"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

非結核性抗酸菌症(NTM)の深掘り

結核性抗酸菌症の深掘り

結核結核性抗酸菌症(NTM)

 

<目次>

 

 発熱対応の弊害か胸部CTを撮影した際に右中葉に粒状影を発見し、その流れから喀痰を吸引したところ抗酸菌塗抹検査(ガフキー)が陽性となったことがありました。抗酸菌塗抹検査が陽性となると、結核菌をはじめとする抗酸菌症を考えることになります。非結核性抗酸菌症(NTM)であるか、結核であるかが分からないため、PCR検査で結核でないことが分かるまでは隔離の対象になります。隔離の解除には至らないとしても、結核かNTMかの推測になればと思い、抗酸菌(Mycobacterium属)のそれぞれの特徴を押さえてみたいと思います。

 

1.非結核性抗酸菌の種類と特徴

 抗酸菌症といえば、結核菌(Mycobacterium tuberculosisハンセン病らい菌(Mycobacterium leprae、さらにその他の結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria; NTM)があります。

 具体的にNTMについては国家試験の際に、土壌中などに存在し病原性を持つものは一部であり、MAC症やM. kansasiiぐらいがあるということ、キーワードは中年女性、熱帯魚という程度のことを覚えているぐらいなので、病気がみえるのような簡単な教科書で調べてみます。

 

<非結核性抗酸菌の種類と特徴>

 NTMは固形培地に発育するコロニーの生物学的性状(色調、光沢、光刺激に対する呈色反応など)により分類される。遺伝子解析技術の進歩により現在約170種が知られているが、ヒトに病原性を呈する菌は約20種類である。

 

Runyon分類とヒトに病原性を有する代表的な菌種

 

Runyon分類による

抗酸菌群分類

病因となる主要菌種

まれに病因となる菌種

遅発育菌

I 群

光発色菌

M. kansasii

M. marium

M. simiae

II群

暗発色菌

-

M. scrofulaceum

M. gordonae

M. szulgai

III群

非発光色菌

M. avium

M. intracellulare

M. xenopi

M. nonchromogenicum

M. terrae

迅速発育菌

IV群

M. fortuitum

M. chelonae

M. abscessus

M. massiliense

M. peregrinum

 

(出典)内科学 第11版, 朝倉書店

 

 ここで有名なMACがない!と思いました。有名なMACは次のようです。

 

MACについて>

 非結核性抗酸菌では、Mycobacterium avium complex(MAC; 近縁関係にあるM. avium, M. intracellulareを一括した呼称)によるものが約80%を占める。

 次いでM. kansasiiが約8%を占める。M. abscessusは全体の4~5%を占め、近年増加が指摘されている。

 

(出典)イヤーノート2020 内科・外科編

 

 なるほど、NTMでも疫学的に多いもののトップ2が国家試験までに私自身が覚えていたものになりそうです。

 

MAC

MAC症は肺感染症型と全身播種型に大別される。

・肺感染症型はさらに2つに分類でき、男性に多い空洞形成型が一般的だったが、近年では中高年女性に好発の気管支拡張型が増えている。

・空洞形成型:肺結核類似空洞型(肺尖部の薄壁空洞)陰影

・気管支拡張型:両側結節、中葉、舌区に限局する結節影

 

(出典)イヤーノート2020

 

 しかし、イヤーノートではこれ以上の臨床的な特徴は述べられていないので、深掘りしてみます。

 

 

2.NTMの臨床像(国試の先)

 非結核性抗酸菌(NTM)について、イヤーノートより深く調べてみます。

結核性抗酸菌症(NTM)

・NTM感染による臨床疾患を持つ割合は3~15%

(高齢者では多くなる)

 

< NTM>肺疾患 >

・北米やその他の工業国での非結核性抗酸菌症でぬきんでて多いタイプである

・臨床像:典型的に数カ月から数年単位のしつこい咳、ゆっくり進行する倦怠感からなる

・患者はしばしば何度も医師にかかっており、診断が想起されてから検体が抗酸性染色と培養に送られる

(高齢女性では典型的な発症から診断まで5年)

・リスク因子:気管支拡張症、塵肺、慢性閉塞性肺疾患原発性腺毛無動症、α1アンチトリプシン欠損症、嚢胞性線維症といった肺疾患

(気管支拡張症は重要な基礎疾患のひとつ)

・典型像:背が高くてやせた女性(場合によっては胸壁の異常あり)

 

MAC感染症

・女性では50歳代か60歳代で発症することが最も多い

・数カ月もしくは数年よくならない間欠的な咳や疲労感を有しているが、排痰や胸痛はみられることもそうでないこともある

・高齢の非喫煙白人女性は男性より多く、その発症はおよそ60歳である

・一般人口よりも患者は背が高くてやせていて傾向にあり、側弯症、僧帽弁逸脱症、胸郭異常が多い

 

M. kansasii

結核によく似た臨床像を呈することがあり、喀血、胸痛、空洞性肺病変となる

 

M. ulcerans

・Buruli潰瘍と呼ばれる特徴的な疾患の原因であり、熱帯地域で広く認められ、特に西アフリカに多い

 

M. marinum

・海岸地域の、あるいは魚を飼育する水槽やスイミングプールに暴露した患者での皮膚や腱の感染原因としてよくみられる

 

(出典)ハリソン内科学 第5版 <全2巻>

 

 非結核性抗酸菌症(NTM)といっても肺病変だけではなく播種病変などもあるため、今回のテーマに基づいた肺病変の深掘りと、一部のNTMの菌種の簡単な特徴や疫学について深掘りしてみました。まだまだページ数もあり、奥が深そうです。皮膚・軟部組織疾患や播種性疾患等として、菌種ごとの深掘りも教科書を読めばさらにできるので、是非みなさまもお手元の教科書を読んでみてください。



 国試勉強の際にはもう少し、菌種どこの病変なのか(どこの臓器の病変が多いのか、肺病変がメインか等)というあたりに注目しておけばよかったと思いました。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

誤嚥性肺炎!? ~化学性肺臓炎との比較~

誤嚥性肺炎!?
誤嚥性肺炎 vs. 化学性肺臓炎~

 

 誤嚥性肺炎というとどのようなイメージでしょうか!?


