらいましょう。

 他にも研修医内での自己研鑽がある場合もあります。初期研修医向けの部分だけでなく医局全体の掃除やごみ捨てをするという取り決め、形式的な会議への参加、医学生向けの説明会(院内、レジナビなど)でのプレゼンやスタッフというようなものです。研修医内でやらない人が得をするという雰囲気も難ありですが、それ以前に「小学校の〇〇委員じゃあるまいし…」というような自己研鑽に関しては教育担当部署へ具体的なお願いをして解決できる方法を探ってほしいものです。医局の清掃員を雇う余裕もあまりなく、清掃員を多く雇うぐらいなら、研修医に自己研鑽でやらせた方がマシという考えかもしれません。望んでいない自己研鑽の説明会スタッフであるなら、医学生の人への負の連鎖止めるために、自己研鑽なりの対応でもいいのかと思います。うしろめたさがあるにも関わらず、プラスの方向で宣伝・勧誘をするのは悪の手先のような感じがする人もいるかもしれません。しかし、実際には説明会では病院事務や研修担当の先生からの監視もあり、公正(監視や訂正)の入ったパワポによる全体説明、さらにはポジショントークや良く話を盛らなければいけないこともあった人もいると思います。しんどい場合には体力だけでも温存しておくのもひとつの手であると思います。

 お休み中なのにも関わらず、研修医内での仕事があるとか、仕事に関する連絡(お休みのうちにも返信が必要)が来るとか、リフレッシュにもならない配慮のない場合も中断して他の施設へ行く基準になると思います。研修医内でも個人的な私用の連絡はLINE、研修や業務に関することはMicrosoft TeamsやSlackというように連絡手段適するものに分けて対策するような環境が構築できればと思います。こういう時に新たな連絡手段等の導入障壁となる古い考えがあれば、中断とは言わなくとも3年目以降もこういう施設であると意識したほうが良いと思います。

 

 他にも、2024年 医師の働き方改革問題への対応のための表面的な解決策として、実質的な労働時間は変化がないものの時間外手当の付く仕事が減っている(隠れ残業というような場合もあるかもしれません。他にも、宿日直許可とセットでお給料の貰える時間が睡眠阻害時間のみに限定されて、一定時間以上の労働でないと時間外手当が貰えないなどの弊害がある場合もあるでしょう。宿日直許可については「軽度または短時間の業務」、「応急患者の診察や入院、患者の死亡、出産等に体操することが稀」などの条件があるはずでずが、断らない救急や救急車1万台/年などであるのに、明らかに制度の抜け穴のように使われている不思議な施設もあります。このような施設で戦っても宿日直許可を取り消してもらうのは至難の業でしょうから、合わないようであれば、自分自身を守る/その施設から去ることをおすすめします。

 2024年問題もAV新法と同じく、業界内部の事情に合わせずに医者という枠に当てはめて一律に上限を設けてしまうことで制限を課してしまう危険性があります。もっと、バイトで稼ぎたい人もいるはずなので労働時間(まだ1960時間なら分かるものの)だけではなくて、業界の体質というべき自己研鑽(サービス残業を取り締まったり、労働時間の融通が利きにくい部分を改善ほしいものです。これに抗う方法は中断を考える人向けの解決策ではないと思うので、むしろ臨床も含めて今後も頑張っていく人(他へ移らない人)長期的な視点でメスを入れてほしいと思います。失われた30年により日本で医学部受験が人気となったかもしれませんが、魅力が減れば(医療系以外にも実態が広まれば)、時代の流れとともに情報系など他に人気が移るような気がして、働く手の視点からも持続可能な医療から遠ざかっていく気がします。もしかすると、医学部人気の最後の世代とか言われてしまうかもしれないですし、だからこそ化けの皮が剥がれる時だからこそ問題になっているのかもしれません。シルバーデモクラシーとか世間で言われていますが、このまま失われた40-50年になれば「手に職を」をということで日本に残る場合の職業としては優位性を保てる可能性もありますので、今後のキャリアを含めてそれぞれ考えてみてください。

 2024年働き方改革の問題への解決方法として、自己研鑽を促す方向での実労働時間は変わらないものの時間外手当がつかないというような「赤信号みんなで渡れば恐くない」というような日本式のサービス残業推進の場合は、3年目以降残るかの判断にも利用したり、しんどい時に定時で帰ることができるように診断書を提出することや中断を考慮する材料にすると良いと思います。特に立場的に強く、被雇用者に自己研鑽にさせやすいところほど、自己研鑽を悪用しやすい危険があると思います。今後働く場所を調べる際に意識してみてください。また、システムではなく、自己研鑽という個人の持ち出しのような方法で対処療法的にこなしていても、根本的な解決は難しいでしょう。

 

 荒手の解決策として労働基準監督署(労基)駆け込むという方法や、弁護士相談する方法もあります。

 労基であれば、なんらかの勤務時間の改ざんの証拠手当未払いの証拠(例:勤務時間を抹消されている勤務簿のコピーや給与明細、自己研鑽を示すような資料や発言の録音)を手に入れてから駆け込んでください。違法性が確認できないと、動いてくれません。もし労基へ駆け込むことを考えている場合、狭い世界の中での反乱扱いのようなものなので、初期研修修了証をもらってその病院を去る時労基へ行く方が無難な気もします。労基に駆け込もうとすると、意外と近く(初期研修医内等)から、もし何かあったら風評被害を受けそうという考えや社畜のような考えで良い顔されないような場合もあります。ひとりか、1人がつらくても信頼できる人とだけで証拠集めをおすすめします。また、あなた自身でなくとも他の誰かが労基に駆け込んだときにあなた自身の時間外労働の未払い分(過去3年分まで請求可能)をもらうためにも、せめて提出前の勤務簿のコピーぐらいは残しておきましょう。

 サービス残業については、院内相談するとパワハラセクハラ同じく曖昧にされる、立場的なもので蓋をされる場合もあります。労基も証拠が不十分であったり、違法性がないと動いてくれません。本気の場合は、事前に弁護士相談をして必要な証拠事前に集めてから、院内では相談しましょう。研修医ではないですが、弁護士経由で相談/内容証明を送るようなことをすると、よろしくないことは知っているので示談でケロっと解決することもあるようです。ただし、「この地区・医局で残れると思うな」というような脅しもセットでついてくるような地方もあるようですので、その辺りは自身の立ち位置や、こっそり相談する同期などの状況も踏まえて上手に振舞ってください。嫌な上司はもちろんのこと、この地区に残る同期でも、こっそり相談したらになってしまう場合もあります。

 労基へ駆け込むにしても、弁護士経由でサービス残業代を取り戻すにしても、初期研修を終える時が個人的には良いと思います。いずれにしても、これらのアクションをした場合には、その後に居心地は悪くなると思います。

 

 他の病院との比較というのは、中断をした場合のことを加味したものです。いわゆるこの業界が全体として決してホワイトではないことを前提にした比較でもあります。今いる病院は基本給がちょっと高めでサービス残業が多いという場合は、基本給が低く残業代が出るところと同じぐらいのお給料でしょう。そのようなお給料を客観的に把握して、中断→他の施設での研修再開時お給料はどうなるのか、生活できるかを少し考えてみましょう。

 もちろん、サービス残業が違法であると病院は知りつつ、病院のマッチングの宣伝としては基本給が高く、マッチングの宣伝上有利になるように「偽っていた」という部分に嫌な感情を抱くかもしれません。しかし、その部分への解決策は労基へ駆け込むという難しいものや、多数で転職(離職)して回らなくして長期的にマクロな視点での解決策に留まる程度になるかもしれません。日本特有かもしれませんが、その辺りが正直者が損をしてブラック企業が残りやすい悲しい風土なのかもしれません。

 ブラック企業では、学習性無力感に陥って転職せずに働き続けるということがあります。学習性無力感とは、長期間にわたる回避困難なストレスな環境に置かれた人がその状況から逃れようとする努力すらしなくなるという現象です。この現象の科学的な根拠は分かりませんが、悩んでいる本人にとってはストレスフルであると思いますし、回避行動を起こすことができずに3年目以降そのまま継続していく前に気がつくことができたと前向きに考えてもらえればと思います。もちろん、自己研鑽に加え有給や代休が取れない診療科が多くて見学に行けなかったというような理由もあると思います。

