"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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帯状疱疹|何まで引き起こす!?合併症?

帯状疱疹 

何まで引き起こす!?合併症?

 

 Medicina 2021年11月号『外来で役立つAha!クエスチョン この症状で,次は何を聞く?』にて、帯状疱疹に続発する偽性ヘルニアや、帯状疱疹に伴う尿閉のお話までありました。

 「何でも引き起こす帯状疱疹?」ということで、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による帯状疱疹(皮疹)以外に何を引き起こすかを調べてみたいと思います。まずは上記のmedicinaより、紹介します。

 

 腹部偽性ヘルニア帯状疱疹ウイルスにより、以下のような機序で生じるようです。

 腹部偽性ヘルニアは「欠損のない腹壁の膨隆」と定義され、帯状疱疹ウイルスや糖尿病などを原因とした神経根障害により、腹壁筋が麻痺するために生じると言われている。

(出典)medicina Vol.58 No.12 2021-11

 

 ちなみに腹部偽性ヘルニアのイメージは次のようなものです。NEJMImages in Clinical Medicineで見つけました。

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2006/nejm_2006.355.issue-1/nejmicm050341/production/images/img_medium/nejmicm050341_f1.jpeg

(出典)N Engl J Med 2006; 355:e1 DOI: 10.1056/NEJMicm050341

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm050341

 

 尿閉水痘・帯状疱疹ウイルスにより、以下のような機序で生じるようです。

 腰仙髄神経領域で生じた帯状疱疹は高確率で排尿障害を併発する。機序としては、後根神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して軸索内伝播し、求心性に仙髄(S2~S4)の中間質外側部に及び、脊髄内臓神経の副交感性線維を障害することで排尿障害が起こると考えられている。

 また、近年本邦を中心に報告例が増えている髄膜炎に伴い尿閉をきたす髄膜炎尿閉症候群(MRS)と呼ばれる症候群がある。

(出典)medicina Vol.58 No.12 2021-11

 

 髄膜炎尿閉症候群(MRS)は聞いたことありますが、これは特に帯状疱疹に限った話ではなく、今回の上記出典の尿閉が主訴で来ることよりも、意識障害、頭痛、発熱というような髄膜炎の主訴で来ることが多そうです。いわゆる帯状疱疹による尿閉として考えた際には、ウイルスが再活性化して求心性に脊髄内蔵神経の副交感性線維を障害するためと考えてよさそうです。

 

 では、帯状疱疹の合併症を探していきたいと思います。

 

 ハリソン内科学では、眼部帯状疱疹(zoster ophthalmicus)が主に紹介されている程度でした。

 帯状疱疹とは、後根神経節に潜伏しているVZVの再活性化によって生じる続発性の疾患である。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 やはり、病態としては後根神経節に潜伏しているVZVの再活性化によって神経炎となり、いろいろと生じると考えてよさそうです。 

 

 UpToDateを調べてみます。帯状疱疹の症状や合併症として挙げられているのは以下の通りでした。

 

帯状疱疹の臨床症状>

・発疹

・急性神経炎

 →18%が発疹の領域に少なくとも30日間痛みがあり、痛みの持続時間は年齢とともに増加する。PHNと区別が必要。

 

帯状疱疹の合併症>

帯状疱疹後神経痛(PHN)

・眼部帯状疱疹

・急性網膜壊死(ARN)

・Ramsay Hunt症候群

 →耳鼻咽喉科領域、顔面神経麻痺が主な症状

その他神経学的合併症

・無菌性髄膜炎

脳炎

・末梢運動神経障害

・脊髄炎

・ギランバレー症候群

脳卒中症候群(脳の動脈の感染による)

(出典)UpToDate > Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of herpes zoster, last updated: Jan 29, 2021.

 

 他にも嚥下障害を主訴とした帯状疱疹の再活性化と考えられるRamsay Hunt症候群の症例もあった。帯状疱疹の罹患部によって、その罹患部位に関連する様々な臨床所見となり、あとはその各々の部位ごとの頻度の違いのようです。

 

 帯状疱疹の罹患部としては50%以上が胸部に出現し,三叉神経第Ⅰ枝領域に出現するものは10%程度,Ramsay Hunt 症候群として発症するのはわずか1%程度である.

 Ramsay Hunt 症候群は末梢性顔面神経麻痺,難聴やめまい,耳介の帯状疱疹を三主徴とするが全てを呈するのは約60%で,各症状の出現時期には2週間前後の時間差があり,第Ⅶ・Ⅷ脳神経症状以外の三叉神経や舌咽-迷走神経麻痺などの多発脳神経炎を合併する重症例も少数存在する.