 一般的な誤嚥性肺炎のイメージは食事の際や飲水の際に、むせてゴホゴホとしていて、食事や飲み物が気管支に入っていってしまうことで肺炎になるというようなところでしょうか。正解とも大きく間違いとも言えない回答だと思います。
 
 例えば、誤嚥性肺炎の患者さんを診察した際に「誤嚥のエピソード」がない(自覚がない、飲食中にむせるというようなことがない)ということをお尋ねした際に、患者さんが「むせてないのに、私は誤嚥性肺炎!?」と不思議に思われているような印象を受けたことがあります。また、患者さんだけでなく、周りとの話しのつながりにくさを受けました。

 

 誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)化学性肺臓炎(aspiration pneumonitis)という2つの病態・概念があるのでその2つを混同せずに分けて考えることが必要かと思って、しっかり説明できるように調べなおしてみました。

 誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎を比較する前に、まずは誤嚥性肺炎の疫学的なことを調べてみて、その重要性誤嚥性肺炎がみられる場面を考えてみたいと思います。

 

誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)
<疫学>

誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎区別した研究は少ない
・いくつかの研究では、市中肺炎の5~15%を占める
・神経障害による嚥下障害の患者における死因で最も一般的
 →30万~60万人/年に影響(@USA)
・薬物乱用(drug overdose)で入院している患者の約10%に発症
全身麻酔の合併症として約3000人に1人
全身麻酔の合併症で死に至るものの10~30%)

(出典)N Engl J Med. 2001 Mar 1;344(9):665-71. doi: 10.1056/NEJM200103013440908.

  

 誤嚥性肺炎は市中肺炎のひとつであり、嚥下障害があると生じやすいという程度の認識だけでなく、術後の経過観察中に合併しうることや、drug overdoseの患者さんでも生じうるということは心に留めておきたいと思います。(←これに関しては、これから説明する誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎の区別がしっかりされていないから可能性も‥)

 

 では、誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎それぞれの特徴と違いについて深堀りしていきます!

 

誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)
・Haemophilus influenzaeやStreptococcus pneumoniae等が鼻咽頭や口腔咽頭で増殖
 →中咽頭にてコロニーを形成した分泌物を吸入することで発症
・口腔ケアがいまひとつの高齢者では、潜在的な気道の病原体であるEnterobacteriaceae, Pseudomonas aeruginosa, Staphylococcus aureusの口腔咽頭でのコロニー形成の頻度が高まる。
・基本的に誤嚥のエピソードはない
 →診断:誤嚥のリスクと胸部画像
・コロニーを吸引→抗菌薬治療が望ましい


化学性肺臓炎(aspiration pneumonitis)
歴史的にはMendelson’s syndromeともいわれる
・薬物乱用(Drug overdose)、発作、脳血管障害、麻酔等による意識障害
 →胃内容物が逆流したものを吸引:急性肺障害
・胃内容物のため、pHが2.5以下、0.3 ml/体重(kg)以上の吸入があると急性肺障害に進展しやすい。
誤嚥から1~2時間後:酸による障害
誤嚥から4~6時間後:炎症
・多くの場合は咳嗽を認める、もしくはwheezeを聴取する程度だが、動脈血の酸素化が悪いだけの人や、一方で呼吸困難、肺水腫、低血圧、低酸素血症を伴う重症ARDSにまで進行する人もいる。

・原則、胃酸のためpHが高くなければ誤嚥したものに菌はなく、抗菌薬治療は不要
(pneumonitisが48時間以上続く場合は抗菌薬投与)


化学性肺臓炎と誤嚥性肺炎の特徴の比較

f:id:mk-med:20210504150413j:plain
(出典)N Engl J Med. 2001 Mar 1;344(9):665-71. doi: 10.1056/NEJM200103013440908.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 


 両者の違いはいかがだったでしょうか!?

 化学性肺臓炎は感染症ではないというあたりが治療に対して抗菌薬を用いるかという判断をはっきりとさせる気がします。化学性肺臓炎を知らなければ、「誤嚥性肺炎」らしければ抗菌薬というような流れになるかと思います。
 もちろん、化学性肺臓炎でも抗菌薬が必要な場面はありますが、抗菌薬治療へ直結ではないということは評価し考えるワンクッションが入りそうです。

 また、誤嚥性肺炎であれば、喀痰培養した際に口腔内常在菌等がいろいろとみられても、口腔から不顕性に流れ込んでいったともいえそうですね。どのような細菌が培養されてくるか、それ以前にグラム染色でも評価してみたいものです。

 

 化学性肺臓炎の概念や病態を理解していることが、誤嚥性肺炎もしっかり理解する入口になるかと思います。

 この出典には、もっと詳しく誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎について治療まで書いてあり読みやすい文章なので、ぜひ読んでみてください。20年程前の文献なので治療については現在の最新のエビデンスと異なる場合もありそうですが、考え方までは応用できそうです。

 

 誤嚥性肺炎とは言っても、市中肺炎(CAP)として治療するようで診療ガイドブックのようなものでは市中肺炎に関する記載の中に次のような記載があります。

 

 高齢者の市中肺炎(CAP)の中には誤嚥性肺炎が含まれていることもあるので、ムセなどの症状があれば入院時に嚥下評価を行うことが望ましい。

 

エンピリック治療(起炎菌が判明すればde-escalationする)