 2年間(2年より多くかかっても初期研修を終えるまで)はこのままいって、診療科と同じく3年目を選択する際のヒントにもなると思います。働き方・雇用形態(大学医局、市中常勤、非常勤、バイトの可否・条件等)に加えて、独立することや、雇用の実態なども考えてみるとよいと思います。また、自己投資も大切ですが、医局員や勤務医をしていく場合をはじめとした給料の決まり方(能力給ではない部分)や、お給料(サービス残業含む)以外アドバンテージ(学位?名誉職?、研究環境?、所属することによるブランディングとそれによる利益?、持続可能な働き方?)のようなものと自分自身の考えを少し意識しておくとよいと思います。建前はさておき、あからさまなサービス残業ではないにしても、「医は仁術なり」というような言葉を表面的に使うことでキレイごとのようにフタをして、身体や家庭などの大切なことを大きく犠牲とするような一線を越えたやりがい搾取(ダンピングにも気をつけましょう。

 学習性無力感という考えでいけば、一部の病院にとって初期研修というものは、厚労省からの助成金をもらいつつ耐えられる範囲からこの業界に飼い慣らすための制度のひとつかもしれないと感じてしまったこともあります。しっかりと教育体制を整えて良い臨床医を育てたいと思っている一部の病院や人もいれば、一方で染まってしまい違和感なく「私の経験したしんどいことを若手もやるべき」という維持する側の価値観の人もいるでしょうから、施設の価値観と会わない場合には転職をしていくか、価値観は目をつぶって給料や勤務日数(例:サービス残業多くてもこの金額で勤務日は5日間)をみて、転職することを考えましょう。

 

【補足:自己研鑽を時間外労働と認めたら赤字?】

 ちなみに、病院ごとの経営状況(収益、財務諸表等)を複数調べたことがあります。外の病院に勤める人から自己研鑽がひどいと話(相談?)を聞いたときに調べてみました。仮に全職員のサービス残業を1時間/日でも認めれば(給与が1割でも増えれば)、すぐに赤字になるような病院も多数ありました(笑)。それだけ全体的に改善しようにも改善できる余力もない、一方で補助金等で公的にジリ貧で保たれている、保険制度で余力を与えられないようにコントロールされている業態なのかもしれません。詳しくは下記ページをご覧ください。

https://mk-med.hatenablog.com/entry/2022/06/15/203000

(注)急性期病院(400床~)の収益構造を適当な比(正確な数字ではなく)で収益100億円/年 程度にしております。収益100億円/年の病院とは、本来であれば病床数300床後半から400床程度の病院になります。



1-8. 同期や研修医内での関係に悩んでいる

<ここをチェック>

  • 理解しあえる友人解決できるか
  • 研修医内のシステムの問題(シワ寄せ)か

 これは初期研修に限った話ではありませんが、どこの職場でも人間関係厄介なものにもなりうるものです。セクハラやモラハラのような状況がなければ、仲良くできる人と仲良くやって、それ以外は同僚や初期研修医というくくりで業務に支障がない程度に割り切ればよいと思います。もちろん、寂しいと感じる人もいると思います。

 厄介だと思うことは、セクハラようなハラスメントはしている側が認識していない場合もあることです。もちろん、一部の共学の高校出身の男性や男子校出身者などが中高校生の時に女子生徒に嫌がられるということを経験せずに育ったりしたことで、もしかすると卑猥な言葉と認識すらしていない可能性もあります。

 他にも、多様性がなく一様な集団にずっといた、背景の似たような人ばかりの環境で歩んできて当たり前だと思い込んで気がついていないがゆえの他の地域・業種(再受験)から来た研修医への悪口、もしくはその環境を正当化したい場合のモラハラのような状況になる場合もあります。その場合は、直接言えなくても仲の良い人を経由してでも伝えてみる事からだと思います。もちろん、中にはそれでもやめないこじらせたような人もいたり、そもそも悪意を持ってやっているような人もいることもあります。そのような場合はもっと職場のセクハラを扱うような部署に相談してみるのもありだと思います。そして、一度注意をしてもらったという証拠を残しておくこともむやむやにされずに今後役立つかもしれません。

 他の例としても、初期研修医内で自己研鑽を美化して、強要するような人との軋轢がある場合も、同期内で誰かを介してでも良いので話してみるのも考慮しましょう。例えば、「俺は有給の日も仕事にきてオペに入ってる。あいつなんてもっとできないんだから、呑気に有給をお休みだと思ってて大丈夫なの?あいつと一緒に当直したくないわ。」と言うよう人がいたとします。中には、休みの人のSNSまでこっそりチェック(SNSを監視)している強者もいるようです。休みは休みと割り切って、そういう人は無視したり、プライバシー設定を変更しましょう。また、そのような人に違和感を感じたり、他人に強要するようなことではないという仲間が多ければ「言わせておけ」というぐらい流して考えるようにすればよいと思います。あまりにもマイナス方向で逸脱した考えは流すようにトレーニングすると良いと思います。

 これこそ、言葉で言うのは簡単ですが、割り切ることは難しい問題でもあると思います。特に疲れている時や落ち込んでいる時ほど、割り切ることが難しそうです。

 

 他にも研修病院の中では研修医内で決めないといけない仕事があるところもあるでしょう。例えば、当直や日直の予定を研修医内で決める病院や、事務の人が最終的に組むところなど様々でしょう。研修医内で決めるシステムでなければ、1-3のときのような事務との相談になってくると思いますが、研修医内で決めるシステムから関係性がこじれてくるような場合もあります。例えば、土日は常に予定が…とあざとく立ち振る舞うような研修医から、診断書が出ていても当直に戻ってこいというような圧力、お金がないから当直にたくさん入りたいというような人までいると思います。そこで当直回数がしんどくなってきていているというような場合に研修医内その担当の研修医相談してみましょう。研修医内で話し合いになったときに、何でも平等原理主義のような人とお金に困って月8回でも当直を減らせないというような人がバトルにならなければ、何とかなる気がします(笑)本来、人材の大きな配置や確保(診断書提出や退職に伴うようなもの)といったマネジメントは研修医ではなく上の責任なのですが…。

 他にも休日にレジナビのような説明会に行く人を決める際も何とか調節がつくと思います。もちろん、説明会スタッフとして行くのに代休がないとか、自己研鑽とか、当直が多いのに前後の当直との考慮がない、実質2週間以上の連続勤務になるとか、制度上の問題複数あって行きたい人がいないどころか、行きたくない人がばかりというような場合は研修医内の問題というよりも、制度や病院の問題でしょう。1-6の制度の問題や、1-7のようなブラック企業の話のくだりと同じような解決策になってくると思います。

 また、初期研修医が2~3名のような少数しかいない病院でのシワ寄せもあるでしょう。特に初期研修医の仕事を著しくやらない権利意識の強いだけの「どうしようもない人」被害にあっている場合です。それも組織全体で調和を図るのか、初期研修医内で調和を図る(穴埋めする)のか、元から初期研修医ありき、というような病院の方針でも変わってくるでしょう。それなりに働いているのに、その「どうしようもない人」の分までサマリーの書類仕事をしている、当直に入っているとか、となると中断して他に変わりたくなるかもしれません。物理的な仕事量が多いはもちろん、感情面での負担や給料は「なのに同じ」というもどかしい思いをするかもしれません。もちろん、「どうしようもない人」というのは本人だけ、悩みもなくずる賢くふるまっているような人のことで、事情のある人ではありません。初期研修医内だけではその人の分を吸収しきれないとして相談するのが良いのでしょうか。

 

 自己研鑽やお世辞にも良いとは考えにくい慣習・価値観の残っている病院ほど、それを理由にした研修医内での方向性の不一致で関係がギグシャクしうることがあります。説明会病院見学に来てくれた医学生にどれだけポジショントークをするか、しないかというのも関係性が崩れる原因となる可能性があります。事実を伝えると後輩が来なくなるという立場と、事実を伝えて負の連鎖を断ち切らせようという立場で衝突する可能性があるからです。研修制度の問題や病院の問題、そこから派生する利害関係で研修医内の人間関係がギスギスしてしまうのは、もったいない気がします。



1-9. 他に悩みもあるけれど…

 長い具体例にお話にお付き合いくださり、ありがとうございました。病棟での話や救急外来での話、看護師さんとの話など、先ほどまでに挙げただけではカバーしきれない部分ももちろんあると思いますが、よく聞くと思われる部分を中心にお話させていただきました。一部だけでも参考になればと幸いです。そして、どれもひとつだけが原因というのは少なく何かをきっかけに負の連鎖に落ち込んでしまったというようなことや、何かが最後のトドメとなったというような方も多いと思います。落ち込んでいたり、疲れている時には正常な判断ができない場合もあります。症状等がある際には、受診してお休みをもらうようにして、休んだ後に中断するかを判断してもらえればと思います。