 Ramsay Hunt 症候群の多発脳神経障害を第Ⅶ・第Ⅷ脳神経以外の脳神経障害を合併したものとした場合にその割合は約10%と報告されており,いずれの脳神経も障害を受ける可能性はあるがⅨ・Ⅴ・Ⅹ・Ⅺ神経麻痺が多く、第Ⅸ・Ⅹ神経麻痺の予後は比較的良好である。

(出典)Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal 10:69-74,2005

 

 正直なところ、帯状疱疹ウイルスの潜伏・再活性化した場所等でよくある「表現型」があるものの、何でもありであると感じました。

 

 帯状疱疹を疑った際に皮疹があれば疑いやすいと思うものの、皮疹がない場合(無疱疹性帯状疱疹皮疹に先行して症状が生じる場合にも、帯状疱疹も忘れないようにしたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

読書ログ: グロービス流 勉強力 ~働きながら学ぶために~

グロービス流 勉強力 ~働きながら学ぶために~

 

書籍紹介(読書ログ)

27歳からのMBA グロービス流ビジネス勉強力

グロービス経営大学院、田久保 善彦、村尾 佳子、荒木 博行(著)

 

 久しぶりに読み直してみた書籍の紹介(読書ログ)です。田久保先生は島根大学でのご講演をはじめ、お話を伺ったことのある方もいらっしゃると思います。書籍内でも、いわゆる「ビジネスマン」だけでなく、職種を問わず働きながら学んでいくため基本となるコツのようなものがたくさん凝縮されていると改めて感じたため、紹介させていただきます。

 

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【こんな人におススメ】

  • 効率的なインプット、アウトプットに興味がある人
  • 普段から学びを継続している人
  • フィードバックを活かしたい
  • 振り返りの習慣を取り入れてみたい人
  • 読書からの学びを増やしたい

 

 ビジネスと聞くと短絡的に「金儲けか?」というように悪い印象を持つ方が一定数以上いらっしゃる業界もあるかと思いますが、そういう短絡的なものではありません。生涯学習や職業等において自分自身を高めていくための方法論がまとまっている本になります。また、「勉強を1日に何時間もやれば学びが…」的な根性論的な話や、受験生のように勉強時間が潤沢にあるような環境を前提にしたものではなく、時間がある時でも、少ない時間でも上手に学び続けていくヒントがたくさんあります。

 特に時間があまりないときに、学ぼうと思って時間を割いたのにあまり学びになっていないと思ったら、うんざりしますよね。学びがあるからこそ、また学ぼうと思える一面もあると思います。

 

〈書籍の流れ〉

 具体的には、まずは学習サイクルの全体像をつかむ話から始まります。

 次に、インプットについての章になります。インプットの仕方として必要性や学びによる2×2の考え方やそれによる読み方の合わせ方、1つのテーマに対して多角的視点(医療で言えば、患者の視点、医師の視点、看護師の視点、理事長の視点、…)による学び方というように、様々な具体的な取り組み方があります。

 そして、振り返りについての方法の章となります。振り返りの方法として、他人は知っているが自分の気づいていないことに注目することをはじめとするジョハリの窓の紹介もあります。ちなみに自分と他者、知っていることと知らないことの4通りのマトリックスです。

 読み進めていくと、アウトプットについての章になります。アウトプットを苦手とする人は多いと思いますが、思ったことをメモするような第一段階に加え、解釈を加える第二段階について書かれているところがとても参考になると思います。アウトプットの方法についても1対1から多数まであります。

 最後は、フィードバックを受けるという章です。アウトプットをしてもやはりフィードバックを素直に上手に受け入れていくことは難しいと感じます。そこでプライドは捨てて、「learn」と「unlearn」を行き来することがとても大切であると再確認できました。自身がアウトプットをはじめても改めて読んでみてみる大切さを感じました。他にも、フィードバックを押し上げるのはアウトプットの質ということで「リーンスタートアップ」を用いて制限時間内でアウトプットの質を高めていくというのも書籍内で言語化されて、腑に落ちた感じがしました。

 

 ぜひ、働きながら学びを続けていきたいと思う人は手に取ってもらえれば、既知のことであったとしても上手にまとまっており、言語化されており、役に立つことがあると思います。

 

 勉強力の他にも、ビジネス基礎力、リーダー基礎力といった一連のシリーズもあります。

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

読書ログ: 愛着障害 ~子ども時代を引きずる人々~

書籍紹介(読書ログ

愛着障害 子ども時代を引きずる人々

岡田尊司(著)

 

 愛着障害について皆さんご存じでしょうか?

 恥ずかしいながらも、最近になってはじめて発達障害やパーソナリティ障害の問題についての切り口の一つに「愛着障害」があることを知りました。しかも一部の子どもの問題だけではなく、一般的な大人にも広くみられる問題のようです。

https://m.media-amazon.com/images/I/51L9CRKDUIL.jpg

 

【こんな人におススメ】

  • 子育てのヒントにしたい
  • 対人関係、仕事、愛情面でのヒントにしたい
  • アルコール依存、ギャンブルなどの依存症、境界性パーソナリティ障害、うつなど精神的なトラブル解決に興味がある
  • 虐待ネグレクトの要因やリスクファクターについて興味がある
  • 発達の問題の背景に興味がある

 

 前者2つはもちろん、後者3つに関しても少しでも改善したいといろいろなところで携わっている人のヒントにもなると思います。

 

 少し書籍の紹介をします。

 

 そもそも愛着とは、人と人との絆を結ぶ能力であり、人格の土台の部分を形造っている。人それぞれの特有の愛着スタイルがあり、どの愛着スタイルを持つかによって対人関係や愛情生活だけでなく、仕事の仕方や人生に対する姿勢まで大きく左右される。

(出典)愛着障害 子ども時代を引きずる人々

 

 具体的には愛着スタイルは以下の4つがあります。

<4つの愛着スタイル>

  1. 安定型
  2. 回避型
  3. 不安定型
  4. 恐れ・回避型

 