▶細菌性肺炎(Streptococcus pneumonia, Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis, Klebsiella pneumoniae, Staphylococcus aureusなど)を考える場合

・外来治療:サワシリン(250 mg)6錠分3~8錠分4

・入院治療でCAPを強く疑う:ビクシリン1~2g 1日4回点滴

(第二選択:レスピラトリーキノロン

・入院治療でエンピリックに治療:ユナシン-S 1.5g~3g 1日4回点滴 または ロセフィン 1~2g 1日1回点滴など

 

(出典)ポケット呼吸器診療2021, 倉原優

 

 非定型肺炎ではない細菌性肺炎を考える場合は、上記のようです。サワシリンは一般名 アモキシシリン、ビクシリンは一般名 アンピシリン、ユナシンは一般名 アンピシリン・スルバクタム(βラクタマーゼ阻害剤配合抗菌薬)、ロセフィンはセフトリアキソンです。

 

 治療を考え始めたら、今度は耳学問だけではない体系的な抗菌薬の勉強がしたくなってきますよね!これらの抗菌薬の例は誤嚥性肺炎だけではないので、誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎を紹介したNEJMの文献内での考え方もやはり必要かとも思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

医学書: 臨床医のための進化するアウトプット|総合診療2021年5月号

医学書ログ(書籍紹介)

『臨床医のための 進化するアウトプット 学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

  • 総合診療 2021年5月号
  • 大浦 誠 (編集), 長野広之 (編集), 森川 暢 (編集), 吉田常恭 (編集)

 

<目次>

 

 

 巡り合えて良かったと思う書籍の紹介です。普通の医学書を紹介するというより、周辺をテーマにしたものや興味深いものを紹介できればと思います。

 

1.書籍紹介

 今回は、有益な・興味深い情報を発信(アウトプット)されている憧れの先生方4名による雑誌『総合診療』の2021年5月号の特集です。「臨床医のための進化するアウトプットということで、タイトルから惹かれました。

 あくまでも内容に興味を持ったという事で、総合診療という診療科としてのアイデンティティというのか、独自性・専門性というのかは分かりません。その点はご了承ください。

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51mL-Fu-SIS._SX352_BO1,204,203,200_.jpg

 

【こんな人におススメ】
  • アウトプットに興味がある
  • 学んだことを自分のものにしたい →研鑽して、普段に活かしたい
  • 発信してその先のご縁を楽しみたい

 

 一言でいうならば、興味深いものが出ました!!

 ブログをやっていたり、勉強会等の運営をやっていたり、Youtubeを臨床推論の勉強会の補足(事前学習、事後復習用)がてら少し動画をUPしてみたりとしてきた私にとってはとてもワクワクする内容でした。

(素人でもひとまずはじめてみることができますという例としてお考え下さい)

 

 何がこの本の魅力かというと、いろいろな先生方がアウトプットの魅力を教えてくださるだけでなく、アウトプットの方法はブログだけでもなければ、SNSだけでもなく、勉強会だけでもなく、様々な方法があることを教えて下さるところです! Twitterなら140文字だから始めてみようとか、letterに挑戦してみようとか、様々なアウトプットがあることを知り、何かひとつでもやれることがあれば、このゴールデンウィークのちょっとした空いた時間に始めるきっかけにもいいと思います。

 

 

【アウトプットの具体例とおススメ

 例えば、YouTubeでのアウトプットの記事を書かれている平島修先生は、フィジカルクラブ(身体診察)のYouTubチャンネルを無料で公開しています。医療者に動画をみてもらい、医療を良くしていきたいというのも伝わってくる網羅性も高く自己学習にもってこいの動画です。

 

 「さすがにここまでは…」と感じる人も多いと思いますが、徐々にブログ等でアウトプットしたり論文に挑戦する前にLetterを書いてみたりstep upしていく方法もいいと思います。この書籍の中で挙げられているものとして

 

などがあります。

 

 この特集でも紹介されており、内容がとても楽しくよく拝見させていただいているもののひとつとして、吉田常恭先生ブログも最終的にこのレベルを目指すという道しるべのひとつになりそうです。

tuneyoshida.hatenablog.com

 

 他にもこのような総合内科的な視点から興味深い文献を紹介してくださったりするブログもあります。エビデンスとなる論文はもちろん、クリニカルピクチャーなど、多岐に渡ります。

tyabu7973.hatenablog.com

 

 

 また、家庭医療EBM(Evidence-Based Medicine)の視点も含めとても参考にさせて頂いているブログになります。この分野では珍しく・素晴らしくエビデンスやデータまで示しながら説明して(深堀りして)くださる広い視点もあり、素敵です。マルチモビディティ(マルモ)等に興味がある人も是非ご覧ください。

(注)マルチモビディティという言葉は日本の総合診療・家庭医療界隈でよく使われていますが、海外ではあまり好まれて使用されていない印象で、Multiple Long Term Conditions (MLTC) やMultiple Chronic Conditions(MCC)等と呼ばれているものです。

moura.hateblo.jp

 

 

 

2.今、なぜアウトプット!?