 特に、根本的な原因となっているものだけでも解決できれば、根本的な原因(上流)から色々と改善されるかもしれません。改善できる見込みや改善までに要する期間、そのまま病欠や休職、時短勤務を取り入れながら修了できる見込みを考慮して、中断に踏み切るかを考えてもらえればと思います。

 またお休みすることに関して、他の人にそんな罪悪感ともいえるような感情は抱かなくていいと思います。中には権利者意識だけが強くあって義務を果たしていないような人もいますが、そのような人は中断について悩むことなく、感情もなくやってのけていることでしょう。

 また、「私が辞めたら、他の研修医に迷惑が…」というような意識を持つ責任感や心の優しさを持つ人もいるでしょう。しかし、コロナ禍で露呈したように多くの組織の場合は代替可能であり、まわってゆくということです。家族や信頼できる人との代替不可能な絆を優先していきましょう。もちろん職場の半分が辞めれば、いくら代替可能であったにしても根本的に回らないと思います。施設単位のマクロなコントロールは会社であれば経営者やマネジメントする側の仕事です。むしろ、市場の原理で淘汰される、もしくは改善されるべきでしょう。バイトがどんどん辞めていく居酒屋で辞めようかと思ったらバイト代が上がっていって人も増えて何とかなったという経験もあれば、残りの人も辞めていって私も辞めたというような経験もあると思います。それと同じように捉えておきましょう。

 

 残念ながら、悩みや疲労から色々と手につかなくなってきた時、症状が出てしまった時、起きれなくなってきた時、働けなくなくなってきてしまった時、受診した時、というような際に中断という選択肢をより具体的に考慮する段階になってくると思います。

 まずは簡単に解決できないかという望みとともに研修担当部署との相談も必要だと思います。上記のような悩み、とりわけコンプライアンス的にまずいことを相談しても「まあまあ」となだめられるだけだったら、ましてや口外するなというような勢いであれば、中断を決意する人も増えると思います。相談するときも、最後は押し問答のようになるような状態が続いても、相談される側にも言いにくい事情やポジショントークもあり、煙たがられるかもしれません。とりわけ、コンプライアンス的にまずいもののこの業界の慣習となっているような部分に関しては、相談された側も反応に困る場合もあるでしょう。その際は無理にその相手を責めたりせずに、その人のポジショントークであると考えて、重くは受け止めないようにして少しでも気楽にするとよいと思います。短期的/近視眼的には「まあまあ」という方がいいかもしれませんが、長期的にはジリ貧茹でガエルになる可能性も秘めている組織・業種である可能性が高いので、転職を意識したほうが良いと感じます。

 

 色々な要素書き出して中断が良いのか、休職が良いのかを考えてみてください。異なる候補の病院と比べて、相対的に今の施設の方がよい研修を終えられそうであれば休職しながらゆっくりでも今の病院で初期研修を終える方が良いと思います。一方で、相対的に今の施設が悪いのであれば、中断して他の施設へ行った方が良いと思います。辛いとは思いますが、少しずつ準備をして前に進めてもらえれば幸いです。

 

 いったん休職で進めていったとしても、時短勤務や当直への配慮の必要性などから数カ月に1度のペースで受診して診断書をもらっている場合もあると思います。そのまま初期研修を終えられそうであれば、まずは初期研修を修了させられればよいと思います。一方で、受診を続けている環境であれば、その職場や働き方は自分に合っていない可能性が高いと思います。

 医学的に学んだりして乗り越えないといけない苦労・恐怖や不安はあると思いますが、一方で研修先の環境のせいで不要な苦労・恐怖や不安に悩まされていませんか。もちろん、初期研修先を変える不安もあると思います。しかし、可能な範囲で改善を試みてもダメな職場で働き続けることは「DV彼氏と結婚を考えて、ずっと一緒にいる」ようなものではないでしょうか。数年単位でみれば、転勤等も含めて環境の変化は当たり前であると考えれば、次に行っても良いと思います。

 医者そのものが向いていない場合もあるかもしれないと思いますが、その原因となっている要素に関して、職場に問題があり相対的に周りの病院等と比べて平均点以下(あなたの希望は完全理想論ではなく実現性が高い)とか、ここが苦手というような問題点があれば、その問題点は変えられる部分(異動、転職)を変えてみた方が良いと思います。

 

 3年目以降の働く場所・環境を意識して、より良いところで働いてもらえればと思います。また、とりあえず前に進むということで休職後に復職して、また休職しそうな場合は中断を再度考えたりすればよいと思います。そして、初期研修を修了しなくてよい明確な理由がなければ、時間はかかったとしても、研修病院が途中で変わったとしても、何とか初期研修を終えて職業や生活の選択肢を広げてほしいと思っています。

 

 初期研修の現状把握に役立ちそうなものも紹介いたします。下記の厚労省の資料もよろしければ、参考にご覧ください。

【PDF形式のスライド】

厚労省ホームページ】

臨床研修を長期にわたり休止又は中止する場合の取り扱いについて

 

 先述のホームページですが、研修医のご相談に応じる窓口厚生局ある旨の記載もあります。周りから具体的に厚生局での相談について聞いたことはありませんが、中断や休職の際の相談先になると思います。

 上記のホームページにてお休みが90日以内であれば、2年で研修を終えられるという主旨の記述の詳細もよろしければご確認ください。数週間休んだら終えられないというような制度ではありませんので、ご安心ください。

 他にもPDF資料には初期研修を中断する人は1.2%であり、中断した人の約8割程度研修を再開できているという資料もあります。一般企業の新卒1年目の離職率は約12-13%、2年以内の離職率が約20%であることをふまえると、初期研修の離職率はとても低いことが分かるかと思います。一方で、それだけ我慢をしている人が多いのかもしれませんし、中断まで至らずにお休みをはさみながら修了している人が多いのかもしれません。入試大学生活・部活等で選択がかかっているのかもしれません。いずれにしても医療業界の外からすれば「辞める人もいるよね」程度であると知っておけば、majorityから外れる恐怖は和らぐかもしれません。

 もちろん、これまでに挙げた具体例は様々な聞いたりした話を集めたもので、それらがすべて当てはまるような病院は多くはないと信じています。良い研修病院も多くあると思いますが、過去に医療者としての経験もない場合や多職種での交流のある人には違和感など様々なことを感じることが多い界隈だと思います。お読みくださっている皆様の状況に当てはめて考えていただければ幸いです。


 

2.初期研修中断向けて

 初期研修を中断したいと思っても、世間の目やこの業界の慣習もあり、中断まで至る人は数十人に1人もいないと思います。世間の目はほどほどに、まずは自分を大切にして欲しいと思います。ここでは、具体的な中断に向けた情報提供を、聞いたりして知っている範囲でも何か紹介できればと思います。

初期研修中断のトリセツ 第2, 3章のアウトライン

 

 

2-1. 研修中断証をもらう

 何といっても臨床研修中断証を貰いましょう。次に研修を再開する際に用います。臨床研修中断証とは、中断までの必修診療科を含む研修内容や「経験すべき症候」や「経験すべき疾患」、CPC症例のような修了要項のうち経験済みのものを証明するものです。これがないと何も研修していないのと同じになってしまいます。

(注)労基に行きたいというような人は退職が決まり、中断証をもらったに駆け込むことをお勧めします。残業代請求の時効まで2年(→新しくは3年)あるため、それまででもよいかもしれません。

 

 

2-2. 研修中断日、退職日を決める

 研修中断日を最終勤務日にできれば、初期研修のお休みの日は短くすることができます。特に大きなメリットはないかもしれませんが、お休みの日としてのカウントは短くなります。

 退職日は各自の思惑もあると思います。すでにお休みしているので有給休暇(有給)を消化しているかもしれませんが、有給は消化してから、雀の涙ながらでも出るなら賞与(ボーナス)もらってから辞職願を出すというようなことも考慮してみてください。退職前に使い切る/賞与への影響を少なくするという意味ではお休みする際も有給から使うことをおすすめします。受診中であれば、健康保険かけ替えの準備も間に合う程度の日取りで進めることをお勧めいたします。中断後にお金が必要なことや、基本的に継続年数もなく期間職員扱いのため退職金も出ないため、ちょっと考慮しておくと少しはマシかもしれません。