 選ばれた特別な存在(親等の愛着対象)との特別な結びつき(安定した関係)が重要であり、しっかりと満たされると安定型になりやすいとされるようです。(ただし、過保護とも異なります。)

 多くの人がかかわったり安定しない関係にて、代償的に安定型以外の愛着スタイルとなりやすいようです。6カ月から2歳までがとりわけ影響を受けやすいようです。

 

 また、著者の先生の体験としてパーソナリティ障害や発達の問題はじめ様々な問題の根底に愛着の問題があると感じられているようです。

 

 もちろん、すべてをこれにあてはめることはできなくても、一つの視点として興味深いと思いました。「子どもが一歳になったら保育園に預けるのか?」など、子育てを考える際のヒントになりそうです。もちろん実現していくためのハードルとして、社会的な側面もあります。「ある側面からの理想だけで、仕事をやめることができるのか?」というような社会的な問題も含めて考えていく必要があると思います。

 

 さらに書籍の中では、愛着の問題を抱えた人がどのように改善されていくかという過程を含めた改善法、基本的な愛着スタイルを知ることによる対処法、具体的な有名な人の例をはじめとした興味深いお話が紹介されています。気になる方は手に取って読んでみてください。

 また、岡田尊司先生の『パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか』をはじめとする様々な書籍などもありますので、興味のある方はぜひ手に取ってもみてください。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

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 今までの読んだ本の紹介コーナー(書籍紹介)では、普通の医学書ではないけれども、医学に関連するような書籍を紹介してきました。

 前回から、医学に関連する程度の内容のものや医学の読み物的なももの、医学と関係のないものを「読書ログ」として分類することにしました。そして、印象に残ったものは医学書も「医学書ログ」として書き残すことにします。

 

 今後ともよろしくお願いいたします。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

貧血の病歴と身体所見 ~眼球結膜蒼白をはじめ~

貧血病歴身体所見 ~眼球結膜蒼白をはじめ

 

<目次>

 

 

 今回は先日の札幌医大 臨床推論勉強会RiHにて症例提示後、解説をさせていただいた際に扱った貧血に関する部分の内容の発展版になります。その節はお声掛けいただき、ありがとうございました。

 それでは貧血についてのお話をしていきたいと思います。貧血の症状は、運動耐用能低下、労作時呼吸困難であればまだわかりやすいですが、倦怠感など非特異的な症状をはじめ様々です。

 貧血を疑ったときに、「採血すればいいじゃないか?」とか、救急外来で「結果はスグだし血液ガスをとればいいじゃないか?」と言われてしまえば身も蓋もありません。ですが、身体診察で貧血らしいと考えることができるほうがベッドサイドで便利だとも感じます。採血を予定していなかった場面、採血のしにくい状況(小児、病院外など)で気がつくことができれば素敵であると思います。

 それでは、貧血を疑っていく病歴や身体所見について調べていきたいと思います。

 

 

1.貧血の病歴

 貧血の際にどのような病歴があるのか、問診の際のヒントになるという視点で調べてみました。

 

・易疲労感や労作時呼吸困難が最もよく認める貧血の徴候である

・立ちくらみは急性失血による起立性低血圧を疑うが、経過が慢性であれば貧血とは関連性がないことが多い。

・顔色蒼白に気がついていれば高度の貧血を考える。

 

表1.貧血の徴候

 

Hb<8.0g/dL

Hb>8.0g/dL

倦怠感

91%

84%

呼吸困難

64%

49%

めまい感

54%

40%

最近蒼白になった

84%

39%

食欲低下

52%

39%

体重減少>7kg/6カ月

52%

36%

動悸

29%

21%

 

(出典)ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 2014

 

 倦怠感はlow yeildな症状ですが、労作時呼吸困難は大きなヒントになると思います。また、倦怠感の原因の一つとして貧血を忘れないようにしたいと思います。



 

2.貧血の身体所見とエビデンス

 貧血といえば、真っ先に思い浮かぶ身体所見は眼瞼結膜蒼白でしょうか? 眼瞼結膜ひとつとっても、「眼球結膜貧血様」と言えば、蒼白以外に貧血という判断が入っており、やはり私の中では学生の時に学外で初めて教えていただいたconjunctival rim pallor一番定義もしっかりとしており、しっくりとくるイメージです。

 

 では、貧血の際に身体所見から調べています。

 

 急性出血では循環血液量減少によるバイタルサインの異常が最も顕著な身体所見であるが、慢性貧血では皮膚や粘膜の色調変化がそれを示す。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 慢性貧血の場合、相対的大動脈弁狭窄症による大動脈弁領域における収縮期駆出性雑音も聴取できそうです。今回はマクギーに記載されている慢性貧血における所見を深堀りしていこうと思います。

 

 慢性貧血では皮膚や結膜下の毛細血管ならびに細静脈を循環する赤色の酸化ヘモグロビの量が減るため、皮膚や結膜が蒼白にみえる。しかし、皮膚の色は微小血管の径、循環する還元型ヘモグロビンの量、もともとの皮膚の色素の影響を受けるため、蒼白の所見がいつも貧血の存在を意味するとは限らない。寒冷暴露や交感神経刺激による血管収縮も蒼白を呈することがあり、貧血の蒼白所見は血管拡張(炎症、もしくは虚血、冷却、放射線による恒久的な血管損傷)による赤色やチアノーゼの青色、暗い皮膚の色の患者によってわかりにくくなることがある。