 初期研修を始めて、1カ月ぐらいで感じたことは耳学問業務覚えたり、実際に動けるよう訓練すること中心で、そのときの耳学問や手技等に対して文献を見る機会や教科書を見る機会・時間を意識して取らないと、なかなか研修生活でちゃんと書籍や文献から学ぶことが少なくなると感じていました。そういう意味でも、教科書や文献での体験加速させる意味で文字媒体(内部での音声含む)でのアウトプットが良いというようにも感じています。

 例えば、肺炎の抗菌薬治療ひとつとっても自分で調べた上で、耳学問オーベンの言うことに従って処方していきます。しかし、例えば岩田健太郎先生の抗菌薬の本で体系的に学んで理解した上で抗菌薬の処方について考えてみたいと思ったりします。

  • 抗菌薬の本の例→『抗菌薬の考え方,使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…』, 岩田 健太郎(著)

 さらに、抗菌薬治療の期間についての経験則だけでなくエビデンスも探してみたいと思うものです。

 

 「アウトプット」ということで、アウトプットする際には本を読んだり、文献をチェックしたりという自身の学びの機会にもなると思い、紹介させていただきました。今、文献や書籍にあたる機会が少ないという同期はじめ、ぜひ皆様もアウトプットを通じて「文字媒体」に触れる機会にでもなればと思う次第です。

 

 一方で、音声媒体でのアウトプットにも注目しています。私自身の知識では米国内科学会のPodcastのような識者のような会話ができるわけではありませんが、本の感想考え意見交換、データ以外の部分を主とする体験談などはPodcastのような音声媒体がとても扱いやすいように感じます。

 

  気になる方は、手に取ってみてアウトプットに挑戦してみてください。そして、アウトプットする内容や自身の得意とする、時間がかからない方法を選んでみてください。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、よろしければチェックしてみてください。

 

抗菌薬の話で取り上げた書籍

胸水の原因②|胸水検査の各項目と鑑別疾患

胸水の原因②

~胸水検査の各項目と鑑別疾患~

 

<目次>

【前回】胸水の原因① ~原因検索:胸腔穿刺とLightの基準~

 

 前回(胸水の原因①)は、大きな胸水の原因検索の流れとLightの基準について深堀りしました。そこから、今回は原因について深掘りしていく記事です。

 

1.前回の振り返

 本題に入る前に前回のまとめをしたいと思います。

 

<胸水の原因検索の流れ>

1.臨床情報→原因検索

 病歴、身体所見、血液検査、胸部画像検査から原因疾患を探る

2.胸腔穿刺(胸水検査)

 →胸水一般、生化学検査、細菌培養、抗酸菌培養、細胞診

3.滲出性と漏出性の分類

 →Lightの基準

4.原因疾患の診断

 

 原因検索は上記の流れがあり、滲出性胸水漏出性胸水によって胸水の原因(鑑別)が複数あるということを紹介しました。さすがはNew England Journal of Medicine (NEJM)で胸水の原因となる鑑別疾患もたくさんあったのですが、ただただ可能性の少しでもあるものを挙げている感じが否めません。。。今回は、胸水の原因から深掘りしていこうと思います。

 

 

2.頻度の高い胸水の原因

 胸水の原因(鑑別疾患)として頻度も大切であると思います。具体的に細菌性肺炎や膿胸、がん性胸膜炎はよく巡り合ったような気がします。あとは、外来で関節リウマチの胸水が1件でした。病棟と外来でみられる胸水の頻度の違いもあると思いますが、頻度の高いものを滲出性胸水と漏出性胸水で調べてみます。

 

頻度の高い滲出性胸水の原因

感染症:膿胸、細菌性胸膜炎、結核性胸膜炎、腹腔内感染に伴う胸水

・悪性腫瘍:肺癌、肺以外を原発とするがんの胸膜転移(乳癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌)

・良性卵巣腫瘍(Meigs症候群)

膠原病:SLE、関節リウマチ、サルコイドーシス

・その他:肺血栓塞栓症、薬剤性胸膜炎、膵炎、無気肺、アスベスト関連胸水、心疾患(心筋梗塞後、冠動脈グラフト術後)

 

頻度の高い漏出性胸水の原因

・うっ血性心不全

・肝硬変

・腎疾患

・腹膜透析

・低アルブミン血症

・粘液水腫

・サルコイドーシス

・無気肺、肺虚脱

・肺血栓塞栓症

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 中島啓, 医学書院, 2020

 

 このうち、胸腔穿刺(胸水検査)まで至るものはどれぐらいなんでしょうか。前回の際には臨床情報を元にした原因検索というものがあったのですが、うっ血性心不全であればわざわざ胸腔穿刺に至る症例は多くはなさそうです。うっ血性心不全は利尿すれば解決しそうですし、そもそも胸水の原因となる全身性疾患があるということからも、まずはその疾患からアプローチするような気がします。他の原因でも、胸水を抜きがてら確認や精査目的に胸腔穿刺に至る原因も多そうですね。

 

 今回は、さらに前回に触れることをしなかった部分について深堀りしていきたいと思います。

 

 

3.胸水検査の項目ごとの原因の絞り込み

 胸腔穿刺をしてLightの基準(滲出性胸水 or 漏出性胸水)を用いる前に、胸水の肉眼的所見細胞数細胞分画pHといったような項目も検査します。その際にそれぞれの項目ごとにどのような原因検索のヒントがあるかを見てみましょう。

 

肉眼的所見(色)

原因

黄色

ほとんどの胸水

血性

(胸水Hct>数% の場合)

・癌性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫、血胸、肺血栓塞栓症

褐色

結核性胸膜炎(麦色と言われることもある)

黒色

悪性黒色腫の胸膜播種、Aspergillus niger胸膜炎、Rhizopus oryzae胸膜炎、膵性胸水、癌性胸膜炎

クリーム色

膿胸

白色

乳び胸、偽性乳び胸(コレステロール主体)

(出典)ポケット呼吸器診療2021, 倉原優

 

総細胞数

50,000/uL以上

膿胸

1,000/uL以上

細菌性肺炎、急性膵炎、ループス胸膜炎

5,000/uL以下

結核性胸膜炎、がん性胸膜炎

 

細胞分画

好中球優位

膿胸、肺炎随伴性胸水、肺血栓塞栓症、急性膵炎

80-95%程度の

リンパ球優位

結核性胸膜炎、悪性リンパ腫、リウマチ、サルコイドーシス、乳び胸

50-70%程度の

リンパ球優位

がん性胸膜炎

 

(60mg/dL以下または血清の半分以下)