 

 

2-3. 年金や健康保険のかけ替え

 退職に伴い、厚生年金保健康保険のかけ替えになります。退職後、健康保険の任意継続健康保険や国民健康保険への変更といった選択肢があります。特に、心療内科等で受診を継続している場合には保険の切れ目のないようにご注意ください。

 国民健康保険で家族と同一世帯に戻る場合も含め、世帯年収等で異なってきますので、家族へ予め相談してみてください。もっと、簡単な一律の制度になればいいのにとか、長い間勤め人をしない人にとっては厚生年金とかいらないと思いますが、こればかりはかけ替えするしかないと思います。

退職後の健康保険について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

 

 

2-4. 引っ越し先/準備

 実家暮らしで実家から通勤している人は心配しなくてもよいと思いますが、寮や家賃補助の賃貸に住んでいる場合は考える必要があります。寮の場合退去となるでしょうから、実家に戻るなり、他の賃貸を借りるなりして、引っ越すことが必要になってきます。家賃補助の場合は家賃補助がなくなった場合に実家に戻るか、住み続ける場合は他の賃貸と比べて病院勤務に関連する事項以外でのメリットを考える必要があります。補助がなければ病院近くの家賃の割高なところには住んでいないかもしれません。

 引っ越しをするとなれば、洗濯機や冷蔵庫のような大型の白物家電は費用も掛かります。引っ越し業者に頼むにしても複数の業者に見積もり取らせて安く済ませるような工夫はした方が良いと思います。ハイエースのようなワンボックスカーを借りて誰かと引っ越して引っ越し費用を抑える、大型の白物家電を下取りして身軽に引っ越しをするというような方法もありだと思います。ちなみに過去10年の間に5回ほど引っ越しをしていますが、業者で運ぶ場合は繫盛期(3月末)を避けたり、繫盛期の場合は車を借りてちょっと誰かの手を借りて引っ越ししたこともあります。普段から物を増やさないようにして、物が少なければ、車で引っ越しをする方がお得です。特に研修中断で両親などのバックアップもなく、他の投資収入や家族の収入もない場合で、貯金を切り崩さないといけない人は中断に伴うしんどい時期かもしれませんが、節約も必要になってくると思います。他にも、白物家電のような大きなものは毎回近くのリサイクルショップで安いもの買い、引っ越しごとに処分するようにして、段ボール10箱等で宅配便で引っ越しをすると繫盛期の引っ越し料金を回避することもできます。

 いずれにしても、今後、急性期病院に勤め医局関連病院点々とするようなキャリアになりそうな人は今後の引っ越しも含めて意識してみるのもよいかもしれません。そのキャリアの働き方の是非はさておき、給料の割に退職金もなく引っ越し費用馬鹿にならないという場合もあると思います。

 実家に帰る際でも、処分する家電は早めに複数に見積もりをとって上手に売却するか、足元をみられない余裕をもって引っ越し前・引っ越し後に売却しましょう。過去に単身セットで大手家電量販店で3万円程度で売っているハイアール(Haier)製の冷蔵庫を1年弱使って下取り査定してもらったところ、千円という恐ろしい値段となりました(笑)。忙しくて料理はほとんどしないので冷蔵庫に入れるものも少なく、あまり使っていなかったので残念でしたが、まだ白物家電が揃えられていない人は参考までに。

 さすがに水道・ガス・電気の解約は大丈夫だと思いますが、引き払う場所に住民票をおいている場合は、転居に伴う住民票の移動や、郵便物の転送の手続き(郵便局への転居届)が必要になってきます。引き払う場所で自動車も登録している場合、車検証の住所変更手続き(新たな場所での車庫証明)もお忘れなく。

 

 

2-5. 信頼できる人と相談しておく

 研修中断が選択肢に入ってきたら、家族パートナー、以前からの親友等と相談しておきましょう。研修医内にそこまで信頼できる人がいるかは分かりません。カバートアグレッションとまではいかなくても職場の下手な人と話せば、噂だけ広まるだけで不利益だけかもしれませんので人を選びつつ、信頼できる人であれば、相談内容に関して妥当性の高い解決案を親身に考えてくれるかもしれません。

 他にも突然、研修中断が決まったら家族等が困るかもしれません。健康保険のこと、実家やパートナーのもとへ引っ越しする、引っ越しはしないなど大まかな方向性や部屋の確保はしておきましょう。突然でも何とかなるとは思いますが、いざ辞めても安心して生活できる先があるというのは良い判断をしやすいと思います。

 他にも、引っ越し先だけでなく辞める際のお手伝いをお願いできることも強みかもしれません。退職代行サービスではないですが、研修医室の机の片づけや引っ越しに伴う手続きもしんどい時にはお願いしたり、手伝ってもらったりしましょう。

 

 

2-6. お金を貯めておく

 特に退路を保ちながら戦うということのひとつになるでしょうか。退路としてお金を貯めつつ、どうしようもないときには中断も選択肢に入れつつも、戦いとして初期研修を乗り切る/成長するといった感じです。

 これも2-4とのつながりで家族やパートナー次第ではありますが、普段からある程度貯金などをしておくことをおすすめします(読んでいる方が偶然にも学生であれば、学生の稼ぎのいいバイトの方がお金が貯まりやすいかもしれません)。家族が中断中のお金も払ってくれるような環境であれば、とりあえず安心でしょう。しかし、初期研修の期間雇用・継続年数では退職金もなく、休職手当もないため、そこまで裕福な家庭ではない場合は少し注意が必要です。

 もちろん、普段のストレスによって消費額が高くなってしまうことは理解できます。しかし、ストレスが溜まりアウトレットで15万円使ってお金が綱渡りとか、そういった華やかな買い物なしではやっていけないとか、そうすると来月のクレジットカードの引き落としがあるから休めないとか、転職しづらいとか聞いたことがあります。消耗を重ねていく自転車操業状態になってしまいます。

 他にも収入に見合わない家賃の話も聞いたことがありました。手取りの3割までと古くから言われますが、手取りに見合わないデザイナーズマンションの一室を借りてお金がカツカツで当直をたくさんにしないとお金が回らず、ゆっくりできるいい部屋を借りたのに帰れないというかわいそうな話も聞いたことがあります。

 家計を見直しておきましょう。特に高価な資産性のないものの個人ローンでの購入を控えるというのも良いと思います。高価なものを買っていない人でもメスを入れやすい部分でいうと固定費です。特に大きな固定費から見直すと抜本的に改善されます。見直しやすい固定費としては携帯電話代電気・ガス代家賃、簡単に整理できるサブスクでしょうか。特に金額の大きな部分や、電気・ガス代(燃料高騰時は注意)のようにまとめてお得なところで契約すると内容・質は変わらずにお得に生活することができます。あとは、研修医で1人暮らしであれば固定回線は引かずに楽天モバイルDocomo 5Gギガホプレミアムで無制限で使えるものに絞ることもありでしょう。

 その先でいうと、月額分も使用していないフィットネスジムゲーム課金ムダな保険もあると思います。Ubar Eatsをはじめとするフードデリバリーも家計を地味に圧迫しますが、これは肉体的な疲労や時間節約とも密接にかかわっています。それ以上に普段の生活費とは別枠にしていそうな財布のひもが甘くなる部分にも注目です。例えば、5000円とかの中途半端な外食を、誰と行って話したいからとか、ここは他と違っておいしいとか、目的を明確にして判断すると中途半端に無駄な外食は削れてよいと思います。働き方やお給料・時間外手当の有無といった側面からも判断して可能な範囲で節約してみてください。中断に限った話ではないですが、金銭的にも余裕があることで辞められない状況に追い込まれることを防ぎ身動きが取りやすくなるように感じます。今の大学病院等の専攻医のときにも参考になると思います。

 初期研修1年目で2カ月程度の勤務日数であればそこまで問題になりませんが、住民税のことも頭に入れてお金を残しておきましょう。所得税に年金に社会保険料に、たくさん天引きされていますが、2年目以降(天引きでも)やいったん中断して他で再開するにしても大変な思いをするかもしれません。

 

 