 理論的には、結膜、爪床、手掌の診察はもともとの皮膚の色素の影響を避けられる。さらにより客観的な眼球結膜蒼白の定義として、下眼瞼を観察し、眼瞼結膜の前縁が後縁と同程度の色素であれば結膜縁の蒼白化とする。

 

表2.慢性貧血に対する診断的有用性

所見

感度

(%)

特異度

(%)

尤度比(LR)

所見あり

所見なし

いずれかの部位の蒼白化*

22~77

66~92

3.8

0.5

顔面の蒼白化***

46

88

3.8

0.5

爪床の蒼白化

59~60

66~93

NS**

0.5

手掌の蒼白化

58~64

74~96

5.6

0.4

手掌のしわの蒼白化

8

99

7.9

NS**

結膜の蒼白化

31~62

82~97

4.7

0.6

舌の蒼白化

48

87

3.7

0.6

結膜縁の蒼白化

       

・蒼白化あり

10

99

16.7

・蒼白化境界線

36

2.3

・蒼白化なし

53

16

0.6

*皮膚、爪床、結膜のいずれかの蒼白化

**NS: 有意差なし

***黒人を除外した研究

 

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4

 

 ちなみに、貧血の基準がHb 9.0g/dL未満、Hb 10 g/dL未満、Hb 11 g/dL未満、Hct 35%未満、女性Hb 11g/dL、男性13 g/dL未満と貧血の定義が様々な文献を合わせたもののようです。

 貧血における蒼白化の所見において、特異度比較的高いものが多いですが、感度いまひとつですね。なので、貧血を引っかけるつもりがなくても、身体所見で蒼白化を認めた場合には貧血である可能性が高いので調べていくようにするべきということもできます。

 眼瞼結膜蒼白と一言でいっても、漫然と眼瞼結膜の色を確認するだけでなく、結膜縁(conjunctival rim)の蒼白化に注目するよりよい特異度になるようですね。感度が上がらなかったのは残念です。

 

 個人的にはHb 10 g/dLやHb 9.0g/dLあたりの蒼白化の身体所見の感度(特にどのあたりで感度が上がるか)が特に気になるので、そこを深堀してみたいと思います。

 

 

 

3.眼瞼結膜(結膜縁)蒼白の見方

(4.に行く前におまけ)

 眼瞼結膜蒼白(とりわけ、眼瞼縁蒼白、conjunctival rim pallor)のみかたについて興味のある方のみご覧ください。人によって、「眼瞼結膜蒼白」でも多少着眼点が異なると思います。

 下眼瞼(下まぶた)を「あっかんべー」するように下にめくります。すると、下眼瞼の縁が貧血ではない人であれば、赤みを帯びています。ここ(眼瞼縁、conjunctival rim)が、内側と同じような色のまま蒼白である場合に「眼瞼結膜蒼白(conjunctival rim pallor)」としています。

f:id:mk-med:20211005213359p:plain




 

4.ヘモグロビン値による推移;感度、特異度、尤度比

 それでは、ヘモグロビン値(Hb)による身体所見の尤度比の違いについて見てみます(本当は感度の変化についての成人の文献を見つけたかったです)。この文献では、実質的にはconjunctival rim pallor(結膜縁で見た際の眼球結膜蒼白)にて蒼白の有無を判断しています。

 

<尤度比:ヘモグロビン値と眼瞼結膜蒼白の関係>

f:id:mk-med:20211005213505j:plain

(出典)J Gen Intern Med. 1997 Feb;12(2):102-6. doi: 10.1046/j.1525-1497.1997.00014.x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 次に、小児におけるへモブロビン値と眼球結膜蒼白の感度、特異度を見つけました。小児のほうが、成人よりも病態の影響以外の物が少ないと考えられるため、成人との違いも考えずにはいられませんでしたが、ある程度参考にはなると思います。

 

<感度・特異度:ヘモグロビン値と眼瞼結膜蒼白の関係@小児>

f:id:mk-med:20211005213632j:plain

(出典)Trop Med Int Health. 2000 Nov;5(11):805-10. doi: 10.1046/j.1365-3156.2000.00637.x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

  ヘモグロビン値 8 g/dL(moderate pallor)5 g/dL(severe pallor)をカットオフ値にして感度特異度を出しています。さすがに、現実的にはヘモグロビン値5g/dLよりも8g/dLでの所見を気にしたいものです。

 ヘモグロビン値<8 g/dLとした際の眼瞼結膜蒼白の感度が84%、特異度が81%であり、ヘモグロビン値<5 g/dLとすると感度が50%、特異度は95%でした。特異度は上がるものの感度は低下しました。

 ヘモグロビン値< 8 g/dLで考えれば、小児で貧血を見つける際には、手掌の蒼白や爪床の方が感度が高いことになります。これは、小児採血をする際にライトを透かせたりした手のことを考えるとわかるような気がします。また、成人とは異なると感じました。

 

 他にも小児では、ヘモグロビン値 11 g/dL、8 g/dL、5 g/dLをカットオフ値とした眼球結膜蒼白、手掌蒼白、爪床蒼白についての主にdiagnostic odds ratio(診断的オッズ比)についてメタ分析した文献もありました。よろしければ、下記をご覧ください。