・関節リウマチ

・全身性エリテマトーデス(SLE)

・膿胸

結核性胸膜炎

・がん性胸膜炎

(リウマチ性胸水と膿胸では著明に低下し、20mg/dL以下となることが多い)

 

pH

・肺炎随伴性胸水+pH 7.2未満→膿胸

・食道破裂→胃液が胸腔に漏れる

 

アデノシンデアミナーゼ(ADA)

・40-50 IU/L以上:結核性胸膜炎

(滲出性胸水+リンパ球優位)

※40 IU/L未満であれば結核性胸水は否定的

 

ヒアルロン酸

・10万 ng/mL以上の場合:悪性中皮腫

 

CEA(carcinoembryonic antigen)

・5-10 ng/dL以上:がん性胸膜炎(悪性中皮腫は否定的)

 

アミラーゼ

・膵炎、食道裂孔

  

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 中島啓, 医学書院, 2020

 

SMRP上昇(>8-15nmol/L)

・悪性胸膜中皮腫

 

トリグリセリド上昇(>110 mg/dL)

・胸部術後

・乳び胸:悪性リンパ腫、リンパ脈管筋腫症(LAM)、黄色爪症候群など

 

コレステロール上昇(>250 mg/dL)

・偽性乳び胸

 

NT-ProBNP上昇(>1,300-1,500 pg/mL)

BNP上昇(>115 pg/mL)

心不全

 

補体低値(C3<30 mg/dL, C4<10 mg/dL)

・リウマチ性胸水

※pHや糖が低くLDHが高ければリウマチ性胸水らしい

・SLE

 

抗核抗体上昇

・SLE

※血清抗核抗体を測定する以上の意義はない

 

リウマトイド因子上昇(血清測定値以上)

・リウマチ性胸水

 

(出典)ポケット呼吸器診療2021, 倉原優 

 

 胸水検査(一般項目など)からもこれだけ鑑別することができるんですね。とりわけ、肉眼所見や総細胞数・細胞分画、糖あたりは特にいろいろな場面で使えそうにも思います。ADAやCEAはもう疑って検査項目を出しているような気がする(そうであってほしい)と思う気持ちがします。BNPに至っては、一般的には心不全を疑った段階で胸水穿刺の前に採血で測定されているような気がします。

 胸水の原因に急性膵炎があるということを少し触れたのですが、面白い記述を見つけました。

 

胸水アミラーゼは膵炎による胸水貯留で上昇しますが、他に悪性腫瘍、結核、肺炎、食道破裂、肝硬変、慢性心不全などさまざまな疾患で上昇します。診断的価値に乏しくルーチンで測定する価値はありません。

 

(出典)ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第2版

 

 さすが、内科診療フローチャートですね!はじめから検査ありきではないことが伝わってきます。アミラーゼを見たら、リパーゼではないにしても、膵臓へ飛びついてしまいそうでした。

 「胸水があるからすぐに胸水検査!!」、「胸水検査をしたら原因が分かる!!」ではなく、胸水の原因となりうる鑑別疾患を意識して、胸水穿刺に至る前の問診や身体所見(原因疾患ごとの特徴)を取りに行く姿勢が大切であると感じました。例えば、SLEであれば胸水以前に他のSLEに対する問診や身体所見等を取りに行くことを考えたいですよね。

 

 内科診療フローチャートから確認できたことをきっかけに、胸水の原因の深堀りの締めにいい言葉に感じました。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

胸水の原因①|原因検索: 胸腔穿刺とLightの基準

胸水の原因① 

原因検索:胸腔穿刺とLightの基準

 

 血性胸水をみて胸水穿刺時の出血か、血性胸水かを判断する機会がありました。ガーゼに少し垂らしてみて、凝固するかというような判断の仕方もあるんだと驚いた次第です。

 それをきっかけに胸水の原因を考える機会がありました。下記の様な順で胸水の原因を突き詰めていくようです。

 

診療のフローチャート

1.臨床情報をもとにした原因検索

 病歴、身体所見、血液検査、胸部画像検査から原因疾患を探る

 胸水の原因が明らかであれば、原因疾患に対する治療を行う

2.胸腔穿刺

 胸水一般、生化学検査、細菌培養、抗酸菌培養、細胞診を提出する

3.滲出性と漏出性の分類

 Lightの基準をもとに、滲出性か漏出性を判断

 漏出性胸水:全身性疾患

 滲出性胸水:莢膜の病変

4.原因疾患の診断

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 2020, 医学書

 

 「さあ、胸水を見つけた!」と思ったときに、簡単な胸水量の目安もあるようです。



胸部X線所見と胸水量の目安

胸部X線正面像の所見

胸水量

肋骨横隔膜角(CP angle)が鈍化

200-300 mL

外側胸腔の半分

1000-2000 mL

片側ほぼ全体を占める

2000-3000 mL

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 2020, 医学書

 

 胸水があることもわかり胸水の量も何となくわかったとして、すぐに胸腔穿刺ではないんですね。先ほど引用した大まかな胸水の原因検索の流れが、胸部X線ぐらいや血液検査は胸腔穿刺より先に行うことは納得でしたが、胸部CTも胸腔穿刺よりも一般的に先であるということは感覚的で調べるまでは確証がなかったです。

 臨床情報をもとにした原因検索として、病歴や身体診察はもちろん納得できますが、胸部X線、血液検査、胸部CTを用いて、さらに先の原因検索として胸腔穿刺になるようです。病歴や身体診察は鑑別疾患についても考える(胸水を見た時点で挙げておく)必要があると思います。また、検査では実際にどのような点を評価するかも気になります。