2-7. 次の再開先を意識しておく

 中断した後のことになります。もちろん、保険医になることを辞めたり、臨床医以外の道もあります。しかし、保険医を取っておこうと思う人も多いはずです。

 再開に際して、「研修医の求めに応じて、臨床研修の再開の支援を行うことを含め、適切な進路指導を行うこと」とは厚労省の先述のページには記載されていますが、現実的にはそれぐらい親身な病院を中断することは稀で、再開先は自分自身で探すことになると思います。ネットで検索すれば中断者を個別で受け入れている施設がありますし、そこまで大々的にホームページで公示していなくても出身の大学病院や定員割れしている病院などに問い合わせてみるのも手段であると思います。定員の空きのあるのが、1年目、2年目でも異なってくる部分もあるでしょう。通常のマッチングとは別枠といったようなことを聞いたような記憶もあります。いずれにしても、中断理由は配慮されると思います。もちろん、1年目であればタイミングを待って合わせてマッチング登録からという方法も選択肢になってくるとは思いますが…。

 地方、お給料、ブランドなど、譲れる部分があれば、定員割れする可能性のある病院で比較的容易に再開できる場合もあります。地方で良い場所を見つけられば、都心よりも高いお給料でゆったりと研修再開できるかもしれません。これこそ、地方にいる/行った友人・先輩・後輩等に聞いてみるのも良いでしょう。研修病院の真実を聞きやすいと思います。

 また、友人・先輩・後輩等を頼るというような手段もあります。東京に残っている友人の病院の場合はフルマッチしているので可能性としては低いと思いますが、事務や先生に中断者の受け入れをしているかを聞いてもらいましょう。表で募集をしてなくても、受け入れ可能な場合もあります。その際は仲介してくれる人と病院の先生方の信頼関係等も影響してくるかもしれませんので、頼む人が選べる場合には選んだ方がいいかもしれません(特に中小病院の場合)。

 

 何より、学生の時にはイメージが湧きにくかった初期研修の実態をもとに学生の時以上に養われた視点から自分自身に合うところを見つけましょう。

 ここがという具体的な再開先の紹介ができないことが申し訳ないですが、中断に至った理由を見直しながら、ゆっくり考えてみてください。とりあえずは自分の体を大切にしてほしいと思います。



 

3.最後に ~自分なりの歩みを~

 まずは余裕を持てるようにして、少しでも気持ちが前向き解決志向になる・アクションを起こす一助になれば幸いです。そして今後、もっと長期的な専攻医の道に進むことを選んだときも、今回のことを活かして選んでみてください。

 「変えられないものは受け入れて、変えられるものを変えていく」という視点で、医局等の縛りがなければ、その病院での働き方は変えられないかもしれないけれど、働く病院は自分で変えられるかもしれない。今の働き方は無理であると受け入れて働き方を変えるために転職する。そう考えてみてはいかがでしょうか。

 不安恐怖があるから学ぶことができる面もあるので、鈍感で強すぎて学ばずにいつも同じ失敗を繰り返すよりも次のものを探して進んでいきましょう。そして、長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた一部の人のように、その状況から逃れようとする努力すらしなくなり長期的に体を壊していく前に、そのストレスを回避してください。

 初期研修2年という枠に縛られながら、それを外れるとレッテル貼りをさせるような日本らしいシステムだと感じます。卒業までに各自でUSMLEに合格するように好きな時にクリアできるようになればいいのと同じように、初期研修ももっと多くの人が2年でも、2年3ヶ月でもというように、研修を自由にグラデーションをもって終えられるシステムがあればいいのにと思ったります。

 とりあえず興味のあるところを覗いてみて、入ってみて求めていたことと違うということは大いにあるので、はじめからキャリアプランを決めすぎずに、Transitional Yearとか、休学とか、編入とか、MBAの社会人大学院などを挟みながらやりたいと思ったときにやりたいことをやれるように方向転換していくというようなのが良いと感じます。人は何かを体験・習得することで変わっていきます。ずーっと今の価値観のまま、未来を見ていく必要はないでしょう。新たなことを吸収して、また方向転換だと思います。

 他にも、初期研修の際に結婚をしていて子供を育てている家庭は少ないと思いますが、いずれ結婚したい、子供を育てたいと思っている人にも、その分の時間的な余裕はのびしろにしやすい環境や、自分の希望・意志で転職や継続、調節できる環境を整えたほうが良いと思います。雇用条件には書かれていないものの出産は半ば順番待ち強制転勤(自主退職扱い)で関連病院を転々とするというようなこともあるかもしれません。もちろん、そうすることで子育て等に必要な金銭的メリットや技術的なメリット等を教授できるのであれば、天秤にかけて判断することになると思います。

 初期研修・3年目以降(主に専攻医)にしても、時間的余裕金銭的余裕もない、例えば外科系のような技術的な伝授のメリットもないようなところであれば、なぜそこにいるのかを明確にした方が良いと思います。例えば、地方の中心都市にあるみなし公務員でバイトの制限も多く、形式的な働き方改革を進めている基本給の低い薄給の内科などでしょうか。そういう場所に残る理由は、定員数や病床数の大きさからの「皆と同じ」という安心感かもしれませんし、他にも近くに住む家族の介護や出産、家庭の環境、家業との兼ね合いかもしれません。そうでなければ、考え直す必要が本来はあるのかもしれません。

 初期研修3年目以降考えるヒントになると思います。保険診療の診療科の中での病棟の有無やメジャー科・マイナー科という枠組みだけでなく、自由診療産業医、官庁・企業など様々な選択肢があるでしょう。もちろん、家族など人との関係で診療科選びぐらいの枠の広さで考えることも多いと思いますが、まだまだ方向転換も可能です。そう思った時が一番若いのも事実です。

 他にも、FIREなどから資産運用・お金の稼ぎ方を学んで、仕事は「自分の命を切り売りするのを極力やめる」ぐらいで良いようにするなど、仕事お金の問題をある程度切り離すように試みるという選択肢もあるでしょう。10年、20年後といった長期も見据えてゆっくりでも変えていきましょう。医師以外の収入源も考えている場合、副業規定みなし公務員のリスクについても考えておきましょう。

 上記のような方向転換多様な働き方を受け入れる器が初期研修→専門医制度の流れにはあまりないと感じます。一度枠から外れた人をレッテル貼りするような多様性認められない人はちょっと脇において、自分がどうしていきたいかゆっくり各自のペースで考えてもらえればと思います。1度、このシステムから出る(世間的なレールから外れる)と戻ってこれなくなるんじゃないかという不安を少しでも減らして、自分なりに歩みを進めていくきっかけとなれば幸いです。

 そして、我慢して望まない選択してしまった場合でも、その不満を解消するために自分と異なる選択をした人を攻撃することをやめて、自らも変えていきましょう。今いるところでやり続けていくと決断した人の幸せも、違う場所に行くと決断した人の幸せも認め合い、尊重できるようになると良いと願っています。

 そして、よくあるレールから外れる・外れないに関係なく、それぞれが自分なりの幸せな状態になってやりましょう。それこそが、初期研修等でハラスメントをはじめとする嫌なことをしてきた人への最高の仕返しでしょう!

 初期研修中断にしても休職にしても、そのまま継続にしてもより良い初期研修となることを願っています。



 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 自己研鑽の話題の際に、自己研鑽の一部を時間外労働として認めた場合に病院が赤字に転落するのではないかというお話の部分の補足記事です。数字(財務諸表)の深堀りを兼ねた番外編になります。

mk-med.hatenablog.com

 

 1-2でお話をした当直・日直回数の客観的な把握方法については下記のページ > 7.【追記】反省点含む >【補足】 当直回数・勤務形態の客観的把握 をご覧ください。また、現在マッチング中、研修先を考え始めたという人もよろしければご覧ください。

(注)今ご覧頂いている「初期研修 中断のトリセツ」も初期研修先の病院選びの際の参考になれば幸いです。

mk-med.hatenablog.com

 

 このブログ記事の作成に際し、記事執筆・作成の要望をくれた後輩だけでなく、具体的な相談や話(ブログ記事のための話でなかったとしても)、タイトルに関してのアドバイスをはじめとする周りの友人・知人の皆様に御礼申し上げます。また学会シーズン等の諸所の事情により、直近の具体的な記事作成のお願いから完成までに1カ月ほどかかってしまい申し訳ございませんでした。今後とも何卒よろしくお願い致します。

 また、1人でも多くの人の目に触れることで研修がより良いものとなることを願っており、有料媒体へ移行する予定はございません。そのため、このページをハブのようにして他の方のページのリンクを掲載する等も考えております。また、当ページへのリンクも良識の範囲内でご自由に掲載していただけると幸いです。

  

医療 初期研修2.1 990,063,1 ギュッと凝縮 名古屋 式

病院の損益(収益・損失)イメージ|自己研鑽(サービス残業)を時間外労働と認めたら赤字転落?