→ BMC Pediatr. 2005 Dec 8;5:46. doi: 10.1186/1471-2431-5-46.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 貧血の身体所見の感度そこまで高くはないので、やはり貧血を見つけるという意味では健診での採血なども役立つと思います。一方で、特異度も踏まえると眼球結膜、手掌、爪床をはじめ、もし所見が見つかった際にも貧血について考えるきっかけにもしようと思います。

 

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

【関連記事】

鉄欠乏性貧血(3回シリーズ)

mk-med.hatenablog.com

 

 

 今回取り上げた主な書籍です。いずれもエビデンスがしっかりとしていて、深みのある書籍です。アマゾンの読者レビューなどが気になる方はチェックしてみてください。

 

 

読書ログ: 休息の科学 ~本当にOFFになることが大切~

書籍紹介(読書ログ1)

休息の科学 息苦しい世界で健やかに生きるための10の講義

クラウディア・ハモンド(著)、山本 真麻(翻訳)

 

<目次>

 

 今までの書籍紹介よりも扱う本の内容を広くということで、「読書ログ」ということで始めてみました。第一弾になります。今回は、医師という職業上、逆説的に大切であると感じる休息について考え直すきっかけとなるような書籍です。

 

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51FmWNrqfCS._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

 

1【こんな人におすすめ】

  • お休みにオフになり切れない
  • 休むことに後ろめたさを感じる

 

 この本では多くの人がお休みに休息として何をしてに注目し、そこから休息するための秘訣を探る本です。

 人気の休息は第1位から第10位まで順に、

(第1位)読書

(第2位)自然の中で過ごす

(第3位)一人になる

(第4位)音楽を聴く

(第5位)特に何もしない

(第6位)長めの散歩、

(第7位)入浴、

(第8位)空想にふける、

(第9位)テレビ(動画コンテンツ)を見る、

(第10位)マインドフルネス

でした。どうでしょうか。共通点を見つけたりしましたか。それとも、自身の休日の活動と類似点・相違点を感じたでしょうか。

 

2.私の個人的な解釈・感想

 本当に何もしないのもむしろ休息になりにくいようです。脳が本気でもなくゼロでもなく働いている程度のことをしながらが、休息になりやすいというものが多くありました。確かに、「何もないところで何も考えない」というのは休息としてむしろキツいことであり、脳がアイドル(惰性)な程度を目安にというのも休息の際のやることのヒントになりそうです。

 他にもマインドフルネスや自然の中で過ごすというようなことは、大きな世界のひとつの存在として自分を深く省みる機会にもなります。もちろんその個人ごとに、自然やその他のものごとが休息とは逆のこと(仕事等)と結びついていない必要性はありますが、多くの人には自然やマインドフルネスも休息になると思います。

 私自身はドライブやサイクリング、釣り等も休息になると思いました。そして特に何もしない時間も大切ですね。

 

 さらには、この書籍の素敵なところは、十分な量の休息のために「予定に休憩を書き込む」、「ノー」と言う、「安らぎを得る努力をストレスにしない」というような休息を、しっかりとした休息にするためのヒントもありました。

 

 この本の発売以前の時期、仕事では月に1回弱ですが「珍しく土日ともお休み」ということがありました。その際に多くの同期も月に1回弱の土日のお休みなので重なることは少なく、悪気はないと思うもののの他の人に「いいなー」と言われたりすることもありました。そこから何となく休むことに罪悪感を感じていました。その積もり積もったものが、今こころに積もっているのかもしれないと感じることがあります。少しでもまずは「休んでいい時にしっかり休める」ように努力して、それをストレスにしないようにしたいと思い、この書籍を紹介させてただきました。

 もちろん、休憩をどうにか守らないといけないと苦しんだりせずに、時には休息からの休息もしつつ、健康な暮らしとなるようにバランス、多様さ、適度さを保ってるといですね。

 

 私の課題は「休息できるときにしっかりと罪悪感なく休息する」にしたいと思います。休息の具体的な方法も探していきたいと思います。ドライブやサイクリングに加え、今まであまり読んでいなかった小説や趣味の本なんかも取り入れてみようと思います。仕事、ビジネスこそ合理性も大切ですが、お休みこそ非合理的なこともすべきだとも考えています。

 そもそも体調を崩す前は、日曜日の夕方からの勤務の場合、土曜日の夜にはすでに休日が終わって日曜日は朝から悶々して、少しでも体力を使うと夕方以降(特に深夜や翌朝)に辛くなるような感じで過ごしていたので、そもそも休息すらできていなかったかもしれません。私自身の弱さでしょうか…。恥ずかしながら、休息方法以前の部分も上手な方法を考え直さないといけないですね。もともと、精神的な負担が少なければ活動時間は多めでもそこまで疲労を感じなかったというような自覚もあったのですが…。

 他にもバーンアウトせずに働いていくためにも働きすぎないことを意識することが大切であると感じました。好きで苦痛なく働きすぎることでバーンアウトへのリスクとなる「ハネムーン期」から、すなわち好調な時から抑えておくことの大切さも他で学びました。そういう意味でも、家庭の方がストレスというような人を除いて定期的にオフの日を入れる必要性があると思います。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍になります。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