 鑑別は後で胸水の性状等ともセットに考えてみたいと思いますので、まずは検査(胸部X線、血液検査、胸部CT)にてチェックすべき点を深堀りしてみます。



胸部X線

 過去との胸水量の比較で急速に増加する片側胸水では悪性胸水や急性膿胸の頻度が高い。

血液検査

 肝機能、腎機能、心機能を評価→血算・生化学・BNPなど

 ※大量胸水で呼吸不全を呈している→動脈血ガス分析

胸部CT

 肺内病変の検索。

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解, 2020, 医学書

 

 これで原因が明らかでないときに、皆様お待ちかねの胸水の原因検索に胸水穿刺が登場します。胸水穿刺では、胸水一般、生化学検査、細菌培養、抗酸菌培養、細胞診を提出するらしいですが、胸水一般の中で胸水蛋白や胸水LDHが分かるとやっと、みなさんご存知のLightの基準に至ります。

 

Lightの基準

以下のうち、1つ以上満たせば滲出性胸水と判断

① 胸水蛋白/血清蛋白 >0.5

② 胸水LDH/胸水LDH >0.6

③ 胸水LDH>血清LDH正常上限値の2/3

 

 Lightの基準で「滲出性胸水」を見つけ、全身性疾患で生じることが多い漏出性胸水と胸膜の病変で生じることが多い滲出性胸水に分けます。でも、このCriteriaのEBMが気になるので深堀します。Lightの基準を満たしたときにどの程度、滲出性胸水らしいのかを深堀りします。

 

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(出典)N Engl J Med. 2002 Jun 20;346(25):1971-7. doi: 10.1056/NEJMcp010731.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Lightの基準は滲出性胸水に対する感度が98%と高いですね。また、特異度が83%であることから考えれば、Lightの基準から滲出性胸水であると判断されても、漏出性胸水である可能性も残っている(逆に滲出性と判断した際も少しあり)とも言えますね。

 他にもコレステロール値やアルブミン値も補助的に滲出性胸水であるかを判断するのに使えそうです。

 

 ここで、漏出性胸水(原因:主に全身性疾患)滲出性胸水(原因:主に胸膜の病変)の鑑別を調べてみます。

 

胸水の原因

漏出性胸水transudative effusions

滲出性胸水exudative effusions

・うっ血性心不全

・肝硬変

ネフローゼ症候群

・糸球体腎炎

・腹膜透析

・低アルブミン血症(典型的には1.5mg/dl未満)

・無気肺

・上大静脈閉塞

・Trapped lung

・サルコイドーシス

・粘液水腫

・脳脊髄液漏出症または脳室・胸腔シャント

・Urinothorax

・肺動脈性肺高血圧症

肺塞栓症

・心膜疾患

・中心静脈カテーテルの血管外への移動

感染症:細菌性、ウイルス性、結核性、真菌性、寄生虫

腫瘍性:転移性疾患(例:肺癌、乳癌、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、膵臓癌胆管癌)、中皮腫原発性体腔リンパ腫

肺がんによる反応性胸膜炎

反応性胸膜炎:例、肺炎

塞栓性疾患:肺塞栓症

腹部疾患:膵炎、胆嚢炎、肝または脾臓の膿瘍、食道静脈瘤硬化療法後の食道穿孔

心筋梗塞(冠動脈バイパス術、心臓手術、心臓アブレーション術後)、肺静脈狭窄症などの心臓または心膜の損傷

婦人科領域:卵巣過剰刺激、メイグス症候群、子宮内膜症、分娩後の合併症

膠原病血管疾患:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、家族性地中海熱、好酸球性肉芽腫症、多発性血管炎を伴う肉芽腫症

薬剤:ニトロフラントイン、ダントロレン、メチセルギド、ダサチニブ、アミオダロン、インターロイキン2、プロカルバジン、メトトレキサート、クロザピン、フェニトイン、β-ブロッカー

エルゴット系薬剤

血胸

乳び胸(外傷後またはリンパ腫患者によく見られる)

サルコイドーシス

リンパ形質細胞性リンパ腫

コレステロール性胸水(結核、リウマチ性胸水、その他の慢性胸水によく見られる)

その他:アスベスト胸水、黄色爪症候群、尿毒症、溺死、アミロイドーシス、電気火傷、異所性胸水、毛細血管漏出症候群、髄外性造血症

 

(出典)N Engl J Med. 2018 Feb 22;378(8):740-751. doi: 10.1056/NEJMra1403503.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 胸水の意外な原因として急性膵炎を知っている人は多いと思いますが、他の腹部疾患で生じることもあると分かりました。薬剤性、黄色爪症候群(Yellow nail syndrome)、尿毒症あたりは知らなければ思い浮かばないような胸水の原因かなと思います。

 これらの胸水の原因から問診(病歴聴取)や身体診察も意識できるのではないかと思います。


 次回はこの先の胸水の鑑別や胸水の一般検査等も深堀することも考えてみたいと思います。

【続き胸水の原因② ~胸水検査の各項目と鑑別~

mk-med.hatenablog.com

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

肺炎の抗菌薬治療はいつまで? ~効果判定と治療期間~

肺炎の抗菌薬治療はいつまで?