【番外編】病院損益(収益・損失)イメージ

自己研鑽サービス残業時間外労働と認めたら赤字転落?~

 

<目次>

 

 

 今回は、先月のとある出来事から「初期研修 中断のトリセツ ~お休み90日までなら2年で研修修了可能~というブログ記事を書き始めたことをきっかけとしたものです。初期研修の中断を考える理由のひとつとして、自己研鑽サービス残業が理由に挙がりうるという話を書きました。現実問題、病院が「全職員のサービス残業を1時間/日認めただけでも赤字に転落」という程度の財政状況にあるところが多数あり、自己研鑽をなくすのはおろか、機械化・効率化含めた根本的な改善は難しいということを書きました。それを財務諸表等数字から推測する補足記事(番外編)です。 

 財務諸表といっても、賃借対照表、損益計算書キャッシュフロー計算書といった分け方や、そこから流動比率自己資本比率、手元流動性とかを詳しく調べて行くものではありません。今回は介護や医療材料の身内のような会社の話や急性期病院と同一グループのクリニック等といった話は抜きにして、急性期病院の財務諸表から「ちゃんと残業代が支払えるのか」にフォーカスして主に損益計算書(PL)(売上から仕入れ費用や人件費を引いて利益を計算するもの)と言うべきか、プライマリーバランスの部分を中心にチェックしていきます。

 

 

1.病院の収益・損益のイメージ

 400床以上のよくありそうな急性期市中病院お金の流れ・バランスを調べてみます。財務諸表損益計算書というようなキーワードと調べたい施設名で検索すると見つかります。

 収益構造(割合)を分かりやすくするために年間の収益100億円程度としています。本来であれば、収益100億円/年 規模の病院は300床台から400床程度の病院ですが、これよりも大きな病院の収益が100億円規模になるように調節しています(本来は600床を超えてくると収益は200億円/年にもなります)。

 

収益100億円/年規模の急性期病院

 いかがでしょうか。もちろん施設ごとに異なりますが、あくまで傾向としてこの数字を見た際に意外とここの金額が多いとか少ないとか、発見があったのではないしょうか。損益(収支)が主に±数億円(2-3億円)の範囲内程度ということや、意外にも赤字の年度もあるというのは、今まで興味のなかった人には意外ではないでしょうか。損益計算書上では赤字でも、減価償却キャッシュフローといった視点等も合わせると、決して病院建て替え等の大きな設備投資ができる(将来性がある)わけではありませんが、即時倒産という状況ではありません。

 経常収益に目を向ければ、診療報酬だけでは赤字であり、恒常化している補助金交付金、2020年度以降でいうとコロナ病床による補助金によって何とか黒字化しているというところもそれなりにあります。例えば、コロナ病床1床につき人件費補助という名目で1950万円/年というニュースを見たことがありますが、この収益100億円の病院がコロナ病床を10床もっていたとしたら、単純計算でもコロナ病床による補助金が2億円弱入っていることになります。コロナ病床補助金がなければ、赤字の可能性も高いでしょう。

 また、営業外収益は極めて少ない(医療のみに近い)のも特徴的です。医療法人というのがまたもや特殊な仕組みなので仕方がないのかもしれません。営業外収益(営業外費用)が極めて少ないため、営業収益(もしくはプライマリーバランス)を基軸にして分かりやすくしています。

 政令指定都市程度の規模の街やその周辺の地域にある市中の急性期病院の収益を調節し、収益100億円規模にしたものをイメージしています。競争原理や改善意識の働かないような施設、公共性の強い傾向にある患者さんの少ない地域や公立病院ではもっと収益が悪く、損益がマイナスのことやもっと補助金交付金で支えている場合も考えられます。

 経常費用のうち、最も多くの割合を占めているのは給与です。約4-5割を占めています。退職金を除いても3.5~4割を占めています。そのため、仮に全職員がサービス残業している1時間/日を時間外労働として認めた場合(労働時間が1割増以上となる場合)には、経常費用の給与(退職金を除く)が1割は増えます。そうするだけで3億円や4億円の経常費用の増加となり、いくら前年度に黒字であったとしても赤字へ転落します。他にも2024年問題と外勤先の兼ね合いで時間外労働と認められない可能性もあります。そうなれば、成り行きで自己研鑽扱いとなってしまう可能性もあります。

 他にも、経常費用の内訳として教育研修費もあり、いくら研修教育に割いているかもチェックできるでしょう。うあくまで財務上の都合でどの費用として計上するか曖昧な部分はあると思います。例えば、教育研修係として雇い、事務職として働かせているというような場合は、教育研修関係の給与扱いとなります(雇用時に未記載の業務内容へ変更の場合は従事すべき業務内容の更新のために被雇用者と交渉が必要ですが、日本で業務内容変更に伴って被雇用者の権利を意識してちゃんと交渉しているということはあまり多くないと思います。それで、そのまま教育係のまま、もしくは教育研修部門でのコストにしたいなど、様々な思惑がある場合もあるでしょう)

 

 ちなみに、利益2-3%(※損益±2-3%をプラスに捉えた場合)というのは、ここ数年前ぐらいに店舗が急に増えて経営が傾きはじめた某ステーキチェーンの会社や、バイトの給料も安く1品数百円行かないような値段設定の某焼き鳥チェーン店の会社の利益率と同じような数字です。安さが売りのところも似ていたり、人件費が多い傾向というのも似ていると損益計算書(PL)から感じたりするかもしれません。とりあえず損益計算書上では赤字でも、キャッシュフロー上は何とかなっていて、赤字を減らすためにもとにかく回すというような、先行投資のしずらい緩和規制後の中小運送業者と似ていると感じるかもしれません。薄利多売でも、ここは意外と某牛丼チェーンとは異なっていて、某牛丼チェーンは意外と「ここの牛丼が好き」という人がいて値上げに対して許容されているというような傾向もあります。

 サービス残業(自己研鑽)や望まない長時間労働・連続勤務が蔓延っている職業であること、とを踏まえれば、医療AIや機械化のような形で人件費や労働環境を改善していくということも視野に入れるのもありかもしれません。国の介護・医療費の問題やそれによる診療報酬や薬価の問題、公共という側面の強い医療という傾向の強いものであることを考えれば、ホテルに例えれば、高級ホテルではなくビジネスホテルのような方向性でしょう。私自身はビジネスホテルも嫌いではなく、むしろ場所の効率化や受付の効率化・無人化など、感心する部分も大いにあります。

 

 上記はあくまで一例ですが、客観的な数字をみることで様々なことが思い浮かんでくる人もいると思います。引き続き、数字を見てブレインストーミングのようなことをしみたいと思います。

 

 

 

2.数字を見てブレインストーミング

 ここからは前述の内容を含め、ブレインストーミングのように病院の収益に関する数字(財務諸表、損益計算書等)をみて思うことを挙げてみました。

 

  • 仮に全職員のサービス残業を1時間/日だけ時間外労働として認めただけでも赤字へ転落。
  • 休日や夜間に市場価格で外部から医者等のバイトを募集したら、赤字
  • 経常費用のうち給与の占める割合の大小は個々の給料や環境ヒント?
  • そもそも医師が米国のようにジョブホッピングしないから?医局やプライド等でできないから?
  • ジョブホッピングのないことを前提とした給与がベースで診療報酬も決まっている?
  • コロナ病床への補助金(1床約1950万円)がなければ赤字転落のリスク
  • 補助金交付金穴埋めしている構造
  • 医療だけでは単純には利益はでないようにして、補助金交付金国がコントロールする方針?今しばらくは急性期→在宅医療?
  • 保険診療は制度にはめられた良くも悪くもみなし公務員のような職業?
  • 給与削減は経営改善のひとつの手段
  • 診療収益を1割増しにできれば、収益のうち占める割合も大きく効果が大きい
  • むしろ営業外収益を開拓して増やしていくべき?医療法人では…
  • 退職金が予想以上に多く、サンクコストからも雇用の流動性低くなりがち?
  • 機械化や効率化のための設備投資をする余裕はないところが多い?
  • 効率化や機械化、もしくは時間外労働を認める方向による根本的な解決は難しい
  • 解決は難しいのであれば、就職時にサービス残業の程度をひとつの職場選考基準にいれ、すでに上手くいっている職場を選択すべき?
  • 職場を国内外を問わず選べるように自分磨きに努める?
  • 近視眼的に沈む船の座席争いをして、あざとく組織内・日本に残る?
  • 自己研鑽という労働のダンピングと、技能実習制度という安価な労働力の構造は、改革のできないジリ貧の業界としての構造が似ている?