P.S. ブログ記事のカテゴリー追加

 いままでの書籍紹介を「医学書」と「それ以外」に分けて紹介していくことにしました。医学書を「医学書ログ」として、それ以外の本を「読書ログ」とします。従来からの書籍紹介」はいずれも包括したものとします。

※これに伴い、過去の書籍紹介も追加で分類し直します。一部重複して分類することもあります。

  • 医学書ログ医学書で学ぶことが一般的な医学的内容の書籍の紹介
  • 読書ログ:一般的な医学書で学ぶ内容以外の書籍の紹介

 

 試験的な分類なので、「書籍紹介」のみに戻す場合もありますが、試行錯誤ということでよろしくお願いします。

 読んだ書籍、学んだ書籍などをすべての書籍との出会いを紹介するわけではわけではありませんが、シェアしてみたいと思った書籍を今後も紹介いたします。医学書や役立ちそうな一般書にも書籍紹介を広げていくような感じでイメージしています。今さら感のある既読の書籍に関しては紹介するかどうかを考えたいと思います。

 

「発熱+CRP陰性」と慢性髄膜炎 ~鑑別疾患/原因~

「発熱+CRP陰性」慢性髄膜炎

 ~鑑別疾患~ CRP陰性発熱の原因と慢性髄膜炎の原因

 

<目次>



 先日のTBL JAPANでの臨床推論も学びの多い興味深い不明熱の症例でした。いつも興味深い症例をありがとうございます。

 発熱はあるけど、すぐに診断に結びつく所見はないというような不明熱の醍醐味でしょうか。不明熱の書籍は『Dr.鈴木の13カ条の原則で不明熱に絶対強くなる〜ケースで身につく究極の診断プロセス』をはじめ分かりやすいものがあるので、不明熱に興味があり、大枠を学んでみたいという人は書籍を手に取ってももらえばいいと思います。

 今回は、鑑別を絞るカギになったと思われるCRP陰性の発熱「慢性髄膜炎」の鑑別について深堀利りしたいと思います。



1.「発熱+CRP陰性」(CRP陰性の発熱)

 発熱があるにもかかわらずCRP陰性であれば鑑別が限られることはどこかで聞いたことがあるかもしれません。なんでもCRP(C-Reactive Protein)!というわけではありませんが、CRPが上昇していれば炎症があるという指標になります。

 病態不明の際には、発熱とCRPの2×2表発熱の有無CRP陽性/陰性)で考えるようです。

 

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  • CRPは最も代表的な急性相蛋白(acute phase reactants)であり、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1)の刺激を受けて肝細胞で産生される。
  • 一般に、体温よりもCRPのほうが血液中の炎症性サイトカインの有無を鋭敏に表現する。

(出典)『不明熱・不明炎症レジデントマニュアル』, 國松淳和

 

 これに加えて、膠原病ではシェーグレン症候群、さらには結核のような慢性の感染症の場合の一部もCRPが上がらないものあると考えていいと感じます。他にも、細菌性髄膜炎に比べてウイルス性含め無菌性髄膜炎の方がCRPは陰性や低めになりやすいと考えられます。

 さらに、肝臓で炎症性サイトカインが産生されることから、肝臓の状態が荒廃していればCRPが思ったほど、上がらなそうです。

 また、SLEではCRPが陰性とのことですが、SLEの病態が漿膜炎等に発展していればCRPは陽性になることもあると考えられます。


 さらに機能性高体温症を考えた際には、次のような鑑別や思考もあるようです。

 機能性高体温を診断するには慢性炎症を除外し、全身性エリテマトーデス、Sjogren症候群、特発性後天性全身性無汗症、家族制地中海熱といった疾患を検討しつつ臨床的に診断する。

  • Sjogren症候群自体では炎症反応が陰性のことも多い
  • 特発性後天性全身性無汗症だけでなく、分節性であっても相対的には発汗障害があるということであり、熱がこもり微熱が持続ということにもなりうる
  • 家族制地中海熱では発作期には炎症反応高値を示し、間欠期にはこれが陰転化する

(出典)Jpn J Psychosom Med 60:227-233, 2020

 

 これも踏まえると、鑑別リストに特発性後天性全身性無汗症(AIGA)やSjSも、さらには家族性地中海熱の間欠期(検査のタイミング)も同様に鑑別疾患にいれることができそうです。AIGAを考える場合には、特発性以外のSjSによるものだけでなく、続発性無汗症でも高体温となると考えられます。

 このあたりのことを踏めると下記のような鑑別が考えられそうです。

 

<鑑別疾患:CRP陰性の発熱>

  • 頭蓋内疾患:髄膜炎(特に無菌性髄膜炎)、脳炎など
  • 免疫抑制状態の重症感染症
  • 免疫抑制薬使用時(例:ステロイド、トシリズマブ)
  • 膠原病:SLEシェーグレン症候群など
  • 結核など
  • 特発性後天性全身性無汗症、続発性無汗症
  • 家族性地中海熱(検査のタイミングが間欠期)
  • その他:詐症、高体温症



2.慢性髄膜炎の原因(鑑別疾患)

 今回のCRP陰性の発熱の原因は慢性髄膜炎でした。慢性髄膜炎について復習してみることにしました。タイムリーにNew England Journal of Medicine(NEJM)のReview Articleが先月(9月)に でていたようです。

 まずは慢性髄膜炎の定義から紹介します。

 