短くてもいいの? 効果判定と治療期間~

 

<目次>

 

 先日、Lancetの細菌性肺炎の抗菌薬治療に関する論文に巡り合いました。実習や初期研修で巡り合わないことはないであろう細菌性肺炎の治療に関してです。「細菌性肺炎の抗菌薬はいつまで?」という素朴な疑問から深掘りしていきたいと思います。

 

1.治療の効果判定

 抗菌薬治療を終了するには、まずはその抗菌薬が効いていることが分からないといけないということで、治療効果判定について調べました。

 

 抗菌薬開始48〜72時間後に表1を参考に治療の効果判定を行いましょう。特に呼吸困難、喀痰の量、呼吸数、動脈血ガスなど肺に特異的なパラメータを評価しましょう。発熱、白血球数、CRPなども有用ですが、必ずしも病勢と相関すると限らないために補助的に利用しましょう

 

表1.肺炎の治療効果判定

自覚症状に改善

・全身倦怠感や食欲の改善など

・咳嗽の減少、喀痰の量や性状の改善など

他覚的所見の改善

・座っている、テレビを見ている、本を読んでいるなど

・聴診所見の改善: cracklesの減少、holo inspiratory cracklesへの変化

・血液ガスの改善

・胸部X線の軽快

グラム染色像の変化

 

(出典)レジデントのための呼吸器診療最適解,中島啓,医学書院,2020

 

 効果判定は分かりました。検査ばっかりやればいいわけではなく、症状やバイタルサイン・身体所見も大切ですね。

 効果があり治癒したら抗菌薬を中止しようと思いますが、いつ・どの段階で中止すればいいのか、いまひとつ掴みにくいと感じました。どのようにどれぐらいで切ったらいいのか、ピンときませんでした。さて、抗菌薬はどうなったら切れるのでしょうか?あっさり切って良いのでしょうか?

 

 

2.「抗菌薬は短くていいの?」(Lancetより)

 市中肺炎に対してβラクタム系抗菌薬で3日間治療されている安定した入院患者に対する、追加でのβラクタム系抗菌薬投与を行わない場合の市中肺炎の治癒が非劣性ではないことを示した二重盲検ランダム化比較試験です。

 

 近年、このような抗菌薬は従来よりも早く終了しても良いというような文献が話題になるようなイメージもあります。5日も想定より早く抗菌薬を終了して市中肺炎が治るなら、薬剤耐性や副作用、さらにはコストの面でもメリットがありそうです。それでは簡単に紹介したいと思います。

 

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市中肺炎にて入院し、3日間βラクタム系抗菌薬による治療を受けて安定している310名

・年齢中間値: 57.0歳、女性123名(41%)

→二重盲検ランダム比較試験として5日間追加投与

プラセボ群:157名

・βラクタム系抗菌薬投与群:153名

 

治療開始後15日目(ITT解析)

〈治癒〉

プラセボ群: 117名(77%)治癒

・βラクタム系抗菌薬群: 102名(68%)治癒

→両群の差: 9.42% (95%CI -0.38-20.04%)

 

〈治療介入の必要な有害事象〉

プラセボ群: 22名(14%)

・βラクタム系抗菌薬群: 29名(19%)

→有意差なし(p>0.99)

最も多い有害事象は両群とも消化系障害でプラセボ群で17名(うち、下痢13名)、βラクタム系抗菌薬群で28名(うち下痢18名)

 

15日後の治癒の定義

・体温 37.8℃以下

・臨床症状・所見の改善または消失

(咳の頻度・程度、喀痰、呼吸困難、ラ音、抗菌薬治療の追加は不要)

 

入院期間(中間値)

プラセボ群: 5.0日

・βラクタム系抗菌薬投与群: 6.0日

→有意差なし(p=0.74)

 

治癒までの期間

プラセボ群: 15.0日

・βラクタム系抗菌薬投与群: 15.5日

→有意差なし(p=0.33)

 

死亡者数

プラセボ群: 2名/152名(2%)

・βラクタム系抗菌薬投与群: 1名/151名(1%)

→有意差なし


(出典)Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1195-1203. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00313-5.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


 詳しくは文献を読んで頂ければ幸いですが、300名程度の人数(多くない)を2群に分けて、βラクタム系抗菌薬群に対してプラセボ群が非劣性であることを示すことができたのは、すごいと思いました。それだけ抗菌薬なしでもいいということなのでしょうか。

 

 一方で、そもそものランダム化する前の集団(母集団)の条件が、3日間の抗菌薬治療で安定しているというあたりが、市中肺炎で入院となる患者層のうち軽症よりの人なのではないかという疑問も生じました。あくまで安定している患者であればということで、現場ではこれぐらいの患者さんが多いのかは少し疑問にも感じたところでした。

 母集団の年齢に関しては、そこまで若いわけでもなく比較的適応しやすい印象です。

 

 この文献から考えらされたことは、この文献のように抗菌薬治療で早く(3日後、1回目の治療判定)に、肺炎が安定している患者さんは抗菌薬を早めに切り上げても良いという印象を受けました。

 

 ほとんどのガイドラインでは、5ー8日間の抗菌薬治療が推奨されているが、治療期間はエビデンスに基づくものではない。

(出典)Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1195-1203. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00313-5.

 

 同じ論文の中で見つけました。これが本当であるとすると、3日で抗菌薬治療が終了するのは、抗菌薬治療期間を約半分の期間にできるとも言えそうでとても画期的な文献であるとも感じました。経過が良好であれば、抗菌薬投与は1週間程度より短くてもいいかもしれないという判断をする手助けとなります。他の抗菌薬の場合も気になります。現場や各々の患者さんの状況に合わせて意識してみたいものです。

 意識しても、そこからがまた難しいとは思いますが…。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

鼠咬症 Rat Bite Fever|ネズミによる咬傷から考える鑑別疾患

鼠咬症 Rat Bite Fever

~ネズミによる咬傷から考える鑑別疾患~

 

<目次>

 

 レプトスピラの症例について考える機会がありました。その際の気づきのキーワードは、やはりネズミでした。ネズミ・げっ歯類関連でどのような鑑別があるかを「鼠咬症(Rat Bite Fever)」 を軸にその鑑別ということで調べてみたいと思います。

 

1.鼠咬症の鑑別疾患(発熱+皮疹)

 まずは、鼠咬症(そこうしょう)鑑別を広く考えてみます。鼠咬症についての概要と鑑別について挙げてみます。

 

 鼠咬症でみられる症状である、発熱、斑状丘疹状発疹、多関節炎の一部の組合せでは、幅広い感染症が鑑別に挙がります。

 