 

  • 経営改善には給与だけでなく材料費の削減もひとつ
  • 病院アライアンスや巨大法人による数の論理材料費を値切るようにして生き残りをかける?
  • 値切られた医療材料会社や製薬会社も苦しい状況?

 

  • プライマリーバランスだけでは無理!?
  • 様々な視点から解決策を考えるには、長い・広い視点での先行投資ができる基盤が必要?
  • 保険医療×急性期医療という枠組み在り方を考え直す?
  • 可能性があるのは保険診療
  • 国内のみならず、医療という日本の巨大産業(年120兆円超)から得られるものを海外で活用するしかない?
  • 保険制度では病院ごとの付加価値公平につけることが難しい面がある(一律ではあるが)
  • 医療の病気になって保険診療という診療報酬や考え、流れを変える?
  • 給与問題から人員が増やせないなら、とりわけ大変な夜間の医療(救急外来等)のあり方を考え直す?
  • 国レベルで薄利多売モデルの診療報酬の見直し?
  • 医療資源の分配見直し: 医療の公共性、高齢者医療の在り方(例:がん治療)
  • 医療の在り方の見直し:患者側の意識・民度、持続可能な医療、医師の業務内容Nurse PractitionerITの導入等
  • 既存の仕組みの上に新たな物事より、うまくいくのはゼロベース?日本の保険診療の世界のへ?
  • もっと広い枠で考える?シルバーデモクラシーの結果?優先順位は?高齢者・人口減が困る医療からの離脱?

 

 挙げてもキリがなさそうです(笑)。いったん思考を発散させて、あとで調べながら収束させるというような過程が役立つことがあると思います。数字だけでは新たなことはなかなか生まれてこないことを克服しやすいと思います。今回は初期研修の中断を考えている人向けの記事の補足なのでこれぐらいにしようと思いますが、従来の臨床以外の道も考えている人をはじめ、ぜひいろいろ考えてみて楽しんでみてください。

 

 

 

3.最後に ~数字による気づきへ~

 数字きっかけに見てみると今回のように興味深いこともあります。自身の勤め先のことが気になれば、財務諸表、損益計算書(PL)、賃借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CS)、決算書、(財産増減計算書、直近であれば収支予算書)というようなキーワードとともに検索してみてください。特に財務3表(PL、BS、CS)を3つとも見ることで、多方的に見ることができるでしょう。例えば、過去に建てた建物の減価償却費用があることで財務諸表上で赤字になっているけど、何とかなっている自転車操業状態の病院(もう建て替えする余力はない)というようなことも分かるでしょう。

 他にも、身近な会社の収益を見てみると少し見る目が変わるかもしれません。小売業(スーパー)だと思っていたら稼ぎ頭は金融事業と不動産事業であるとか、鉄道会社の収益のうち不動産事業は侮れないとか、いろいろなことに気がつくでしょう。医療はあまり変化がないかもしれませんが、一見するとWithコロナで過去と同じように見えても、在宅、オンライン等による見えやすい部分〔BtoC(例:小売業)〕だけでなくBtoBの分野)でも業態の転換に迫られていることがわかるような収益の変化が見えてくるでしょう。決算、有価証券報告書決算短信(決算の速報ダイジェスト版のようなもの)、アメリカの会社であれば10-KForm 10-Kというようなキーワードと共に検索してみましょう。

 決算書の読み方が全く分からない人向けに、決算書を分かりやすく図(鶴亀算のような図)を用いて比較しながら説明している『決算書の比較図鑑』という、とっかかりになる入門書もありました。身近な会社の例に挙げながら、説明されている点も理解しやすく、親近感が湧きやすいと思います。

 一方で、自己研鑽(サービス残業)の程度は数字を見ていても、正直な部署や施設以外では正確な数字には出てこず、日本での時間外労働時間と相関する物事の評価はとても難しいでしょう。会社の決算報告書をみると企業イメージと実態も乖離があるでしょう。しかし、少しでもそういうような部分を見つけるヒント対策するヒントとなるような数字をみつけるお手伝いができれば幸いです。

 

  本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 今回の記事を書くきっかけとなった記事です。記事の中で自己研鑽という部分に触れたことから、今回に至りました。

mk-med.hatenablog.com

 

 サービス残業長時間労働・連続勤務を改善する糸口として医療AIについて触れました。医療AIに夢や興味を持つ人はよろしければ、こちらもご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 数値化に関して個人や組織にも当てはめることで役立つこともあると感じた本の読書ログです。興味のある方はよろしければご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 

【参考記事】

 医学部卒業まではもちろん、働いてからも自分で調べるしかない労働基準法について、分かりやすく紹介されています。労働基準法違反である自己研鑽(サービス残業だけでなく当直の勤務体系等も知っていたほうが転職時に今後役立つかもしれません。よろしければ、こちらのシリーズもご覧ください。

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血球貪食症候群 Secondary HLHの原因と鑑別疾患 ~内科緊急症の掴みどころを探る②~

血球貪食症候群 ~掴みどころを探る②~

 Secondary HLH鑑別疾患

 

<目次>

前回血球貪食症候群 HLH-2004 & HScore ~内科緊急症の掴みどころを探る)の続きになります。

 

 前回は、掴みどころがぼんやりしていると感じられた血球貪食症候群(HLH, HS)症状や所見、診断基準HLH-2004や臨床予測ルールHScoreを調べつつ、まだまだ血球貪食症候群を疑うヒントは少ないと感じました。そこで、今回は続発性の血球貪食症候群の原因からチェックしてみようと思います。



4.Secondary HLHの原因

 血球貪食症候群の原因には、遺伝子検査で分かるprimary HLH感染症や悪性腫瘍等によって生じるSecondary HLHがあります。とりわけ、Secondary HLHの原因を調べることで、例えばどのような感染症のときに多い・少ない、どのような悪性腫瘍のときに多い・少ないというようなことから、血球貪食症候群(特に成人の場合)を疑うヒントになればと思います。

 

(出典)Lancet. 2014 Apr 26;383(9927):1503-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(13)61048-X.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Secondary HLHの原因として、大きな分類では感染症が50%悪性腫瘍が47.7%と多かったですね。そして、原因として移植に関係するものや環境要因も盲点でした。

 感染症ではウイルス性が多く (全体の34.6%)、その中でもEBVHIVが多いです。これらの罹患率は人種や地域によって異なるもの、全身性のものやリンパ球が関係しそうなものに多そうです。EBVは日本では成人にて既感染の割合が高く、成人後にEBVに初感染した場合の方が炎症が激しくHLHになりやすいのか、慢性のものがなりやすいのか、調べてみたいとも感じました。

 悪性腫瘍悪性リンパ腫が圧倒的に多く、NK/T細胞性リンパ腫、B細胞性リンパ腫、Hodgikinリンパ腫、分類不能なリンパ腫を合計するとn=798、割合にして全体の36.3%と高く、こちらもとりわけリンパ球の関わるもので多い印象です。固形癌の少なさはむしろ予想以上に少なく、それなりにサイトカインストームというべきか、じわじわとした炎症ではなく、激しい炎症で生じると理解しやすかったです。

 自己免疫疾患は予想していたほど多くはなく、全体の12.6%でした。その中では全身性エリテマトーデス(SLE)が全体の6.1%も占めることから、自己免疫疾患の約半数ほどを占めています。これも、症例報告等で耳にしたことがある人も多いと思います。そしで、自己免疫疾患の中での罹患率や全身性と関係がありそうで、さらには元々汎血球減少を生じる疾患としても想起しやすいように感じました。