 慢性髄膜炎の一般的に受け入れられている定義は、少なくとも4週間軽減することなく続く兆候や症状を伴う髄膜の炎症である。

(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 慢性は4週間以上ということみたいですね。それでは、慢性髄膜炎の原因を調べてみたいと思います。

 

<慢性髄膜炎の原因:感染症

感染症

細菌

<頻度:高>

  • 部分治療後
  • Mycobacterium tuberculosis結核
  • ライム病(Bannwarth症候群):Borrelia burgdorferi
  • Treponema pallidum (梅毒)

<頻度:低>

  • Actinomyces
  • Nocardia 属
  • Brucella
  • Whipple病:Tropheryma whipplei

<頻度:まれ>

 

真菌

  • Cryptococcus neoformans
  • Coccidioides immitis
  • Candida 属
  • Histoplasma capsulatum
  • Blastomyces dermatitidis
  • Aspergillus 属
  • Sporothrix schenckii

<頻度:まれ>

  • Xylohypha trichoides
  • Curvularia 属、Drechsler属などの暗色壁の真菌
  • ムコール症
  • Pseudallescheria boydii(水の誤嚥
  • Exserohilum rostratum(脊髄神経ブロック後)
 

原虫

  • Toxoplasma gondii
  • トリパノソーマ症

<頻度:まれ>

  • Acanthamoeba
 

寄生虫

  • 嚢虫症〔Taenia solium(有鉤条虫)のシストによる感染〕
  • 有棘顎口虫Gnathoitoma spinigerum
  • 広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis
  • アライグマ回虫(Baylisascaris procyonis)

<頻度:まれ>

  • 旋毛虫(Trichinella spiralis)
  • 肝蛭(Fasciola hepatica)
  • Echinococcusシスト
  • 住血吸虫(Schistosoma 属)
 

ウイルス

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

<慢性髄膜炎の原因:非感染症

腫瘍性

化学性髄膜炎

  • 頭蓋咽頭
  • 類皮嚢腫、類表皮嚢胞

自己免疫疾患

  • 多発血管炎性肉芽腫症
  • 関節リウマチ
  • シェーグレン症候群
  • 成人Still病
  • 原発性CNS血管炎
  • IgG4関連疾患
  • 特発性肥大型心筋症
  • 神経サルコイドーシス
  • 神経ベーチェット病
  • Vogt-小柳-原田病

傍髄膜感染症

  • 慢性硬膜外膿瘍
  • 頭蓋骨または椎骨の慢性骨髄炎

その他

  • 化学物質
  • 薬物過敏

(出典1)ハリソン内科学 第5版

(出典2)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34469648/

 

 ハリソン内科学には慢性髄膜炎の原因に関して見やすい表で、脳脊髄液所見、有用な診断検査、さらには問診に活かせそうなリスク因子全身症状までまとまっていました。ぜひ、気になる方は手に取ってみてください。例えば、猫との接触があれば原因としてToxoplasma gondiiの可能性が上がるなど、攻める問診もできると思います。

 

 慢性髄膜炎の原因・鑑別に関してUpToDateは役に立ちませんでしたが、診断に関しては二次文献のUpToDate、PubMedでのFree Articleを含めいろいろとあったので探してみるのもいいと思います。

 

 今回はCRP陰性の発熱ぐらいしか症状も一般的な所見もない慢性髄膜炎でした。一般的に慢性髄膜炎の臨床像を把握する意味で慢性髄膜炎について検索してみましたが、症状や所見の感度・特異度の文献を見つけることはできませんでした。疾患のゲシュタルト作りの手助けとなる一般的な慢性髄膜炎の症状・所見は以下の通りです。

 

・慢性髄膜炎の症状には、頭痛、倦怠感、精神状態の変化、発熱などがある
・通常、頭痛は持続的であるが、部位や痛みの性状は非特異的である
・精神的な悪化を伴う進行性の頭痛および発熱は慢性髄膜炎の特徴である
・難聴や複視などの脳神経障害も髄膜炎を示唆することがある
・認知機能の変化(約40%、原因によって異なる)
・項部硬直は慢性髄膜炎では頻度が低い
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 2;385(10):930-936. doi: 10.1056/NEJMra2032996.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 もう少し具体的な症状の定量的な頻度等も知りたいものです。『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』では、(急性・亜急性)髄膜炎の症状や所見の感度や特異度等もまとめられていて参考になる部分もあると思います。ぜひ、疾患の全体像をつかんでみてください。

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 本日取り上げた書籍です。不明熱のテーマなどで話題の著書も多い國松淳和先生の書籍、様々なところで役立つことが多いハリソン内科学について、アマゾンの読書レビューなどについて気になる方はチェックしてみてください。

 

 

モルヌピラビル(Molnupiravir)~夢のコロナ治療薬!? Covid-19関連~

モルヌピラビルMolnupiravir)~夢のコロナ治療薬!? Covid-19関連~

エビデンスを探して~

 

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の治療薬として、モルヌピラビルという薬が「死亡リスクが半減、飲めるコロナ治療薬を米当局に申請」というようなニュースを昨日に見かけました。しかも、米国FDAへの申請が認可されれば、年内には日本でも許可されるのではないかというような予想もされていました。

 正直なところ、年内に新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の治療薬が登場するとなれば、どのようなものか気になります。

 