発熱+鼠咬症に特徴的な皮疹のときの鑑別

<Viral>

 

<Bacterial>

Unlikely rash

→腸チフス(Salmonella typhi)、Toxic Shock Syndrome

 

<Spirochetal>

 

<Other tick-borne illness>

  • ロッキー山紅斑熱(Rickettsia rickettsii)
  • Rickettsia typhi
  • Anaplasma phagocytophilum
  • Ehrlichia chaffeensis

 

回帰熱の鑑別

 

発熱+多関節炎の鑑別

(出典)UpToDate > Rat bite fever, 2021年4月11日

 

 これでは鑑別がたくさんありますね。上記外にも鑑別として薬剤性もあっても良いと思います。もっと、鼠咬症での鑑別に絞って深堀りしてみたいと思います。

 

<鼠咬症の鑑別疾患>

(出典)In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan. 2021 Mar 21.  PMID: 28846362

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 
 上記の鑑別はどのように絞り込まれたかが理解できず、私自身にはちょっと腑に落ちてきませんでした。

 

 

 そもそも、鼠咬症がPivot and ClusterのPivotとして(もしくは軸となる鑑別の1つとして)挙がらなければ、話しにならないと思います。鑑別が挙がったところで鑑別疾患を挙げる元となった鼠咬症(rat-bite fever)についてのゲシュタルトも作っておきたいと思います。



 

2.鼠咬症の臨床像

 鼠咬症の臨床像について深掘りをしていきたいと思います。

鼠咬症(rat-bite fever)

<Etiology>

 鼠咬症の起炎菌には、Streptobacillosis moniliformisSpirillum minusの2種類がある。いずれもげっ歯類の一般的な口腔内常在菌である。アメリカ合衆国ではS. moniliformisが大半を占める一方、アジアではS. minusが多くを占める。

 

<Clinical Manifestations>

・潜伏期間は1-22日でたいていは10日未満。

・発症:突然の発熱、悪寒、頭痛、嘔吐、移動性の激しい関節痛・筋肉痛

(発症時、咬傷時の傷はたいてい治癒している。就寝中の咬傷により、患者が咬傷に気づいていない場合もある)

・局所リンパ節腫脹:S. moniliformisでは、腫脹は僅かもしくは無し

・末梢血白血球数は30,000/mm^3(左方移動を伴う)にもなりうる

・約25%の患者でNon-treponemal serological testが偽陽性となる

・皮疹:発熱から2-4日以内に、手掌、足底、または四肢に、非掻痒性の斑状皮疹、麻疹様発疹、点状皮疹、小水疱状皮疹または膿疱状皮疹が出現する

・皮膚病変は紫斑または融合し、最終的には落屑することもある。

・約50%の患者が、発疹と同時に、またはその後数日以内に、非対称性の多発性関節炎または敗血症性関節炎を発症する

(もっとも膝関節が多く、続いて足関節、肘関節、手関節、肩関節、股関節の順位多い)

・発熱:典型的には3~5日後に低下する(抗菌薬なしでも)

・その他の症状は2週間以内に徐々に改善する

(しかしながら、関節炎は2年ほど続くこともある)

 

<Diagnosis>

発熱+皮疹+鼠との暴露歴:鼠咬症、レプトスピラ

・検査を優先してしまった場合、ウイルス性疾患をはじめとした良性の発熱をきたす疾患にフォーカスされやすい

・鼠との接触歴がない場合、捉えどころがなくなり診断が難しくなる


(出典)Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease 9th edition

 

 鼠咬症の臨床像(ゲシュタルト)は上記のようです。しかし、起炎菌2種類あり、それぞれの特徴があるようです。

 

 

 

3.鼠咬症(2種類)の比較

 鼠咬症の原因となる2種類の起炎菌ごとの特徴になります。

<2種類の鼠咬症の比較>

 

Streptobacillus moniliformis

Spirillum minus

病原体

Gram-negative bacillus

Gram negative coiled rod

地域性

アメリカ、ヨーロッパ

アジア

感染経路

鼠による咬傷、経口摂取

鼠による咬傷

臨床症状

   

・咬傷部位の潰瘍

なし

あり

・関節炎

あり

なし

・局所リンパ節腫脹

なし

あり

・皮疹

あり

あり

・回帰熱

あり

あり

・診断

培養、PCR

検鏡、外因診断法

・治療

ペニシリンG

ペニシリンG

 

(出典)Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease 9th edition

 

 さすが、マンデル!セシルやハリソン内科学とは異なり詳しく書いてあります。マンデルの診断の項目にも鑑別疾患について記載がありましたが、すでにUpToDateやPubMedで見つけた文献に記載があったので割愛させていただきます。

 それにしても、鼠咬症(rat bite fiver)起炎菌が2種類あるということでも初めて見たときには驚きでしたが、起炎菌ごと特徴があるということまで書かれていて、さすがマンデル(『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases』)は、周りからも「感染症ならマンデル!」とよく言われるだけのことはあると感じました。

 

 

4.鼠咬症の皮疹「斑状丘疹状皮疹」(Clinical Picture)

 また、鼠咬症の特徴的な皮疹として出てきた「斑状丘疹状皮疹」や膿疱形成が気になる方は、New England Journal of MedicineImages in Clinical Medicineで見つけました。よろしければご確認ください。

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2019/nejm_2019.381.issue-18/nejmicm1905921/20191028/images/img_large/nejmicm1905921_f1.jpeg

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1905921



 それにしても、一言で鼠咬症といっても2種類あり、地域性をはじめ様々な鑑別点があることも知りました。鼠咬症との鑑別疾患よりも、鼠咬症内における鑑別の方が初めて知る内容で刺激が多く、とても奥深くて面白かったです。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 本日、特に注目であった本 "マンデル感染症学"(『Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases』)について読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。