 最後は移植関連環境要因が原因となる場合です。忘れがちになりますが、割合は8.4%と決して稀ではありませんでした。移植の中では、腎移植と造血幹細胞移植が多く、造血幹細胞移植は血液腫瘍の治療という解釈で腑に落ちそうですが、腎臓に関してはメカニズム的にあまり腑に落ちる感じがなく、血が多い臓器と考えても肝臓との差がいまひとつです。腎移植の件数が日本で多いということや世界的にも少なくないことを加味すると移植の中で母数が多かったという解釈ができそうです。また移植に際しては、いずれの臓器の場合もHScoreにあった免疫抑制状態であると考えられます。他にも環境要因として、薬剤だけならまだしも、ピットフォールになりがちな他のものも忘れないようにしたいと思います。



5.COVID-19と血球貪食症候群

 先ほどのSecondary HLHの原因において、COVID-19が原因として挙げられていませんでした。これの明らかな理由は、引用元のReviewが2014年と新型コロナウイルス(COVID-19)が登場する前であったということは言うまでもありません。

 しかし、COVID-19は全身性疾患のような病態、サイトカインストームにもなりうることから、それなりに血球貪食症候群の原因になると考えられます。実際に、血球貪食症候群が生じた症例がないかを調べてみます。

 下記のような症例報告(Respir Med Case Rep. 2020 Jul 10;31:101162. doi: 10.1016/j.rmcr.2020.101162. eCollection 2020.)がすぐに見つかりました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 興味のある人は様々な症例報告からゲシュタルトを作ることもできそうです。COVID-19で血球貪食症候群を生じるということは容易に確認できたので、COVID-19のうちどの程度の人が血球貪食症候群になるのかという疫学的なことを深掘りしてみたいと思います。

 

 重症COVID-19成人患者でHLHの基準を満たすのは5%未満であった。報告されたほとんどの症例が診断基準のいくつかの項目(主に病理組織学的基準、NK細胞活性およびsCD25の測定)に関する情報を欠いており、これらの不完全な症例では完全にHLHを否定することができないことを考えると、その率は過小評価される可能性がある。

(出典)Clin Rheumatol. 2021 Apr;40(4):1233-1244. doi: 10.1007/s10067-020-05569-4.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 重症COVID-19の患者のうち5%未満と予想されるという程度でしょうか。COVID-19のときにステロイドが用いられることがHLH発症を抑えているかもしれません。まだまだはっきりはしないですが、Secondary HLHの原因の中でどれだけを占めるかというようなそれなりの規模の論文が出てくること含め、今後新たな論文が増えることを期待したいと思います。



6.血球貪食症候群の鑑別疾患

 血球貪食症候群の掴みどころのヒントを探るという本題に戻りたいと思います。Secondary HLHの原因だけでなく、HLHの鑑別疾患を知ることで、それらの鑑別疾患を想起した際にHLHを想起するヒントになると思うので、調べてみたいと思います。

 

鑑別疾患

  • マクロファージ活性化症候群(MAS)
  • 感染症/敗血症
  • 肝疾患/肝不全
  • 多臓器不全(MOF)
  • 脳炎
  • 自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)
  • 薬剤性過敏症症候群(DRESS)
  • 児童虐待;中枢神経系による症状・所見が類似
  • 川崎病
  • 細胞貪食組織球性脂肪織炎(cytophagic histiocytic panniculitis)
  • 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
  • 溶血性尿毒症症候群(HUS)
  • 薬剤性血栓性微小血管症(DITMA)

(出典)UpToDate>Clinical features and diagnosis of hemophagocytic lymphohistiocytosis, last updated: Sep 16, 2021.

 

 鑑別疾患を眺めてみると、感染症脳炎をはじめとする様々な原因を含むものや、血液疾患や全身疾患らしく掴みにくいものが多く感じました。それらのうちのひとつでも頭によぎったら、血球貪食症候群を少しでも意識できるようになりたいものです。そして、多臓器不全のように血球貪食症候群でも生じる病態もあることから、それぞれの病態の原因が何であるのかを考えることになりそうです。

 血液疾患のTTPやHUS、TMAというあたりは理解可能な反面、いずれもゲシュタルトを掴みにくい側面がある疾患のように感じます。これらの疾患のReviewでも目を通してみたいものです。

 児童虐待川崎病は小児の際の鑑別としての側面が強いと思います。中枢神経系による特徴が類似しているというのが、虐待と血球貪食症候群の奥深さを感じます。前回から調べてきた際に、初期症状が脳炎のようにみえるという記載はありました。ここで、今回の部分を書いている際に見つけたReviewに神経症状についての記載もあったので、それを軸に頻度も調べたり、神経症状以外の症状もないのかを確認してみたいと思います。



7.HLHの多彩な症状

 今回、新たに分かったHLH(HPS)の症状、身体所見についてさらに深掘りしていきます。前回記事のような「発熱疾患様」という以上に様々な臓器に関連する以下のような症状が見つかりました。

 

  • 内臓障害は頻繁に起こり、しばしば進行性の多臓器不全を引き起こし、患者のほぼ半数で集中治療が必要となる。脾臓と肝臓が最も頻繁に障害される臓器であり、60%以上で肝機能検査異常を認める。血球貪食症候群として脳症、腹水、静脈閉塞性疾患、非外傷性の脾臓破裂を生じることがある。
  • 肺が障害されることが多く(42%)、咳、呼吸困難、呼吸不全などがみられ、特に呼吸器系ウイルスが引き金となることが多い。
  • 非特異的な消化器症状(18%)には、下痢、嘔気、嘔吐、腹痛などがあり、消化管出血、膵炎、潰瘍性腸炎に特異的な症状、所見を伴うことがある。
  • 神経学的症状(25%)は様々で、昏睡、発作、さらには髄膜炎、脳脊髄炎、海綿静脈洞症候群または脳出血によるものが含まれる。一部の患者では、気分障害、せん妄、精神病による精神的変化を呈することがある。さらに、ギラン・バレー症候群や馬尾症候群のような他の神経症状の報告もある。
  • 成人患者の4分の1では、紅斑性発疹、水腫、点状出血または紫斑などの非特異的な皮膚病変を有する。皮下の脂肪織炎様の結節は、基礎疾患であるT細胞性リンパ腫と密接に関連しているため、特に注意が必要である。
  • 腎臓の障害に関する24例の報告では、腎不全(88%)やネフローゼ症候群(38%)が主である。腎生検では、主に糸球体腎症(38%)や血栓性微小血管症(23%)であり、半数で血液透析が必要であった。

(出典)Lancet. 2014 Apr 26;383(9927):1503-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(13)61048-X.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 詳しく様々な症状についての記載もあり、驚きました。発熱疾患様という表現より先の多彩な症状について意外なものまで知ることができました。もちろん、前回の記事で初期症状を調べた際の記載のような経過についての記載もありましたので、気になる方は出典をご覧ください。

 それにしても、本当に多彩肺病変、消化器症状、腎病変、神経学的症状まであり、全体像をつかむことは難しく感じました。そして、内臓障害まで生じた際の重症度が高く、やはり緊急症であるという確認にもなりました。

 が障害される場合も42%と予想以上に多かったです。呼吸器系ウイルスが引き金の場合が多いという記載のあるように、Secondary HLHの原因が関係しているという視点から見ることが大切であると思います。

 腎臓の障害は少ないにしても糸球体障害から間質の障害まで、そして腎不全が多く血液透析まで半数が至ることからも重症になりやすくて違いなさそうです。

 神経学的症状髄膜炎脳炎というようなSecondary HLHの原因によるものといえるようなものと、血球貪食症候群になったことによる結果(易出血→脳出血)のような、結果と原因が混在していると感じました。それにしても、多彩で昏睡(coma)から精神症状まで、さらには脳出血の部位による巣症状も考えられるというような状況で、神経学的症状の多さには目を見張るものがあります。脳症も別項目で9%ほどみられるということで、何でもありというほどイメージを広げる想像力が欠如しており、調べてよかったと感じました。

 末梢のリンパ節腫大に関しては、皮膚のT細胞性リンパ腫の可能性と同じく、悪性リンパ腫が関わっているというような状況があると思います。続発性の血球貪食症候群の原因とoverlapしているようなClinical manifestationsでした。

 

 

 前回の診断基準(HLH-2004)や臨床予測ルール(HScore)に続き、Seconday HLHの原因、鑑別疾患と調べてまいりました。少しでも、そこから内科における緊急症である血球貪食症候群想起するきっかけとなるようなヒントがあれば幸いです。

 また、機会があれば全体像の掴みにくい他の血液疾患〔例:血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性微小血管症(TMA)〕についても調べてみたいと感じました。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

【関連記事】前編①

mk-med.hatenablog.com