 そのため、この情報を詳しくはどのようなものか深堀りしてみることにしました。まずは信用できる二次文献ということでUpToDateを検索しましたが、Covid-19におけるモルヌピラビルに関する記載はありませんでした(記事作成時 10月12日)。しかし、BMJのNewsにて”Covid-19: Molnupiravir reduces risk of hospital admission or death by 50% in patients at risk, MSD reports”というタイトルで記事になっており、簡単に見つけることができました。

 

f:id:mk-med:20211012232123j:plain

  • モルヌピラビルとは抗ウイルス薬であり、軽症もしくは中等症の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)にかかった患者のうち転帰不良リスクのあり入院していない患者の入院または死亡のリスクを約50%低下させたというMerck Sharp and Dohme(MSD)による中間分析報告
  • 第III相試験におけるランダム化二重盲検比較試験として、モルヌピラビルを投与された患者(モルヌピラビル群)と プラセボを投与された患者(プラセボ群)の比較

<結果>

  • 29日以内の入院または死亡率:モルヌピラビル群 7.3%(385人中28人)vs. プラセボ群 14.1%(377人中53人)
  • 29日以内の死亡数:モルヌピラビル群 0名 vs. プラセボ群 8名
  • 有害事象発生率:モルヌピラビル群 35% vs. プラセボ群 40%
  • 薬物関連有害事象発生率:モルヌピラビル群 12% vs. プラセボ群 11%
  • 有害事象による中止率:モルヌピラビル群 1.3% vs. プラセボ群 3.4%

(出典)BMJ. 2021 Oct 4;375:n2422. doi: 10.1136/bmj.n2422.

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34607801/

 

 重症化の指標としてランダム化後29日以内の入院または死亡を指標として比較していますね。入院または死亡率がモルヌピラビル群 7.3% vs. プラセボ群 14.3%と大きく開いています。絶対値として入院や入院後の死亡が約7%減少したことはとても嬉しく感じます。重症化が約50%減少(半分)と聞くと、差異の絶対値はどの程度か気になります。約7%という数字は「新型コロナウイルス感染症のワクチン3回目接種による罹患率と重症化率」の絶対値の差(86.6/100,000人日)よりも大きく感じます。

→過去の記事「新型コロナワクチン 3回目接種(ブースター)のエビデンスを探して - 医学生からはじめる アウトプット日記を参照

 

 一方で、薬物関連有害事象までプラセボ群のほうが少ないことは意外でした。

 

メルク(MSD)の発表HPはこちら

https://www.merck.com/news/merck-and-ridgebacks-investigational-oral-antiviral-molnupiravir-reduced-the-risk-of-hospitalization-or-death-by-approximately-50-percent-compared-to-placebo-for-patients-with-mild-or-moderat/

 

 

 まだまだ分からないところもあり、この結果の最終報告・詳細を待ちたいと思います。この中間報告を受けて主に気になるのは以下の点です。

 

①第III相試験(MOVe-OUT試験)における患者の特徴(例:ワクチン接種率)

 例えば、ワクチン接種率がこの試験時より高いとするとモルヌピラビル使用以前に重症化(入院または入院後死亡)しにくなっていることも考えられ、モルヌピラビルの有効性が低下しまう可能性もあると考えられます。他にも両群間の差だけでなく、現在の日本の状況と患者群が似ているかも気になります。

 

②値段や生産量は?

 どれだけ一般的な環境で使える値段であるのか?生産量は十分であるのか?というあたりはとても気になります。高価であれば、先進国ではまだ使用することができても途上国では厳しかもしれません。費用対効果を考えれば、ワクチンの方が良いなんてことも十分にありそうです。

 

③今までの抗ウイルス薬とどう違うの?

 Molnupiravir (MK-4482/EIDD-2801) is an investigational, orally administered form of a potent ribonucleoside analog that inhibits the replication of SARS-CoV-2, the causative agent of COVID-19.

(出典)https://www.merck.com/news/merck-and-ridgebacks-investigational-oral-antiviral-molnupiravir-reduced-the-risk-of-hospitalization-or-death-by-approximately-50-percent-compared-to-placebo-for-patients-with-mild-or-moderat/

 

 モルヌピラビル(MK-4482/EIDD-2801)新型コロナウイルスの複製を阻害するリボヌクレオチド類似体のようです。今までにもタミフルのような抗ウイルス薬がありました。モルヌピラビルがそれらとどのように異なり、どういうプロセスでどれぐらい値段が異なるのか、新規薬として登場した意義なんかも気になります。もちろん、治療薬ということでの期待、ワクチンを打つことができない人への適応にも期待ができます。

 

 

--おまけ--

 モルヌピラビルを調べる際にPubMedにて様々な文献を見つけました。そのうち、一部だけ紹介だけしておきます。

 

タイトル:Molnupiravir, an Oral Antiviral Treatment for COVID-19

medRxiv. 2021 Jun 17;2021.06.17.21258639. doi: 10.1101/2021.06.17.21258639.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34159342/

 

タイトル:Rethinking Remdesivir: Synthesis, Antiviral Activity, and Pharmacokinetics of Oral Lipid Prodrugs

Antimicrob Agents Chemother. 2021 Sep 17;65(10):e0115521. doi: 10.1128/AAC.01155-21. Epub 2021 Jul 26.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34310217/



 本日もお読みくださりありがとうございました。